2026年9月7日 月曜日
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「放射線科医はAIに置き換わる」から8年──ヒントンの予測と、放射線科医不足という現実

AIの「ゴッドファーザー」ジェフリー・ヒントン氏は2016年、「5年以内にディープラーニングが放射線科医を上回る、放射線科医の訓練はもうやめるべきだ」と発言した。2024年、現役の放射線科レジデントであるArjun Byju氏がThe New Republic誌に寄稿し、8年後の現実は「史上最大級の放射線科医不足」だったと書いている。

「放射線科医はAIに置き換わる」から8年──ヒントンの予測と、放射線科医不足という現実
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目次

2016年、AI研究の草分けとして知られるジェフリー・ヒントン氏は「放射線科医の訓練はもうやめるべきだ」と発言した。それから8年後の2024年、現役の放射線科レジデント(研修医)であるArjun Byju氏が、この発言を検証する記事をThe New Republic誌に寄稿している。原文を確認した。

3行まとめ

  1. ヒントン氏は2016年、「5年以内に、下手すれば10年以内に、ディープラーニングが放射線科医より優れた性能を発揮するようになる。放射線科医はもう十分いる」という趣旨の発言をした。
  2. 2024年10月、現役の放射線科レジデントArjun Byju氏がThe New Republic誌に寄稿し、8年後の現実は逆に「史上最大級の放射線科医不足」だったと書いている。
  3. FDA承認済みのAI医療機器のうち76%以上が放射線科向けだが、Byju氏によれば診断業務の大部分は依然として理論段階にとどまっている。

ヒントン氏が実際に言った言葉

newrepublic.com/article/187203を直接取得して確認した。記事はヒントン氏の発言を、著者自身の当時の立場(大学生)とともにこう紹介している。

"In my own line of work, however, Hinton achieved notoriety in 2016 when he predicted that my job would be obsolete by now. [...] 'It's just completely obvious that within five years deep learning is going to do better than radiologists.… It might be 10 years, but we've got plenty of radiologists already.'"

(訳)「しかし私自身の職業分野において、ヒントン氏は2016年、私の仕事が今頃には時代遅れになっていると予測したことで悪名を得た。[中略]『5年以内にディープラーニングが放射線科医より優れた性能を発揮するのは、完全に明白だ……10年かかるかもしれないが、我々にはもう十分な数の放射線科医がいる』」

著者Arjun Byju氏は、この発言があった2016年当時は大学生だったと明かしており、「当時この予測を理由に、別のキャリアを選んだ人を少なくとも数人知っている」とも書いている。

8年後の現実は「史上最大級の不足」

記事の核心となる一文を引用する。

"Eight years have passed, and Hinton's prophecy clearly did not come true; deep learning can't do what a radiologist does, and we are now facing the largest radiologist shortage in history, with imaging at some centers backlogged for months."

(訳)「8年が経過したが、ヒントン氏の予言は明らかに実現しなかった。ディープラーニングは放射線科医の仕事をこなせておらず、我々は今、史上最大級の放射線科医不足に直面しており、一部の医療センターでは画像診断が数ヶ月分滞留している」

著者は放射線科医になるまでの道のりの長さ(医学部卒業後、一般内科の予備研修1年、放射線科レジデンシー4年、さらに専門フェローシップ1〜2年)にも触れ、「これほど長い教育投資をした末に、アルゴリズムに仕事を奪われるかもしれない」という不安が、この分野で現実に語られてきたことを説明している。

AIが「侵入」しているのは事実、だが仕事を奪ってはいない

Byju氏は、AIの浸透自体を否定しているわけではない。記事にはこうある。

"Of the nearly 1,000 FDA-approved AI-enabled medical devices, at least 76 percent are designed for use in radiology."

