2026年9月9日 水曜日
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OpenAIが「AIがナビエ・ストークスを解いた」と発表──同じ日に数学者が公にした「パクられた疑惑」、何が証明され、どこまで検証されたか

OpenAIは2026年9月8日、ナビエ・ストークス方程式のミレニアム懸賞問題について、滑らかな外力つきの有限時間爆発(公式問題文の主張(C)(D))を166ページの論文とLean形式証明で公開した。約1万エージェント・約88時間・約1300億出力トークン。同じ日、この問題を約1年進めてきたNYUのTristan Buckmaster教授が、下書きを置いていたCodexのデータが学習に使われたかをOpenAIに尋ねて答えを得られなかったこと、共著者のAlpögeを著者から外す提案を受けたことを声明で公にした。OpenAIは「特定のユーザーデータは参照していない」と「匿名化データの寄与は排除できない」を同じ文章で述べている。

OpenAIが「AIがナビエ・ストークスを解いた」と発表──同じ日に数学者が公にした「パクられた疑惑」、何が証明され、どこまで検証されたか
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2026年9月9日午前・日本時間時点の情報です。OpenAIは9月8日(米国時間)、公式ブログ「On the Navier–Stokes Millennium Prize Problem」で、ナビエ・ストークス方程式の存在と滑らかさ問題(ミレニアム懸賞問題)について、滑らかな外力を加えた流れが有限時間で速度の上限を失う例を構成したと発表した。公式問題文の4つの主張のうち**(C)と(D)**を証明したとし、166ページの論文とLean形式証明を公開している。証明は「内部OpenAIシステム」が作ったもので、使ったモデルは「GPT-6 Astraより大幅に高い能力」と書かれている。

同じ日、この問題を約1年進めてきたニューヨーク大学のTristan Buckmaster教授(2019年Clay研究賞)が、4ページの声明を自身のサイトで公開した。自分たちの進捗がOpenAIに伝わった後にOpenAIが着手したこと、下書きを置いていたCodexのデータが学習に使われたかを尋ねて答えを得られなかったこと、共著者のLevent Alpöge(Anthropic所属)を著者から外す提案を受けたことが書かれている。OpenAIはブログと公式Xで「特定のユーザーデータは参照していない」と「匿名化データがモデル改善に寄与した可能性は排除できない」を同じ文章で述べた。

この記事は、OpenAIの公式ブログ・論文・公式X、Clay数学研究所の公式問題文、GitHubの公開データ、Buckmaster教授の声明に書いてあることだけで、①何が証明されたのか ②パクられた疑惑の中身 ③OpenAIはどう解いたと説明しているか ④どこまで検証されているか ⑤OpenAI自身の但し書きと書いていないこと、を整理する。

動画版(30分・数学が分かる人向けの「証明の骨格」章つき)も公開しています: https://youtu.be/W_7FEqTclUU

3行まとめ

  1. 証明されたのは、どんな粘性でも、静止した流体に「特別に構成した滑らかな外力」を加えると、ある時刻に近づくにつれ最大速度に上限がなくなる例が存在すること。運動エネルギーは有界のまま。Clay公式問題文の4択のうち外力を許す**(C)(D)**で、外力ゼロの(A)(B)は今回の結果だけでは決まらない。OpenAIは「賞は請求しない」と明言。
  2. Buckmaster教授の声明によれば、2人は約1年この経路をLLM(Claude・Codex)で進め、下書きは全部Codexに置いていた。9月3日に自らOpenAIにメールし、9月6日の通話で「内部モデルが外力つきNSを証明した」と告げられた。学習に使ったかを聞いて答えはなかった。OpenAIの回答は「特定のユーザーデータは参照していない」と「匿名化データの寄与は排除できない」の2文で、調査したという記述は本記事が確認したブログ全文とX投稿には無い。
  3. OpenAIの記載では、内部モデルで動く約1万の同時エージェントが9月1日から約88時間で到達、Lean形式化と検証はGPT-6 Astraで17時間、出力トークンは約1300億。Lean証明は公開データ上sorryゼロ・公理は通常の3つ・定理文はDeepMindのFormal Conjectures参照版と一致とされる。数学者による査読は未。

