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数学者はもう要らない?──OpenAI「100以上の未解決問題を解決」を起点に、数学者自身が「まだ早い」と言っていた記録、4か月の快進撃、他の仕事との違い、3つの反論を一次ソースで並べる

OpenAIは2026年9月21日、8月28日から学習中の社内モデルが「数学のほとんどの分野で100以上の長年の未解決問題を解いた」と発表し、数学者9人の独立顧問団ができた。少し前までTerence Tao氏は「看板問題にはまだ実質的な進展がない」と見ていたが、5月20日の単位距離問題から9月8日のナビエ・ストークスまで4か月で状況が変わり、9月11日にはフィールズ賞受賞者25人が宣言を出した。放射線科医やKlarnaのように「AIで消える」と言われて止まった仕事と、数学は何が違うのか。「解ける範囲を探して解いているだけ」「人間の手はまだ要る」「新しい定理が要るレベルはまだ」の3つの反論まで、一次ソースで整理する。

OpenAI「Advisory Group on Mathematics and Artificial Intelligence」の告知画像
画像:OpenAI(公式OG画像)
執筆・編集:
目次

2026年9月22日夕方・日本時間時点の情報です。OpenAIは9月21日、「Advisory Group on Mathematics and Artificial Intelligence」と題した短い発表を出した。冒頭の一文は、8月28日から学習を始めた社内モデルが、ナビエ・ストークスのミレニアム懸賞問題に加えて「数学のほとんどの分野にわたる100以上の長年の未解決問題を解いた」というものだ。同時に、数学者9人による独立した顧問団ができたことを公表している。この記事は、この発表を起点に、①少し前まで数学者自身が「AIに数学はまだ早い」と言っていた記録、②2025年12月から2026年9月までに何が解かれたか、③「AIで消える」と言われた他の仕事と数学は何が違うのか、④「数学者は危うい」への3つの反論、を一次ソースで並べる。

動画版(20分・最終章に当チャンネルの考えを添えたもの)も公開しています: https://youtu.be/U0ag81MhQaw

3行まとめ

  1. OpenAIは9月21日、社内モデルが「100以上の未解決問題を解いた」と発表し、プリンストン高等研究所(IAS)がホストする独立顧問団(Gowers、Hairer、Wittenら9人・無報酬)ができた。顧問団の自サイトによれば、最初の課題は「OpenAIが内部モデルで出したと報告する大量の結果の公開をどう調整するか」。100以上の中身は9月22日時点で公開されていない
  2. Terence Tao氏は自身が監修する要約ページで、2026年初頭の時点では「数学者が本当に解きたい看板問題にAIはまだ実質的な進展がなかった」と書き、その限定が「9月までに急速に崩れた」と続けている。5月20日のエルデシュ単位距離問題(Quanta誌が「AIによる歴史的に重要な証明の初例」と評価)から、8月のリーマンゼータ67.2%、素数の間隔246→186、9月8日のナビエ・ストークスまで、4か月で並んだ。
  3. 反論は3つ。Epoch AIの重要なエルデシュ未解決68問では、公開の5モデル中、解けたのは未公開版GPT-6 Astraの1問(3%)で、Epoch AI自身が「実在するが、まだかなり珍しい」と書いている。Buckmaster氏は「最初にLLMが出した証明は今まで読んだ中で最もひどかった」と数週間書き直したと述べ、Anthropicはリーマン予想本体には「成功しなかった」と書いている。

9月21日の発表に書いてあること

項目 内容(OpenAI公式ブログ・agmai.org・IAS)
発表日 2026年9月21日
何を解いたか ナビエ・ストークスに加え「数学のほとんどの分野にわたる100以上の長年の未解決問題」。社内モデルは8月28日から学習中
公開されている中身 ナビエ・ストークスの論文とLean形式化、オイラー方程式の論文とLean形式化の2本。100以上の題目・証明は未公開
顧問団 François Charles、Camillo De Lellis、Timothy Gowers、Martin Hairer、Nikhil Srivastava、Ulrike Tillmann、Ravi Vakil、Edward Witten、Melanie Matchett Wood の9人。IASのNelson Centerが2026年度春の採択プロジェクトとしてホスト(PIはDe Lellis氏とWitten氏)
顧問団の条件 OpenAIからの報酬なし。頼まれていない助言も出せる。助言は公開できる。メンバーは自分たちで入れ替えられる
顧問団がやらないこと 「社内の数学の進み具合のペース配分」への助言
顧問団の今の課題 「OpenAIが内部モデルで出したと報告する、大量の重要な結果の公開をどう調整するか」(agmai.org)

原文の冒頭はこうだ。

On August 28, we began training a new internal model. In addition to resolving the Navier–Stokes Millennium Prize problem, this model has now resolved more than 100 long-standing open problems across most areas of mathematics. The pace of its progress in mathematics has surprised the mathematicians within OpenAI.

