Sakana AI(サカナAI)、推薦の「選ぶ理由」を進化させる手法QD-Rec(キューディーレック)を論文とコード付きで公開M&A・顧客・論文の3課題で、多くの設定で平均評価が高いと報告
日刊AIニュース10月20日(火)号:前日のAIのニュース12本を短くまとめました(約8分)›
Sakana AIは2026年10月20日、候補と「選ぶ理由(仮説)」の組を進化させる推薦手法QD-Recを公開した。約6,300社のM&A、1万件の顧客、約17,500本の論文で、毎回ゼロから仮説を書く方式より多くの設定で平均評価が高く、規模も大きいと報告している。論文はarXiv、コードはApache-2.0でGitHubにある。

Sakana AI(サカナAI)は2026年10月20日、候補と「それを選ぶ理由」の組を進化させて推薦を積み上げる手法**QD-Rec(キューディーレック)**を、論文とコード付きで公開しました。M&A、顧客ターゲティング、論文推薦の3課題の実験で、QD-Recは多くの設定で、毎回ゼロから仮説を書くベースラインなどより平均評価が高く、規模も大きい推薦の集合を作れた、と同社は報告しています。
3行まとめ
- Sakana AIが推薦手法QD-Recを公開。「候補」と「選ぶ理由(仮説)」の組を、突然変異・交叉で進化させる
- 約6,300社のM&A、1万件の顧客、約17,500本の論文で、1,000回の評価後に多くの設定で平均評価・規模ともにベースラインを上回ると同社
- 論文はarXiv:2610.23470、コードはApache-2.0でGitHubに公開。採点は主にLLMで、実務利用には追加の工夫が要ると同社自身が説明
本記事の内容は、日本時間10月20日20時台に公式ページで確認したものです(取得時刻は末尾に記載)。
QD-Recは何をする手法なのか?
Sakana AIは、複数の可能性を比べて方針を決める場面では、「最もスコアの高い候補を一つ選ぶ」「上位をランキングで示す」だけでは十分でないことがある、と説明しています。QD-Recが単位にするのは、候補(企業・顧客・論文など)と、その候補を選ぶ理由を述べた文章(仮説)の組です。同じ候補にも別の切り口の理由があり得るので、有望な組を見逃さず、しかも切り口の違うものを並べて比べられるようにするのが狙いです。
土台にあるのはQuality-Diversity(QD、質と多様性)という考え方です。単一の最良解でなく、異なる特徴を持つ高品質な解の集合を探す考え方で、公式ブログはこれを推薦に応用したと説明しています。
仕組みは次の3ステップの繰り返しです(公式ブログと技術記事による)。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 候補の選択 | 過去の採点結果をもとに、有望な候補と未調査の候補をバンディット(文脈付き)でバランスよく選ぶ。すでに保存した推薦と似ていない候補にはボーナスを付ける |
| 仮説の生成 | 提案役のLLMが、アーカイブから無作為に選んだ3件を参考に、mutate(1件の仮説を別の候補に合わせて変える)、crossover(複数の仮説を組み合わせる)、explore(参考例にない方針を出す)のいずれかで新しい仮説を書く |
| アーカイブの更新 | 採点役が評価する。LLMの判定役が「新しい理由」と見なせば、既存の点数に勝たなくても保存。新しくなければ、最も似た既存の1件と、順序を入れ替え点数を伏せた1対1の比較をして、勝てば入れ替わる |
「全体で1位を決めない」点が特徴です。似た者同士だけで競わせるため、点数が低くても新しい切り口の仮説は残り、次の仮説を作る「踏み石」になります。
どんな課題で、どんな結果が出たのか?
