Sakana AI、社内で育ってきた研究グループ「Frontier Intelligence Group」を公表──Transformer論文共著者のCTO Llion Jones氏が問うポストTransformer
日本のSakana AIは2026年9月18日、社内で育ってきた研究グループ「Frontier Intelligence Group(FIG)」の存在を公式ブログで公表した。発表文によると、Transformer論文の共著者でもある同社CTOのLlion Jones氏は、Transformerをデータと計算資源でスケールさせるだけでAGIに届くのかを討論で問うた。FIGは自然からの着想を原則の一つに掲げ、発表文はメンバーの既発表研究5件を紹介している。最大1,000層のネットワークを誤差逆伝播を使わずに学習する手法や、200個近い物理ブロックが全体の形を認識し欠けた箇所を検知するシステムなどだ。

目次
2026年9月25日未明(日本時間)時点の情報です。 日本のAI企業Sakana AIは2026年9月18日、社内で育ってきた研究グループ「Frontier Intelligence Group(FIG)」の存在を公式ブログで明らかにした。発表文の言葉では「社内で育ってきた」グループの紹介で、新しいモデルや製品の発表は含まれていない。発表文によると、同社CTOのLlion Jones氏(Transformerを提案した2017年の論文「Attention Is All You Need」の共著者8人のうちの1人)は、Transformerをスケールさせ続けるだけでAGIまで到達できるのかという問いを、先日の討論「Transformer vs Post-Transformer」で投げかけた。発表文の冒頭の段落にはこうある。
Given this trajectory, it’s reasonable to ask if the current paradigm (scaling the Transformer architecture with even more data and even more compute) is “all you need” to take us all the way to AGI. This is exactly what Llion Jones, our CTO and one of the inventors of the Transformer, questioned in the recent Transformer vs Post-Transformer debate. Spoiler: we think there’s more to do.
(この流れを見れば、現在のパラダイムである「Transformerアーキテクチャ」に、より多くのデータとより多くの計算資源を与えてスケールさせれば、それだけでAGIまで到達できるのではないか、それが “all you need” なのではないか、と問いたくなるのは自然です。これはまさに、当社CTOでありTransformerの発明者の一人であるLlion Jonesが、先日の Transformer vs Post-Transformer の討論で投げかけた問いでもあります。結論を先に言えば、私たちの考えは「まだやるべきことがある」というものです。/Sakana AI公式ブログ日本語版より)
3行まとめ
- Sakana AIが2026年9月18日、社内で育ってきた研究グループ「Frontier Intelligence Group(FIG)」の存在を公式ブログで公表。発表文は、Transformer論文の共著者8人の1人である同社CTO Llion Jones氏が討論で投げた、スケールだけでAGIに届くのかという問いを冒頭の段落で引いている。
- 発表文によると、FIGは、知能はまだ「解決」していないという立場から出発し、仮に現在のパラダイムがスケールでAGIに届くとしても、人間の脳と同じデータ効率・エネルギー効率で学習できるシステムを別途実現したいとする。自然からの着想は5つの原則の一つ。
- 発表文が紹介した研究は5件で、いずれも今回が初出ではない(2025年5月〜2026年7月に論文や研究ページで公開済み)。うちPC-ALMは最大1,000層のネットワークを誤差逆伝播を使わずに学習でき、Smart Cellular Bricksは200個近い物理ブロックが全体の形を認識し欠けた箇所を検知する、とSakana AIは説明している。
「研究者2人の週次の雑談」から始まったグループ
発表文はFIGの成り立ちを「Sakana AI創業当初、研究者2人のちょっとした週次の雑談として始まったものが、今では次のパラダイムシフトを本気で目指す、活気あるグループに育ちました」と説明している。発表文に書かれた経緯はこれだけで、グループとしての発足日や現在の人数は書かれていない。創業に近い時期から続いていたグループが、今回初めて名前とともに対外的に紹介された、と読める。