(8月28日、私たちは新しい内部モデルの学習を始めた。ナビエ・ストークスのミレニアム懸賞問題の解決に加え、このモデルは今や数学のほとんどの分野にわたる100以上の長年の未解決問題を解決した。数学におけるその進歩の速さは、OpenAI社内の数学者を驚かせた。)

顧問団については、独立性の条件を並べたうえで、1つだけ線を引いている。

Importantly, the group will not be responsible for advising us on how to pace our internal progress on mathematics.

(重要な点として、この顧問団は、私たちが社内で数学の進歩をどのようなペースで進めるかについて助言する責任は負わない。)

顧問団側のサイト agmai.org には、成り立ちと今の課題が書いてある。OpenAIが一部のメンバーに外部諮問委員会の設置を打診し、OpenAIと合意のうえで、代わりに独立したグループを作って他のメンバーを招いた、という経緯だ。そして現在の課題を次のように書く。

We are currently facing the very specific challenge of advising OpenAI on how to coordinate the release of a large number of significant results in mathematics that they report have been produced by their internal model.

(私たちは今、OpenAIが内部モデルで生み出したと報告する、数学における大量の重要な結果の公開をどう調整するかについて、OpenAIに助言するという非常に具体的な課題に直面している。)

「they report(彼らが報告する)」という留保が付いている。100以上の結果は、9月22日時点で顧問団のサイトにもOpenAIのページにも題目が載っていない。

少し前まで、数学者自身が「まだ」と言っていた

「AIに数学はまだ早い」という空気は、当事者の言葉として記録に残っている。

いつ 何と言ったか 出典
Thomas Bloom(エルデシュ問題サイトの運営者) 2023年 ChatGPTでサイトのコードは書いたが、数学そのものの協働は「まだ遠い可能性」に見えた Quanta 8/3
Terence Tao 2026年初頭 看板問題にはまだ実質的な進展がない tao-web
François Charton(AxiomMath) 2026年5月 「理論を作るのは今のところ完全に手の届かない領域」 Physics World 5/29
Terence Tao 2026年7月24日 AIの能力について「信じろとも受け入れろとも言わない」、条件付きで仮定してほしい ICM 2026 講演(tao-web)
Diego Córdoba 2026年9月 「10年前、ナビエ・ストークスに特異点があると信じる人は誰もいなかった」 Quanta 9/8
Luis Martínez-Zoroa 2026年9月 「つい最近まで、自分の仕事に使ってもワークフローに合わなかった。適応しなければ、明らかに」 Quanta 9/8

Tao氏の要約ページ(Tao氏の公開発言をAIが編集し、本人が確認・修正した「生きた文書」と明記されている)の該当箇所は次のとおりだ。

on a large problem set like the Erdős problems it clears the attention-starved long tail — problems posed once and never followed up — rather than the marquee problems mathematicians most want solved, where AI had, as of early 2026, yet to make real progress. That last qualification eroded quickly: by September 2026 he was reporting AI systems improving flagship bounds (bounded gaps between primes) and contributing substantially to a human-led finite-time blowup construction for the 3D Euler equations

(エルデシュ問題のような大きな問題集合では、AIは注目されなかった長い尾──一度出されて誰も追いかけなかった問題──を片付けるのであって、数学者が本当に解きたい看板問題ではない。そこでは2026年初頭の時点でAIはまだ実質的な進展を出していなかった。この最後の限定は急速に崩れた。2026年9月までに、彼はAIシステムが看板の上界(素数の有界ギャップ)を改善し、人間主導の3次元オイラー方程式の有限時間爆発の構成に実質的に寄与したと報告している。)

Physics World(5月29日)でCharton氏はこう言っている。

Theory building is completely out of reach right now

(理論構築は、今のところ完全に手の届かない領域だ。)

