生成AIと著作権2026年9月時点の最新動向:15億ドル和解と日本の新聞社訴訟
AI生成物の著作権、学習データの権利処理、日米欧の規制動向を2026年9月25日時点の情報で更新した。Anthropicは書籍著作権訴訟の15億ドル和解(著作権訴訟で史上最大規模とされる)が7月に裁判所の最終承認を受けた直後、ソニー・ワーナーなど音楽出版社35社から新たに提訴された。日本では読売・朝日・日経がAI検索Perplexityを2025年8月に提訴し、東京地裁で係争中。

目次
2026年6月20日時点で、生成AIと著作権をめぐる法的状況は3つの地域で同時に動いている。米国では学習データの著作権侵害訴訟が控訴審段階に入り、EUではAI Act第53条の著作権関連義務が2025年8月にすでに発効済みで2026年8月2日はAI Act全体の一般適用日、日本では著作権法30条の4の「不当に害する場合」の解釈をめぐる議論が続いている。企業がAIを使って事業を行う以上、この3地域の動向は無視できない。
【更新 2026年9月25日】 本記事は2026年6月20日公開時点の内容を、2026年9月25日時点で確認できた公式発表・裁判記録・報道で更新した。この3か月で大きな動きがあったのは米国だ。Anthropicは書籍の著作権侵害訴訟(Bartz v. Anthropic)で、15億ドルの和解について2026年7月20日に連邦地裁の最終承認を受けた(著作権訴訟の和解としては史上最大規模とされる)。その直後の8月28日、ソニー・ミュージック・パブリッシング、ワーナー・チャペルなど音楽出版社35社から新たに提訴されている。9月1日には、ニューヨーク・タイムズ対OpenAI・Microsoftを含む統合訴訟に、米司法省がAIの学習はフェアユースに当たるとする意見書を提出した。日本では、読売新聞東京本社・大阪本社・西部本社と日本経済新聞社・朝日新聞社が2025年8月にAI検索サービスPerplexityを著作権侵害で東京地裁に提訴しており、初回公開時の本記事はこれを反映していなかった(訂正履歴と各節を参照)。
- 米国:Anthropicは書籍著作権訴訟の15億ドル和解が2026年7月に裁判所の最終承認を受けた直後、ソニー・ワーナーなど音楽出版社35社から新たに提訴された。学習データのフェアユースを争うThomson Reuters v. Ross Intelligence控訴審は2026年6月11日の口頭弁論以降、第3巡回区で判断待ちが続く
- EU:AI Act第53条(汎用AIモデル提供者の学習データ要約公開・著作権ポリシー整備義務)は2025年8月にすでに適用開始済み。高リスクAIシステム関連規則の延期を含む「AI Omnibus」規則が2026年7月27日に発効し、2026年8月2日からはAI Actの監督・執行も始まった(GPAIモデルについてはAI Officeが制裁金を含む執行権限を持つ)
- 日本:著作権法30条の4は学習段階を広く許容するが、「享受目的」や「不当に害する場合」の解釈は未確定。読売・朝日・日経は2025年8月にAI検索Perplexityを著作権侵害で提訴しており、東京地裁で係争が続いている
米国──訴訟の波と「フェアユース」の試金石
学習データをめぐる訴訟
2026年6月時点で、米国ではAI企業を相手取った著作権侵害訴訟が数十件進行している(Norton Rose Fulbrightによる)。2026年9月時点では、AI関連の著作権訴訟トラッカー「ChatGPT is Eating the World」の集計としてのべ約120件に達している、と骨董通り法律事務所の福井健策弁護士のコラム(2026年9月5日追記)が紹介している。
代表的なものを整理する。
| 訴訟 | 被告 | 状況(2026年6月時点、9月時点の更新を注記) |
|---|---|---|
| Thomson Reuters v. Ross Intelligence | Ross Intelligence | 2025年2月、デラウェア連邦地裁がフェアユース抗弁を退け著作権侵害を認定(Sterne Kesslerによる)。Ross側が控訴し、第3巡回区控訴裁判所が2026年6月11日に口頭弁論を予定(AI Claudiusによる)。学習データのフェアユースに関する初の連邦控訴審判断になる見込み。【2026年9月25日時点】第3巡回区のドケット(事件番号25-2153、CourtListener掲載)によると、口頭弁論は2026年6月11日に実施された。同ドケットの9月23日更新分で確認できる最新の記録は9月9日付の書面で、判決の記録はない |