何が証明されたのか

論文「Finite time blowup for Navier–Stokes」(著者名は「OpenAI」のみ)の主定理はこう書かれている。

For every ν > 0 there exist a force f ∈ Cc∞ (R3 × (0, ∞); R3 ), a compact set K ⊂ R3 , and smooth velocity and pressure fields u, p on R3 × [0, 1) satisfying [方程式(1.1)] such that supp u(·, t) ∪ supp p(·, t) ⊂ K for every 0 ≤ t < 1, sup ∥u(t)∥ L2 (R3 ) < ∞, lim sup ∥u(t)∥ L∞ (R3 ) = ∞.

(すべての粘性 ν > 0 に対して、時空でコンパクトな支持を持つ滑らかな力 f、コンパクト集合 K、そして時刻1より前で滑らかな速度場と圧力場 u, p が存在し、u と p の支持は常に K の中にあり、運動エネルギーは一様に有界で、速度の最大値は時刻1に近づくと上限を失う)

要点は3つある。第1に、初期速度はゼロ(静止状態)で、そこに滑らかな外力を加える。第2に、外力は「無限に強い力を手で入れた」ものではなく、公式ブログの言い方では「流体自身の運動を通じて崩壊が起きる」ように、速度が発散する流れから逆算した残差として滑らかに保たれている。第3に、どんな滑らかな力でもそうなる、ではない。そうなる外力と流れの組が存在する、という主張である。

公式ブログは結果をこう説明している。

Our system produced an analytical proof and a Lean formalization that an initially smooth fluid at rest can develop a singularity in a finite time. The fluid has a smooth force applied to it, and its energy remains finite through the entire dynamics, from rest to the formation of the singularity. This resolves the Navier–Stokes Millennium Prize problem by establishing statement "C" (and also "D") in the official Millennium Prize formulation.

(私たちのシステムは、最初は滑らかで静止した流体が有限時間で特異点を生じうることの解析的証明とLean形式化を作った。流体には滑らかな力が加わり、そのエネルギーは静止から特異点の形成まで全過程で有限のままである。これは公式のミレニアム賞の定式化における主張「C」(および「D」)を確立することで、ナビエ・ストークスのミレニアム賞問題を解決する)

「解決」の範囲──Clay公式問題文の4択

Clay数学研究所の公式問題文(Fefferman)は、4つの主張のどれか1つを証明すれば良いという形で書かれている。原文はこうである。

To give reasonable leeway to solvers while retaining the heart of the problem, we ask for a proof of one of the following four statements.

(解く人に十分な余地を与えつつ問題の核心を保つため、次の4つの主張のうち1つの証明を求める)

主張 空間 外力 内容 今回
(A) 空間全体 R³ ゼロ どんな滑らかな初期値でも、滑らかでエネルギー有界な解がずっと存在する
(B) 周期的な空間 R³/Z³ ゼロ 同上(周期的な解)
(C) 空間全体 R³ あり 滑らかな初期値と滑らかな外力の組で、滑らかでエネルギー有界な解が存在しないものがある 証明
(D) 周期的な空間 R³/Z³ あり 同上(周期的な解) 証明

(C)と(D)は外力を許す主張で、(A)と(B)は外力ゼロの主張である。したがって、公式問題文の規約上は(C)(D)の証明で解決条件を満たすが、外力ゼロで滑らかな初期値から常に滑らかに続くかどうか((A)(B))は、今回の結果だけでは決まらない。この整理は公式問題文の文面から筆者が読み取ったもので、本記事が確認したOpenAIのブログ全文には、(A)(B)を別グループに割り当てたことは書かれているが、(A)(B)がどうなったかの記述は無い。

賞金については、ブログはこう書いている。

Our goal in releasing this result is to report on the substantial progress of our AI models. We do not intend to claim the Millennium Prize for this result.

