2026年8月14日 金曜日
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AI動画の「〜しないで」はなぜ効かないのか──Google公式が非推奨としたのは命令文だった

Google Cloudの公式ドキュメント「Video generation prompt guide」(2026年8月13日更新/2026年8月14日確認)は、ネガティブプロンプトで「no」「don't」のような命令的な言い回しを Not recommended とし、代わりに「wall, frame」のように除外対象を名詞で書くことを Recommended としている。非推奨とされているのは否定という発想ではなく、文の形式である。当サイトの制作ログでも「軒に座るな」は効かなかった一方、no を含む指示が本文中で効いた例が複数ある。公式原文と自社実測を突き合わせ、効く否定形と効かない否定形の境界を整理する。

AI動画の「〜しないで」はなぜ効かないのか──Google公式が非推奨としたのは命令文だった
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動画生成AIに「軒に座らないで」「壁を映さないで」と書いても直らない——この経験から、日本語圏では「否定形のプロンプトは使ってはダメ」という断言が流通している。ただしGoogle Cloudの公式ドキュメント「Video generation prompt guide」(2026年8月13日更新、2026年8月14日確認)に書かれているのは、それと同じ内容ではない。公式が Not recommended としているのは「no」「don't」といった命令的な言い回しであり、Recommended として示されているのは「除外したいものを名詞で描写する」ことである。否定という発想そのものを捨てろとは書かれていない。当サイトの制作ログにも、効かなかった否定形と、no を含んだまま効いた否定形の両方が残っている。公式原文と自社実測を突き合わせて、どこまで確認できていて、どこから分かっていないのかを分ける。

  1. Google Cloud公式は、ネガティブプロンプトで "no" や "don't" のような命令的言い回しを Not recommended とし、"wall, frame" のように除外対象を名詞で書くことを Recommended としている(2026年8月14日確認)
  2. 公式が実例として載せているネガティブプロンプトは "urban background, man-made structures, dark, stormy, or threatening atmosphere" で、文ではなく名詞句の列挙になっている
  3. 当サイト実測では「軒に座るな」は効かず、the cheshire cat never touches a chairNo music, no dialogue, no spoken words, no singing は効いた。効き方を分けたのは否定かどうかではなく、真偽を判定できる条件になっているかどうかだった【推測】

公式ドキュメントの原文はこう書いてある

Google Cloudの「Video generation prompt guide」には Negative prompts という節がある。原文は次の通り(2026年8月14日にページを確認)。

Negative prompts are a tool that helps specify the elements that you don't want generated in your video. When you use a negative prompt, you describe the elements that the model shouldn't include when generating the video.

(ネガティブプロンプトは、動画に生成されてほしくない要素を指定するための道具である。ネガティブプロンプトを使うときは、モデルが動画生成時に含めるべきでない要素を描写する。)

そのうえで、推奨事項が Not recommended / Recommended の対で示されている。

区分 公式の原文 内容
Not recommended using instructive language or words such as "no" or "don't". For example, avoid prompts such as "no walls" or "don't show walls". 「no」「don't」のような命令的な言い回しを使うこと。"no walls" や "don't show walls" のようなプロンプトは避ける
Recommended Describe what you don't want to see. For example, "wall, frame", which means that you don't want a wall or a frame in the video. 見せたくないものを描写する。たとえば "wall, frame" と書けば、壁や額縁を動画に入れたくないという意味になる

公式が問題にしているのは、否定という概念ではなく文の形式である。「壁を出すな」と命令するのではなく、「壁」「額縁」と除外対象を名詞で挙げよ、という指示になっている。

同じページに載っている実例も名詞句の列挙だった。オークの木が強風に揺れるアニメーションを生成するプロンプトに対し、併記されたネガティブプロンプトは次の通りである。

urban background, man-made structures, dark, stormy, or threatening atmosphere

動詞も命令文もない。「都市的な背景」「人工建造物」「暗い・嵐の・威圧的な雰囲気」という、除外したい要素の名前が並んでいるだけである。

ネガティブプロンプトは本文とは別の入力欄である

見落とされやすいのは、公式の例がプロンプト本体とは別枠で示されている点だ。ドキュメントの例では長いプロンプト本文があり、その下に "With negative prompt - urban background, ..." と別立てで書かれている。ネガティブプロンプトは本文の中に混ぜる文ではなく、独立した入力として渡すものとして扱われている。

日本語で語られる「否定形は使うな」という話は、この2つの操作を区別せずに扱っていることが多い。実際には少なくとも3つの書き場所がある。

書く場所 書き方 公式ドキュメントでの扱い
プロンプト本文 完成した状態を肯定形で描写する Anatomy of a prompt として Subject・Action・Scene or context・Camera angles などの要素に分解して書く形が示されている
プロンプト本文 「〜するな」と命令する Negative prompts の節の対象外。本文中の否定形の可否は明記されていない
ネガティブプロンプト欄 除外対象を名詞で列挙する Recommended。命令的な言い回しは Not recommended

公式が明示的に非推奨としているのは、この表の3行目で命令文を書くケースである。本文中に否定形を書くことの是非は、少なくともこのページには書かれていない。「Googleが否定形を禁止している」と読むのは、書かれていない範囲まで踏み込んだ解釈になる。

なお Not recommended / Recommended という対の書き方は、このページ固有のものではない。姉妹ページ「Best practices for generating videos」(2026年8月13日更新、2026年8月14日確認)でも、曖昧な話し言葉のプロンプトを Not recommended、"Low-angle close-up shot of a man with a somber expression. The scene is dimly lit, conveying a melancholic mood" を Recommended とする形で示されている。公式の一貫した姿勢は「使うな/使え」ではなく「どう書くか」である。

