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「AIが仕事を奪う」の前に、電話交換手は63%減っていた──Frey&Osborne論文の一文とBLS統計を読む

『仕事の47%が消える』の震源とされるFrey&Osborne(2013)論文は、冒頭でBresnahan(1999)を引用し「簿記係・レジ係・電話交換手は、この数十年ですでにコンピューターに置き換えられた」と書いている。米労働統計局(BLS)のデータをWayback Machine経由で自分で数え直すと、電話交換手(SOC 43-2011)は2013→2023年の10年間で118,060人から43,830人へ63%減っていた(消滅ではなく減少で、2023年時点でも4万人以上が現職)。

「AIが仕事を奪う」の前に、電話交換手は63%減っていた──Frey&Osborne論文の一文とBLS統計を読む
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目次

「AIに仕事を奪われる」という不安の震源としてよく引き合いに出されるのが、英オックスフォード大学のカール・ベネディクト・フレイ氏とマイケル・A・オズボーン氏による2013年の論文「The Future of Employment」だ。「米国雇用の47%が計算機化のリスクにさらされている」という数字は、この論文が出どころである。

その論文を実際にPDFで開いて読むと、本文3ページ目の書き出しにこう書いてある。「この数十年で、コンピューターは数多くの仕事を代替してきた。簿記係、レジ係、電話交換手の機能を含む」。参照先はBresnahan(1999)という1999年の経済学論文だ。つまりこの論文自体が、「AIが仕事を奪う」という話をするより前に、「コンピューターがすでに仕事を奪った話」を前置きとして書いている。今回は、この一文の周辺と、そこで名前が挙がる職業の米国統計を、自分で取得して確かめた。

3行まとめ

  1. Frey&Osborne(2013)論文は冒頭で、簿記係・レジ係・電話交換手が「この数十年ですでにコンピューターに置き換えられた」とBresnahan(1999)を引用して書いている。ところがこの3職業は、同じ論文の巻末付録(702職業の自動化確率リスト)にも別枠でまた登場し、いずれも上位1割に入る高確率(0.96〜0.98)を割り当てられていた。
  2. 米労働統計局(BLS)のデータをWayback Machine経由で取得し2013年5月→2023年5月を数え直すと、電話交換手(SOC 43-2011)は118,060人→43,830人(-63%)、秘書(SOC 43-6014)は2,159,000人→1,785,430人(-17%)と減少した一方、レジ係(SOC 41-2011)は3,343,470人→3,298,660人(-1%)とほぼ横ばいだった。
  3. 日本語圏で「AIでなくなる仕事」の震源として引かれる野村総研(NRI)2015年リストには、「秘書」「電話交換手」という職業名は実は載っていない(載っているのは「一般事務員」)。この2職業の数字は米国BLSのものであり、NRIの日本語リストとは別の話である。

Bresnahanという名前を、論文の1ページ目で見つける

https://oms-www.files.svdcdn.com/production/downloads/academic/future-of-employment.pdfcurlで取得し、pdftotextでテキスト化して通読した。表紙には"working paper"と明記されており、査読誌に掲載された論文ではない。日付は2013年9月17日、発行元はOxford Martin Programme on Technology and Employment。

Introduction(序論)の2文目からして、こう書かれている。原文と訳を並べる。

Indeed, over the past decades, computers have substituted for a number of jobs, including the functions of bookkeepers, cashiers and telephone operators (Bresnahan, 1999; MGI, 2013).

(訳)実際、この数十年で、コンピューターは数多くの仕事を代替してきた。簿記係・レジ係・電話交換手の機能を含む(Bresnahan, 1999; MGI, 2013)。

この一文がまさに、47%という数字がひとり歩きする直前に、著者自身が書いている前置きである。参照文献リストで確認すると、Bresnahanは以下の論文だった。

Bresnahan, T.F. (1999). Computerisation and wage dispersion: an analytical reinterpretation. The Economic Journal, vol. 109, no. 456, pp. 390–415.