(この結果を公開する目的は、AIモデルの大きな進歩を報告することである。この結果でミレニアム賞を請求する意図はない)

Clay数学研究所の公式サイトによれば、7つの問題それぞれに100万ドルが割り当てられている。

パクられた疑惑──Buckmaster教授の声明とOpenAIの回答

Buckmaster教授の声明PDFは、ファイルの作成時刻が2026年9月8日02:38 UTC(日本時間11:38)で、OpenAIのブログ公開(RSSのpubDateは9月8日10:00 GMT)の約7時間半前である。

2人は何をしていたか

声明によれば、Alpöge(Anthropic所属)とBuckmaster(NYU)は、Córdoba と Martínez-Zoroa が数年かけて開いた「外力つき爆発」の路線を、LLMを使って滑らかな外力とEuler方程式まで押し切った。9月8日に公開したのは、多孔質媒体(IPM)・Boussinesq・3次元Eulerの3つの結果である。

We used several LLMs throughout: Anthropic's Claude, OpenAI's Codex, especially with GPT-5.6 Sol and, more recently, Astra. The latter was only used for writeups and auditing our arguments.

(私たちは複数のLLMを使い続けた。AnthropicのClaude、OpenAIのCodex、特にGPT-5.6 Solと、最近はAstra。後者は書き起こしと議論の監査にだけ使った)

結果が出たのは8月15日、Leanでの検証は8月22日と書かれている。個人的な共同研究で所属機関の関与はなく、ツール代は自分の研究費から支払い、「OpenAIへの大きな請求」も含むとしている。

9月3日のメールと9月6日の通話

On Thursday, September 3rd, with a rumor circulating that Anthropic had resolved a major open problem, and with Levent having received tips that information about our progress had been passed to OpenAI, I wrote to a prominent mathematician at OpenAI.

(9月3日木曜日、Anthropicが大問題を解いたという噂が広まり、レヴェントが「我々の進捗についての情報がOpenAIに渡った」という情報を受けていたので、私はOpenAIの著名な数学者にメールを書いた)

メールの全文が声明に載っている。9月6日、OpenAI側の求めで当日に2回の通話が行われ、Sébastien Bubeck氏が参加した。そこで、内部モデルが外力つきナビエ・ストークスの爆発(Feffermanの c と d)を約100ページで証明した、と告げられたという。

The route to the Clay problem through a smooth force, options c and d in Fefferman's statement of the problem, is the route Luis and Diego opened and the one Levent and I had quietly chosen to attack. Almost nobody else I know of was working on it. It is not the direction one arrives at in a few days by giving a model the problem statement. When I heard "forced," it was a bright red flag.

(滑らかな力を通るClay問題への経路、Feffermanの問題文の選択肢 c と d は、ルイスとディエゴが開き、レヴェントと私がひそかに攻めることにした経路だ。私の知る限り他にほとんど誰も取り組んでいなかった。モデルに問題文を与えて数日で辿り着く方向ではない。「forced」と聞いた瞬間、真っ赤な警告灯だった)

最初は「問題文を与えただけ」「人の手はほとんど入っていない」と説明されたが、通話の中で、チーム全体で取り組んでいたこと、複数の試みの1つだったこと、先にEulerなど易しい問題を解かせたこと、見せられたプロンプト自体もCodexに書かせたものだったこと、膨大な計算を使ったことが分かった、と声明は書く。最初のプロンプトの送信時期については、こう書かれている。

Eventually it was agreed that it had been sent in the past few days, after information about our work had reached OpenAI.

(最終的に、それは過去数日内、我々の仕事についての情報がOpenAIに届いた後に送られた、ということで合意した)

学習に使ったか──答えはなかった

I asked whether the model had been trained on, or had access to, our sessions in Codex, into which we had been putting all our drafts for the whole of this project. I was told the model did not look up user data. I asked again, about training, and I did not get an answer.

(このプロジェクト全期間の下書きをすべて入れていた我々のCodexセッションで、モデルが学習したか、あるいはそれにアクセスしたかを尋ねた。モデルはユーザーデータを参照していないと言われた。学習についてもう一度尋ねたが、答えは得られなかった)

提案された2案と、その後のやりとり

The first was that we post our Euler result, and that OpenAI post its Navier-Stokes result the next day. The second was that, after posting Euler, I alone write a paper presenting the Navier-Stokes result, acknowledging that an internal OpenAI model had resolved it.