当サイトの実測:効かなかった否定形と、効いた否定形

当サイトは動画生成AIで実際の作品を制作する過程で、否定形の指示の結果を記録している。効かなかった例と効いた例の両方がある。

指示 書いた場所 結果
「軒に座るな」(日本語・命令形) プロンプト本文 効かず。人物が屋根の外側に座り続けた【実証済み】
「窓枠が四方に見える屋内に座る」(肯定形に書き換え) プロンプト本文 通った【実証済み】
the cheshire cat never touches a chair プロンプト本文 効いた【実証済み】
the girl is never seated before 20 seconds プロンプト本文 効いた【実証済み】
No music, no dialogue, no spoken words, no singing プロンプト本文 効いた。無指定だと勝手に発話する症状が止まった【実証済み】
every character moving differently and never in unison プロンプト本文 プロンプトの構造変更とセットで効いた【実証済み】

注目したいのは、No music, no dialogue, no spoken words, no singing が公式の Not recommended とほぼ同じ形("no" + 名詞)でありながら、プロンプト本文に書いたときには効いたという点である。公式の記述はネガティブプロンプト欄についてのものなので、本文に書いた場合と直接矛盾するとは限らない。ただし「noと書いたら効かない」という一般則が成り立たないことは、この記録が示している。

失敗側の詳細(参照画像に失敗版を渡すと否定形の指示が画像側の情報に上書きされる件)はAI動画の参照画像は「失敗」も「複製」も運ぶに、成功側の詳細(禁止を秒数と物理接触で書く件)はAI動画で複数人物が同時に動かない理由に分けて記録している。

効いた否定形に共通していたもの【推測】

上の記録を並べると、効いた否定形には共通点がある。真偽が判定できることだ。

  • never touches a chair:椅子に触れているかどうかは、生成された映像を見れば判定できる
  • never seated before 20 seconds:20秒より前に座ったかどうかは判定できる
  • No music, no dialogue:音が鳴っているかどうかは判定できる

一方、効かなかった「軒に座るな」は、禁止された状態以外の選択肢が無限にある。屋根の上でも、階段でも、地面でも「軒ではない」を満たしてしまう。禁止だけを書くと、どこに座ればよいかの情報量がゼロになる。

これは1件の制作案件から得た仮説であり、統計的に検証したものではない。ただ、公式が推奨する「除外対象を名詞で挙げる」書き方も、「壁」「額縁」という具体物を指している点では同じ方向を向いている。抽象度が高いほど効かず、判定できる形ほど効く、という整理は公式の記述と矛盾はしない。

実務での書き分け

現時点で採っている手順は次の3段である。

  1. まず肯定形で完成状態を書く。 公式の Anatomy of a prompt が挙げる Subject(誰が・何が)、Action(何をする)、Scene or context(どこで)、Camera angles(どう撮る)に分解する。公式は Subject の節で "Specificity helps avoid generic outputs."(具体性が凡庸な出力を避ける助けになる)と書いている。
  2. それでも混入する要素だけ、ネガティブプロンプト欄に名詞で並べる。 公式の推奨形式に従い、命令文にしない。"wall, frame" が示す通り、単語の列挙で足りる。
  3. 本文でどうしても禁じるなら、判定できる形に翻訳する。 秒数、物理的な接触の有無、音の有無など、映像を見て真偽が言える条件に落とす。

「〜しないで」と書いて直らなかったとき、最初に疑うべきは否定形を使ったこと自体ではなく、代わりに何を達成すべきかが書かれていないことだと考えている。

なお、Veo 3系ではプロンプトが自動で書き換えられる機能が入っており、書いた否定文がそのまま届いているとは限らない。詳しくはVeoのprompt rewriterと3系で切れない仕様にまとめた。

正直な但し書き

  • 今回確認した公式ドキュメントはGoogleのVeo・Gemini Omni向けである。Sora、Runway、Klingなど他社モデルがネガティブプロンプトをどう扱うかは確認していない。同じ規則が当てはまる保証はない。
  • Veo 3およびVeo 3.1では、送ったプロンプトをLLMが書き換える prompt rewriter を無効化できないと公式ドキュメントに書かれている(原文 "You can't disable the prompt rewriter when using Veo 3 and 3.1 models."/2026年8月14日確認)。書き換え後のプロンプトがAPI応答で返るのは、元のプロンプトが30語未満のときだけ、とも書かれている。つまり本記事の実測は、書いた否定形がそのままモデルに届いた結果を見ているとは限らない。
  • 実測の件数は各1〜数件で、同じ指示を回数を揃えて比較したA/Bテストではない。「効いた」「効かなかった」は生成物の目視判定であり、定量指標を取っていない。
  • 公式ページには、プロンプト本文中に否定形を書いた場合の是非は書かれていない。本記事の「本文の否定形は、判定可能な形なら効くことがある」は自社実測に基づく【推測】であって、Googleの見解ではない。
  • 「否定形は使ってはダメ」という日本語圏の言説について、どの程度広まっているかを数えたわけではない。当サイトが観測した範囲での言い回しであり、発信元の特定や件数の集計はしていない。
  • 生成のたびに結果が揺れる領域は残る。同系統の指示でも効いた回と効かなかった回が混在する現象を記録しており、本記事の書き方に変えれば安定する、とは言えない。

出典

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