| New York Times v. OpenAI・Microsoft | OpenAI, Microsoft | 2026年1月、Sidney Stein判事がOpenAIに対し匿名化済みChatGPTログ2,000万件の全量開示を命令(Bloomberg Lawによる)。ディスカバリー段階が進行中。【2026年9月25日時点】2026年9月1日、米司法省(DOJ)が、AIの学習はフェアユースに当たるとする意見書(Statement of Interest)を、この訴訟を含む統合訴訟に提出した(Deadlineによる。詳細は本節末尾) |
| UMG他 v. Anthropic | Anthropic | 2026年1月28日、Universal Music Publishing Group・Concord Music Group・ABKCOが31億ドルの損害賠償を求めて提訴。訴状は「トレントによる海賊版データを基盤にClaudeを構築した」という趣旨の主張で、歌詞の無断学習という枠組みでの主張ではない(Sustainable Tech Partnerによる) |
| BMG v. Anthropic | Anthropic | 2026年3月18日提訴。Bruno Mars、Rolling Stones等の歌詞を学習に使用したと主張(Sustainable Tech Partnerによる。Norton Rose Fulbrightの記事にはBMGの提訴に関する記載は見当たらなかった) |
| Sony Music Publishing・Warner Chappell他 v. Anthropic(新規) | Anthropic(共同創業者Dario Amodei氏・Benjamin Mann氏を個人としても被告に指定) | 【2026年9月25日追加】 TechCrunch(2026年8月29日付)によると、Sony Music Publishing・Warner Chappellほか多数の音楽出版社が8月28日(金)夜、北カリフォルニア連邦地裁に提訴した。原告は35社(骨董通り法律事務所のコラムによる)。学習のための海賊版楽譜などの大量複製、無断のAI学習、ほぼ同じ歌詞の出力を著作権侵害と主張している(同コラム)。Engadgetによれば、原告は陪審裁判と、侵害された作品1件あたり最大15万ドル、著作権管理情報(CMI)の削除1件あたり2万5千ドルの賠償を求めている。Anthropicは「出版社側の主張には同意しない。法廷でしっかり防御する」("We disagree with the publishers' claims and we intend to defend ourselves robustly in court")との声明をTechCrunchに出している |
Thomson Reuters v. Ross判決で地裁は「学習目的の複製は変容的利用(transformative use)に該当しない」と判断した、とSterne Kesslerが報じている。この判断が控訴審で維持されるか覆されるかで、他の訴訟の方向性にも影響が及ぶという見方がある(Cleary Gottliebによる)。第3巡回区のドケットでは、9月23日更新分の時点でも判決は記録されていない。
【2026年9月25日追加】司法省のフェアユース意見書 Deadlineによると、米司法省(DOJ)は2026年9月1日(火)夜、ニューヨーク・タイムズ対OpenAI・Microsoftを含む統合訴訟(Sidney Stein判事が担当)に、20ページの「Statement of Interest」を提出した。Deadlineが引用した意見書の記述は次の通り。「米国は、文章の著作物でAIモデルを学習させることが著作権法上の『フェアユース』に当たるかという問題に強い利害関係を持つ」("The United States thus has a strong interest in the question whether training AI models on written works constitutes 'fair use' under copyright law.")、「米国で強固なAI産業を育てることを著しく難しくする法のルールは、国家安全保障を脅かし、そうした制約のない外国の敵対勢力に競争上の優位を与える」("Rules of law that make it significantly more difficult to develop a robust AI industry in the United States therefore threaten national security and give a competitive advantage to foreign adversaries who are not so encumbered.")。ニューヨーク・タイムズの広報担当者は、政権は作品を盗まれた無数の米国のクリエイターを犠牲にして一握りの1兆ドル規模のAI企業の側に立っている、とDeadlineに反論している。