(訳)「FDA承認済みのAI搭載医療機器はおよそ1,000件にのぼるが、そのうち少なくとも76%が放射線科向けに設計されている」

放射線科向けAI機器の学術的な関心・投資は極めて高い。しかし著者は「これらの応用の多くは、今のところ理論的なものにとどまっている(自分のワークステーションには初歩的なAIパッケージが1つしか組み込まれていない)」とも書いており、承認件数の多さと、実際の臨床現場への浸透度は別の話だと指摘している。

記事は、放射線科の指導医Curtis Langlotz氏の言葉も引用している。「AIが放射線科医を置き換えるのではなく、AIを使う放射線科医が、使わない放射線科医を置き換える」——この言い回しは、AI失業論を語る文脈で他分野でもしばしば引用される定型句だ。この人物が実在の専門家かどうかをスタンフォード大学の公式プロフィールページでcurl確認したところ、Curtis Langlotz氏はスタンフォード大学の放射線科教授(Professor of Radiology、Integrative Biomedical Imaging Informatics)であり、同大学のHuman-Centered AI研究所(HAI)のシニアフェローも務める人物だと確認できた。放射線科とAIの両方に専門性を持つ、この分野の実在の研究者による発言であることが裏付けられる。

記事に登場する2人の立場を確認する

この記事に実名で登場する2人について、それぞれの立場を一次資料で確認すると次のようになる。

人物 記事内での役割 確認できた立場
Arjun Byju 記事の著者 放射線科レジデント(研修医)。The New Republic誌の記事本文中で自己紹介されている当事者
Curtis Langlotz 記事内で引用される発言者 スタンフォード大学放射線科教授、同大学Human-Centered AI研究所シニアフェロー。放射線科とAIの両分野にまたがる立場の研究者(スタンフォード大学公式プロフィールで確認)

(表は本文中の引用元・スタンフォード大学公式プロフィールの記載を整理したもの。)

ヒントン氏自身も予測を後ろ倒しにしている

記事は、ヒントン氏本人がその後、予測を修正したことにも触れている。

"Last year, Hinton refreshed his timeline, predicting deep learning parity with radiologists in another 10 or 15 years."

(訳)「昨年、ヒントン氏は自身のタイムラインを更新し、放射線科医とディープラーニングが並ぶのはさらに10〜15年後になると予測した」

つまり2016年の「5年、長くて10年」という予測は、2023年頃の時点で「あと10〜15年」へと後ろ倒しされている。記事の著者は、この点を「破局論的な予測は、何度誤りだと証明されても、いつでも更新できてしまう」問題として指摘している。

ヒントン氏が「ゴッドファーザー」と呼ばれる根拠

The New Republic記事の見出しは、ヒントン氏を「The Godfather of AI(AIのゴッドファーザー)」と呼んでいる。この呼称の裏付けとして、ノーベル賞公式サイトのヒントン氏のプロフィールページを確認した。それによれば、ヒントン氏は2024年のノーベル物理学賞を、プリンストン大学のジョン・ホップフィールド氏と共同受賞(賞金は2等分)しており、受賞理由は「人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にした基礎的な発見と発明に対して」というものだ。受賞当時の所属はトロント大学(University of Toronto)で、1947年12月6日にロンドンで生まれたと記載されている。つまり2016年の放射線科医についての発言は、まだノーベル賞を受賞する前の時点のものであり、その後2024年にノーベル賞を受賞したことで、ヒントン氏の発言はさらに大きな注目を集める立場になった、という時系列になる。

