2026年9月4日 金曜日
AI時短ラボ
研究· 約12

「仕事の47%が消える」の答え合わせ──2013年オックスフォード論文が確率を割り当てた20職業を、10年後の米国統計で数え直す

Frey&Osborne(2013)論文は「米国雇用の約47%が計算機化リスクにさらされている」と書いた。テレマーケター(確率0.99)からファインアーティスト(確率0.042)まで20職業について、米労働統計局(BLS)の2013年5月と2023年5月のデータをWayback Machine経由で自分で数え直すと、高確率でも増えた職業、低確率でも減った職業が両方見つかった。

「仕事の47%が消える」の答え合わせ──2013年オックスフォード論文が確率を割り当てた20職業を、10年後の米国統計で数え直す
執筆・編集:
目次

「AIで仕事の47%が消える」という言い回しの震源は、英オックスフォード大学のカール・ベネディクト・フレイ氏とマイケル・A・オズボーン氏が2013年9月17日に発表した論文「The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?」である。別記事で、この論文が序論でBresnahan(1999)を引用している一節と、5職業のBLS実測を確認した。今回は視点を広げ、論文が702職業に割り当てた「計算機化確率」のうち、対応する米国のBLS統計を個別に取得できた20職業について、確率の高い順に並べ、2013年5月から2023年5月までの10年間の実測増減をひとつずつ数え直した。

3行まとめ

  1. Frey&Osborne(2013)論文は「米国雇用の約47%が10〜20年以内に計算機化リスクにさらされている」と書いた(原文要旨:“about 47 percent of total US employment is at risk”)
  2. 論文が高確率(0.9台後半〜0.99)を割り当てた職業の中には、予測通り大きく減った職業(電話交換手-63%、テレマーケター-65%)と、増えた職業(パラリーガル+31%、保険引受人+9%、ローン審査+6%)が両方ある
  3. 逆に低確率(0.03〜0.08、「低リスク」)を割り当てられた職業でも、ファインアーティスト区分は-9%と減っている。確率の高低と実測の増減は、単純な一対一の対応にはなっていない

「47%」の出どころ

論文のAbstractには、こう書かれている。

"We examine how susceptible jobs are to computerisation... According to our estimates, about 47 percent of total US employment is at risk."

論文は、702の詳細な職業分類それぞれについて、ガウス過程分類器という手法を使って「計算機化される確率」を機械学習で推定した。この確率が高い職業に就いている人数を積み上げると、米国の全雇用のおよそ47%に達する、というのがこの数字の中身である。日本語圏で引かれる「49%」という数字は、これとは別の野村総研(NRI)2015年レポートの数字であり、フレイ&オズボーン論文とNRIレポートは別の推計である(NRIはフレイ&オズボーン氏との共同研究として日本の職業に対して独自に試算し直している)。

20職業を、確率順に並べる

論文の巻末付録(702職業のリスト)から、対応する米国のBLS職業別雇用統計(Occupational Employment and Wage Statistics)を個別に取得できた20職業について、確率が高い順に並べたのが以下の表である。2013年5月・2023年5月の雇用者数は、いずれもBLSの該当ページをWayback Machine経由でcurl取得し、「Employment (1)」欄の数字をそのまま引用している。

順位(702中) 職業 確率 2013年5月 2023年5月 増減
702 テレマーケター 0.99 231,900人 81,580人 -64.8%
698 保険引受人 0.99 92,540人 101,310人 +9.5%
686 ローン審査担当者 0.98 301,860人 321,090人 +6.4%
683 銀行窓口係(テラー) 0.98 527,680人 340,820人 -35.4%
672 法務秘書 0.98 220,680人 152,790人 -30.8%
657 レジ係 0.97 3,343,470人 3,298,660人 -1.3%
634 秘書・事務アシスタント 0.96 2,159,000人 1,785,430人 -17.3%
631 電話交換手 0.96 118,060人 43,830人 -62.9%
628 受付係 0.96 973,580人 1,003,820人 +3.1%
625 郵便局窓口係(USPS) 0.95 71,910人 78,130人 +8.7%
609 パラリーガル 0.94 271,320人 354,890人 +30.8%
481 校正者 0.84 11,260人 5,490人 -51.2%
442 ワードプロセッサー・タイピスト 0.81 88,200人 37,200人 -57.8%
375 郵便配達員 0.68 307,490人 331,600人 +7.8%
315 カスタマーサービス担当者 0.55 2,389,580人 2,858,710人 +19.6%
265 通訳・翻訳者 0.38 49,060人 51,560人 +5.1%
161 グラフィックデザイナー 0.082 194,360人 212,720人 +9.4%
131 ファインアーティスト(画家・彫刻家・イラストレーター含む) 0.042 11,980人 10,910人 -8.9%
123 作家・著述家 0.038 43,590人 49,450人 +13.4%

