カメラマンは「低リスク」側だった──野村総研リストと、702職業中91位という確率
野村総研×オックスフォード大学の2015年リストで、映画・商業・テレビ・報道の4種類の「カメラマン」はすべて「代替可能性が低い100種の職業」に実名で並んでいる。震源のFrey&Osborne(2013)論文で、静止画の「Photographers」は702職業中91位・確率0.021と極めて低い一方、映像を撮る「Camera Operators」という別の職業は332位・確率0.6とまったく違う水準だった。

目次
「カメラマンはAIで仕事が減る」という言い方を見かけることがあるが、この言説の単一の著名な一次ソース(誰が最初に言ったか)は、今回のセッションでは特定できなかった。代わりに、野村総研(NRI)の2015年リストと、その震源となったFrey&Osborne(2013)論文を確認すると、カメラマンという職業は「なくなる」側ではなく「なくならない」側に分類されていたことがわかる。
3行まとめ
- NRI原文の「代替可能性が低い100種の職業」には、映画カメラマン・商業カメラマン・テレビカメラマン・報道カメラマンという4種類のカメラマン職が、すべて実名で含まれている
- Frey&Osborne(2013)論文で、静止画の「Photographers」の計算機化確率は0.021(702職業中91位)と極めて低い。だが同じ論文には映像を撮る「Camera Operators, Television, Video, and Motion Picture」という別の職業もあり、こちらの確率は0.6(332位)とまったく違う水準だった
- 対応する米国の職業(Photographers、SOC 27-4021)の実測は、2013年5月の54,830人から2023年5月には53,630人へ、10年でほぼ横ばい(-2.2%)だった
NRI原文で、4種類のカメラマンを確認する
別記事で確認した通り、NRIの2015年リリースは「代替可能性が低い100種の職業」という実名リストを公開している。このリストを最初から最後まで読み直すと、次の4つの職業名が実名で含まれている。
映画カメラマン、商業カメラマン、テレビカメラマン、報道カメラマン
いずれも「カメラマン」を含む職業名だが、映画・商業・テレビ・報道という4つの異なる分野で個別に実名が挙がっている点が特徴的だ。同じリストには、アートディレクター・映画監督・グラフィックデザイナー・スタイリスト・録音エンジニアといった、映像・クリエイティブ制作に関わる職業も並んでいる。写真・映像を「撮る」という業務は、NRIの2015年判定では一貫して低リスク側に分類されていたことになる。
Frey&Osborne論文でも、極めて低い確率──ただし「静止画」のカメラマンに限る
NRIの推計の震源となったFrey&Osborne(2013)論文の巻末付録を今回curlとpdftotextで取得し、対応する米国の職業を機械的に検索した。「Photographers」(SOC 27-4021)の計算機化確率は0.021、702職業中91位だ。別記事で確認したファインアーティスト(画家・彫刻家・イラストレーターを含む区分、0.042、131位)や、作家・著述家(0.038、123位)よりもさらに低い水準になる。
ただし、この論文をさらに検索すると、「Camera Operators, Television, Video, and Motion Picture」(SOC 27-4031、テレビ・動画・映画のカメラオペレーター)という、Photographersとは別のもうひとつの「カメラマン」系職業が見つかった。こちらの計算機化確率は0.6、順位は702職業中332位と、Photographersとはまったく違う水準にある。
| 米国のSOC職業 | 計算機化確率 | 順位(702職業中) |
|---|---|---|
| Photographers(静止画の写真家、SOC 27-4021) | 0.021 | 91位(低リスク) |
| Camera Operators, Television, Video, and Motion Picture(映像のカメラオペレーター、SOC 27-4031) | 0.6 | 332位(中位) |
BLS公式サイトの職業説明を確認すると、Photographersの説明文には「Excludes Camera Operators, Television, Video, and Film (27-4031)」という除外規定が明記されている。つまり米国の統計上、静止画を撮る「Photographers」と、映像を撮る「Camera Operators」は最初から別の職業として区分されており、両者のリスク評価はFrey&Osborne論文の中でも大きく異なる。
NRIのリストにある4つの日本語表記──映画カメラマン・商業カメラマン・テレビカメラマン・報道カメラマン──のうち、「商業カメラマン」「報道カメラマン」は静止画中心の業務であることが多く「Photographers」に近いと考えられる一方、「映画カメラマン」「テレビカメラマン」は動画・映像の撮影が主業務であり、意味的には「Camera Operators, Television, Video, and Motion Picture」のほうに近い可能性がある。この対応関係はNRI・野村総研の資料に明記されているわけではなく、あくまで職業名の意味からの推測であることを断っておく。もしこの推測が妥当なら、NRIのリストが「低リスク」として一括りにした4つのカメラマン職のうち、映像系の2つについては、震源となったFrey&Osborne論文の対応する米国職業では実際には「中位リスク」に分類されていたことになる。