「不足」の裏付けを2026年8月の査読論文で確認する

The New Republic記事自身は「史上最大級の不足」の統計的な裏付けを引用していなかったため、本記事では米国国立医学図書館(NLM)のPubMedを検索し、放射線科の労働力問題を扱う直近の査読論文を確認した。国際放射線学会戦略研究会(International Society for Strategic Studies in Radiology, IS3R)による総説が、放射線科の専門誌『Radiology』の2026年8月号(RSNA発行、doi: 10.1148/radiol.260425)に掲載されている。著者はNYU・バーモント大学・シンガポール国立大学・アリゾナ大学・UCSFなど各国の放射線科に所属する7名。要旨によれば、画像診断の需要と検査の複雑さが増え続ける一方で労働力の伸びはそれに追いついておらず、労働力不足・燃え尽き(バーンアウト)・研究や教育に割く余力の減少が構造的な問題になっているという。AIを含むデジタル技術の導入が効率化のために進んでいるものの、放射線科医の生産性への効果は「mixed(一様ではない)」とも明記されている。テレラジオロジー(遠隔読影)やハイブリッド勤務が僻地・医療過疎地へのアクセス改善に寄与する一方、孤立や意見交換の機会減少という副作用も指摘されており、Byju氏がThe New Republicで書いた「史上最大級の不足」という表現は、2026年時点の査読論文でも独立に裏付けられている内容だと確認できた。ただし、この論文自体は具体的な不足人数や地域別の統計を要旨内には示しておらず、その点は本文(本記事では未確認)を読む必要がある。

放射線科医になるまでの長さと、現場のAI浸透度

記事本文を再度curlで取得し、当初は引用していなかった箇所も確認した。Byju氏は、放射線科医になるまでの道のりの長さにも触れている。大学卒業後、医学部4年・一般医学の予備研修1年・放射線科レジデンシー4年・さらにサブスペシャリティのフェローシップ1〜2年が必要だという。10年以上を学業に費やした末に「コンピューターに仕事を奪われるのでは」という不安が、この分野で特に強く語られる背景になっている、とByju氏は説明している。

一方で、AI活用の現状については意外に率直な記述もあった。

"While most of these applications are, for now, theoretical (my workstation has only one rudimentary built-in AI package), it would be fair to say that AI is on everyone's minds."

(訳)「これらの応用のほとんどは、今のところ理論上のものにとどまっている(私のワークステーションには、初歩的なAIパッケージが1つ組み込まれているだけだ)。とはいえ、AIが誰の頭の中にもある、というのは公平な言い方だろう」

現役レジデントである著者自身の実際の作業環境でも、AI機能はまだ「1つの初歩的なパッケージ」にとどまっている、という具体的な記述だ。同僚の受け止め方についても、ヒントン氏の見立てに近い「放射線科医は、崖から落ち始めているのにまだ下を見ていないコヨーテのようなものだ」という比喩に同調し、高給の仕事を選んで貯蓄しておこうと考える層もいれば、AIが負担を減らし放射線科医の必要性をむしろ固めると考える層もいる、と両論を紹介している。

なお、記事に掲載された写真のキャプションは "Geoffrey Hinton, the “Godfather of AI,” at a conference in Toronto in June"(AIのゴッドファーザー、ジェフリー・ヒントン氏。6月、トロントでの会議にて)で、年は書かれていない(2026年9月4日に本文を取得して確認)。少なくとも2016年の当該発言そのものの場ではない。2016年発言があった具体的な会議名・場所は、この記事本文からは特定できなかった。

医師不足はAI以前から予測されていた

Byju氏の記事は「史上最大級の放射線科医不足」と書いているが、この不足がAIの普及不足だけによるものなのか、それとも医師全体の構造的な不足の一部なのかは記事内だけでは判断できない。そこで全米医科大学協会(AAMC)の公式発表を確認したところ、2021年6月11日付のプレスリリースで、AAMCは2034年までに米国内で37,800人から124,000人の医師が不足すると予測していた。この予測は、専門分野別に「プライマリケア(家庭医療・一般小児科・老年医学など)で17,800〜48,000人」「非プライマリケアの専門分野で21,000〜77,100人」に分かれ、後者はさらに「外科系(一般外科・産婦人科・整形外科など)で15,800〜30,200人」「内科系専門(循環器・腫瘍内科・感染症内科・呼吸器内科など)で3,800〜13,400人」「その他(麻酔科・神経内科・救急医療・依存症医療など)で10,300〜35,600人」に細分化されていた。放射線科が個別の項目として明示されているわけではないが、この予測自体はヒントン氏が「放射線科医はもう十分足りている」と発言した2016年より前の傾向(この分析の元になった調査は2019年実施)から続く、医師全体の構造的な不足を示すものだ。つまり、放射線科固有の「AIのせいで人が減った」という単純な図式ではなく、医療界全体で以前から進行していた供給不足のただ中に、AIによる代替という別の変数が重なった、という位置づけで理解するのが妥当だろう。