2025年12月から2026年9月までに何が解かれたか

Wikipediaの「AIによる数学的発見の一覧」を目次にして、各項目を一次ソースで確認した範囲を年表にする。全体はこれより多い。

日付 何が起きたか 誰が 一次
2025年12月25日 エルデシュ問題333番。LLMが人間の助けなしに、人間未解決の問題を解いた初例 GPT-5.2(Cambridge学部生ら) Quanta 8/3
2026年5月20日 エルデシュの単位距離問題(1946年)に反例。Quanta誌「AIによる歴史的に重要な証明の初例」 OpenAI内部モデル Quanta 8/3
7月 ヤコビアン予想の3次元の反例(Claude Fable 5)、クルゼの予想の証明(GPT-5.6 Sol・脳外科レジデントのShanmu Jin氏)、サイクル二重被覆予想の証明 Anthropic・個人・OpenAI Wikipedia一覧・arXiv
8月1日 数学・理論計算機科学の未解決10問をLean証明書付きで解決。1問2,000ドル未満 OpenAI Astra(未公開版) 当サイト記事
8月10日 リーマンゼータの臨界線上のゼロ点の比率 41.6%→67.2% Claude(未公開研究版) Anthropic
8月15日 3次元オイラー方程式の有限時間爆発(8月22日にLean検証) Alpöge氏(Anthropic)・Buckmaster氏(NYU)、Anthropic内部モデル Buckmaster声明(SciAm・Quanta)
8月30日 素数の間隔 246→186。同じ週にStadlmann氏(人間)が240 GPT-6 Astra OpenAI PDF・arXiv
9月4日 フェルマーの最終定理を11日でLean形式化。1,300万行・中間定理29,500本 Claude Anthropic
9月8日 ナビエ・ストークスの解決を公表。約1万エージェント・88時間 OpenAI内部モデル OpenAI
9月 ケーテ予想の反証、Ibragimov–Iosifescu予想の反証、Dittert予想の証明など GPT-6 Astra(Epoch AIのAdamczewski氏ら) Wikipedia一覧・GitHub
9月21日 「100以上の未解決問題を解決」 OpenAI内部モデル OpenAI

Quanta誌は5月20日の単位距離問題について、こう書いている。

It was the first historically significant proof to come from an AI model. Though the model's result wasn't definitive — human mathematicians would substantially improve on it within weeks — it was innovative, bringing in ideas from a distant branch of math that no one had successfully applied to this problem before.

(それはAIモデルから出た、歴史的に重要な初めての証明だった。モデルの結果は決定版ではなく──人間の数学者が数週間のうちに大幅に改良することになる──、しかし革新的で、誰もこの問題に適用できていなかった遠い分野の発想を持ち込んでいた。)

5月20日から9月21日まで、4か月である。

「AIで消える」と言われた他の仕事は、導入で止まった

数学の前に、AIで消えると言われた仕事はいくつもある。当サイトが一次ソースで確認してきた分だけ並べる。

仕事 予測 その後 当サイトの検証記事
放射線科医 2016年、Geoffrey Hinton氏「5年以内にディープラーニングが放射線科医を上回る。訓練はもうやめるべきだ」 2024年、現役レジデントが書いた現実は「史上最大級の放射線科医不足」 記事
カスタマー対応 2024年2月、Klarna「AIチャットボットが従業員700人分」 2025年5月、CEOが人間の再雇用へ方針転換 記事
中堅エンジニア 2025年1月、Zuckerberg氏「2025年中に中堅エンジニア相当のコードを書くAIを持つ」 数日後の5%削減の社内メモに、AIへの言及はなかった 記事
駅の窓口 2021年、JR東日本が「みどりの窓口」を440駅から140駅へ 2024年5月に凍結。209駅を当面維持 記事

大きな数字の出どころも同じ構造だった。ゴールドマン・サックスの「3億人分」は原文では「自動化に晒される(exposed)」で「失われる」とは書いていない(記事)。Amodei氏の「エントリーレベルの半分」は、CNNが「根拠となる研究や証拠を一切示さなかった」と指摘している(記事)。10年で減った職もある。米労働統計局の数字で銀行窓口係は2013年から2023年で35%減、校正者は51%減だが、これは生成AIが普及する前の10年がほとんどを占める(窓口係校正者)。

数学だけが違った理由

仕組みは1つに絞れる。数学は、答えが正しいかどうかを人間抜きで機械が確かめられる、ほとんど唯一の分野だ。証明支援系Leanで書かれた証明は、プログラムが検査する。Epoch AIはこう書いている。

Any proof written in Lean can be checked for correctness programmatically. So long as the problem statement is formalized correctly, we can be confident in the soundness of any AI solution which passes Lean's checks.