骨董通り法律事務所の福井健策弁護士のコラム(2026年9月9日追記分)は、この意見書が著作物の「取得」「学習(のための複製)」「出力」を分け、出力段階で侵害にあたる場合があっても学習そのものはフェアユースで適法だと明言した、と紹介している。一方、Anthropicの巨額和解の根拠となった海賊版の大量ダウンロードなどの「取得」段階については「沈黙か」との見方を示している。同コラムは、米政府がこの種の意見書を裁判所に提出したのは初めてだとしている。このほか2026年8月には、Round Hill MusicによるAnthropic・Sunoへの各提訴、wikiHow対OpenAI、教科書著者ら対OpenAI・Microsoftなど、AI企業を相手取った新規訴訟が複数提起された(詳細は2026年8月、AIを相手取った新規提訴4件を裁判所記録で確認するを参照)。
書籍分野の和解──Bartz v. Anthropicの15億ドル和解が最終承認
【2026年9月25日追加】 Thomson Reuters v. Rossの控訴審が続く一方、著者らがAnthropicを相手取った別の集団訴訟Bartz v. Anthropicでは、2026年7月20日、北カリフォルニア連邦地裁のAraceli Martínez-Olguín判事が15億ドルの集団訴訟和解に最終承認を与え、終局判決を下した(The Authors Guildによる)。骨董通り法律事務所の福井健策弁護士のコラムは、この15億ドルを約2,300億〜2,400億円とし、著作権侵害訴訟の和解金額として「史上最大規模」、対象書籍は約48万冊と紹介している。和解が扱うのは、Anthropicが海賊版サイト(Library Genesis・Pirate Library Mirror)から取得・複製した書籍で、和解はこれらのファイルの破棄もAnthropicに義務づけている。なおAuthors Guildによれば、Anthropicは、これらのデータセットはいずれも商用リリースしたモデルの学習コーパスに含まれていなかったと表明している。通知は約59万5千の潜在的なクラスメンバーに郵送・メールで直接送られ、作品リストの99.5%に対応する権利者に届いたという(同)。
裁判所は1作品あたり約3,000ドルの支払いを「通常の著作権侵害に対する法定最低額(750ドル)の4倍」とし、2011年に不承認となったGoogle Books和解案で書籍に提示された上限額より1桁大きいとも指摘した(The Authors Guildによる)。和解で権利者が手放す請求は、2025年8月25日までの著作物の「取得・複製」(inputs)に関するものに限られ、AIの出力(outputs)に関する請求や将来の行為に関する請求は対象外とされている。
この巨額和解の直後に、前述の音楽出版社35社によるAnthropic提訴が起きた。福井弁護士のコラムは「作家たちとの巨額和解が正式承認されたことを受けた戦略的な提訴か」との見方を示している。同コラムによれば、米国ではAnthropicが今回も同様の和解を目指すという予測が多い一方、音楽出版社側は似た作品を市場にあふれさせる学習自体がフェアユースではないとする「市場の希釈化」論を含む判決を狙っている可能性もあり、予断を許さないという。
AI生成物の著作権──「人間の著作者」要件
米国著作権局は、AIが単独で生成した著作物には著作権を認めないという立場を維持している(US Copyright Officeによる)。2026年3月には、連邦最高裁がStephen Thaler氏の上告を棄却し、AI単独著作物に著作権を認めない著作権局とDC巡回区の判断が確定した(Morgan Lewisによる)。
一方で、人間がAIを道具として使い、創作的表現を加えた著作物については登録が認められる場合がある、と著作権局は2025年1月の報告書で述べている(US Copyright Officeによる)。登録時にはAI生成部分の開示が求められる。
つまり「AIで生成したから著作権がない」のではなく、「人間の創作的関与がどの程度あるか」が判断基準になっている、という解釈が現時点では支配的とみられる。
音楽分野の和解事例
「UMGがUdioと2025年10月に和解しライセンス契約を締結、Warner Music GroupもSunoと2025年11月に和解した」という情報があるが、この記述の出典として挙げていたNorton Rose Fulbrightの記事本文にはUdio・Sunoについての記載が見当たらず、出典では確認できなかった。
EU──AI Act第53条と著作権コンプライアンス
2025年8月:第一段階の適用開始
EU AI Actの著作権関連義務は段階的に適用されている。2025年8月2日に汎用AIモデル(GPAI)提供者向けの義務が発効し、以下が求められるようになった、とClifford Chanceが報じている。
- EU著作権法を遵守するポリシーの策定・実施
- 学習に使用したコンテンツの「十分に詳細な要約」の公開
