自動化は「3つの波」でやってくる──PwCが2018年に29カ国のデータで試算した中身
PwCが2018年に発表した国際比較レポートは、自動化のリスクを「アルゴリズムの波」「拡張の波」「自律の波」という3段階に分け、リスクにさらされる職の割合が2020年代前半までに3%、2020年代後半までに20%、2030年代半ばまでに30%に達すると試算した。OECD PIAACデータ・29カ国を使ったこの推計の原文を確認した。

目次
「ロボットが仕事を奪う」という議論でしばしば引用されるレポートのひとつが、PwC UKが2018年2月に発表した「Will robots really steal our jobs? An international analysis of the potential long term impact of automation」だ。OECDのPIAAC調査(29カ国・約20万人分の労働者データ)を用いた国際比較で、自動化の進行を3つの波に分けて説明している。このレポートのPDF原文をcurlで取得し、本文を確認した。
3行まとめ
- レポートは自動化を「アルゴリズムの波」「拡張の波」「自律の波」という3段階で整理し、29カ国平均で、自動化の高リスクにさらされる職の割合が2020年代前半までに約3%、2020年代後半までに約20%、2030年代半ばまでに約30%に達すると試算している
- この推計は「技術的な実現可能性」に基づくものであり、レポート自身が「実際の自動化は、経済・法規制・組織的な制約によって、これより小さくなる可能性が高い」と明記している
- 国別では推計に大きな幅があり、東アジア・北欧の一部で20〜25%、東欧の一部で40%超と試算されている。英国・米国は「サービス業中心だが低スキル層も長い」中間的な水準とされる
3つの波の中身
レポート本文は、3つの波をこう定義している。
"1. Algorithm wave: focused on automation of simple computational tasks and analysis of structured data in areas like finance, information and communications – this is already well underway. 2. Augmentation wave: focused on automation of repeatable tasks such as filling in forms, communicating and exchanging information through dynamic technological support, and statistical analysis of unstructured data in semi-controlled environments such as aerial drones and robots in warehouses – this is also underway, but is likely to come to full maturity in the 2020s. 3. Autonomy wave: focused on automation of physical labour and manual dexterity, and problem solving in dynamic real-world situations that require responsive actions, such as in manufacturing and transport (e.g. driverless vehicles) – these technologies are under development already, but may only come to full maturity on an economy-wide scale in the 2030s."
日本語で要約すると、第1波「アルゴリズムの波」は金融・情報通信分野などでの単純な計算タスクと構造化データの分析(すでに進行中)。第2波「拡張の波」は書類記入や情報のやり取りなど反復的なタスクの自動化、および倉庫のドローン・ロボットなど半制御環境での非構造化データの統計分析(進行中だが、2020年代に本格化)。第3波「自律の波」は肉体労働・手先の器用さの自動化、および自動運転車のような動的な現実環境での問題解決(開発中だが、経済全体での本格化は2030年代)。
3%→20%→30%という時間軸
レポートは、この3つの波が実際にどれくらいのペースで進むかについて、具体的な数字を示している。
"On average across the 29 countries covered, the share of jobs at potential high risk of automation is estimated to be around 3% by the early 2020s, but this rises to around 20% by the late 2020s, and around 30% by the mid-2030s."
29カ国平均で、自動化の高リスクにさらされる職の割合は、2020年代前半までに約3%、2020年代後半までに約20%、2030年代半ばまでに約30%まで上昇する、という試算だ。レポートは「この正確な時期には多くの不確実性があるが、自動化が異なる国のグループにどう影響していくかの目安を示すもの」と付け加えている。
国によって、20〜25%から40%超まで幅がある
レポートは国別の推計も示している。
"These estimates range from only around 20-25% in some East Asian and Nordic economies with relatively high average education levels, to over 40% in Eastern European economies where industrial production, which tends to be easier to automate, still accounts for a relatively high share of total employment. Countries like the UK and the US, with services-dominated economies but also relatively long 'tails' of lower skilled workers, could see intermediate levels of automation in the long run."
平均教育水準が比較的高い一部の東アジア・北欧経済圏では20〜25%程度、自動化されやすい製造業の雇用比率が相対的に高い東欧経済圏では40%超と、国によって大きな幅がある。サービス業中心だが低スキル労働者の層も相対的に長い英国・米国のような国は、中間的な水準になるとされている。
レポート本文には、この幅の両端にあたる国名と数値も具体的に書かれている。
| 分類 | 国 | 推計(2030年代半ばまで) |
|---|---|---|
| 相対的に低い | フィンランド | 22% |
| 相対的に低い | 韓国 | 22% |
| 相対的に高い | スロベニア | 42% |
| 相対的に高い | スロバキア | 44% |
なお、レポートは製造業の自動化ペースの参考値として、国際ロボット連盟(IFR)の「World Robotics Report 2016」(脚注22で引用)も参照している。このIFRの発表を今回curlで直接確認すると、「2019年までに、世界の工場で140万台を超える新しい産業用ロボットが設置される」という予測が実際に書かれていた。東欧など製造業の雇用比率が高い国で自動化リスクが高く試算されている背景には、この種の産業用ロボット導入予測が関係していると考えられる。
先行するPwC英国レポート(2017年3月)の4カ国比較
2018年版レポートは「英国・米国・ドイツ・日本」の中間的な水準について「2017年3月の先行分析」を引用しているが、具体的な数値までは本文中に書いていない。そこで、その先行レポート(pwc.co.uk、2017年3月、脚注14で参照されているPDF)を今回curlで直接取得し、数値を確認した。
| 国 | 潜在的自動化リスクの推計(2030年代まで) |
|---|---|
| 米国 | 38% |
| ドイツ | 35% |
| 英国 | 30% |
| 日本 | 21% |
2018年版レポートの本文が「日本はやや低く、ドイツ・米国はやや高い」と言葉で説明していた部分は、2017年の先行レポートでは英国30%を基準に、米国38%・ドイツ35%・日本21%という具体的な数字として示されていた。
レポート自身が付けている限定
このレポートは「技術的な実現可能性」に基づく推計であり、実際に自動化が起きるかどうかとは別だと明記している。
"Our estimates are based primarily on the technical feasibility of automation, so in practice the actual extent of automation may be less, due to a variety of economic, legal, regulatory and organisational constraints. Just because something can be automated in theory does not mean it will be economically or politically viable in practice."