スタンフォード大学のティモシー・ブレスナハン教授が1999年にThe Economic Journal(Wiley刊行の査読誌)に発表した論文である。The Economic Journal自体は購読契約が必要な学術誌で、今回curlで本文原典に到達することはできなかった(著者個人サイトも確認したが、該当論文への公開リンクは見つからなかった)。したがって、以下で「Bresnahanが言った」と書く内容は、すべてFrey&Osborne論文がBresnahanを要約・引用した範囲にとどまる。Bresnahan自身が具体的にどんなデータや論拠で「簿記係・レジ係・電話交換手」を挙げたのかは、この記事では確認できていない。

Frey&Osborne論文には、同じ話題がもう一箇所出てくる。本文の別の節(賃金格差とコンピューター革命の関係を論じた箇所)で、こう書かれている。

As the cost per computation declined at an annual average of 37 percent between 1945 and 1980 (Nordhaus, 2007), telephone operators were made redundant, the first industrial robot was introduced by General Motors in the 1960s, and in the 1970s airline reservations systems led the way in self-service technology (Gordon, 2012).

(訳)1945年から1980年にかけて、計算コストが年平均37%ずつ低下する中で(Nordhaus, 2007)、電話交換手は余剰人員となり、1960年代には最初の産業用ロボットがゼネラルモーターズによって導入され、1970年代には航空券予約システムがセルフサービス技術の先陣を切った(Gordon, 2012)。

こちらの出典はBresnahanではなくNordhaus(2007)とGordon(2012)だが、指している年代は同じで、1945〜1980年という戦後の数十年間である。生成AIはおろか、パーソナルコンピューターが一般家庭に普及するより前の話だ。

同じ職業が、巻末のリストにもう一度出てくる

ここまでは「昔の話」として引用されている簿記係・レジ係・電話交換手だが、この論文には702職業それぞれの「計算機化される確率」を並べた巻末付録がある。試しにこの3職業を付録で検索すると、いずれも別枠でもう一度登場した。

職業(SOC) 付録での順位(702件中) 確率
Switchboard Operators, Including Answering Service(43-2011) 631位 0.96
(参考)Secretaries and Administrative Assistants, Except Legal, Medical, and Executive(43-6014) 634位 0.96
Cashiers(41-2011) 657位 0.97
Telephone Operators(43-2021) 664位 0.97
Bookkeeping, Accounting, and Auditing Clerks(43-3031) 671位 0.98

順位は1位が最も自動化されにくく、702位が最も自動化されやすい(702位=テレマーケター、確率0.99であることを本文で確認済み)。つまり「すでにこの数十年でコンピューターに置き換えられた」と序論で紹介された職業が、同じ論文の中で「今後、高確率で計算機化される」側の上位1割(631〜671位)にもう一度並んでいる。

なぜ同じ職業が二重に出てくるのか、論文はその点を明示的に説明していない。推測になるが、ひとつは、2013年時点でもまだ一定数の就業者が残っており、その残存業務がさらに自動化される確率を将来予測として別途算出した、という読み方。もうひとつは、702職業の確率算出は米労働省のO*NETタスクデータに基づく機械学習の分類であり、序論の歴史的な記述とは別系統で作られている、という読み方。いずれも論文本文からは断定できない。ここで言えるのは、二重に出てくるという事実そのものだけである。

電話交換手・秘書・簿記係・レジ係──BLSで10年分を数え直す

付録の確率がその後どうなったかを、実際の雇用統計で確かめた。米労働統計局(BLS)の職業別雇用統計(Occupational Employment and Wage Statistics)は、bls.gov本体には直接アクセスできなかった(Akamaiで403が返る)ため、Wayback Machine経由で2013年5月時点のスナップショットと2023年5月時点のスナップショットをそれぞれcurlで取得した。以下、SOCコードごとに実測した数字である。

電話交換手(Switchboard Operators, Including Answering Service/SOC 43-2011) 2013年5月:118,060人 → 2023年5月:43,830人(-63%

電話交換手・別区分(Telephone Operators/SOC 43-2021) 2013年5月:10,280人 → 2023年5月:4,600人(-55%

BLSの職業分類には「電話交換手」に近い区分が実は2つある。43-2011は企業の電話交換台・答え合わせサービスを担当する職種、43-2021はダイヤル案内・緊急通報の取り次ぎ等を担当する職種(BLS自身の職務定義を確認済み)で、Bresnahanが指す「電話交換手」がどちらかは論文からは特定できない。ただし数字を見る限り、どちらの区分でも減少方向は同じで、10年間で半分以下になっている。

秘書・事務アシスタント(Secretaries and Administrative Assistants, Except Legal, Medical, and Executive/SOC 43-6014) 2013年5月:2,159,000人 → 2023年5月:1,785,430人(-17%