- EU著作権指令に基づくオプトアウト(権利留保)表示の尊重
2026年8月2日:AI Act全体の一般適用日(第53条とは別の日程)
2026年8月2日はAI Act全体の一般適用日にあたる(欧州委員会公式ページ「Regulatory framework for AI」、2026-08-27時点で確認)。ただし著作権関連義務を含むGPAI(汎用AIモデル)提供者向けの統治規則は、この日ではなく2025年8月2日にすでに適用開始済みであり、前節の3要件(著作権ポリシー整備・学習データ要約公開・オプトアウト尊重)はこの記事の執筆時点(2026年6月)で1年近く前から発効している。
同じ欧州委員会公式ページによると、2026年8月2日に適用が予定されていた高リスクAIシステム関連の規則は、AI Act簡素化案「Digital Omnibus」の政治合意により延期された。具体的には、生体認証・重要インフラ・教育・雇用・出入国管理などAnnex III(特定の高リスク用途)の規則は2027年12月2日、エレベーターや玩具など製品組み込み型(Annex I)の規則は2028年8月2日にそれぞれ延期されている。これは高リスクAIシステムに関する延期であり、著作権関連の第53条義務が延期されたわけではない。
【2026年9月25日更新】法制化の完了と執行体制の稼働 欧州委員会公式ページ(digital-strategy.ec.europa.eu、2026年9月25日時点で確認)によると、この簡素化案は現在「AI Omnibus」と呼ばれ、2025年11月19日に欧州委員会が法案として採択(adopted)し、2026年5月7日に欧州議会・理事会・委員会の政治合意に達した後、2026年7月27日に正式に発効(entered into force)した。これにより、高リスクAIシステムの規則延期(Annex III=2027年12月2日、Annex I=2028年8月2日)は法的に確定している。同じ公式ページによれば、2026年8月2日からはAI Officeと加盟国当局がAI Actの実施・監督・執行を担い、GPAIモデルについてはAI Officeが執行権限(技術文書の要求、モデル評価、是正措置の要求、違反時の制裁金)を持つ。同ページには、第53条の著作権関連義務そのものを延期するという記載はなく、GPAIモデルの義務は2025年8月2日から適用と書かれている。
「欧州委員会は、権利留保の表示方法について機械可読な標準プロトコルを策定するための関係者協議を開始している。robots.txtの尊重もCode of Practice(行動規範)に含まれている」という記述の出典として挙げていたBird & Birdの記事は、実際にはAI Act第50条(AI生成コンテンツの透明性・電子透かし等のラベリング義務)に関するCode of Practiceの解説であり、著作権の学習データ opt-out や robots.txt には触れていなかった。第53条の著作権関連義務については記事中で名前が挙がる程度で、機械可読プロトコルの協議についての記載は出典では確認できなかった。
また、欧州議会は2026年3月の決議で、現行の「十分に詳細な要約」要件を「まったく不十分」と批判し、クリエイターが自作品の学習利用を確認できるだけの情報開示を求める修正を提案している(Euronewsによる)。2026年5月7日にはDigital Omnibus合意が成立したとIP and Legal Filingsは報じているが、この合意が第53条の著作権関連義務そのものの期限を変更するものかどうかは、同記事の範囲では確認できなかった(欧州委員会公式ページが示す延期の対象は前述の通り高リスクAIシステム関連)。
この流れについて、「ウェブスクレイピングに主に依存してきたモデル提供者が、学習データのサプライチェーンを正規化する動きを見せている」とIP and Legal Filingsは報じている。
ドイツ・ミュンヘン地裁:Sunoの米国での学習も著作権侵害と認定
【2026年9月25日追加】 規制動向とは別に、欧州の裁判所がAIの学習行為について判断した例も出ている。ドイツの著作権管理団体GEMAは2026年7月31日、AI作曲サービスSunoを相手取った訴訟でミュンヘン地方裁判所(Landgericht München I)の勝訴判決を得たと公式発表した。GEMAの発表によると、裁判所は、SunoがGEMAのレパートリー曲で米国内で学習させたこと、欧州でそれらを保存・再生したことが、米国とドイツ両方の著作権法に違反すると認定した。GEMAは、米国で行われた学習について欧州の裁判所が判断したのはこれが初めてだとしている。GEMAにとっては2025年11月のOpenAI訴訟(OpenAIはミュンヘン上級地方裁判所に控訴済み)に続く2件目の対AI勝訴となる。Suno側は判決に同意しないとし、控訴を含むあらゆる選択肢を検討していると表明している(Deadlineが報じたSunoの声明による。詳細はSuno対GEMA、独ミュンヘン地裁がGEMA勝訴を参照)。
