Suno対GEMA、独ミュンヘン地裁がGEMA勝訴──AI音楽著作権訴訟でヨーロッパ初の判断
ドイツの著作権管理団体GEMAは2026年7月31日、AI作曲サービスSunoとの訴訟でミュンヘン地方裁判所の勝訴判決を得たと発表した。裁判所はSunoが米国で行った学習行為も含め、米独両方の著作権法に違反すると認定。GEMAにとっては2025年11月のOpenAI訴訟に続く2件目の対AI勝訴で、OpenAI側は既に上級審へ控訴している。

目次
ドイツの音楽著作権管理団体GEMA(Gesellschaft für musikalische Aufführungs- und mechanische Vervielfältigungsrechte)は2026年7月31日、AI作曲サービスSunoを相手取った訴訟でミュンヘン地方裁判所(Landgericht München I、事件番号42 O 763/25)から勝訴判決を得たと公式発表した。ヨーロッパの裁判所が、米国で行われたAIモデルの学習行為について著作権侵害を認定した初めての判断だとGEMAは位置づけている。GEMA自身の発表に加えて、国際的な法律事務所Bird & Birdによる判決文の独立した分析、およびSuno自身の公式声明を報じたDeadlineの記事をcurlで確認し、GEMA側の主張だけに偏らないよう補強した。
3行まとめ
- ミュンヘン地裁I(事件番号42 O 763/25)は2026年7月31日、SunoがYouTubeの「Rolling Cipher」というダウンロード制限を回避して6曲を取得・学習し、モデルのパラメータに記憶していたと認定。米国での学習行為も含め米独両方の著作権法違反とし、Sunoに開示義務と損害賠償責任を認めた。
- Suno自身は「当初から既存曲の再現ではなく新曲の作成のためにモデルを訓練してきた」とし、「今回の判決には同意できない」「控訴を含むあらゆる選択肢を検討している」と公式に反論している。GEMA側の発表だけでは分からなかったSuno側の言い分だ。
- 独立した法律事務所の分析によれば、GEMAは同一プロンプトを4回〜176回繰り返し入力することで「偶然の一致」を排除し記憶を立証した。この「176回」という具体的な立証手法自体が、Suno側が控訴で争うと見られる争点の一つとされている。
何が争われ、何が認定されたか
GEMA公式プレスリリースによると、訴訟の経緯は次の通りだ。
- GEMAは2025年1月21日、ミュンヘン地方裁判所にSunoを提訴
- SunoはGEMAレパートリーの楽曲でモデルを学習させたことを事前に認めていたが、対価支払い義務そのものは一貫して争ってきた
- 裁判所(同地裁第42部)は、Sunoが米国での学習・欧州でのデータ保存と再生の両方において、米国およびドイツ両方の著作権法に違反すると認定した
GEMAが証拠として提示したのは、Sunoに簡単なプロンプトを入力するだけで、原曲とほぼ聴き分けがつかない音源が生成される事例だった。プレスリリースが具体的に挙げている再現対象曲は「Forever Young」「Atemlos」「Mambo No. 5」「Rasputin」「Big in Japan」「Daddy Cool」の6曲。GEMA側の主張によれば、Sunoのシステムはメロディ・ハーモニー・リズムの点で原曲とほぼ一致する内容を記憶・出力していたという。
裁判所は、Sunoの学習行為が米国で行われていたとしても、欧州で運用・提供されるシステムである以上、欧州の裁判所で提訴可能だと判断した。GEMA法務責任者Kai Welp氏はこの点についてこうコメントしている。
「私たちがどこで学習が行われたかに関わらずミュンヘンで提訴できるという点は、クリエイターにとって巨大な一歩だ」
GEMAにとって2件目のAI訴訟勝利
今回の判決は、GEMAにとって2025年11月のOpenAI訴訟に続く2件目の対AI企業勝訴となる。プレスリリースによると、ミュンヘン地裁は2025年11月の判決でも、OpenAIが著作権保護されたGEMA会員の歌詞をライセンスなしに記憶・再生していたことを認定していた。この判決に対してOpenAIは、ミュンヘン上級地方裁判所(Oberlandesgericht München)へ控訴済みだとGEMAは明らかにしている。
今回のSuno訴訟は、GEMAが「本来の中核業務」である再生可能な楽曲そのもののライセンス供与の領域にまで対AI活動を広げた事例だとプレスリリースは位置づけている。米国では既に音楽業界からSunoに対する別の訴訟が進行中だが、欧州で主要AI音楽ツールを相手取った訴訟としてはGEMAの今回の提訴が最初だとされている。
GEMA幹部のコメント
CEOのTobias Holzmüller氏はこう述べている。