さらにレポートは、自動化による雇用喪失が「長期的には、より大きく豊かになった経済によって生まれる新しい雇用によって、概ね相殺される可能性が高い」とも述べ、「これまでのデジタル革命以降の数十年間に起きなかったのと同様に、2030年代までに自動化が大量の技術的失業をもたらすとは考えていない」と、この記事のシリーズで扱っている他のレポート(Goldman Sachs、Frey&Osborne)と同じ「相殺」の論点を明記している。
PwC自身の2026年時点の分析は、当時と違う切り口になっている
2018年レポートが挙げた「2020年代前半までに約3%」という第1波の到達時期は、2026年8月現在すでに過ぎている。ただし、これと同じ「3つの波」モデルに沿った直接の答え合わせ(各国の実測データとの突き合わせ)をPwC自身が2018年以降に継続して公表しているかどうかを確認しようとしたところ、2018年レポートが根拠として引用していた別のPwCレポート「Sizing the Prize」(脚注1のURL)は、今回curlでアクセスすると自動的に別のページへリダイレクトされた。転送先は「2026 AI Jobs Barometer」という、2026年6月15日公表の最新版レポートだった。
この2026年版レポートを実際に読むと、「3つの波」という2018年当時の枠組みそのものは引き継がれておらず、まったく別の切り口でAIの労働市場への影響を分析している。本文をcurlで取得して確認できた主な数字は次の通りだ。
- AIへの露出度が最も高い企業群は、最も低い企業群に比べて生産性成長率が40%高い
- 2022年のAI普及加速以降、AI露出度が最も高い企業群の生産性成長リードは3倍に拡大し、露出度上位20%の企業は平均163%の生産性成長を記録した
- AI露出度が高い企業ほど、賃金も雇用者数も伸びが大きい(コスト削減目的ではなく、成長・新市場開拓のためにAIを使っている企業ほど顕著)
- AIによって「専門職化(professionalised)」された仕事は、「民主化(democratised)」された仕事より2倍速く増加し、賃金の伸びも42%高い
- AI露出度が高い若手向けポジションは、そうでないポジションに比べて、リーダーシップなど従来シニア向けとされてきたスキルを求められる可能性が7倍高い
つまりPwC自身、2026年時点では「何%の職が自動化リスクにさらされるか」という2018年型の一括りの予測ではなく、「AIへの露出度が高い企業・仕事ほど、生産性・賃金・雇用のいずれも伸びている」「仕事が失われるというより、必要なスキルの質が変わっている」という、2018年レポートとはかなり異なる論点を前面に出している。これは2018年の「3%→20%→30%」という予測が正しかったか間違っていたかを直接判定するものではなく、あくまでPwCという同じ組織が2026年時点で採用している分析の切り口が変わった、という観察にとどまる。
「2020年代前半までに3%」の答え合わせはしていない
まず、この記事はレポートの要旨・主要な数値を確認したものであり、29カ国それぞれの詳細な推計手法や、業種別・年齢別・性別の内訳分析(レポート本文にはこれらの詳細な図表もある)までは網羅的に読み込んでいない。
次に、このレポートは2018年2月時点のものであり、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場(2022年11月以降)より前の推計である。「アルゴリズムの波」「拡張の波」という区分と、実際の生成AI普及がどう対応しているかは、レポート自身も生成AIを前提に書かれたものではないため、この記事では判断していない。
また、「2020年代前半までに3%」という第1波の到達時期はすでに過ぎているが、実際にこの通りになったかどうかの直接的な答え合わせ(29カ国それぞれの実測雇用データとの突き合わせ)は、今回のセッションでは行っていない。2026年版「AI Jobs Barometer」は生産性・賃金・スキル変化を中心にした別の指標体系であり、2018年レポートの「3%/20%/30%」という自動化リスク推計と同じ土俵で比較できる数字を提供するものではない。
最後に、2018年レポートと2026年版レポートの間に、PwCが同種の「3つの波」モデルに基づく中間アップデート版を出していたかどうかは、今回は個別に検索していない。今回確認できたのは、2018年レポート本文が参照する2017年3月の先行レポートと、2018年レポートの別の脚注URLが自動転送する2026年6月の最新レポートの2点のみである。
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出典・参照資料
- 二次資料Will robots really steal our jobs? An international analysis of the potential long term impact of automation(PwC UK、2018年2月) ↗
- 二次資料Will robots steal our jobs?(PwC UK Economic Outlook, 2017年3月、2018年版レポートが引用する先行レポート) ↗
- 二次資料2026 AI Jobs Barometer(PwC、2026年6月15日公表・最新版の労働市場分析) ↗
- 二次資料World Robotics Report 2016(International Federation of Robotics、2018年版レポート脚注22の引用元) ↗
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