日本──著作権法30条の4の現状と限界
30条の4の基本構造
日本の著作権法30条の4は、AIによる学習(情報解析)を「非享受利用」として広く許容している。文化庁の「AIと著作権に関する考え方」によれば、AI学習のための著作物利用は原則として著作権者の許諾なく行える。
この規定は国際的にも「AI学習に対して寛容な法的枠組み」として注目されている、という指摘が複数の法律事務所の論考でみられる。【2026年9月25日追加】 2026年8月26日には、Google/AlphabetでGlobal Affairs部門を率いるKent Walker氏がシンガポールの知財フォーラム(Global Forum on Intellectual Property)での基調講演で、シンガポール・日本・EUが先行させたような明確な「テキスト・データマイニング(TDM)例外」を、AI学習のルールとしてより良いアプローチだと述べた(Google公式ブログ掲載の講演原稿による)。海外の大手AI企業が日本の制度を参照例として挙げた一例だ。ただし当サイトの別記事では、講演が根拠として挙げたOxford EconomicsのレポートがGoogle自身の委託研究であり、そのレポートが引く統計(柔軟な著作権例外を持つ国はAI特許・AIベンチャーが多いという相関)の元論文もGoogleの資金提供を受けていた点を検証している(詳細はGoogleが日本の著作権法を「良い例」と名指しを参照)。
適用除外──「不当に害する場合」の解釈
ただし、30条の4には「著作権者の利益を不当に害する場合」の除外がある。文化庁の見解によれば、以下のケースでは30条の4が適用されない可能性があるとされている。
- 過学習による画風模倣: 特定クリエイターの作品だけを意図的に学習させ、その画風を模倣するAIを作る場合。「享受目的」があると判断されうる
- 有料データベースの無断複製: 対価を払って提供されているデータベースを、対価を支払わずに学習データとして複製する場合
- RAGによる既存著作物の出力: 検索拡張生成(RAG)で既存の著作物をそのまま出力する仕組みは、情報解析と享受の目的が併存すると判断されうる
国内の動き
【2026年9月25日訂正・追記】 日本国内でも、報道機関はすでにAI事業者を相手取った訴訟を提起している。読売新聞によると、読売新聞東京本社・大阪本社・西部本社の3社は2025年8月7日、AI検索サービスPerplexityが記事を無断で利用しているとして、記事の利用差し止めと計約21億6,800万円の損害賠償などを求める訴訟を東京地裁に起こした。訴状では著作権法上の複製権と公衆送信権の侵害を主張している。同紙は、日本国内の大手報道機関による提訴はこれが初めてだとしている。日本経済新聞によると、同月26日には日本経済新聞社と朝日新聞社もPerplexityを東京地裁に提訴し、著作権侵害行為の差し止めと各22億円の損害賠償を求めた(両社は不正競争防止法違反も主張)。これらの訴訟の争点は、AIの「学習」段階そのものより、AI検索サービスが記事を無断で収集・要約して回答に使う行為にある(前節の「RAGによる既存著作物の出力」に近い論点)。2026年9月25日に本記事が確認した範囲では、判決は報じられていない。
2026年6月時点で、日本国内ではAI学習に関する著作権侵害訴訟の判決は出ていない。しかし報道機関や出版社からAI事業者に対する問題提起が続いており、2026年中に国内での訴訟提起がありうるという観測がある。この観測は「法律のミカタ」という媒体によるものとしていたが、当該記事のURLが本記事のsources一覧に含まれておらず出典を確認できなかった。なお前段の通り、Perplexityを相手取った訴訟という形での「国内訴訟」は、この観測が書かれた時点でも既に2025年8月に提起済みだった。
文化庁は2024年に「AIと著作権に関する考え方」を公表し、30条の4の解釈指針を示した。この文書は法的拘束力を持つものではないが、実務上の判断基準として参照されている。
【2026年9月25日追加】 さらに2026年8月25日、内閣府知的財産戦略推進事務局は生成AI事業者向けの基本原則「プリンシプル・コード」を正式に公表した。学習データの種類や知財保護措置の開示、権利者・利用者からの照会への対応を求める3原則からなり、法的拘束力を持たない「コンプライ・オア・エクスプレイン」方式を採用している。届出の受付開始時期は2026年8月25日時点で未確定だが、複数の報道は今秋をめどに運用が始まると伝えている(詳細は日本政府、生成AI事業者向けの知財原則「プリンシプル・コード」を決定を参照)。
企業が取るべき対応
上記の各国動向を踏まえると、以下の論点が実務上の検討対象になる。
