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Anthropic(アンスロピック)、Claude(クロード)に8種の量子回路を設計させ公開済みの最良設計を上回ったと発表楕円曲線の点加算は53時間・ゲート数17分の1、DQIの復号部は約12分の1

執筆:約13分で読めます

Anthropicは2026年10月16日、Claude Mythos 5が8種の量子回路の設計を人手をほとんど介さず進め、公開済みの最良設計を上回ったと発表した。楕円曲線の点加算では量子ビット12%増でゲート数17分の1、量子最適化DQIの復号部ではゲート数が約12分の1になったという。

Anthropic(アンスロピック)、Claude(クロード)に8種の量子回路を設計させ公開済みの最良設計を上回ったと発表──楕円曲線の点加算は53時間・ゲート数17分の1、DQIの復号部は約12分の1
目次

Anthropic(アンスロピック)は2026年10月16日(日本時間10月17日2時台、公式ページの公開時刻は協定世界時17時29分)、Claude(クロード)のモデルClaude Mythos 5が、化学・最適化・物理シミュレーション・数論の8種の量子回路を人手をほとんど介さずに設計し、公開済みの最良設計を上回ったとする研究を公開した。Anthropicの発表によると、改善幅は場合によって1桁以上にのぼる。論文はarXivに掲載されている。

3行まとめ

  1. Anthropicは2026年10月16日、Claude Mythos 5が8種の量子回路で、公開済みの最良設計より少ない資源の設計を見つけたと発表した(同社発表)。
  2. 楕円曲線の点加算は1回53時間の実行で、従来最小の設計に比べ量子ビット12%増・ゲート数17分の1の設計が得られた。量子最適化DQIの復号部はゲート数が約12分の1になったという。
  3. 点数は同社が用意した自動評価プログラムによるもの。回路設計は実用的な量子コンピューターに必要な部品の一部で、今回は製品提供ではなく研究成果の発表。

本記事の内容は、日本時間10月17日2時台にAnthropicの公式ページとarXivの概要ページで確認したものです。

何を、どんな仕組みで設計させたのか

Anthropicの説明では、Claudeに渡したのは次の3つだ。

  • 8つの量子回路についての、平易な文章で書かれた仕様
  • 設計案が正しいかを検証し、点数をつける自動評価プログラム
  • 点数の定義(使う量子ビット数 × ゲート数。回路の実行時間の目安)

Claudeは設計をPythonのコードとして書き、評価プログラムが正しさを確かめて点数を返し、Claudeがそれを使って次の案を直す。Anthropicはこの「閉ループ」を、ラウンドの間に人の入力なしで回せたと書いている。使ったモデルはClaude Mythos 5だ。

この方法が成り立つ理由として、Anthropicは3点を挙げている。回路をコードで書けること、入力ごとに答えが1つに決まるため普通のコンピューターで正しさを検査できること、そして点数が客観的に出せることだ。

8つの課題は、ブログでは「計算の基本部品(computational primitives)」と呼ばれている。化学、最適化、量子シミュレーション、数論、数値計算向けの部品だ。ブログの図2は8課題のうち点加算以外の課題で従来設計との比較を示し、8つ目の点加算は表1で比べている(図2の説明文による)。今回取得した本文テキストには図そのものの数値は含まれていない。

点加算:53時間の1回の実行で得た新しい可逆アルゴリズム

最初に与えた課題は、楕円曲線上の点加算だった。楕円曲線の離散対数問題を解く量子アルゴリズムの中核で、量子ビット数と実行時間のコストの大半を占める。Anthropicによると、その大半は「モジュラー逆元」という一つの手順に由来する。

Claudeに渡したのは1段落の指示で、数学的な規則と評価の方法に加え、複数の方針を並行して試すよう求めた。Anthropicによると、人の関与は最初の指示と、時々「もっと広く考えるよう促す」ことに限られ、53時間の作業の末、Claudeは問題への新しい取り組み方に到達した。

なぜ難しかったのか

普通のコンピューターでは効率のよい方法として、divsteps(ディブステップス)が知られている。ただ量子回路は途中経過を勝手に捨てられず、すべての手順を逆向きにたどれる必要がある。divstepsは各ラウンドでどの操作を選んだかという記録(分岐情報)が必要で、素直に量子化すると膨大な量子ビットを食うため、実用的な量子回路にならなかったとブログは書く。

