2026年8月28日 金曜日
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声のクローンは日本の法律で止められるのか──津田健次郎さんの提訴を一次資料で確認した

声優の津田健次郎さんの声を模したAIナレーション動画が188本投稿され、月50万〜75万円の収益を上げていたとして、TikTok運営会社への提訴が2025年11月に東京地裁で起きた。声は著作権法の保護対象外という日本の法制度の穴を、共同通信・弁護士ドットコムの報道で確認した。

声のクローンは日本の法律で止められるのか──津田健次郎さんの提訴を一次資料で確認した
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目次

2026年8月27日時点の確認結果を先に書く。声優の津田健次郎さんが、自身の声を無断で模倣したAIナレーション動画をめぐり、TikTok運営会社を相手取った訴訟を2025年11月に東京地方裁判所に起こしていたことが、2026年5月23日、代理人弁護士への取材で明らかになったと共同通信が報じた。この記事は2026年6月18日に公開した動画「AIに声を盗まれても法律では守れない|日本と世界の現実 津田健次郎さんの事件から学ぶ」の内容を、公開後にあらためて報道各社の一次記事で確認したものだ。確認の過程で、動画の台本にあった記述のうち一部が実際の報道内容と異なることが分かったため、本記事では確認できた報道内容に基づいて書き直している。

3行まとめ

  • 津田さんの声質を模したナレーション動画が2024年7月〜2025年9月に188本投稿され、投稿アカウントは月50万〜75万円の収益を上げていたと訴状にある(共同通信報道)
  • 声そのものは日本の著作権法の保護対象外。津田さん側はパブリシティ権侵害と不正競争防止法違反を主張しており、被告側は「津田さんの声と類似していない」と反論している
  • 今夏(2026年)に第1回口頭弁論が開かれる見通しで、日本国内で声の無断複製AIをめぐる法的判断が示される可能性がある最初の裁判の一つとされる
項目 内容
投稿期間・本数 2024年7月〜2025年9月、188本(都市伝説・雑学系動画)
推定収益 月50万〜75万円(再生回数に応じたTikTokの収益化制度)
提訴時期・場所 2025年11月、東京地方裁判所
原告側の法的根拠 パブリシティ権侵害、不正競争防止法違反
被告側の反論 津田さんの声と類似していない
今後の見通し 2026年夏に第1回口頭弁論の予定

何が起きたのか

共同通信の報道(2026年5月23日配信)によると、訴状は、氏名不詳の人物が特定のTikTokアカウントで、津田さんの声質を模したナレーションをつけた都市伝説・雑学系の動画を2024年7月から2025年9月にかけて188本投稿したとしている。TikTokには再生回数に応じて収益が支払われる仕組みがあり、このアカウントは月50万〜75万円の収益を上げていたという。

津田さんは2025年11月、この動画の投稿者ではなくTikTokの運営会社を相手取り、動画の削除を求めて東京地裁に提訴した。投稿者本人の特定に至らなかったため、プラットフォーム側を提訴する形をとったとみられる。共同通信によれば、これまで非公開の争点整理手続きが行われており、2026年夏にも第1回口頭弁論が開かれる見通しだという。

原告側は、投稿者が津田さんの声を模したナレーションで閲覧者を誘引したとして、パブリシティ権(著名人が自身の氏名・肖像などの持つ顧客吸引力を独占できる権利)の侵害を主張している。弁護士ドットコムニュースが福井健策弁護士に取材した記事によれば、読売新聞の報道をもとに、津田さん側は不正競争防止法違反も併せて主張しているという。

なぜ「声」は著作権で守れないのか

福井弁護士はこの取材で、「声そのものには著作権が及びませんから」と明言している。日本の著作権法は文章・音楽・映像などの「著作物」を保護対象とするが、声質そのものは著作物の定義に含まれない。このため津田さん側は、著作権侵害ではなく、パブリシティ権や不正競争防止法という別の法的構成で争っている。福井弁護士によれば、この構成は2024年の内閣府「AI時代の知財検討会」の中間とりまとめでも、声の模倣によってこれらの権利侵害が成立しうると整理されているという。