学習データの権利処理
- EUで事業を行う場合、AI Act第53条への対応(著作権ポリシー整備・学習データ要約の公開・オプトアウト表示の尊重)は2025年8月からすでに求められている(2026年8月2日ではない)。2026年8月2日からは、GPAIモデルについてAI Officeの執行権限(技術文書の要求・是正措置の要求・制裁金)が動き出している(欧州委員会公式ページによる)
- 米国ではフェアユースの範囲が訴訟で争われている途中であり、Thomson Reuters v. Ross控訴審の結果によって実務判断が変わりうる
- 2026年7月のAnthropic 15億ドル和解について、The Authors Guildは、海賊版サイトから著者の本を産業規模でダウンロードすることには高い代償が伴うと示した、と評価している。和解が扱ったのは学習そのものではなく海賊版の取得・複製であり、学習データの出所(適法に取得したか、ライセンス済みか)を記録・説明できるようにしておくことが実務上の検討事項になる
AI生成物の権利帰属
- 米国ではAI単独生成物に著作権は認められない。人間の創作的関与の程度と開示が求められる
- 自社がAI生成物を事業に使う場合、著作権による保護を受けられるかは人間の関与度に依存する
日本固有の論点
- 30条の4の「不当に害する場合」の解釈が今後の訴訟や行政判断で具体化される可能性がある
- 自社が学習データを提供する側(権利者側)の場合、オプトアウトの意思表示やライセンス条件の明示を検討する余地がある
- 読売・日経・朝日のPerplexity提訴が示すように、「学習」以外の段階(AI検索による記事の無断収集・要約・出力)も国内で争点化している。自社がAI検索・RAG型サービスを提供・利用する場合は、学習段階だけでなく出力段階の著作物利用も別途検討が必要
- 2026年8月に公表されたプリンシプル・コードは、日本向けにサービスを提供する生成AI事業者(海外事業者を含む)を適用対象とし、これを受け入れた事業者に、学習データの開示などを「実施するか、しない理由を説明するか」(コンプライ・オア・エクスプレイン)の形で求めている。文書自身が「法的拘束力を有する規範ではない」と明記している
訴訟金額は報道ベースの数値、裁判所認定額ではない
本記事は2026年6月20日時点の公開情報をもとに、2026年9月25日時点で確認できた公式発表・裁判記録・報道で更新した。法的助言ではない。
各訴訟の状況は日々変動しており、特にThomson Reuters v. Ross Intelligence控訴審(2026年6月11日口頭弁論)は、第3巡回区のドケット(CourtListener掲載、2026年9月23日更新分)で見る限り判決が出ていない。UMG他 v. AnthropicおよびBMG v. Anthropicについても、2026年9月25日時点で判決・和解の一次情報は確認できていない。判決・和解が出た場合、本記事の記述と異なる展開になる可能性がある。
日本の著作権法30条の4の解釈については、文化庁の「AIと著作権に関する考え方」(2024年公表)を主な参照元としている。この文書は法的拘束力を持つガイドラインではなく、文化審議会著作権分科会の議論を整理したものである。読売・日経・朝日のPerplexity提訴についても、2026年9月25日に本記事が確認した範囲では判決は報じられておらず、今後の展開で実務上の意味合いが変わりうる。
EU AI Actの適用日程については、2026年7月27日に正式発効した「AI Omnibus」規則の内容を欧州委員会公式ページで確認して反映している。今後の運用・ガイドライン整備により細部が変更される可能性がある。
記事中の訴訟情報は、各法律事務所の公開論考・報道記事に基づく。裁判文書の原文を直接確認したものではない箇所がある。金額のうち、31億ドル(UMG他 v. Anthropic)、1件あたり最大15万ドル(Sony Music Publishing他 v. Anthropic)、約21億6,800万円(読売)、各22億円(日経・朝日)はいずれも原告側の請求額を報じたもので、裁判所が認定した額ではない。15億ドル(Bartz v. Anthropic)は裁判所が最終承認した和解額だが、本記事は承認命令の原文ではなく、The Authors Guildの発表と法律事務所のコラムをもとにしている。
出典・参照資料
- 二次資料Norton Rose Fulbright - AI in litigation series: An update on AI copyright cases in 2026 ↗
- 二次資料Cleary Gottlieb - The Open Questions in U.S. Generative AI Copyright Litigation ↗