簿記係(Bookkeeping, Accounting, and Auditing Clerks/SOC 43-3031) 2013年5月:1,586,380人 → 2023年5月:1,501,910人(-5%

レジ係(Cashiers/SOC 41-2011) 2013年5月:3,343,470人 → 2023年5月:3,298,660人(-1%

Bresnahanが「すでにコンピューターに置き換えられた」と1999年に書いた3職業(簿記係・レジ係・電話交換手)だけを見ても、その後の2013〜2023年の10年間の動きはまるで揃っていない。電話交換手はさらに半分以下まで減り続けた一方、レジ係はほぼ横ばいだった。「computerisation risk 0.97」という同じくらい高い確率を付録で割り当てられていた電話交換手とレジ係が、10年後の実測ではまったく違う方向を向いている。「コンピューターが仕事を奪う」という一つの物語では、この2つの職業の違いは説明がつかない。

なお、いずれもSOCコードは2013年・2023年両スナップショットで同一だった。タクシー運転手のようにSOC改定でコードが変わり時系列比較ができない職業(今回の対象外)とは違い、この5職業は同じ定義のまま10年分を直接比較できている。

「秘書」「電話交換手」は、野村総研のリストには載っていない

日本語圏で「AIでなくなる仕事」を語るとき、しばしば引かれるのが野村総合研究所(NRI)とオックスフォード大学の共同研究(2015年12月2日発表)の「代替可能性が高い100種の職業」リストである。このリストと、ここまで書いてきた電話交換手・秘書の話が同じ出典だと誤解されると困るので、確認しておく。

NRIのプレスリリース原文は現在のnri.comサイトからは読めなくなっている(curlで直接アクセスするとニュース一覧ページへリダイレクトされることを確認済み)。Wayback Machineの2018年4月13日クロール分(http://web.archive.org/web/20180413080841/https://www.nri.com/jp/news/2015/151202_1.aspx)をcurlで取得し、「代替可能性が高い100種の職業」の項目をテキスト抽出してPythonで機械的に数えたところ、ちょうど100件だった。この中に「秘書」という職業名は一件もない。「電話交換手」も一件もない。載っているのは「一般事務員」「行政事務員(国)」「行政事務員(県市町村)」といった事務系の職業名である。

つまり、ここまで紹介してきた「秘書-17%」「電話交換手-63%」というBLSの数字は、米国のSOC分類に基づくFrey&Osborne論文の話であって、日本語圏でよく引用されるNRIの100職業リストの話ではない。両方とも「事務系の仕事は代替されやすいとされている」という同じ方向のメッセージではあるが、出典としては別物である。この違いを混同したまま「NRIのリストにも秘書が載っている」と書けば、それは原文を確認しないまま書いた誤りになる。日本側で秘書・電話交換手に相当する職業の就業者数がどう推移したか(総務省統計局や厚生労働省の統計)は、今回のセッションでは取得していない。

「AIに仕事を奪われる」は、今の話として語られている

通説側の実例も確認しておく。経済産業省が運営するオウンドメディア「METI Journal ONLINE」が2026年7月9日に公開した記事「社会が変わる、暮らしが変わる――。AI時代に『人間に求められる力』って何?」は、こう書き出している。

AIの進化が加速度的に進んでいます。ビジネスや安全保障など、その活用は様々な分野に広がり、世界の有り様を変えていく勢いです。AIは様々な利益を私たちにもたらしてくれる一方で、AIに仕事を奪われてしまうのではないか、人間がAIに支配されてしまうのではないかといった、不安もあります。

curlで取得した本文全文をテキスト化し「コンピューター」「以前から」「昔から」といった歴史的経緯に触れる語を検索したが、いずれもヒットしなかった。この記事自体が悪いという話ではない(記事の主眼はAI時代に人間に求められる力の紹介であり、job displacement史のレビューではない)。ただ、「AIに仕事を奪われる」という不安が、2026年時点の政府系メディアでも現在進行形のAI固有の現象として語られている、という一例にはなる。この一例だけで「世間一般がそう語っている」と言い切るのは言い過ぎで、今回curlで確認できた実例はこの1件にとどまる。