(1つ目は、我々がEulerの結果を出し、OpenAIが翌日ナビエ・ストークスの結果を出す案。2つ目は、Eulerを出した後、私が単独で、内部OpenAIモデルが解決したと認めつつナビエ・ストークスの結果を紹介する論文を書く案)

Sebastien twice asserted that he wanted Levent removed from authorship, and said it would all be simple if only it were not the case that, and it was so annoying that, Levent works at Anthropic.

(セバスチャンは2度、レヴェントを著者から外したいと主張し、レヴェントがAnthropicで働いているという事実さえなければ、それが本当に厄介なのだが、全て簡単なのだと言った)

両方の提案を断り、公にすると言ったところ、こう返されたと書かれている。

The reply was, "Why would you ruin your career?" I replied that I am an academic, and asked why he thought going public would ruin my career. The reply was, "If you don't want me to be nice, then I don't have to be nice."

(返答は「なぜ自分のキャリアを台無しにするのか」だった。私は学者だと答え、公にすることがなぜキャリアを台無しにすると思うのか尋ねた。返答は「優しくしてほしくないなら、優しくしなくてもいい」だった)

OpenAIの回答

OpenAIの回答は2か所にある。ブログの「Concurrent work」の節と、翌9月9日午前2時23分(日本時間)の公式X投稿で、文面は同じ4文である。X投稿は本記事の確認時点(9月9日午前9時台)で表示回数429.9万だった。

We congratulate Levent Alpöge and Tristan Buckmaster on their remarkable mathematical work. We (the researchers and the agents) did not see any of their work through any means until they released it publicly — in particular, no specific user data was accessed in order to solve this problem. While unlikely, we cannot rule out that de-identified data derived from their usage of our products helped improve our models. However, our proofs differ significantly and even the precise results proved are different in the Euler case (forced vs. unforced).

(レヴェント・アルポゲとトリスタン・バックマスターの優れた数学的業績を祝う。我々(研究者とエージェント)は、彼らが公開するまで、いかなる手段でも彼らの仕事を見ていない。特に、この問題を解くために特定のユーザーデータにアクセスしてはいない。可能性は低いが、彼らの当社製品の利用から得られた匿名化データが我々のモデルの改善に寄与したことは排除できない。しかし、我々の証明は大きく異なり、Eulerの場合は証明された結果そのものが異なる(外力ありと外力なし))

ブログの同じ節は、接触の経緯をこう書いている。

After the completion of our full project and Lean verification (on September 6th), believing from the rumor they also had a solution of Navier–Stokes, we reached out to them to offer a concurrent release of our result and to recognize their priority in a joint announcement.

(プロジェクト全体とLean検証の完了後(9月6日)、噂から彼らもナビエ・ストークスの解を持っていると信じ、我々の結果の同時公開と、共同発表で彼らの先行を認めることを提案するため、彼らに連絡した)

両者の記述の食い違い

項目 OpenAIブログ・X Buckmaster声明
接触の始まり 9月6日にOpenAIが連絡 9月3日にBuckmasterが先にメール
提案の中身 同時公開と、優先権を認める共同発表 翌日公開案/Alpögeを著者から外してBuckmaster単独で書く案
相手の結果 外力ありEuler IPM・Boussinesq・Eulerの3本(低散逸NSは未公開)
着手のきっかけ 9月1日に噂を聞いた 2人の情報がOpenAIに届いた後(通話で合意)
データの学習利用 「排除できない」 聞いたが回答なし
調査したかの記載 本記事が確認した範囲では無し

「特定のユーザーデータは参照していない」は、解いている間にエージェントが2人のファイルを開いて読んだかという話で、「排除できない」は、モデルの学習にそのデータが入っていたかという話である。同じ会社が同じ文章でこの2つを並べている以上、前者の否定は後者を否定していない。本記事が確認したブログ全文とX投稿には、学習データを調査した、監査した、という記述は無い。

Buckmaster教授は自身の限定も明記している。「OpenAIの証明は見ていない」「モデルが何をしたか、どうやったかは知らない」「我々のデータが使われたかは知らない」「誰も非難していない。言われたこと、時刻、提案されたことを述べている」。そして声明はこう締めている。

If indeed an OpenAI model did close the gap to Navier-Stokes, that is a remarkable thing and it should be said loudly, by them, with the history intact.