実験は3つの課題です。
- M&A:2024年8月時点の約6,300社の米国企業(平均約123語の事業説明と7項目の財務データ)から、Walt Disney CoまたはJPMorgan Chase & Coにとっての買収候補と論拠を探す
- マーケティング:1万件の架空の顧客プロファイル(カリフォルニア州在住を想定、平均約685語)から、3Dプリンターまたはオンライン学習サービスに響く顧客と理由を探す
- 論文推薦:ICLR 2026・ICML 2026・NeurIPS 2025に採択された約17,500本のタイトルと要旨から、特定の研究者像に合う論文と研究メモを探す
技術記事によると、提案役はclaude-sonnet-5とclaude-haiku-4-5の2種類、採点役はgpt-5.6-terraです。各設定は10件の初期推薦から始め、1,000回の評価を5つの乱数シードで繰り返し、平均を出しています。比較相手は次の2つです。
- Novelty:過去の仮説を参考にせず、毎回ゼロから書く(進化なし)
- Novelty+Evo:仮説は進化させるが、候補はバンディットを使わず無作為に選ぶ
技術記事の表2から、提案役がclaude-sonnet-5の6設定を抜き出します(Quality=採点役の0〜10点の平均、n=最終アーカイブの件数。数字は5シード平均)。
| 課題・プロファイル | QD-Rec Quality / n | Novelty+Evo Quality / n | Novelty Quality / n |
|---|---|---|---|
| M&A・Walt Disney Co | 2.91 / 214 | 2.51 / 135 | 2.40 / 85 |
| M&A・JPMorgan | 3.04 / 183 | 2.54 / 108 | 2.88 / 95 |
| 論文・OpenEndedness | 5.32 / 730 | 5.26 / 690 | 4.96 / 578 |
| 論文・AI Startup | 6.24 / 789 | 6.24 / 737 | 6.21 / 658 |
| マーケ・3D printer | 7.05 / 164 | 6.73 / 156 | 6.81 / 96 |
| マーケ・Upskilling | 6.89 / 82 | 6.70 / 72 | 6.47 / 61 |
技術記事の結論は「2種の提案役をまたいで、QD-Recは多くの設定で最高の平均Qualityを出し、通常は最大のアーカイブを作った」というものです。「全設定で」ではありません。この点は、後の「この結果をどこまで読むべきか?」の節で数字を挙げて確認します。
生成例では何が起きたのか?
公式ブログは2つの例を載せています。どちらも提案役claude-sonnet-5、採点役gpt-5.6-terraの場合です。
例1:JPMorganにLiberty TripAdvisor Holdingsの買収を薦める。 ゼロから書いたベースラインは「戦略的な論理がない」として買収に反対し、1点(10点満点)でした。アーカイブには、Southwest Airlinesの買収案(これも1点)が親として残っていました。QD-Recのmutateはこの親から「旅行の購入動線に融資・決済・特典・データを組み込む」という着想だけを取り出し、旅行口コミ・予約企業の案に移して5点に上がりました。
例2:看護師に架空のオンライン学習サービスを薦める。 ベースラインは「シフト勤務で忙しい」「付随的な用途」として2点でした。親は、学区のリーダーを目指す幼稚園教諭向けの7点の仮説で、公式ブログによると、mutateがこの親から「現場の専門家が、管理・運営側に回るために足りないビジネススキルを補う」という論理を取り出して看護師に当てはめたところ、7点になりました。
手元のコードで試せるのか?
GitHubのリポジトリはApache-2.0です。READMEの手順は、uv sync のあと .env にAPIキーを入れる形でした。必要なキーはOPENROUTER_API_KEYのみで、提案役・採点役・埋め込み(text-embedding-3-small)のすべてをOpenRouter経由で呼びます。
私が日本時間20時台にリポジトリのページを確認した時点で、コミットは1件、スターは2件でした。READMEの「Quick start」は、顧客ドメインで100回の評価を回す4コマンドです。ここで気づいた点があります。READMEが既定にするモデルは、提案役・採点役とも openai/gpt-6-luna で、論文の実験の組み合わせ(claude-sonnet-5と gpt-5.6-terra)とは違います。READMEは「手軽で安価な試用向けで、品質を上げたいなら設定ファイルで高性能なモデルに変える」と書いています。なお、私はこのコードを実行していません。
M&A課題の企業データはLSEG Workspace(有料契約が必要)から取ったもので、リポジトリには3社の合成データの例だけが入っています。顧客課題は公開の人物データNVIDIA Nemotron-Personas-USA、論文課題はpapercopilot/paperlistsから取得できる、とREADMEにあります。
この結果をどこまで読むべきか?