発表文によると、FIGは「定期的にミーティングを開き、主流とは異なるアイデアを議論し、異なる背景を持つ外部の研究者を招いて知能についてのオルタナティブな見方を提示してもらう」ことなどを通して、長期的で野心的なアイデアに取り組む環境を作ってきた。ベンチマークの数値を上げるプレッシャーから離れ、うまくいくか分からない方向にも研究者が時間を使えることを掲げている。
「まだやるべきことがある」──Llion Jones氏の問題意識と、発表文が挙げる3つの弱点
発表文は、現在のAIに残る問題として、誤った情報を自信たっぷりに生成してしまうこと、本当に未知の状況に置かれると大きく性能を落としてしまうこと、膨大なエネルギーを必要とすることの3点を挙げる。そのうえで、多くの研究者は現在のパラダイムの枠内でこれらを解決しようとしているが、別のパラダイムを探す必要があるのかもしれない、と述べる。対比として持ち出されるのが生物の知能で、継続的に学習し、はるかに少ないデータでよく汎化し、自発的でオープンエンドな好奇心をもって探索することもできる点を、現在のAIとは対照的だと書いている。
Llion Jones氏については、発表文が2本の動画を参照している。ひとつは前述の討論「Transformer vs Post-Transformer」、もうひとつは2025年のTED Talkで、後者について発表文は「現在のパラダイムはその強力さゆえに、そのパラダイム自体を生み出したような研究の自由を奪いつつあります」と氏が論じたと要約している。
2本の中身は今回視聴していないが、YouTube上の動画説明は確認した。討論はPathway社がサンフランシスコで5月5日に開いた催しで(動画の公開は2026年5月19日)、登壇者はJones氏のほか、同じくTransformer論文の共著者であるŁukasz Kaiser氏、Pathway社のAdrian Kosowski氏、Liquid AIのMathias Lechner氏。動画説明はJones氏を「Post-Transformer側で戦う」と紹介している。TED Talkの題は「How Competition Is Stifling AI Breakthroughs」で、2025年10月21日のTEDAI San Franciscoで収録されたと動画説明にある。本記事がJones氏の問題意識として紹介している内容は、FIGの発表文による要約の範囲にとどまる。
FIGを支える5つの原則
発表文はFIGの指針として5つの原則を挙げている。
| 原則 | 発表文の要旨 |
|---|---|
| 研究の自由 | ベンチマークの数値を上げるプレッシャーから離れ、失敗する自由も含めてアイデアを追える時間と余裕を確保する |
| 独自性 | 「自分がやらなければ生まれなかったはずの研究だけをやるべきだ」。流行に反していても、自分が面白く重要だと信じることに取り組む |
| Greatness Cannot Be Planned | Sakana AI全体の中核にある哲学と位置づける。ニンジンに含まれるコレステロール誘導体を研究していた植物学者が液晶を発見した例を挙げ、厳格な計画より探索を促す環境を重視 |
| 自然に学ぶ | 進化的アルゴリズムを用いた集合知の研究に加え、計算神経科学や認知心理学を背景に持つメンバーもいる。ただし、すべての研究が自然に着想を得ているわけではないとも断っている |
| 知能を理解する | ベンチマークでの性能向上は知能の理解に必ずしもつながらない、という立場 |
「独自性」の一文は、英語版の本文では次のように引用されている。発表文の脚注は、出所を「Brian Cheung, in conversation, 2025.」(Brian Cheung氏との2025年の会話)としている。
“You should only work on research that wouldn’t happen if you weren’t doing it”
(「自分がやらなければ生まれなかったはずの研究だけをやるべきだ」/Sakana AI公式ブログ日本語版より)
発表文が紹介した5件の研究──自然に着想を得た具体例
発表文は「FIGの文化が、これまでどのように実を結んできたか」を示すものとして、FIGのメンバーの一部から出てきた研究5件を紹介している。いずれも今回が初出ではなく、Sakana AIがすでに論文や研究ページで公開していた研究だ(日付は同社ブログ一覧・各研究ページ・arXivで確認した)。表の「内容」は発表文の記述で、日本語版にしか無い記述はその旨を書いた。
| 研究名 | 公開時期 | 発表文が挙げる内容 |
|---|---|---|
| Continuous Thought Machines (CTM) | 2025年5月12日 | ニューロン同士の発火の同期を情報の表現として使う。日本語版は『迷路を解くときには、モデルが経路を目で辿るように「考えている」様子を可視化できます』と補足 |