確率・SOCコード・702職業中の順位は論文の付録リスト本体から、雇用者数はBLS OESの各SOCコードのページからそれぞれcurlで個別に取得し、目視で突き合わせている。

法務秘書(SOC 43-6012)については、Wayback Machine保存版を追加でcurl取得し、2013年5月・2023年5月の全国雇用者数(それぞれ「Employment (1)」欄の値)を確認できた。ただし、この職業区分にはBLS側の分類変更という注意点がある。2013年版のページタイトルは"Legal Secretaries"(法務秘書)だが、2023年版のページタイトルは"Legal Secretaries and Administrative Assistants"(法務秘書・事務アシスタント)に変わっている。つまり2023年の数字は、2013年時点よりも広い職業区分を含んでいる可能性があり、-30.8%という減少幅の一部は、区分変更によるみかけ上の変化を含んでいるかもしれない。この点は他の19職業について確認していないため、法務秘書の数字だけを他より慎重に読む必要がある。

まだら状の実態

この表から見えるのは、単純な「高確率=減った」「低確率=増えた」という一対一の対応ではなく、まだら状のパターンだ。

高確率でも、予測通り大きく減った職業:テレマーケター(-65%)、電話交換手(-63%)、ワードプロセッサー・タイピスト(-58%)、校正者(-51%)、法務秘書(-31%、ただしBLSの職業区分変更を含む可能性あり)、銀行窓口係(-35%)、秘書(-17%)。いずれも0.8以上の高確率が割り当てられていた。

高確率なのに、逆に増えた職業:パラリーガル(+31%、確率0.94)、保険引受人(+9%、確率0.99)、ローン審査担当者(+6%、確率0.98)、受付係(+3%、確率0.96)、郵便局窓口係(+9%、確率0.95)。特にパラリーガルは、確率0.94という「専門職の中ではかなり高い」判定を受けていたにもかかわらず、今回確認した20職業の中で最大の増加率を記録している。

低確率なのに、減った職業:ファインアーティスト区分(-9%、確率0.042)。「低リスク」と予測された職業のはずが、実測では減少している。

中確率で、増えた職業:カスタマーサービス担当者(+20%、確率0.55)、郵便配達員(+8%、確率0.68)、通訳・翻訳者(+5%、確率0.38)。ただしカスタマーサービス担当者の2023年5月というデータの時点は、ChatGPTをはじめとする生成AIチャットボットが本格普及する前にあたり、その後の変化はこの数字には反映されていない。

レジ係(-1.3%、ほぼ横ばい)のように、確率0.97という高い数字にもかかわらず実測がほとんど動いていない例もある。「セルフレジが広がっている」という体感的な印象と、雇用者数の実測が一致しない代表例だ。

702職業のうち確認できたのはこの20職業だけ

まず、この記事が示せているのは、Frey&Osborne論文が割り当てた「確率」と、実際の米国雇用統計の「増減」が単純には対応していない、という事実関係だけである。「だからFrey&Osborne論文の手法が信頼できない」という結論には飛躍がある。702職業のうち、今回確認できたのはこの20職業だけであり、残り680職業超の予測精度についてこの記事は何も言っていない。

