測量士・通関士は国家資格職なのに「代替可能性が高い」側だった──野村総研2015年リストの実名
野村総研×オックスフォード大学の2015年リストで「代替可能性が高い」側に分類されていたのは、レジ係やデータ入力係だけではない。国家資格が必要な測量士・通関士も、実名でこのリストに含まれていた。データ入力係の米国統計も合わせて数え直した。

野村総合研究所(NRI)とオックスフォード大学が2015年12月2日に発表したリストのうち、「代替可能性が高い100種の職業」を50音順に最初から最後まで書き出すと、レジ係・データ入力係・保険事務員に混じって、測量士・通関士という2つの国家資格職の名前が出てくる。この記事では、Wayback Machine経由でNRI原文を取得してこの5職業の実名を確認したうえで、米国の対応統計が公開されているデータ入力係について、10年分の雇用者数の増減を数え直した。
3行まとめ
- NRI原文の「代替可能性が高い100種の職業」には、レジ係・データ入力係・保険事務員という定型事務系の職業に加えて、測量士・通関士という国家資格が必要な専門職も実名で含まれている
- データ入力係に相当する米国の職業(Data Entry Keyers、SOC 43-9021)は、BLSの統計で2013年5月の207,660人から2023年5月には154,230人へ、10年間で約26%減った
- NRIの推計は「業務全体を66%以上の確率でコンピューターが代替できるか」という技術的な代替可能性であり、資格制度や法律上の独占業務の有無は考慮されていない。測量士・通関士がリストに入っているのは、業務内容の一部が定型的なデータ処理だからだと考えられるが、原文にその説明はない
「資格職だから安全」ではなかった
別記事で確認した通り、NRIの2015年リリースは「代替可能性が高い100種の職業」「代替可能性が低い100種の職業」という、パーセンテージなしの実名リスト2本だけを公開している。「高い」側のリストをもう一度読み返すと、次のような職業名が並んでいる(抜粋、50音順)。
検収・検品係員、検針員、測量士、宝くじ販売人、タクシー運転者、宅配便配達員、通関士、通信販売受付事務員、積卸作業員、データ入力係、電気通信技術者……
測量士は測量法に基づく国家資格、通関士は関税法に基づく国家資格である。いずれも一定の試験に合格しなければ名乗れない専門職だが、NRIのリストではレジ係やデータ入力係と同じ「代替可能性が高い」側に分類されている。
NRI原文が明記する判定基準は「従事する一人の業務全てを、高い確率(66%以上)でコンピューターが代わりに遂行できるか」であり、資格の有無や、その資格が独占業務を法的に保証しているかどうかは、この基準には含まれていない。測量士・通関士がなぜこの基準で「高い」側に入ったのか、原文リリースには職業別の説明が一切ないため、今回のセッションでは特定できていない(後述)。
データ入力係は、米国で10年何%減ったか
「高い」側のリストの中で、米国側の対応統計が明確に取得できたのがデータ入力係である。Frey&Osborne(2013)論文の付録リストで対応する米国の職業「Data Entry Keyers」(SOC 43-9021)について、BLSの職業別雇用統計をWayback Machine経由で取得した。
Data Entry Keyers(SOC 43-9021)
10年で4分の1強が減った計算になる。Frey&Osborne論文はこの職業に0.99という、702職業中でもっとも高い計算機化確率のひとつを割り当てていた(テレマーケターと並ぶ水準)。実測の減少率(-26%)は、確率がほぼ同じだったテレマーケター(-65%)より緩やかで、レジ係(-1%、ほぼ横ばい)よりは明確に減少している。「確率0.99」というラベルの中でも、実際の減り方には大きな幅があることが、テレマーケター・データ入力係・レジ係の3つを並べるだけで見えてくる。
一方、レジ係の米国側の数字(3,343,470人→3,298,660人、-1.3%)は別記事ですでに確認しているため、ここでは繰り返さない。保険事務員・通関士・測量士については、対応する米国のBLS職業区分を今回のセッションでは特定できておらず(日本の「保険事務員」「通関士」「測量士」に一対一で対応する米国の職業分類が明確でない)、米国側の実測データは持ち合わせていない。
通関士だけは日本側の公式統計が見つかった──試験申込者は10年で18%減
honest章で先に触れていた「日本側の実測データを持ち合わせていない」という限界について、通関士に限っては税関(財務省関税局)公式サイトで解消できた。税関は毎年の通関士試験結果を公表しており、そのうち「通関士試験受験者数及び合格率等の推移(第1回〜第59回)」という表には、1967年(昭和42年、第1回)から2025年(令和7年、第59回)までの願書提出者数・受験者数・合格者数・合格率が年ごとに掲載されている。