(もしOpenAIのモデルが本当にナビエ・ストークスまでの隔たりを埋めたのなら、それは驚くべきことで、経緯を保ったまま、彼らが大きな声で言うべきだ)

外力つき爆発の路線を開いたCórdobaとMartínez-Zoroaは、OpenAIの論文の§1.1と参考文献に引用されているが、ブログ本文にはこの2人の名前も、系譜の話も出てこない(本記事が確認したブログ全文に対して)。

この件をどう評価するかは読者の判断だが、人間が1年かけて入力してきたデータが使われた疑いがあるのに、それを「AIが解いた」と説明している。これは信用の問題だ、というのが本記事の見方である。

OpenAIはどう解いたと説明しているか

公式ブログ「How we found the proof」の節の記載を表にする。

項目 ブログの記載
モデル 8月28日から訓練中の新しい内部モデル。「GPT-6 Astraより大幅に高い能力」。訓練は継続中
きっかけ 9月1日(火)に「ミレニアム問題が2つ解かれた」という噂を聞き、未解決のミレニアム問題全部と重要問題で評価を開始
体制 内部モデルで動く協調エージェント。道具はキャッシュ版インターネットの読み取りとコード実行。グループ内で通信
規模 ナビエ・ストークスを解いたグループは約1万の同時エージェント
配り方 (A)(B)の版と(C)(D)の版を別々のグループに
先行の易しい問題 外力なしEulerの爆発。約100エージェント・約50時間で解決
統合 Codexで各グループの知見を統合し、次のプロンプトに
到達 9月5日(土)、最初の立ち上げから約88時間後
Lean形式化・検証 GPT-6 Astraでさらに17時間
メッセージ/出力トークン NS:270万/約1300億。試した全問題:490万/約3000億
費用・計算資源の金額 記載なし

原文の主要部分はこうである。

The agents arrived at their resolution on Saturday, September 5, about 88 hours after the first agents were launched. Lean formalization and verification took an additional 17 hours via GPT‑6 Astra.

(エージェントは9月5日土曜日、最初のエージェントの立ち上げから約88時間後に解決に到達した。Lean形式化と検証はGPT-6 Astraでさらに17時間かかった)

In the process of resolving the Navier–Stokes problem, the agents sent 2.7 million messages and used approximately 130 billion output tokens.

(ナビエ・ストークス問題を解く過程で、エージェントは270万のメッセージを送り、約1300億の出力トークンを使った)

証明の発想は、論文§2によれば、速度が発散する流れを先に作り、その流れに必要な外力を方程式の残差として逆算する。背景の渦だけでは残差が発散するので、流れに空間的に振動するパルスを足し、その平均化した応力で残差の特異な部分を相殺し、逐次補正の後に空間・時間で局在化して、滑らかで有限範囲の外力に延長する。詳細は動画の「証明の骨格」章で扱った。

どこまで検証されているか

証明は、人が読む論文(166ページ)と、機械が検査するLean形式証明の2つの形で公開されている。GitHubリポジトリ openai/NavierStokesAndEuler の公開データ(formalization.yaml)の記載を表にする。

項目 状態(2026年9月9日午前・日本時間)
Lean・Mathlib Lean 4.34.0-rc2 / Mathlib
sorry(未証明のまま残す印) 0(記載)
使った公理 propext / Classical.choice / Quot.sound の3つのみ(記載)
定理文 DeepMindの Formal Conjectures にあるClay問題文のLean版を参照とし、Comparatorで照合できる形(記載)
レビュー欄 「self-assessed」(自己評価)
形式化を書いたもの GPT-6 Astra(Codex)と記載
リポジトリ 2026-09-08 10:53 UTC作成。NavierStokes/ に580ファイル・約21MB。星738(9日午前)
第三者のビルド確認 本記事の時点で未(筆者も未実施)
数学者による査読