(Leanで書かれた証明は、プログラムで正しさを検査できる。問題の記述が正しく形式化されている限り、Leanの検査を通ったAIの解の健全性には自信を持てる。)

他の仕事では「本当に使えるのか」という導入の壁で止まる。数学では、機械が正しいと言った結果を止める理由がない。だからAI企業にとって未解決問題は分かりやすいベンチマークになり、Tao氏の要約ページによれば、素数の有界ギャップでは3社が同じ日に競って改善を発表した。

数学者側の反応の速さが、そのまま危機感の大きさを表している。Tao氏の要約ページと各一次ソースから並べる。

  • 7月24日:Tao氏が国際数学者会議(ICM 2026)で講演。「価値と実践の基礎の危機」と位置づけた
  • 8月6日:New Scientistでの発言として、数学者には「数学者とは何かを再定義する」時間が数か月しかなく、「組織化し、活動家になり、少し政治的になる」必要がある、と
  • 9月8日:OpenAIがナビエ・ストークスを公表。翌9日に mathandai.org のドメインが登録され、11日にフィールズ賞受賞者25人の宣言(前回記事
  • 9月17日:Tao氏のブログにDimitris Koukoulopoulos氏のゲスト投稿「A CERN for AI-assisted science?」。公的資金でフロンティアAIの研究基盤を持つべきだ、という提案
  • 9月21日:OpenAIの「100以上」と独立顧問団

宣言の賛同者は、9月12日17時35分(日本時間)の2,777人から、9月22日には7,811人になった。署名したフィールズ賞受賞者も25人から27人に増えている(Vladimir Drinfeld氏、David Mumford氏)。

Buckmaster氏は9月8日の声明で、Scientific Americanが引用するところによれば、こう書いた。

This is a Deep Blue–Kasparov moment

(これはディープ・ブルー対カスパロフの瞬間だ。)

There is a far bigger story here than the one in my statement: the sheer magnitude of what frontier models can now do, and what that means for us all

(私の声明よりはるかに大きな話がここにある。フロンティアモデルが今できることの規模と、それが我々全員にとって何を意味するかだ。)

反論①「解ける範囲を探して解いているだけ」

Tao氏自身の2026年初頭の見方が、この反論の骨だ。AIが片付けているのは「注目されなかった長い尾」であって、看板問題ではない。数字もある。Epoch AIは9月1日、Bloom氏が選んだ重要なエルデシュ未解決問題68問(2026年8月時点で全て未解決)でベンチマーク「FrontierMath Erdős」を作った。1問あたり300ドル・72時間の予算で公開の5モデルを走らせた結果は次のとおりだ。

モデル 解けた数
GPT-6 Astra(未公開版) 1問(172ドル・10時間で解決。他は予算切れ)
GPT-5.6 Sol 0問
GPT-5.5 0問
Claude Fable 5.1 0問
Claude Fable 5 0問

Epoch AIの評価はこうだ。

in this scaffold, at this budget, Astra solved about 3% of problems from this list of significant open math problems. This provides a useful data point on the prevalence of AI-driven math breakthroughs: real but still fairly uncommon.

(この足場、この予算では、Astraはこの重要な未解決問題のリストの約3%を解いた。これはAI主導の数学的ブレークスルーの頻度について有用なデータ点を与える。実在するが、まだかなり珍しい。)

予算を増やした追加の試行では5問まで解けたが、計算費は合計で22万ドルを超えた。Bloom氏の見立てでは、この格の問題でAIが解いたのは8月時点で3〜5問である。

OpenAI自身の手順も、探索そのものだ。9月8日のブログによれば、ナビエ・ストークスの問題文を、証明になる形(A・B)と反証になる形(C・D)の4通りに分けて別々のエージェント群に投げ、「より易しい問題」も同時に走らせ、オイラー方程式が解けた時点で他のミレニアム問題から資源を移した。約1万のエージェント、88時間、出力約1,300億トークン。Quanta誌は、この道筋を作ったのが人間であることをこう書く。

But regardless, the intellectual debt to Córdoba and Martínez-Zoroa seems clear.