放射線科に絞った直近のデータとしては、国際放射線学会戦略研究会(IS3R)が放射線科の専門誌『Radiology』2026年8月号に発表した総説(doi: 10.1148/radiol.260425)がある。NYU・UCSF・シンガポール国立大学など各国の放射線科医7名による共著で、画像診断の需要と検査の複雑さが増え続ける一方、労働力の伸びがそれに追いついていないこと、労働力不足・バーンアウト・研究や教育への配分低下が構造的な問題になっていることを指摘している。AIを含むデジタル技術の導入は進んでいるが、放射線科医の生産性への効果は「一様ではない(mixed)」とも明記されており、Byju氏の「深層学習は放射線科医にできることをできていない」という2024年時点の評価と、この2026年の査読総説の論調は方向性が一致している。

ヒントン氏本人の発言は孫引きで、直接は確認していない

  • 「ヒントン氏がその後、予測を10〜15年に更新した」という記述の一次発言(いつ、どこで)は、この記事の出典であるThe New Republic記事の記載を経由したものであり、当サイトはヒントン氏本人の発言を直接確認していない。
  • 「史上最大級の放射線科医不足」という定性的な傾向自体は2026年8月のRadiology誌の査読総説(IS3R)でも独立に確認できたが、具体的な不足人数・地域別の統計データまでは、その論文の要旨にも記載がなく、本文(今回は未読)を確認しない限り分からない。
  • 放射線科以外の医療分野でのAI導入状況・予測の当否は、この記事では扱っていない。
  • 著者Arjun Byju氏個人の立場(当事者としての放射線科レジデント)を踏まえると、記事の論調にはAIの脅威を相対化したい動機が入っている可能性がある。この記事はByju氏の主張をそのまま紹介しており、独立した第三者による検証ではない。
  • Curtis Langlotz氏の実在・立場はスタンフォード大学の公式プロフィールで確認できたが、氏が実際に「AIが放射線科医を置き換えるのではなく〜」という発言をした日時・場(論文か、講演か、インタビューか)は、The New Republic記事の孫引きの範囲でしか確認できておらず、氏本人の一次発言そのものには当たっていない。

出典・確認した一次情報

  • Arjun Byju, "The Godfather of AI Predicted I Wouldn't Have a Job. He Was Wrong." The New Republic(2024年10月25日、newrepublic.com/article/187203/ai-radiology-geoffrey-hinton-nobel-prediction)。curlで直接取得し、ヒントン氏の2016年発言の引用、「史上最大級の不足」という記述、FDA承認機器76%の数字、ヒントン氏の予測修正の記述を本文中で確認。
  • Curtis Langlotz's Profile — Stanford Profiles(profiles.stanford.edu/curtis-langlotz)。curlで直接取得し、Langlotz氏の役職(スタンフォード大学放射線科教授、Human-Centered AI研究所シニアフェロー)を確認。
  • Geoffrey Hinton – Facts – 2024(nobelprize.org公式サイト)。curlで直接取得し、2024年ノーベル物理学賞の共同受賞・受賞理由・受賞当時の所属を確認。
  • Bredella et al., Radiology誌2026年8月号掲載の放射線科労働力に関する総説(PMID: 42640187)。NCBI eutils経由で要旨を取得し、放射線科の世界的な労働力不足という定性的傾向を独立に確認。

新規追加分のURLは2026年8月31日、既存分は2026年8月27日に、それぞれcurl -A "Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_15_7)"で直接取得・確認した。

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