検証したのは702職業中5職業だけ

原文にあたって確認できたのは、次の点に限られる。Frey&Osborne(2013)論文が序論でBresnahan(1999)を引用し「簿記係・レジ係・電話交換手はこの数十年でコンピューターに置き換えられた」と書いていること。同じ3職業(と秘書)が同論文の付録リストにも高確率で再登場していること。米国BLSの実測では、この5職業のうち電話交換手・秘書・簿記係は減少し、レジ係はほぼ横ばいだったこと。NRIの日本語リストには秘書・電話交換手という職業名自体が存在しないこと。ここから先は、この記事だけでは言えない。

  • Bresnahan(1999)の原文そのものは、今回確認できていない。 The Economic Journalは購読契約が必要な学術誌で、curlでは本文に到達できなかった。この記事で「Bresnahanが言った」と書いた内容は、すべてFrey&Osborne論文の引用・要約を経由したものであり、Bresnahan自身の論拠やデータは未確認である。
  • BLSの2013→2023年というデータの窓は、大部分が生成AI以前のものである。 ChatGPTの一般公開は2022年11月なので、2023年5月時点のデータは公開から半年程度しか経っていない。この記事で見た減少(電話交換手-63%、秘書-17%等)の大半は、生成AI以前の何らかの技術変化(直接ダイヤル化、PBX・IVRの普及、ワープロ・メールの普及等、具体的にどの技術が主因かはこの記事では特定していない)によるものだと考えるのが自然で、生成AIの影響を測ったデータではない。
  • 「レジ係がほぼ横ばいだった」ことは、Frey&Osborne論文の予測(確率0.97、上位1割)が外れたことを意味するが、その予測手法全体が信頼できないという結論には飛躍がある。 702職業のうち、今回確認したのはこの5職業だけである。他の697職業の予測精度についてこの記事は何も言っていない。
  • NRIの判定・Frey&Osborneの確率のどちらについても、その数字自体が正しいかどうかはこの記事の射程外である。 「原典にはこう書いてある」という事実確認と、「だからこの職業はAIで代替される/されない」という結論はイコールではない。
  • METI Journalの記事1件を根拠に、「通説」の全体量を測ることはできない。 検索エンジン経由で見つけた1件の実例であり、世論調査でも網羅的な記事調査でもない。日本語圏で「AIに仕事を奪われる」という言い方がどれくらいの頻度・強度で語られているかは、この記事では測っていない。
  • 簿記係・電話交換手・秘書・レジ係という職業の中身自体、時代とともに変化している可能性がある。 BLSの職務定義は取得できたが、2013年時点と2023年時点で実際の業務内容がどう変わったか(例えば「秘書」という肩書きの人が2023年に何をしているか)までは、この記事では検証していない。

出典・確認した一次情報

  • Carl Benedikt Frey & Michael A. Osborne, "The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?", Oxford Martin Programme on Technology and Employment(working paper, 2013年9月17日)。curlで取得しpdftotextで全文をテキスト化、Bresnahan引用箇所・巻末付録(702職業リスト)双方を確認。 PDF
  • Bresnahan, T.F. (1999). "Computerisation and wage dispersion: an analytical reinterpretation." The Economic Journal, vol. 109, no. 456, pp. 390–415. ※本文は購読制のため今回未確認。Frey&Osborne論文中の引用・参考文献リストの記載のみで確認。
  • 野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」(2015年12月2日発表)。原URLは2026-08-27時点でリダイレクト消滅をcurlで確認済み。Wayback Machine保存版(2018-04-13クロール)を取得し「代替可能性が高い100種の職業」100件をテキスト抽出・機械カウント。 Wayback Machine
  • 米労働統計局(BLS) Occupational Employment and Wage Statistics。Switchboard Operators (43-2011)・Telephone Operators (43-2021)・Secretaries and Administrative Assistants, Except Legal, Medical, and Executive (43-6014)・Bookkeeping, Accounting, and Auditing Clerks (43-3031)・Cashiers (41-2011) の5職業について、May 2013・May 2023の両時点をWayback Machine経由でcurl取得(bls.gov直接は403のため)。各URLは本文中に個別記載。
  • 「社会が変わる、暮らしが変わる――。AI時代に『人間に求められる力』って何?」経済産業省 METI Journal ONLINE、2026年7月9日。 記事URL

すべてのURLは2026年8月27日にcurl -A "Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_15_7)"で直接取得・確認したもの。NRIの職業リストとFrey&Osborne論文の付録順位は、抽出したテキストをPythonスクリプトで機械的にカウント・検索しており、目視の見落としは排除している。

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