(いずれにせよ、コルドバとマルティネス・ソロアへの知的な負債は明らかに見える。)

反論②「人間の手はまだ要る」

Buckmaster氏は自分たちのオイラーの証明について、Quanta誌の引用でこう書いている。

I can say the first LLM generated proof Levent sent me was the most horrendous I have ever read

(レヴェントが送ってきた最初のLLM生成の証明は、今まで読んだ中で最もひどかったと言える。)

Tao氏の要約ページによれば、2人はAIの寄与が大きい議論を数週間かけて受け入れられる形に書き直した。それでも急いで公開した3本の論文のうち1本を、Buckmaster氏は「AIスロップとしか言えない。申し訳ない」と書いている。単位距離問題も同じで、AIの反例は決定版ではなく、数週間のうちに人間の数学者が大幅に改良した。8月のセンドフ予想はTao氏が証明を整理して短いLeanに直し、サイクル二重被覆予想はSang-il Oum氏とJim Geelen氏が独立に解説論文を書いて初めて読める形になった。

Tao氏は証明の一生を、生成・検証・解説・出版・正典化の5段階に分けている。AIが速くするのは前の段階ほど大きく、後ろに行くほど詰まる。同じページの表現では、「生成が速くなっても、数学の進歩は速くなっていない」。Epoch AIも5問の解の中身について、「数学者が消化してコメントするのを待つしかない」と書いている。

反論③「新しい定理が要るレベルはまだ」

表に出ている成果を見る限り、新しい定理を生み出さないと解けないレベルはまだ厳しい、という見方だ。7月から9月の成果をWikipediaの一覧で分類すると、反例・反証・構成・上界の更新が約15件、予想そのものの証明が約7件で、「探して見つける」型が大半を占める(数え方は後述)。証明の側でも、エルデシュ・ランキンの新しい証明について、2014年の原論文の共著者であるGreen氏は「1960年代でも見つけられた」初等的な手法だと評している(Wikipedia一覧の記載)。

リーマン予想そのものも試されている。Anthropicは8月10日の記事で、リーマン予想に取り組ませた結果をこう書いた。

it didn't succeed. Nevertheless, during its attempt, it unexpectedly made strides on a related problem.

(成功しなかった。しかしその試みの途中で、関連する問題で思いがけず前進した。)

上がったのは臨界線上のゼロ点の比率という関連問題の下界(41.6%→67.2%)で、本体は未達である。反対側の事実も置いておく。単位距離問題の反例はQuanta誌が「遠い分野の発想を持ち込んだ革新的な証明」と書き、オイラー方程式の爆発についてTao氏は「AIの実質的な寄与」を認めている。「新しい定理が要るレベル」の線がどこにあるかは、まだ誰も決めていない。

この記事を書くために自分で数えたもの

一覧の分類は筆者がやった。Wikipedia「List of mathematical discoveries by artificial intelligence」の2026年第3四半期の表22行にナビエ・ストークスを足し、反例・反証・構成・上界の更新(ヤコビアン予想の反例、非ソフィック群の構成、Ehrhart体積予想の上界、ゼータの下界、アダマール行列の構成、楕円曲線のランク記録、エルデシュ・ランキンの改良、素数の間隔186、ケーテ予想の反証、N予想の反例など)を15、予想の証明(サイクル二重被覆、クルゼ、CVPのNP困難性、センドフ、dying percolation、Dittert、フェルマーの形式化)を7と数えた。フェルマーの形式化は新しい定理ではないので、除けば6である。公式の統計ではない。

顧問団9人と宣言の重なりも自分で確かめた。宣言の初期署名者27人(9月22日時点)に入っているのはMartin Hairer氏だけで、賛同者ページを名前で検索すると、Camillo De Lellis氏とRavi Vakil氏が賛同者として載っている。Charles氏、Gowers氏、Srivastava氏、Tillmann氏、Witten氏、Wood氏は署名者にも賛同者にも見当たらなかった(2026年9月22日に endorsers.php を各氏の姓で検索した範囲)。TechCrunchは「De Lellis氏だけが書簡に署名した」と書いているが、初期署名者のHairer氏を数えていない。