次に、この記事で扱った職業の増減要因(AIによるものか、それ以外の産業構造変化によるものか)は、個別に検証していない。パラリーガルの増加やカスタマーサービス担当者の増加が、AIとどう関係しているか(あるいは無関係か)は、この記事の範囲では判断できない。

また、いずれの数字も米国のBLS統計であり、日本の対応する職業の実測は含まれていない。日本側の震源であるNRI2015年リストに載る職業の日本国内での実測は、今回のセッションではほとんど取得できていない。

最後に、いずれの2023年5月という統計時点も、ChatGPTの一般公開(2022年11月)から半年程度しか経っていない時点のデータである。生成AIチャットボット・エージェントの影響が本格的に統計へ反映されるのはこれから先である可能性が高く、この記事はあくまで「2013年の予測と、2023年5月時点までの実測」の答え合わせにとどまる。

関連記事

シェア: ポスト はてブ

出典・参照資料

AIニュースの解説を動画でも

YouTubeでは注目ニュースの背景を解説し、Xでは新着記事をお知らせしています。

コメント

まだコメントはありません。最初のコメントを書いてみませんか?

AIについて聞きたいことはありますか?

質問箱で無料で受け付けています。回答は公開され、他の方の参考にもなります。

質問箱を見る →

新しい記事をメールで受け取る

AIの新しい発表を、出典付きで整理して届けます。

関連記事

「労働者の80%がAIの影響を受ける」の原論文を読む──測っていたのは「職」ではなく「タスク」だったの記事画像
研究09.02読了14

「労働者の80%がAIの影響を受ける」の原論文を読む──測っていたのは「職」ではなく「タスク」だった

出典 ─ Tyna Eloundou, Sam Manning, Pamela Mishkin, Daniel Rock(arXiv:2303.10130、2023年3月17日初版)
自動化は「3つの波」でやってくる──PwCが2018年に29カ国のデータで試算した中身の記事画像
研究09.01読了15

自動化は「3つの波」でやってくる──PwCが2018年に29カ国のデータで試算した中身

出典 ─ Will robots really ste
AIを使うほど下がった検出率──内視鏡医のデータで見る「デスキリング」の記事画像
研究08.27読了12

AIを使うほど下がった検出率──内視鏡医のデータで見る「デスキリング」

出典 ─ Budzyń K, et al. "Endo
「AIが仕事を奪う」の前に、電話交換手は63%減っていた──Frey&Osborne論文の一文とBLS統計を読むの記事画像
研究08.27読了25

「AIが仕事を奪う」の前に、電話交換手は63%減っていた──Frey&Osborne論文の一文とBLS統計を読む

出典 ─ Carl Benedikt Frey & Michael A. Osborne, Oxford Martin School(2013年9月17日、working paper)
「来年、100万台のロボタクシー」から最初の乗車まで6年2カ月──マスクの自動運転予測をWikipediaの検証表で数え直すの記事画像
研究08.27読了22

「来年、100万台のロボタクシー」から最初の乗車まで6年2カ月──マスクの自動運転予測をWikipediaの検証表で数え直す

出典 ─ 日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等
経営コンサルタントは「AIで消える仕事」なのか──野村総研2015年リストを自分で数えてみたの記事画像
研究08.27読了15

経営コンサルタントは「AIで消える仕事」なのか──野村総研2015年リストを自分で数えてみた

出典 ─ 日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等
フリーライターは、放送記者や作詞家と同じ列にいた──野村総研2015年リスト100職業を原文で数えるの記事画像
研究08.27読了15

フリーライターは、放送記者や作詞家と同じ列にいた──野村総研2015年リスト100職業を原文で数える

出典 ─ 日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等
「翻訳者はAIでなくなる」と繰り返される根拠を、原文で2つとも確かめた──フレイ&オズボーンの0.38は、702職業中265番目に安全な側だったの記事画像
研究08.27読了19

「翻訳者はAIでなくなる」と繰り返される根拠を、原文で2つとも確かめた──フレイ&オズボーンの0.38は、702職業中265番目に安全な側だった

出典 ─ Frey, C. B. and Osborn