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肖像・声の無断利用、パブリシティ権はどこまで守るか──法務省検討会が報告書を公表

法務省が2026年8月7日、生成AIによる肖像・声の無断利用を念頭に置いた「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」の取りまとめ報告書(全143頁)を公表しました。声がパブリシティ権の保護対象に含まれることを検討会として明言したほか、AI提供事業者の共同不法行為責任や学習用データセット販売の扱いにも踏み込んでいます。

肖像・声の無断利用、パブリシティ権はどこまで守るか──法務省検討会が報告書を公表
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2026年8月27日時点の情報です。 法務省は8月7日、「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」の取りまとめ報告書を公表しました。副題は「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」。全143頁のこの報告書は、①声がパブリシティ権の保護対象に含まれるかという長年あいまいだった論点に検討会としての結論を示し、②生成AIを提供する事業者自身が権利侵害の責任を問われる場合の考え方を初めて整理しました。ナレーション・声真似・AIカバー曲など、声を使うAI活用に関わる人には直接効いてくる内容です。

3行まとめ

  • 法務省が2026年8月7日、生成AIによる肖像・声の無断利用を扱う検討会の取りまとめ報告書(PDF全143頁)を公表
  • 検討会は「声はパブリシティ権の保護対象に含まれることに異論はなかった」と明記。著作権が及ばない声の保護を、パブリシティ権と不正競争防止法の二本立てで整理した
  • AIモデル・サービスの提供者自身も、著名人の肖像・声を生成できることを売りにしていれば差止請求の対象になり得る、共同不法行為責任を負う場合もあるとした

何が公表されたのか

法務省の発表文によると、検討会は2026年4月に設置され、全5回にわたり、肖像・声の無断利用に関する複数の想定事例を題材として、パブリシティ権および「肖像等をみだりに利用されない権利」の侵害の有無、損害賠償の範囲、差止請求の可否、不正競争防止法の適用の有無といった法的論点を議論しました。目的は「生成AIの普及等による肖像、声等の無断利用の事案が深刻化している等の指摘」を踏まえ、現行法と判例法理に基づく法的整理を示すことです。

報告書は大きく2章構成です。第1章がパブリシティ権・肖像権等の一般論(判断基準・損害賠償・差止請求の考え方)、第2章が7つの想定事例への当てはめです。目次(PDF)で確認できる各事例のタイトルは次のとおりです。

想定事例 内容
想定事例1 映像作品への俳優の肖像の無断利用がされた事案
想定事例2 配信音源への歌手・声優の声(キャラクターの声を含む)の無断利用がされた事案
想定事例3 性的画像・音源への俳優の肖像・声優の声の無断利用がされた事案
想定事例4 収益目的なく俳優の肖像・声優の声の無断利用がされた事案
想定事例5 本人が所属事務所に対してパブリシティ権の独占的利用許諾又は譲渡をしている場合の事案
想定事例6 本人の死後に映像作品への俳優の肖像の無断利用がされた事案
想定事例7 本人の死後に性的画像への俳優の肖像の無断利用がされた事案

生成AI事業者自身の責任に関する「補論」は、このうち想定事例2(歌手・声優の声の無断利用)の章に置かれています。

声はパブリシティ権で守られるのか──長年あいまいだった論点に結論

パブリシティ権は、1998年のピンク・レディー事件最高裁判決が「氏名・肖像」を保護対象とし、これに「等」を加えて「肖像等」と定義したことに由来します。しかし判決文自体は、氏名・肖像以外に何が含まれるかを明示していませんでした。

報告書はこの点について、同判決の調査官解説が「肖像等」を「本人の人物識別情報」と説明し、例として「サイン、署名、声、ペンネーム、芸名等」を挙げていることを引いた上で、次のように述べています。

本検討会においても、声は、人物識別情報であり、かつ、個人の人格の象徴であることから、声がパブリシティ権の保護対象に含まれることについて、異論がなかった。

つまり声そのものには著作権が及ばない(著作権法が保護するのは「著作物」であり、声質は含まれない)としても、パブリシティ権という別の権利構成では保護対象に含まれる、という整理を検討会として明示した形です。当サイトが以前扱った声優・津田健次郎さんの事件でも、弁護士が「声そのものには著作権が及ばない」としてパブリシティ権・不正競争防止法の構成で争っていると説明していましたが、今回の報告書はその法的立て付けを国の検討会として裏付けたことになります。

生成AI事業者自身の責任──「補論」で踏み込んだ3つの論点

報告書で読者への実務的な影響が大きいのは、想定事例2(配信音源への歌手・声優の声の無断利用)の「補論」として置かれた「生成AIのサービス提供行為等について」の節です。ここでは、利用者個人の責任追及だけでなく、AIモデル・サービスを提供する事業者側の段階に着目した検討がされています。

