AI動画で複数人物が同時に動かない理由──プロンプトは語彙でなく構造で直す
6キャラクター分の動作を1つの区間に詰めたら、全員が静止する『不気味な集合写真』になった。動画生成AIで複数人物・時系列を安定させる構造を、実際の制作ログから記録する。原因は言葉選びではなく、プロンプトの区切り方と配置にあった。

目次
動画生成AIで複数人物を動かそうとすると、途中から全員が止まる、あるいは時系列が破綻するという現象に何度も遭遇した。単語を言い換えても直らなかったが、プロンプトの「区切り方」と「配置の仕方」を変えたら再現的に解消した。本記事は、AI時短ラボが実際の動画制作で検証した内容を、確信度ラベル付きで記録したものである。
- 複数人物が動かない・時系列が壊れる主因は、語彙ではなく「1区間に事件を詰めすぎる構造」にある
- 「常時動き続ける癖」と「単発の事件」を分けて書くと、複数人物が同時に別々の動きをする
- 禁止は「never」だけでなく秒数・物理接触で書くと検証可能になり、効き方が安定した
1ビート1事件で動作の欠落を防ぐ【実証済み】
1つの区間(ビート)に複数の事件を詰め込むと、中間の動作が丸ごと飛ぶ。これは言葉を精緻にしても解決しなかった。
証拠として、6キャラクター分の動作を1ビートに同時に詰めた回では、全員が静止し、まるで「不気味な集合写真」のような映像になった。誰も動いていないのに、全員がその場にいるだけの絵になる。ビートを分割し、1つの区間には1つの事件しか置かないようにしたところ、この症状は解消した。
この時点で分かったのは、モデルが処理しきれないのは語彙の複雑さではなく、1区間に詰め込まれた「同時に処理すべき事件の数」だという点である。
常時レイヤーとビートを分離する【実証済み】
1ビート1事件だけでは、事件が起きていない他のキャラクターが「棒立ち」になる。これを解決したのが、プロンプトの前半に独立した段落を置く構造である。
プロンプトの前半に、「クリップ全編を通して止まらない、各キャラクター固有の癖」を独立した段落として書く。そのうえで、ビート側には、スポットライトが当たる事件を1つだけ置く。つまりプロンプトを「常時レイヤー(背景で回り続ける個別の癖)」と「ビート(その瞬間だけ起きる主役の事件)」の2層に分けて書く。
この構造にした回では、三月ウサギが皿を投げ続け、双子が取っ組み合いを続け、ヤマネが寝返りを繰り返す、という3つの動きが同時進行した。誰も止まらない。
このとき併記して効いた指示が every character moving differently and never in unison(全員が別々に動き、決して揃わない)である。この一文単独ではなく、常時レイヤーとビートを分ける構造とセットで機能した。
禁止は数値と物理で書く【実証済み】
「〜しないでください」という禁止の書き方は、そのままでは効かないことが多い。効いたのは、禁止を検証可能な形――秒数や物理的接触の有無――に変換した場合だった。
例:
the girl is never seated before 20 seconds(20秒より前に少女が着席することはない)the cheshire cat never touches a chair(チェシャ猫は椅子に触れない)
象徴的だったのは、「目覚めたら既に着席していた」という時系列の破綻が起きた回である。これは、each moment continues from the previous state, no teleporting(各瞬間は直前の状態から続く。瞬間移動しない)という一文と、秒数指定を組み合わせたことで解消した。「するな」だけでなく、「いつ・どの状態から続くか」まで書くと安定した。
歩き方は移動距離とセットで指定する【実証済み】
歩き方の指定は、移動距離と切り離すと崩壊する。
花魁の外八文字(独特のゆっくりした歩き方)を指定した回で、実際の映像は早歩きになってしまった。原因を遡ると、「16秒で通りの奥から手前まで歩く」という距離指定を同時に書いていたことにあった。ゆっくりした歩き方と、決められた時間内にその距離を移動しきることが物理的に両立せず、モデルは速く歩かせる方を選んだと考えられる。
解消したのは、行列を最初から近い位置に配置し、数歩だけ進ませる設計に変えたときである。歩幅・速度ではなく、移動距離そのものを縮めることで、ゆっくりした歩き方を保ったまま成立させた。
もう一点、これと合わせて必要だった指示がある。歩き方を指定したキャラクター以外について、「普通に歩く」と対比で明示しないと、行列の全員が同じ特殊な歩き方をしてしまう。特殊な歩き方は、対比する基準がないと全体に伝播する。
音は明示的に禁止しないと勝手に喋る【実証済み】