「人間の創造性はあらゆる生成AIの基盤だ。人間なしにAIは何も生み出せない。今日、法廷は明確にした──知的財産の盗用に基づくAIモデルは、法秩序によって保護されない」
監督機関トップのRalf Weigand氏は「今日は世界中の音楽クリエイターにとって重要な日だ。この判決は、AI時代においても著作者の権利が有効であるという強いシグナルを世界に送る」とコメントしている。GEMAはドイツ国内で10万人以上、世界では200万人以上の権利者を代表していると自ら説明している。
「記憶している」という主張の意味
GEMA法務責任者のKai Welp氏のコメントには、もう一点見逃せない指摘がある。
「驚くべきなのは、AIシステムが実質的にほぼ完全な楽曲を大規模に記憶しているらしいという点だ。私たちはこれを自分たちの手続きで立証できたし、より新しい学術文献もこれが氷山の一角に過ぎないことを示唆している」
これは、生成AIをめぐる著作権論争の中でもとりわけ争点になりやすい部分だ。「学習データを参考にして新しいものを生み出している」のか、「学習データそのものをほぼそのまま記憶し、プロンプトに応じて再生しているだけ」なのか——GEMAの主張と、それを認めた今回の裁判所判断は、後者に近い実態がSunoのシステムにはあった、という立場を取っている。
Suno自身は何と言っているか
GEMA発表だけでは分からなかったSuno側の反論を、Deadlineの報道(GEMA・Suno双方の言い分を報じた記事)で確認できた。Suno広報担当者の公式コメントは次の通り。
"From the beginning, we trained our models to create new songs, not reproduce existing ones, and built protections into our platform. We disagree with today's ruling – which rests on a fundamental mischaracterization of how Suno's technology works, how it is used and how U.S. law applies – and are evaluating all available options, including an appeal."
(当初から、私たちは既存曲の再現ではなく新曲の作成のためにモデルを訓練し、プラットフォームに保護機能を組み込んできた。今回の判決には同意できない――Sunoの技術がどう動作し、どう使われ、米国法がどう適用されるかについての根本的な誤解に基づいていると考えている――そして控訴を含むあらゆる選択肢を検討している。)
つまりSunoは、判決の前提となった技術理解そのものが誤っていると主張しており、控訴の可能性を明言している。ドイツの文化・メディア担当政務次官は、この判決を「デジタル音楽市場における creatives(創作者)の権利強化に向けた重要なシグナル」と評価するコメントも寄せている。
判決の技術的な根拠──「Rolling Cipher」の回避と「176回」の意味
法律事務所Bird & Birdによる判決文の独立した分析(判決本文のパラグラフ番号まで引用した詳細なもの)をcurlで確認すると、GEMA発表よりも技術的に具体的な事実認定の内容が分かる。
裁判所が認定した経緯は次の通りだ。Sunoは米国内で、YouTubeから完全な楽曲(今回の6曲を含む)をストリームリッピングで取得して学習に使っていた。その際、YouTubeがダウンロードを防ぐために設けている「Rolling Cipher」という技術的制限を回避していたという。裁判所はこれを、ドイツ著作権法95a条が定める「有効な技術的保護手段」の回避にあたると認定し、「YouTube上で聴くことはできても、リスニングを超えたダウンロードを妨げるためにRolling Cipherが存在する以上、これを破ってダウンロードした行為は違法なアクセスだった」と判断した。
記憶の立証方法も具体的だ。GEMA側は、歌詞・スタイルタグ・曲名だけを含み、メロディ・ハーモニー・リズムには一切触れない単純なプロンプトを、同一の内容のまま4回から176回繰り返し入力した。裁判所は「入力・パラメータ・出力確率が同じままである以上、同一プロンプトの繰り返しは"誘導"にはあたらない」とし、偶然の一致や意図的な誘導ではなく、モデル自体に楽曲が記憶されていたことの証拠になると判断した。Suno側は「GEMAは338個のプロンプトを、歌詞全文付きで入力しており、結果はユーザー側の行為によるものだ」と反論したが、裁判所はこれを退けている。
裁判所はまた、Sunoの「AI Act(EU AI法)に準拠している」という主張についても、「AI法の遵守と著作権法の遵守は厳密に別物」として退けた。AI法53条1項(d)が求める学習データの開示義務は、権利者が自らの権利を行使する助けとするための制度であり、ライセンスの代替にはならない、という理由だ。