公式の記述から、読み方に注意が要る点を挙げます。
- 全設定で勝ったわけではない。 表2では、論文・OpenEndednessのclaude-haiku-4-5の組でQualityはNovelty+Evoの5.03がQD-Recの4.87を上回り、アーカイブ件数もNoveltyの468がQD-Recの353より多くなっています。マーケ・Upskillingのhaikuの組でも、件数はNoveltyの69がQD-Recの54を上回っています。カバレッジ(2次元に落とした25×25区画の占有率)も、sonnetの論文課題ではNovelty+Evoの方が高い行があります(OpenEndednessで.47対.44)。
- 採点が主にLLMで、同じ採点が探索中にも使われる。 技術記事は、Qualityの報告に使う点数は探索中に得られる点数と同じだと明記し、実験が測るのは「固定の評価予算でその評価者のもとアーカイブをどれだけ作れるか」だとしています。公式ブログは、LLMの採点には内容を良くせず採点者の弱点を突いて高得点を得る「ハック」のリスクがあり、人の評価者との分担や照合が考えられると書いています。
- 生成例に事実でない記述が混じる。 例1でモデルは入力にない「1億人を超える会員基盤」を書いていました。Sakana AIは、Southwestの2026年7月の公式発表は「nearly 100 million Members」で、1億人超は確認できなかったと注記しています。さらに、データ時点は2024年8月ですが、Liberty TripAdvisor Holdingsは2025年4月にTripadvisor社に買収されています。買収案はあくまで手法評価のためのもので、実際の買収計画でも投資助言でもない、と同社は断っています。
- 入力は簡素。 提案役は、企業なら短い事業説明と少数の財務データ、論文ならタイトルと要旨だけで仮説を書きました。同社は、実務ではデータへのアクセスやリサーチエージェントの組み込みが考えられるとしています。
- 第三者による検証は、今回取得したページの範囲では確認していません。 論文はarXivで10月16日(UTC)に投稿、19日に改訂版(v2)が出ています。
同社の最近の発表では、AI同士の成果を学習に回す手法を扱ったMASS(マス)の記事もあります。
出典と確認時刻
- Sakana AI「オープンエンドな探索を意思決定支援へ:推薦の質と多様性を高める『QD-Rec』を提案」(2026年10月20日):https://sakana.ai/qd-rec/
- 技術記事「QD-Rec: Open-Ended Evolution of Recommendations via Quality–Diversity」:https://pub.sakana.ai/qd-rec/
- 論文 arXiv:2610.23470(著者:Takashi Ishida、Taro Makino、Issa Sugiura):https://arxiv.org/abs/2610.23470
- コード:https://github.com/SakanaAI/QD-Rec
確認時刻(日本時間):公式ブログ 2026年10月20日 20:29、技術記事・arXiv 20:30、GitHub 20:30。
本記事は続報があり次第更新します。
この記事でよく聞かれること
- QD-Rec(キューディーレック)とは何ですか?
- Sakana AIが開発した推薦手法です。企業や顧客、論文などの「候補」と、それを選ぶ理由を述べた「仮説」の組を推薦の単位にします。過去の優れた仮説をもとに生成AIが新しい仮説を書くサイクルを繰り返し、質が高く切り口の異なる推薦を蓄積します。
- QD-Recのコードは公開されていますか?
- GitHubのSakanaAI/QD-Recで公開されています。ライセンスはApache-2.0です。READMEによると、uvとPython 3.10以上が必要で、モデルはすべてOpenRouter経由で動かすため、必要なAPIキーはOPENROUTER_API_KEYだけです。
- どんな課題で効果を確かめたのですか?
- M&A(約6,300社の米国企業)、マーケティング(1万件の架空の顧客プロファイル)、論文推薦(約17,500本)の3課題です。論文にはこれに加えて書籍推薦もあります。Sakana AIは、多くの設定で毎回ゼロから仮説を書く方式より平均評価が高く、アーカイブの規模も大きかったと報告しています。
- 実際の買収判断にそのまま使えますか?
- Sakana AIは、記事の買収案はモデルが生成した仮説で、実際の買収計画でも投資助言でもないと注記しています。実務で使うには、より詳細で最新の情報を与える必要があるとも書いています。
出典・参照資料
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