日刊AIニュース
10月17日(土)号
10月16日 朝6時〜17日 朝6時(日本時間)にこのサイトで出したAIのニュース17本を、短くまとめました。・ニュースは約8分、コラムは約3分で読めます
きのう一番大きかったのは、中国がAIの輸出規制案を出したことです。Anthropic は、Claude が楕円曲線の seed の出どころを突き止めたとする発表と、自社で初級の技術職の採用比率が下がったとする報告書を、同じ日に出しました。
きのうの3本
中国がAIの輸出規制案、フロンティア級のオープンウェイトも許可制に
中国の商務部と科技部は10月16日、AIなど40項目を輸出の禁止・制限のリストに足す案(公告2026年第48号)を出しました。計算量10の26乗回以上・パラメータ2兆以上・公開ランキングで世界トップ10、のどれかに当たる大規模モデルは「制限」の対象で、新しくオープンソースにすることも輸出として扱います。商務部は「基本的に届け出ればすぐ出せる」と説明していますが、原文に「必ず許可する」とは書かれていません。
なぜ大事か:公開済みのモデルは対象外で、APIやアプリで使う分も管理に入らないと商務部は説明しています。案のとおりなら、日本の利用者に影響があり得るのは、これから出るフロンティア級のモデルの公開です。意見の受付は11月15日まで。
- 記事:中国がAIの輸出規制案
Anthropic、楕円曲線 P-256 などの seed の出どころを Claude が30分未満で突き止めたと発表
Anthropic は10月16日、社内の研究用モデルの Claude が、NIST P-256 など楕円曲線の標準に使われた seed(係数を決める元の値)の出どころを30分未満で突き止めたと発表しました。同社の説明では、素体の曲線の seed は文章のハッシュではなく、乱数生成器 lrand48 を1997〜98年のUnix時刻で初期化した出力でした(2進体の曲線 B-163 の seed と、P-256 などの基点の選ばれ方は未解明)。同じ日に、Claude Mythos 5 が8種の量子回路で公開済みの最良設計を上回る設計を見つけたとも発表しています。
なぜ大事か:どちらも同社の発表です。暗号のほうは「破れではなく、バックドアはより考えにくくなった」と同社は書いていて、利用者がやることはないとしています。量子回路の点数は同社の自動評価によるものです。
Anthropic、自社の雇用の変化を公開、初級の技術職の採用比率は27%から9%に
Anthropic は10月16日、自社の内部データで雇用と働き方の変化を分析した報告書を公開しました。同社によると、初級の技術職の採用比率は27%から9%に、技術部門に占める初級社員の割合は21%から14%に下がりました。8月時点で、社員が動かす対話型のAIエージェントの稼働時間は、社員の勤務時間(人数×週40時間で計算)の6倍だったといいます。
なぜ大事か:同社は自社を「AI導入の最前線にいる会社」とみなし、経済全体の先行指標になりうるとして調べたとしています。ただし同社の内部データによる分析で、報告書自身が推計に偏りが出る可能性を認めています。技術部門の採用そのものは増え続けている、とも書いています。
ほかのニュース
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コラム
「ボブとジェリーに昇給を」の行方──暗号の謎の数字、Anthropic の答えは1997年の時計
暗号の世界には、長いあいだ作り方の分からない数字がありました。署名方式 ECDSA の標準に載っている楕円曲線 P-256 の seed、C49D3608 86E70493… で始まる20バイトです。Anthropic の発表によると、この数字は NSA から説明なしで提供されたもので、曲線の係数はここから決まります。説明のない数字は、どうしても疑いを呼びます。
有力だったのは、NSA の Jerry Solinas(ジェリー・ソリナス)氏が2015年に書いたとされる説明でした。詳細は分からないとしつつ、文章をハッシュしたはずで、文面は「Give Bob and Jerry a raise(ボブとジェリーに昇給を)」か「Bob and Jerry rule(ボブとジェリー最高)」のようなものだった、と。2023年には、元の文を突き止めた人に賞金を出すという告知まで出ました(Filippo Valsorda 氏)。Solinas 氏は同じ年に亡くなっています。
10月16日の Anthropic の答えは、文章のハッシュではなかった、というものでした。手がかりを伝えずに尋ねられた Claude は、30分足らずで、seed が乱数生成器 lrand48 の出力だと突き止めたといいます。P-256 では、乱数の初期化に1997年8月16日(UTC)の Unix 時刻、つまりその瞬間の時計の値が使われ、1842番目の候補が標準の seed になった、と同社は説明しています。
ボブとジェリーへの昇給の願いは、少なくとも seed の材料ではなかったようです。Anthropic は、時計で初期化したありふれた乱数で誰でも再現できるので、むしろバックドアは考えにくくなったと書いています。
残る問いもあります。Solinas 氏の「ハッシュした」という記憶とのずれに発表は踏み込んでおらず、P-256 の基点の選ばれ方は同社も未解明としています。人の記憶には冗談の文句が残り、機械の出力には、たどれば時刻に行き着く跡が残っていた。今回 AI がしたのは暗号を破ることではなく、1997年に走ったプログラムの答え合わせだったのかもしれません。
コラムは筆者の見方を含みます。事実はリンク先の記事と、その出典によります。
数字でふりかえる
押すと答えQ1.Claude が NIST の楕円曲線の seed の出どころを突き止めるのにかかった時間は?(Anthropic の発表)
30分未満です。P-256 の seed は、乱数生成器から引いた1842番目の候補だったと同社は説明しています。
記事:Anthropic(アンスロピック)、NIST P-256など楕円曲線のseedの出どころをClaude(クロード)が30分未満で解明と発表
Q2.中国の輸出規制案で、「制限」の対象になる大規模モデルのパラメータ数の線は?
2兆以上です(計算量10の26乗回以上・世界トップ10の能力、のどれか1つに当たれば対象)。今あるモデルでは Kimi K3(2.8兆)がこの大きさに当たります(Kimi K3 自体は公開済みなので対象外。報道では Qwen3.8-Max も2.4兆で、重みは未公開)。
記事:中国がAIの輸出規制案
Q3.Anthropic の報告書で、初級の技術職の採用比率はどこからどこへ下がった?
27%から9%です。技術部門の採用そのものは増え続けている、と報告書は書いています。
この号はここまでです。