Claudeの解き方

Claudeは、記録を保存せず、各ラウンド後の数の組を調べるだけで分岐情報を復元(デコード)できるのではないかと考えた。単純な規則は小さいケースでは動いたが、256ビットの実サイズでは失敗した。そこでClaudeは理論的な方向に切り替え、反復の性質を数学的に調べて新しい代数的な恒等式をいくつか証明し、復元規則の正確な式を導いた。式は大規模な数値シミュレーションで確かめたうえで、証明支援系のLeanで形式化したという。こうして「分岐履歴を保存しない、初の可逆なdivsteps実装」ができたとAnthropicは述べる。

復元は量子ビットを節約する代わりに時間がかかる。そこで、復元より保存のほうが安い場面では保存する、という閾値を変えて、両極端の間をつなぐ設計の「系列」を作った。Anthropicによると、従来最小の設計と比べて、系列のうち1つは量子ビットが12%多い代わりにゲート数が17分の1になる。ブログの表1(楕円曲線の点加算の資源量)は、従来の設計としてSchrottenloher氏(2026)とLuo氏ら(2026)を出典に挙げている。表の数値は今回取得した本文テキストには含まれていなかった。

量子最適化DQIの「復号部」をGoogleの従来構成の約12分の1に

2つ目の例は、量子最適化アルゴリズムDQI(decoded quantum interferometry)だ。Anthropicは、有力な候補の一つとしてDQIを紹介し、最もコストが高い工程が誤り訂正符号の復号(Reed–Solomon復号)だと説明している。Google Quantum AIの研究者の見積りから、ある最適多項式交差(OPI)問題が、スーパーコンピューターFrontierで約3か月、将来の量子コンピューターでDQIを使えば約1時間になる、と読み取れるとし、その1時間の大半は復号に使われるという。

従来の最先端の量子回路は、拡張ユークリッドの互除法を使っていた。この方法は入力ごとに手順の数と順序が変わるが、量子回路は1つの固定したゲート列で全入力を扱う必要があるため、従来設計は必要以上に多くのラウンドを回し、各ラウンドで全操作を実行していた。

Claudeは、拡張ユークリッド法は量子回路に向かないと早い段階で判断し、毎ラウンドで同じ種類の手順を同じ回数だけ行うBerlekamp–Massey(バーレカンプ・マッシー)法に組み替えた。可逆にすると、各ラウンドの一時的な値を保存する必要が出る。そこで点加算と同じ発想で、大半を現在の状態から復元する設計にした。復元できない例外値は保存が必要になる。

保存領域の見積りは次のとおりだ。

設計 例外値の扱い 量子ビット
最悪の場合(35ラウンドで例外が出る)に備える 全部保存 665
Claudeの設計 保存は最大1つ分 19

Claudeは高速のシミュレーターを書き、4億300万回の復号を試して例外の頻度を測った。ほぼすべての実行で保存は高々1つで足り、10,000回に1回程度はそれを超えて失敗する。Anthropicはこれを、課題が許す誤り率の範囲内だと書いている。

三つの変更(方法の置き換え、回路構造の変更、資源配分の見直し)を合わせて、復号部のゲート数はGoogleの従来構成の12分の1になったとAnthropicは述べる。1つだけでは足りず、組み合わせではじめて、DQIの最も高い工程が「1桁強」安くなったという。

前と何が違うのか:8年かかった削減との対比

Anthropicは、研究の背景として窒素固定酵素ニトロゲナーゼの中心にある鉄硫黄クラスターFeMocoの例を挙げる。2017年の見積りでは基底状態エネルギーの計算にToffoli(トフォリ)ゲート約50兆個が必要だったが、一連のアルゴリズム改良で約3.4億個、約15万分の1まで下がった。ブログによると、これは約300万個の物理量子ビットをもつ将来の機械で数時間の計算に相当する。この削減には複数の研究グループが8年かかり、各段階はふつう数か月の仕事だった。これに対して、Claudeの楕円曲線の設計は1回53時間の実行から生まれた、とAnthropicは対比している。