| Augmented Lagrangian Predictive Coding (PC-ALM) | 論文のarXiv初版は2026年5月29日(研究ページの日付は2026年9月) | 誤差逆伝播の代わりに予測符号化(predictive coding)を改良した手法で、最大1,000層のネットワークを学習できたとする。日本語版は「誤差逆伝播にほぼ匹敵する精度」と補足 |
| Sparser, Faster, Lighter Transformer Language Models | 2026年5月9日 | NVIDIAとの共同研究。新しいスパース形式とCUDAカーネルで、10億パラメータ規模のLLMの速度・メモリ・エネルギーを改善。日本語版はデータ形式名「TwELL」と「ICML 2026採択」を記載 |
| The AI Picbreeder Experiment | 2026年7月10日 | 画像を選んで進化させるPicbreederのサイトを再現し、その「ユーザー」をVLMエージェントに置き換えて人間の発見と比較。出力の質と多様性を高める工夫は見つかったものの、現在のAIは「創意に富んだ寄り道」が苦手だったとする。日本語版はその工夫を「多様な人格を持つエージェント集団」と具体的に書く |
| Smart Cellular Bricks | 2026年7月13日 | 各ブロックが隣のブロックとだけ通信し、集団として自分たちが何の形(椅子・テーブルなど)の一部かを認識し、損傷を検知して修復につなげる。日本語版は「200個近い物理的なブロック」「Nature Communications掲載」と記載 |
「まったく別の場所から」──RSI Labと並べた書き方
発表文は、ブレークスルーの探し方について「現在のシステムが進歩するにつれ、自然な選択肢のひとつは再帰的自己改善、つまりAI自身に自らを改善させる方向になるでしょう」と書き、この「再帰的自己改善」の語から、同社が2026年6月5日に公表した研究グループ「RSI Lab」の公式ページへリンクしている(当サイトの既報)。RSI Labの公式ページは、その役割を「AIの開発プロセスそのものをAIで設計し直すこと」(redesigning the AI development process itself with AI)と説明している。
FIGの発表文はこれに続けて「一方で、ブレークスルーはまったく別の場所から生まれるかもしれません。だからこそ、それが芽吹くような研究環境が重要になります」と書く。発表文の中では、RSIは現在のシステムが進歩した先にある選択肢として、FIGの研究環境づくりはそれとは別の経路を探すものとして、並べて置かれていると読める。
同じ9月には、Sakana AIの製品・提携の発表も続いた。同社ブログの一覧によれば、9月10日にSCSK・住友商事との包括業務提携、9月11日にオーケストレーション型AIの新版「Fugu Max・Fugu Ultra v2」、9月16日にSakana Marlinの機能追加、9月17日にSakana ChatへのFugu Max展開とメモリー機能(当サイトのまとめ)が出ている。FIGの発表文には、これらの製品名も、収益や導入実績の数字も出てこない。
答えより問いが多い、として研究者を募る
発表文の末尾は「FIGには、答えよりも問いのほうが多くあります」としたうえで、「人間はなぜ、こんなに少ない事例からこれほど汎化できるのか」「局所的な学習則だけで、長い時間スケールにわたって学習できるニューラルネットワークはいかにして作れるか」「相関を取り除いたデータのバッチを用いずに、AIシステムを学習させることは可能なのか」といった未解決の問いを挙げる。そして、神経科学と機械学習の交差点にいるような、複数の分野にまたがる研究者の参加を呼びかけている(英語版は研究職の採用ページへのリンク付き)。給与・待遇・採用人数などの条件は発表文には書かれていない。
英語版と日本語版で書いてあることが違う
この記事の一次ソースの中心は、Sakana AI公式ブログの1本だ。同じページに英語版と日本語版が続けて載っている。本記事では両方の全文(HTMLから抽出した本文で英語約1,700語・日本語約5,800字)を読み、段落ごとに突き合わせた。
その結果、日本語版にしか書かれていない具体的な情報が少なくとも7つあった。「TwELL」というデータ形式名、「ICML 2026採択」、LLMのフィードフォワード層のニューロンの「95%以上」がある単語を処理する際に沈黙しているという数字、「Nature Communications掲載」、「200個近い」というブロックの数、PC-ALMが「誤差逆伝播にほぼ匹敵する精度」で学習できたという評価、人工ニューロンのモデルが「1980年代から」ほとんど変わっていないという記述だ。逆向き、つまり英語版にだけあって日本語版に無い数字は見つからなかった。英語版の発表文だけを読んだ人には、これらは見えない。
ただ、英語版が各研究名に張っているリンク先(いずれもSakana AIの英語ページ)を開くと、この7つはすべて英語で書かれていた。日本語版の追加情報は、少なくともこの7点については、リンク先の英語の記述と一致していた。