NRIの2015年リリース時点に近い回と、直近の第59回(2025年)を比較すると次のようになる。
| 回 | 実施年 | 願書提出者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第49回 | 平成27年(2015年) | 10,018人 | 7,578人 | 764人 | 10.1% |
| 第59回 | 令和7年(2025年) | 8,205人 | 6,322人 | 954人 | 15.1% |
願書提出者数は10,018人から8,205人へ、10年間で約18.1%減。受験者数も7,578人から6,322人へ約16.6%減っている一方、合格者数はむしろ764人から954人へ約24.9%増え、合格率も10.1%から15.1%に上がっている。
ただし、この数字が示すのは「通関士という資格を新たに目指す人の数」の推移であり、既に通関士として働いている人の総数(就業者数のストック)ではない。願書提出者の減少は、貿易実務のデジタル化・AI活用よりも、輸出入取引量の変化や資格試験自体の受験者離れなど、他の要因が影響している可能性も十分にある。NRIのリストが示す「技術的な代替可能性」と、この試験申込者数の減少とを直接結びつけて因果関係を主張することは、この記事ではしない。
同じ表を1967年(第1回)からさかのぼって見ると、願書提出者数のピークは平成10年(1998年、第32回)の16,275人で、そこから令和7年(2025年、第59回)の8,205人まで、約49.6%減っている(2026年9月4日に税関公式PDFを取得し、第1回〜第59回の全行を突き合わせて確認。次点は平成11年・第33回の16,258人、その次が平成9年・第31回の15,780人)。ここ10年(2015〜2025年)の減少幅(-18.1%)よりも、1998年をピークとした約27年間の減少幅(-49.6%)の方がはるかに大きい。つまり通関士試験への申込者数は、生成AIが普及するはるか以前の1990年代後半から、既に長期的な減少トレンドに入っていたことになる。この長期トレンドの中でNRIの2015年リストがどのような位置づけにあるかは、この記事では検証していない。
分類の理由はNRI原文に記載がない
まず、測量士・通関士がなぜ「代替可能性が高い」側に分類されたのか、NRI原文には職業ごとの理由説明がなく、この記事でもその理由を特定できていない。想像で補うことはせず、「実名でこのリストに含まれている」という事実の確認にとどめる。
次に、日本の測量士・通関士・保険事務員の実際の就業者数がこの10年でどう動いたかは、通関士の試験申込者数の推移以外は今回確認できていない。通関士についても、今回取得できたのは「試験に申し込んだ人の数」の推移であり、実際に通関士として登録・就業している人の総数(ストック)の統計ではない。測量士の登録者数については国土交通省の該当ページを今回のセッションでは特定できず、保険事務員についても対応する公式統計を見つけられなかった。
また、保険事務員・通関士・測量士に対応する米国BLSの職業区分(SOCコード)を、今回のセッションでは特定できなかった。データ入力係のように一対一で対応する米国職業が明確な場合と違い、これらの職業は日米で業務範囲の切り方が異なる可能性があり、単純に「米国の類似職業」を探して代用することを避けた。
最後に、この記事はNRIの技術的代替可能性の推計そのものが「正しいかどうか」を検証したものではない。原文が明示している通り、この推計は労働需給や制度的な参入障壁(資格制度など)を考慮していない、あくまで技術的な可能性の試算である。
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出典・参照資料
- 二次資料日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に(野村総合研究所プレスリリース・2015年12月2日/Wayback Machine保存版) ↗
- 二次資料BLS Occupational Employment and Wage Statistics — Data Entry Keyers (SOC 43-9021), May 2013(Wayback Machine保存版) ↗
- 二次資料BLS Occupational Employment and Wage Statistics — Data Entry Keyers (SOC 43-9021), May 2023(Wayback Machine保存版) ↗
- 一次資料通関士試験 — 税関(財務省関税局)公式サイト ↗
- 一次資料第59回通関士試験の結果について(参考2:受験者数及び合格率等の推移、第1回〜第59回)— 税関公式PDF ↗
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