①モデル・サービスの提供行為そのもの:報告書は「生成AIのモデル・サービスそれ自体は『肖像等』とはいえず、その提供行為がパブリシティ権の3類型に直接該当するとはいえないのが原則」としつつ、次の場合は例外だとしています。

顧客吸引力を有する実在の著名人と同一又は類似の肖像・声を生成することが容易な生成AIを、当該容易性をセールスポイントとして有償提供するような場合には……パブリシティ権を侵害するものと考えられる

つまり「特定の著名人に似せて生成できること」自体を売り文句にしているサービスは、差止請求の対象になり得るということです。報告書は経済産業省「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」(2026年4月公表)も同様の立場だと引用しています。

②共同不法行為責任:利用者が無断生成したコンテンツを公開して権利侵害が起きた場合、AI提供事業者も「侵害結果の発生に寄与したと評価されるとき」は民法719条の共同不法行為として連帯責任を負う可能性がある、としています。判断要素は「権利侵害の蓋然性や重大性」「事業者における侵害発生の認識可能性」など。

報告書は脚注で、経済産業省「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き[第1.0版]」(2026年4月9日公表)を引用し、権利侵害の蓋然性を下げるために現時点の技術で講じられることが多い措置として次の4つを挙げています。手引き本文(PDF32〜34頁)でも同じ内容を確認できました。

措置 内容
①データセット規模の拡大 学習用データセットの規模を十分大きくすることで過学習の可能性を低減させる
②Re-captioning 学習時に十分に長いテキストで画像を説明する
③潜在空間での学習 元データがそのまま生成物に反映されにくい学習方式を用いる
④固有名詞フィルタリング 生成時に有名人や有名作品の固有名詞を大規模言語モデル等でプロンプトから取り除く

報告書・手引きともに、この4つすべてが常に必要というわけではなく、AIモデルの特性に応じて必要かつ合理的な範囲の措置を講じ、結論として侵害の蓋然性が抑制されていることが重要だとしています。

③学習用データセットの販売:特定の俳優・声優に特化した学習用データセットを商品として販売する行為自体は、パブリシティ権の3類型のうち「第1類型に該当するか、これに近似するものとして『など』に該当し得る」としています。また、多数人のデータを含む一般的なデータセットの販売については、原則として3類型に当たるのは困難としつつ、特定の俳優・声優が含まれることを明らかにして宣伝した場合は第2類型・第3類型に該当し得るという、宣伝の有無で結論が分かれる整理を示しています。学習行為それ自体(出力させることが目的だとしても)がパブリシティ権侵害に当たるかについては、検討会内でも意見が割れたと明記されています。

実務者にとっての意味

VOICEVOXのようなキャラクター音声を使ったナレーション制作や、AIカバー曲、声真似コンテンツを扱う個人事業者にとって、今回の整理は次の点で参考になります。

  • 実在の著名人・声優の声に似せることを明示的な売りにしたサービス提供は、事業者側もリスクを負う可能性がある
  • 逆に、価値中立的な設計(特定人物の再現を目的としない)であれば、利用者側の不適切利用があっても事業者の責任は限定的になり得る
  • 学習データセットとして特定人物に特化したものを販売する行為は、一般的な学習行為より重く見られている

143頁の報告書は全文精読ではなく該当箇所中心

  • 本記事は法務省の報道発表文、報告書PDF(143頁)の該当箇所、経済産業省の手引きPDF(該当頁)、および経産省の研究会開催ページを実際に読んで書いています。ただし報告書143頁・手引き本文とも全体を精読したわけではなく、声の保護対象該当性・生成AIの補論・データセット関連の措置の記載を中心に確認しました。第2章の想定事例1・3〜7の詳細な当てはめ、および不正競争防止法の適用要件の細部までは本記事では扱っていません(想定事例のタイトル一覧は目次から確認しています)
  • 報告書はあくまで「現行法及び判例法理を踏まえた法的整理」であり、新しい立法ではありません。したがって、ここで示された解釈が今後の裁判例で必ずそのまま採用されるとは限りません
  • 「学習行為それ自体がパブリシティ権侵害に当たるか」については検討会内でも意見が分かれたと報告書に明記されており、確定した結論ではありません
  • 経産省の手引きが挙げる4つの措置(データセット規模・Re-captioning・潜在空間学習・固有名詞フィルタリング)は「現時点の技術で講じられることが多い」ものであり、これを講じれば侵害責任を免れると保証するものではありません
  • 日本語の報道各紙は公表の事実を短く伝えていますが、報告書本文(PDF)の内容にまで踏み込んだ解説は、本記事執筆時点で見当たりませんでした

法務省の報道発表と報告書本文PDF

関連記事: 声優・津田健次郎さんの事件から見るAI声真似の法的リスク / AI生成物の表示義務ガイド

感想・指摘はコメント欄へ。続報(本報告書を踏まえた立法や裁判例)があれば追記します。

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