4つの行為が個別に違法と認定された
Bird & Birdの分析によれば、裁判所は次の4種類の行為を、それぞれ個別に著作権侵害と認定した。
| 行為 | 内容 | 適用法 |
|---|---|---|
| ①学習目的の複製 | 米国内での学習用データ取得・複製 | 米国著作権法 |
| ②モデル内での記憶による複製 | ドイツ国内のサーバー上でのパラメータへの記憶 | ドイツ著作権法(UrhG)16条 |
| ③モデル提供による公衆への提供 | モデルをインターフェース経由で利用可能にする行為自体 | UrhG 15条2項(無名の公衆伝達権) |
| ④出力による複製・公衆への提供 | 生成された音源そのものの複製・提供 | UrhG 15条2項・19a条 |
Sunoの公開サービスは2024年のある1か月だけで220万人の訪問者を集めていたともBird & Birdの分析は指摘しており、裁判所はこれを「公衆」の要件を満たす規模と判断している。なお、今回の差止命令の対象はSuno v3.5・v4の2バージョンに限定されており、それ以降のバージョンが対象に含まれるかどうかは今後の執行段階の判断に委ねられているという。
GEMAが持つ「どこでも訴えられる」というレバレッジ
Welp氏はさらに、今回の判決が持つ実務上の意味をこう説明している。学習がどこで行われたかに関わらず、Sunoのようにヨーロッパで運用・提供されているシステムである以上、ミュンヘンで提訴できる——この点が「クリエイターにとって巨大な一歩」だという評価につながっている。一方で同氏は、この権利を実効的なものにし続けるためには「著作権に非友好的な国へ事業者が逃げるのを防ぐ」目的で、欧州の立法者の支援も今後必要になる、とも付け加えている。つまりGEMA自身も、今回の勝訴だけで問題が完全に解決したとは位置づけていない。
判決文そのものはまだ読んでいない
- 本記事の記述は、GEMA公式プレスリリース・Deadlineの報道記事・Bird & Birdによる判決分析(判決本文のパラグラフを引用した二次資料)にもとづく。ミュンヘン地裁が実際に交付した判決文そのもの(ドイツ語の原文)は、本記事では取得・通読していない。Bird & Birdの分析中の「para. XXX」という参照箇所も、この記事では孫引きの形になっている。
- 「ヨーロッパ初の判断」という評価はGEMA自身によるものだが、Bird & Birdの分析も「欧州初のジェネレーティブAI音楽ツール判決」「域外的な差止め部分には直接の先例がない」と独立に位置づけており、この点についてはGEMAの自己評価と外部の法律専門家の評価が一致している。
- 損害賠償額・ライセンス料の具体的な金額水準は、GEMA公式発表・今回確認した2つの追加ソースのいずれにも記載がなく確認できなかった。裁判所はSunoに利用規模の開示義務を課したとBird & Birdは述べているが、開示後に算定される賠償額の水準は本記事のソースからは分からない。
- Sunoが実際に控訴したかどうか(「検討している」段階から一歩進んだかどうか)は、本記事執筆時点(2026年8月29日)のソースには記載がなく確認できていない。関連するBGH(ドイツ連邦通常裁判所)でのLAION裁判(I ZR 281/25)やCJEU(欧州司法裁判所)でのLike Company対Google裁判(C-250/25、法務官意見は2026年9月3日予定)の帰趨が、この訴訟の控訴審にどう影響するかも今後の観察点になる。
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出典・参照資料
- 二次資料Gericht entscheidet pro Musikschaffende: GEMA setzt sich gegen SUNO durch und definiert Maßstäbe für internationales Urheberrecht(GEMA公式プレスリリース, 2026-07-31) ↗
- 二次資料GEMA Newsroom(GEMA公式) ↗
- 一次資料Munich District Court Rules on AI-generated Music: GEMA v Suno(Bird & Bird法律事務所、独立した判決分析) ↗
- 二次資料German Court Rules Against Suno In Lawsuit Challenging Use Of Copyrighted Music In AI(Deadline、2026-07-31、Suno公式声明を含む) ↗
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