注意したいのは、FeMocoの15万分の1は過去の研究が積み上げた削減で、今回のClaudeの成果ではない点だ。ブログはこれを背景の説明として書いている。

筆者の観測:公式ページと論文の概要で、数字の言い方が少し違う

日本時間10月17日2時30分台に取得した2つのページを並べて読むと、数字の言い方に差があった。Anthropicのブログは、8課題で「従来より量子ビットもゲートも少ない新設計」を見つけたと書く。一方、arXivの概要は、8課題のうち7課題でToffoliゲート数と量子ビット数がともに最先端より大きく減り、8課題目では、素数体上のモジュラー逆元に新しい可逆アーキテクチャを見つけてToffoliと量子ビットのトレードオフを大きく改善した、と書く。ブログ本文の点加算の例でも、従来最小の設計に比べて量子ビットは12%増えている。「両方が減る」ではなく「トレードオフの前線が広がった」というのが、点加算についての正確な言い方に近いと筆者は読んだ。ただし、これは2つの文章を読み比べた範囲の話で、論文本文(46ページ)は今回取得していない。

限界と、この発表で分かっていないこと

  • 比較は同社の発表:「公開済みの最良設計を上回った」という評価は、Anthropicと共著者が自分たちで示したもの。第三者による検証は、今回取得した2つのページには書かれていなかった。
  • 論文の状態:arXivの履歴はv1(2026年10月15日投稿)のみ。DOIは「登録待ち」と表示されていた。今回取得したページに査読の有無の記載は見つからなかった。
  • Anthropic自身が書く弱点:初期の実験でClaudeは保守的で、改善案を何度も疑って検算を繰り返し、新しい方法より既存の定番を好む傾向があったという。対策として、性質の異なる複数の方針を並行して出させ、時々探索を広げるよう促した。点加算の成果もこの働きかけのもとで出ている。人手が「ほとんど」なかった、というのはこの意味だ。
  • 適用範囲:点数の計算と正しさの検査が自動でできる種類のアルゴリズムが対象。Anthropicは、誤り訂正符号、高速な復号器、ハードウェア制御など回路設計以外の部品も実用機には必要で、それぞれ別に設計されるのが普通だと書く。将来的にはそれらをAIが一括で最適化する可能性にも触れているが、これは展望として書かれたもので、今回の成果ではない。
  • 提供・料金:今回の発表は研究成果の紹介で、Claude Mythos 5の料金や日本での提供条件はこの2つのページには出ていない(「Mythos」の語が出るのは、設計に使ったモデルとして挙げた1か所のみ)。

読み比べた2ページ:Anthropicのブログと論文の概要

関連記事: Anthropic、小型AIが安価なIoT機器上で自己複製できるまで「数か月」の可能性と発表(公式ページの関連コンテンツ欄に並んでいた研究発表)。

本記事は続報があり次第更新します。

Claudeの最近の変更

Claudeのいま(稼働状況・料金と上限・変わったことの一覧)

この記事でよく聞かれること

AnthropicはClaudeに量子回路の設計で何をさせたのですか?
Anthropicの発表によると、化学・最適化・物理シミュレーション・数論の8種の量子回路について、平易な文章の仕様と、設計を検証して点数をつける自動評価プログラムをClaude Mythos 5に渡しました。Claudeは設計案を出し、評価の結果を受けて次の案を直す作業を、ラウンドの間に人手を入れずに繰り返したとされています。
どのくらい改善したのですか?
Anthropicによると、楕円曲線の点加算では、従来最小の設計に比べて量子ビットが12%増える代わりにゲート数が17分の1の設計が得られました。量子最適化アルゴリズムDQIの復号部では、Googleの従来構成に対しゲート数が12分の1になったとしています。いずれもAnthropicの発表です。
量子コンピューターの実用化は早まるのですか?
Anthropicは「有用な量子コンピューティングはより早く来るかもしれない」という趣旨で述べています。ただし同社は、回路設計は実用的な量子コンピューターを作るうえでの一部にすぎず、誤り訂正符号や復号器、ハードウェア制御など他の部品も必要だとも書いています。
この研究は誰が行い、論文はどこで読めますか?
Anthropicのブログによると、研究はAnthropicのSTEM Fellows ProgramでAndi Gu氏が主導し、同社のAlek Kemeny氏が助言、ハーバード大学のSusanne Yelin氏とMikhail Lukin氏(QuEra Computingも兼任)と共同で行われました。論文は2026年10月15日にarXiv(2610.22367)へ投稿されています。
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出典・参照資料

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