もう1つ。OpenAIのナビエ・ストークスのページを読み直したところ、9月10日に「Concurrent work」の節が更新されていた。当サイトが9月9日に記事を書いた時点の文(「可能性は低いが、彼らの製品利用に由来する匿名化データが我々のモデルの改善に寄与した可能性は排除できない」)は削除され、代わりに次の文がある。

Following an investigation, we have confirmed that Buckmaster's Codex prompts over the two months preceding this announcement and paper on September 8, 2026, could not have influenced the system in any way, including through training.

(調査の結果、この発表と論文(2026年9月8日)に先立つ2か月間にBuckmaster氏がCodexに入力したプロンプトは、学習を含め、いかなる形でもシステムに影響し得なかったことを確認した。)

調査の範囲は「2か月間」「Codexのプロンプト」と明記されている。Buckmaster氏の声明では、2人は約1年にわたって下書きをCodexに置いていた。当サイトの9月9日の記事には、この更新を追記する。

確かめられなかったこと

  • 「100以上」の中身は、9月22日時点で題目も証明も公開されていない。公開されているのはナビエ・ストークスとオイラー方程式の2本で、100以上の質については誰も判断できる材料を持っていない。
  • 社内モデルの正体は非公開である。8月25日にSNS発で「Bel」という10兆パラメータ超の基盤モデルの事前学習が終わったという報道が出ており(wccftechは「SNSで出回っている噂」と書いている)、OpenAIの9月8日のブログには「事前学習済みモデルの上に大規模強化学習で開発した」とある。8月28日の学習開始と3日差で時期は合うが、同じものかは未確認。
  • 数学者の発言のうち、Tao氏のNew Scientistでの発言とICM講演の内容は、Tao氏本人が確認・修正したと明記されている要約ページ(tao-web)から引いた。New Scientistの記事本文とICMの録画は今回開いていない。
  • Wikipediaの一覧はあくまで目次として使い、年表に載せた項目の日付と内容は各一次ソース(OpenAI・Anthropic・Quanta・Epoch AI・arXiv)で確認した。7月の3件(ヤコビアン・クルゼ・サイクル二重被覆)と9月のEpoch AI関連はWikipediaの記載とその参照先(X投稿・arXiv・GitHub)に依っている。
  • リーマンゼータの「67.2%」はAnthropicの公式記事の表記で、Wikipediaは67.25%と書いている。
  • 米労働統計局の減少率(窓口係35%減・校正者51%減)は2013年5月から2023年5月の数字で、ChatGPT公開(2022年11月)より前の期間がほとんどを占める。
  • 「反例・反証15件、証明7件」は筆者の分類で、分類の仕方によって数は動く。

今回あたった一次ソース

  • OpenAI「Advisory Group on Mathematics and Artificial Intelligence」(2026年9月21日)/「On the Navier–Stokes Millennium Prize Problem」(9月8日・9月10日更新)/「Improved short gaps between primes」(PDF・8月30日)
  • 顧問団サイト agmai.org/IAS Nelson Center のプロジェクト一覧
  • mathandai.org の宣言本文・署名者一覧・賛同者一覧(9月22日取得)
  • Terence Tao「Terence Tao on AI in mathematics」(本人監修・9月17日更新)/ブログのゲスト投稿「A CERN for AI-assisted science?」(9月17日)
  • Epoch AI「Announcing FrontierMath Erdős」(9月1日)
  • Anthropic「Claude's progress on the Riemann hypothesis」(8月10日)/「Formalizing Fermat's Last Theorem」(9月4日)
  • Julia Stadlmann「Bounded gaps between primes」(arXiv 2608.31126・8月31日投稿)
  • Quanta Magazine(8月3日・9月8日)、Scientific American、Physics World(5月29日)、TechCrunch(9月21日)
  • Wikipedia「List of mathematical discoveries by artificial intelligence」(目次として)

前段の動画と記事は、OpenAI「ナビエ・ストークスを解いた」と同じ日に出た疑惑フィールズ賞受賞者25人の宣言にある。100以上の中身が公開されたら、この記事に追記する。数学者限界説をどう見るか、動画のコメント欄で聞かせてください。

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