- 一次資料US Copyright Office - Copyright and Artificial Intelligence ↗
- 二次資料Morgan Lewis - US Supreme Court Declines to Consider Whether AI Alone Can Create Copyrighted Works ↗
- 二次資料Bloomberg Law - OpenAI Must Turn Over 20 Million ChatGPT Logs, Judge Affirms ↗
- 二次資料AI Claudius - Thomson Reuters v. Ross Intelligence: First AI Copyright Appeal Set for June 2026 ↗
- 一次資料文化庁 - AIと著作権について ↗
- 二次資料Bird & Bird - Taking the EU AI Act to Practice: Understanding the Draft Transparency Code of Practice ↗
- 二次資料Clifford Chance - Copyright compliance under the EU AI Act for GPAI model providers ↗
- 二次資料Euronews - EU Parliament votes for 'permanent' fix for AI copyright ↗
- 二次資料IP and Legal Filings - The EU Digital Omnibus Agreement and AI Act Article 53 ↗
- 二次資料Sterne Kessler - AI IP Year in Review: First Federal Ruling Rejects Fair Use Defense ↗
- 二次資料Sustainable Tech Partner - Generative AI Lawsuits Timeline ↗
- 一次資料European Commission - Regulatory framework for AI(AI Act適用日程・公式) ↗
- 二次資料The Authors Guild - Court Grants Final Approval of $1.5 Billion Anthropic Copyright Settlement ↗
- 二次資料Engadget - Sony And Warner Sue Anthropic For 'Blatant Violation' Of Copyright Law ↗
- 二次資料TechCrunch - Sony Music, Warner sue Anthropic alleging a 'brazen campaign' of intellectual property theft(2026-08-29) ↗
- 一次資料CourtListener - Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH v. Ross Intelligence Inc, 25-2153(第3巡回区ドケット) ↗
- 一次資料GEMA - Gericht entscheidet pro Musikschaffende: GEMA setzt sich gegen SUNO durch(2026-07-31) ↗
- 二次資料Deadline - German Court Rules Against Suno In Lawsuit Challenging Use Of Copyrighted Music In AI(2026-07-31、Suno声明を含む) ↗
- 一次資料Google Blog - Google at the Global Forum on Intellectual Property(Kent Walker氏の講演原稿、2026-08-26) ↗
- 二次資料Deadline - NY Times Rips Trump's DOJ For Backing AI Companies In Class Action Suit ↗
- 二次資料日本経済新聞 - 日経・朝日、米AI検索パープレキシティを提訴 著作権侵害で ↗
- 一次資料読売新聞 - 読売新聞社、「記事無断利用」生成AI企業を提訴…日本の大手報道機関で初 ↗
- 二次資料骨董通り法律事務所(福井健策弁護士)- 動きはじめた米国AI著作権判決と、控えめにいって大騒動な米国AI著作権法論議の記録帳(2026/9/9最終追記) ↗
更新・訂正履歴