掲載先の2つは、Sakana AIの記載とは別に確かめた。ICML 2026の公式プログラムには「Sparser, Faster, Lighter Transformer Language Models」がポスター発表として載っており、著者6人(Sakana AIとNVIDIAの所属)にはLlion Jones氏も入っている。Smart Cellular Bricksの論文は、Nature Communicationsの論文ページとDOIの登録情報(Crossref)の両方で、誌名がNature Communications、オンライン公開日が2026年7月13日となっている。
短い紹介文だと広く読めてしまう2点
発表文の紹介は1件あたり数行なので、射程が広く読める記述もある。リンク先の研究ページで確かめた範囲を書いておく。
- PC-ALMの「1,000層」: 研究ページによれば、1,000層の学習は残差MLPという比較的単純なネットワークと、Fashion-MNISTやCIFAR-10などの単純な課題で示されたもの。研究ページ自身が、予測符号化のような局所的な学習法はこれまで規模の拡大が難しかったと書いている。
- Smart Cellular Bricksの「自己修復」: 研究ページの説明では、修復はブロック群が欠けている方向を示し、その方向に新しいブロックを足していく手順を指す。ブロックが自力で動いて直す「アクチュエーションによる能動的な自己修復」は、研究ページが今後の課題として挙げている。実機の実験で使ったブロックは200個近く(形ごとに26〜197個)で、それより大きな規模はシミュレーションでの検証だ。
FIGの現在の人数・予算・正式な発足時期は、発表文に書かれていない。5件の研究とFIGの関係についても、発表文(英語版)は「FIGのメンバーの一部から出てきた研究」(research that has come from some of the members of the FIG collective)と書くにとどまり、どの研究がFIGとして取り組んだものかまでは分からない。
出典・参照資料
- 一次資料Introducing Sakana AI's Frontier Intelligence Group (FIG) — Sakana AI公式ブログ(英語・日本語併記、2026年9月18日公開) ↗
- 一次資料Sakana AI公式ブログ一覧(各発表の公開日の確認用) ↗
- 一次資料Sparser, Faster, Lighter Transformer Language Models — Sakana AI公式(2026年5月9日) ↗
- 一次資料ICML 2026 公式プログラム: Sparser, Faster, Lighter Transformer Language Models(ポスター) ↗
- 一次資料Smart Cellular Bricks: Towards Collective Intelligence for the Physical World — Sakana AI公式(2026年7月13日) ↗
- 一次資料Smart cellular bricks for decentralized shape classification and damage recovery(Nature Communications、DOI 10.1038/s41467-026-75166-7) ↗
- 一次資料Augmented Lagrangian Predictive Coding: training 1000-layer networks without backpropagation — Sakana AI ↗
- 一次資料Introducing Continuous Thought Machines — Sakana AI公式(2025年5月12日) ↗
- 一次資料The AI Picbreeder Experiment — Sakana AI公式(2026年7月10日) ↗
- 一次資料Introducing Sakana AI's Recursive Self-Improvement (RSI) Lab — Sakana AI公式(2026年6月5日) ↗
- 二次資料Transformer vs Post-Transformer | ft. Lukasz Kaiser, Adrian Kosowski, Mathias Lechner, & Llion Jones(YouTube・Pathway、FIG発表文がリンク) ↗
- 二次資料How Competition Is Stifling AI Breakthroughs | Llion Jones | TED(YouTube、FIG発表文がリンク) ↗
- 二次資料Attention Is All You Need — Wikipedia(2017年の論文と著者8名の確認用) ↗
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