実測は、ほぼ横ばい
対応する米国の職業統計を、BLSの職業別雇用統計からWayback Machine経由で取得した。
Photographers(SOC 27-4021)
「もっとも自動化されにくい」という予測に対して、実測はほぼ横ばいで推移している。レジ係(確率0.97、実測-1.3%)のように予測と実測が逆方向に大きくズレる例が他の職業では見られる中、Photographersは予測(低リスク)と実測(ほぼ横ばい)がおおむね一致した数少ない例のひとつだと言える。
同じMay 2023データには賃金・産業別の内訳も含まれており、今回そのWayback Machine保存版をcurlで取得し直して確認した。
| 賃金の分位点 | 年収(USD) |
|---|---|
| 10パーセンタイル | $28,510 |
| 25パーセンタイル | $32,240 |
| 中央値(50パーセンタイル) | $40,760 |
| 75パーセンタイル | $62,480 |
| 90パーセンタイル | $95,740 |
産業別では、Photographersが最も多く雇用されている業種は「Other Professional, Scientific, and Technical Services」(26,970人、この産業全体の雇用の3.15%)で、次いでメディアストリーミング配信・SNS関連(2,020人)、ラジオ・テレビ放送局(1,840人)と続く。写真家という職業は、単一の巨大産業に集中しているわけではなく、専門サービス業を中心に幅広い業種に分散して雇用されている。
元になった言説の一次ソースは見つけられなかった
まず、「カメラマンはAIで仕事が減る」という言説の一次ソースは、今回のセッションでは特定できなかった。これは網羅的な調査の結果ではなく、限られた検索手段での「見つからなかった」という報告である。
次に、NRIのリストにある「映画カメラマン」「商業カメラマン」「テレビカメラマン」「報道カメラマン」という4つの日本の職業区分と、米国のBLS統計上の区分がどこまで一致するかは、NRI・野村総研の資料に明記された対応表を確認できていない。この記事の「Photographers」と「Camera Operators, Television, Video, and Motion Picture」への割り振りは、あくまで職業名の意味からの本記事側の推測であり、NRIが実際にどちらの米国職業(あるいは他の職業)を参照して日本の4区分を設定したのかは、今回のセッションでは特定できなかった。この推測が正しい場合、この記事のタイトルにある「カメラマンは『低リスク』側だった」という要約は、映像系の2職種(映画・テレビ)については単純化しすぎている可能性がある。
また、日本国内のカメラマンの実際の就業者数がこの10年でどう動いたかは、今回のセッションでは確認していない。この記事はあくまで米国側の実測データの確認にとどまる。
最後に、この記事が扱った統計期間(2013〜2023年)は、生成AI画像・動画ツールが本格的に普及する前後の境目にあたる。より新しいMay 2024・May 2025データを取得しようと、今回curlでBLS公式サイトへの直接アクセスを試みたが403エラーで拒否され、Wayback Machineのクロール履歴(CDX API)を確認しても、このページに対する直近の成功クロールは2025年4月1日時点にとどまり、そのページ自体もMay 2023データのままだった(BLSがこのページをMay 2024データに更新する前、またはその更新後のクロールがアーカイブされていない可能性がある)。生成AIによる画像・動画生成が写真撮影の需要にどう影響しているかについては、2023年より新しいデータをこの記事では確認できなかった。
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出典・参照資料
- 二次資料日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に(野村総合研究所プレスリリース・2015年12月2日/Wayback Machine保存版) ↗
- 二次資料The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation? — Carl Benedikt Frey & Michael A. Osborne, Oxford Martin School(2013年9月17日) ↗
- 二次資料BLS Occupational Employment and Wage Statistics — Photographers (SOC 27-4021), May 2013・May 2023(Wayback Machine保存版) ↗
- 二次資料BLS OEWS Photographers(SOC 27-4021)詳細版、賃金分位点・産業別内訳を含む2025年4月1日クロール分(Wayback Machine保存版) ↗
- 二次資料Wayback Machine CDX API(同URLのクロール履歴一覧、最新クロール日の確認用) ↗
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