Leanの検査器が保証するのは、書かれた定理文が書かれた定義のもとで証明されていることである。定理文そのものが問題と一致しているかは人が見る必要があり、OpenAIはそこを他社(DeepMind)が公開していたLeanの記述を参照にする形にしている。筆者は ComparatorSolution.lean の2つの定理文(空間全体の(C)、周期的な(D))を読み、Clay問題文の(C)(D)の形と一致していることを確認したが、手元で lake build を実行して機械検査を再現したわけではない。

OpenAI自身の但し書きと、書いていないこと

ブログの最終節「Progress and responsibility」はこう書いている。

This milestone represents substantial work by mathematicians and AI researchers. However, this is not a culmination, but rather a snapshot in time, of progress on AI development.

(この節目は数学者とAI研究者の大きな仕事を表している。しかし、これは到達点ではなく、AI開発の進捗のある時点の写真である)

We believe we are now in the next period of AI progress, and today's results provide further evidence of this. We are focusing on understanding this model, and using what we learn to help us guide and pace how we pursue further advances in capability.

(我々は今、AIの進歩の次の期間に入ったと考えており、今日の結果はそのさらなる証拠である。我々はこのモデルを理解することに集中し、学んだことを、能力のさらなる向上をどう導きどんな速さで進めるかの判断に使う)

本記事が確認した公式ブログ全文とX投稿に対して、次の点は記載がない。

  • 内部モデルの名前
  • 費用・計算資源の金額
  • 関わった数学者の名前と人数(「数学者とAI研究者の大きな仕事」とのみ)
  • 他のミレニアム問題の結果(「エージェントを引き揚げた」とのみ)
  • 数学者による外部査読の予定
  • 2人のCodexデータが学習に入っていたかを調査したかどうか
  • Buckmaster教授の声明そのものへの言及

筆者が確認した範囲

この記事は、OpenAIのブログ全文を日本時間9月9日午前8時40分ごろにブラウザで取得し、論文PDF(166ページ)は全文をテキスト化して主定理・§2・§3・参考文献を読んだ。Buckmaster教授の声明はPDFを直接取得し、全文を読んだ。GitHubは公開APIとRawファイルで formalization.yaml・README・ComparatorSolution.lean・参照定理文を取得した。Clay公式問題文の(A)〜(D)は原文PDFで確認した。本記事の英文引用は、これら一次ソースの本文に逐語で存在することを機械照合した(141件)。

筆者自身が確認していないこと。Leanのビルド(lake build)は実行していない。OpenAIの論文と2人の証明の中身の比較は、2人の論文を筆者が取得できていないため行っていない。X投稿の表示回数と星の数は9月9日午前の値で、以後変わる。

出典と時点

  • 定理・証明の構成・参考文献はOpenAI論文「Finite time blowup for Navier–Stokes」(2026年9月8日・166ページ・著者名OpenAI)
  • 経緯・体制・数字・「Concurrent work」・最終節はOpenAI公式ブログ(2026年9月8日付・RSS pubDate 10:00 GMT)。原文は本文に逐語で引用した
  • OpenAIの4文はブログと同文を公式X(2026年9月9日02:23 JST)でも投稿。表示回数429.9万は9日午前9時台の値
  • Buckmaster教授の記述はすべて声明PDF(statement.pdf・作成02:38 UTC 9月8日)。教授の所属と2019年Clay研究賞はNYU Courantの本人ページ
  • (A)〜(D)の文面とFeffermanの説明はClay数学研究所の公式問題文PDF。賞金は同研究所の公式サイト
  • Lean証明の状態はGitHub openai/NavierStokesAndEuler の formalization.yaml・README・ComparatorSolution.lean(9月9日午前確認)
  • 「記載がない」とした項目は、取得した公式ブログ全文とX投稿に対して確認したもので、OpenAIの他の発信(論文本文を除く)は対象に含めていない
  • 本記事は続報があり次第更新します。OpenAIから学習データに関する追加説明、Buckmaster側の続報、数学者による査読、Clay数学研究所の反応が出たら追記します
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