ネイティブの音声生成機能を持つモデルは、黙らせる指示がない限り、台詞を勝手に作る。
「歓声」とだけ書いた回では、全キャラクターが意味不明な言語で喋り出した。歓声という言葉から、モデルが「声を出す」を「言語的な発話」に拡大解釈したと見られる。これを解消したのが No music, no dialogue, no spoken words, no singing(音楽なし、台詞なし、発話なし、歌唱なし)という明示的な禁止である。
音を「何も指定しない」ことと「無音を明示する」ことは、生成結果として別物になる。
stagingで因果を作る【推測・ただし成立を確認】
台詞や説明的なナレーションを使わず、キャラクターの配置だけで因果関係・動機を成立させられる場面があった。
具体例は、町人が全員平伏する場面で、主人公のカメラ高さだけが変わらないという構図である。周囲が一斉に頭を下げる中、自分だけが立っている状態が視覚的に成立する。「立っている=周囲と違う=だから大名に見咎められる」という因果を、台詞ゼロで成立させられた。
これは1事例で成立を確認したのみであり、他の場面構成・他のキャラクター数でも同様に機能するかどうかは検証していない。台詞なしで動機を立てるための一般原則として提示できる段階ではなく、【推測】として扱う。
それでも残るガチャの領域【実証済み】
ここまでの構造をすべて満たしても、安定しない要素が残る。花魁のウィンクがその例である。
歩き方や配置と同様に、同系統の指定をした複数回のうち、「決まった回」と「ぎこちない回」が混在した。表情の微細な動作は、指示を分解して細かく書いても、生成のたびに結果が揺れた。
つまり、本記事に書いた構造(ビート分割、常時レイヤーとビートの分離、数値・物理での禁止、移動距離込みの歩行指定、音の明示的禁止)は、大きな破綻――全員静止、時系列崩壊、勝手な発話――を防ぐことは確認できているが、細かい表情の動きまで含めた「毎回同じ結果」を保証するものではない。この記事の通りに書けば安定する、とは読まないでほしい。ガチャの領域は構造化しても残る。
効かない書き方 → 効いた書き方
| 効かなかった書き方 | 効いた書き方 |
|---|---|
| 1ビートに複数キャラの動作をまとめて書く | ビートを分割し、1区間に1事件だけ置く |
| 常時の癖と単発の事件を同じ段落に混在させる | 常時レイヤー(独立段落)とビート(単発事件)を分離する |
| 「歓声」など音を曖昧な言葉で指定する | No music, no dialogue, no spoken words, no singing と明示する |
| 歩き方と一緒に移動距離・秒数を強く指定する | 近い位置に配置し、数歩だけ進ませる設計にする |
| 特定キャラの歩き方だけを指定する | 「他のキャラは普通に歩く」と対比で明示する |
| 台詞で因果関係を説明する | 配置(高さ・姿勢の対比)で因果を成立させる(推測) |
検証可能な禁止の書き方
| 指示 | 何を検証可能にしているか |
|---|---|
the girl is never seated before 20 seconds |
着席タイミングを秒数で禁止する |
the cheshire cat never touches a chair |
特定の物理的接触を禁止する |
each moment continues from the previous state, no teleporting |
瞬間移動を禁止し、状態の連続性を担保する |
every character moving differently and never in unison |
全員が同時に静止・同期する状態を禁止する |
No music, no dialogue, no spoken words, no singing |
音声・台詞の捏造を禁止する |
まだ分かっていないこと
- 表情の微細な動作(ウィンクなど)が、なぜ他の要素より不安定なのか、原因は特定できていない
- stagingによる因果成立は1事例のみの確認であり、他の場面構成・キャラクター数でも同様に機能するかは未検証
- ビート数・尺・登場キャラクター数が増えたとき、この構造がどこまで通用するかの閾値は計測していない
- 使用するモデルやバージョンが変わった場合に、同じ構造がそのまま通用するかは確認していない
この記事は、動画生成AIのプロンプト技法を継続的に記録している「動画生成AIプロンプト技法」の1項目である。語彙そのものの選び方(抽象語ではなく具体名詞を使う話)については「動画生成AIプロンプトの具体名詞」で扱っている。
出典・参照資料
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