- (承前・EU AI Actの適用日程)「EU AI Act第53条の著作権関連義務が2026年8月2日に完全適用を迎え」(lede・3行まとめ・見出し)としていたのは誤り。欧州委員会公式ページ(digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/regulatory-framework-ai、2026-08-27取得)によると、GPAI(汎用AIモデル)提供者向けの統治規則・著作権関連義務(第53条を含む)は『2 August 2025』にすでに適用開始済みで、2026年8月2日はAI Act全体の一般適用日(主に高リスクAIシステム関連)。さらに同ページは、Digital Omnibus(AI Act簡素化案の政治合意)により、高リスク用途(Annex III・生体認証や重要インフラ等)の規則が『2 December 2027』に、製品組み込み型(Annex I)が『2 August 2028』にそれぞれ延期されたと明記している。これは著作権関連の第53条義務ではなく高リスクAIシステム(Annex I/III)に対する延期であり、第53条の義務自体は延期されていない。lede・3行まとめ・「2026年8月:完全適用と残る課題」見出し・「企業が取るべき対応」の記述を、この一次情報に合わせて訂正した。
- 13件の出典を再取得して突合した。日付・金額・訴訟の経緯(Thomson Reuters v. Ross控訴審6/11、NYT訴訟のログ開示命令1/5・2,000万件、UMG等の$3.1B提訴1/28、Thaler上告棄却3/2、EU AI Act第53条の2025/8/2・2026/8/2、Digital Omnibus合意5/7)はいずれも出典と一致した。一方、帰属・出典の誤りを4件発見した。(1)『UMG他 v. AnthropicはSustainable Tech Partnerによれば歌詞の無断学習を主張』としていたが、出典の実際の記述は『トレントによる海賊版データを基盤にClaudeを構築した』という趣旨で、歌詞の無断学習という枠組みではなかった。書き換えた。(2)『BMG v. Anthropicの提訴内容(Bruno Mars・Rolling Stonesの歌詞)』をNorton Rose Fulbrightの出典としていたが、同記事本文に『BMG』の記載は一切なく、実際にはSustainable Tech Partner記事に載っていた内容だった。出典を訂正した。
- (承前)(3)『UMGがUdioと2025年10月に和解、WMGがSunoと2025年11月に和解』という記述をNorton Rose Fulbright出典としていたが、同記事本文にUdio・Sunoの記載は見当たらなかった。出典で確認できなかった旨に書き換えた。(4)『欧州委員会が権利留保表示の機械可読プロトコルについて関係者協議を開始、robots.txtの尊重もCode of Practiceに含まれる』をBird & Bird出典としていたが、実際のBird & Bird記事はAI Act第50条(AI生成コンテンツの透明性ラベリング義務)のCode of Practiceの解説であり、著作権の学習データopt-outやrobots.txtには一切触れていなかった。出典で確認できなかった旨に書き換えた。(5)『法律のミカタ』という媒体名で日本国内訴訟の観測を紹介していたが、該当記事のURLがsources一覧に含まれておらず出典を確認できなかった旨を明記した。なお、Euronews記事は406、Sterne Kessler記事は403でいずれも本文を取得できず、該当箇所の直接確認はできていない(Sterne Kesslerが報じたとする『学習目的の複製は変容的利用に該当しない』という趣旨自体はAI Claudius記事の内容と整合していた)。
- 日本国内の動向について、原文は「2026年中に国内での訴訟提起がありうるという観測がある」とし、出典未確認の将来予測として扱っていた。しかし実際には、読売新聞東京本社・大阪本社・西部本社の3社が2025年8月7日、日本経済新聞社・朝日新聞社が2025年8月26日、いずれもAI検索サービスPerplexityを著作権侵害(複製権・公衆送信権等の侵害)で東京地裁に提訴しており、これは本記事の初回公開(2026年6月20日)より約10か月前の出来事だった。読売新聞・日本経済新聞の一次記事(2026年9月25日に直接確認、datePublished 2025-08-07/2025-08-26)により、国内でのAI関連著作権訴訟は「提起がありうる」という将来の可能性ではなく、既に係属中の事実として本文に追記・訂正した。なお、これらの訴訟はAIの学習段階ではなく検索・出力段階での著作物利用を争点としており、本文の分類でいえば「RAGによる既存著作物の出力」の論点に近い。判決は、2026年9月25日に本記事が確認した範囲では報じられていない。
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