この文脈と関連するのが、著作権法第30条の4だ。AIの学習目的での著作物利用は「思想又は感情の享受を目的としない利用」として原則許諾不要とされており、文化庁は2024年3月にこの解釈を整理した考え方を公表している。この点は以前の記事「AI画像生成と著作権──日本の法律はどうなっている?」で詳しく扱った。声の学習・模倣についても、著作権法の枠組みでは学習段階の規制が薄いという同じ構造的な課題がある。

海外との違い

海外では、AIによる声・肖像の無断利用に対する法整備がやや先行している国もある。米カリフォルニア州では、俳優などパフォーマーの「デジタルレプリカ」を本人の同意なしに使用することを制限する法律(AB 2602)が成立したと、Los Angeles Times・Deadlineなど複数の米メディアが報じている。SAG-AFTRA(全米俳優組合)がこの法律の成立を歓迎したという報道もある。日本にはこうした専用の州法・国内法は、2026年8月時点で存在しない。

声優だけの問題ではない

生成AIによる権利侵害への懸念は、声優以外のクリエイターにも広がっている。日本フリーランスリーグが実施した2万4,991件の回答を集めた調査では、約9割のクリエイターが「AIによって権利が侵害されている」と回答したとTBS NEWS DIGなどが報じている。

日本国内では、新聞社側もAIをめぐる訴訟を起こしている。読売新聞、日本経済新聞、朝日新聞は、生成AIを使った検索サービスPerplexityが記事を無断で利用しているとして、著作権侵害を主張する訴訟を起こしたと各社が報じている。この件は「AI画像生成と著作権」でも触れている。

画像分野の「全国初摘発」は、動画の説明と向きが逆だった

動画の台本には、「AI生成画像では千葉県警が初の刑事事件を立件した。既存イラストに酷似した画像をAIで生成・販売した個人が書類送検された」という記述があった。しかし読売新聞・日本経済新聞の報道(2025年11月20日配信)の見出しを確認したところ、実際の事件はこれとは逆方向だった。読売新聞の見出しは「『AI生成画は著作物』、無断複製の疑いで男を書類送検へ…千葉県警が全国初の摘発」で、日本経済新聞も「AI生成画像を無断複製、初の摘発か」と報じている。

つまり実際の事件は、AIが生成した画像そのものが著作物と認定された上で、その画像を無断複製した人物が書類送検されたというものだ。「既存のイラストに似せてAI生成・販売した側が摘発された」という台本の説明とは、著作物・侵害者の向きが逆になっている。この記事では見出し以上の記事本文(有料会員限定)には到達できなかったため、これ以上の詳細は書かない。

正直に書く

この記事で一次記事・公式発表まで確認できたのは、津田さんの訴訟の経緯(共同通信・弁護士ドットコムニュース)、千葉県警の事件の見出しレベルの事実(読売新聞・日本経済新聞)、California AB 2602の存在(複数の米メディア)、日本フリーランスリーグの調査結果(TBS NEWS DIG)、著作権法30条の4とPerplexity訴訟(既報記事内で確認済み)だ。

一方、動画の台本にあった以下の記述は、この記事を書く時点で一次資料に到達できず、本文には含めなかった。

  • MicrosoftのVALL-E研究、ElevenLabsの商用化、OpenAI Voice Engineの限定公開という技術面の経緯(各社公式発表への個別到達ができなかった)
  • 日本俳優連合(日俳連)の声明の具体的な文言
  • SAG-AFTRAのストライキ後の契約内容(AI利用への同意・通知・追加報酬)の詳細な条項
  • スカーレット・ヨハンソン氏とOpenAIの音声をめぐるやり取りの詳細な時系列
  • EU AI Actのディープフェイク表示義務の具体的な条文番号
  • 「ボイスライト」という声の権利を独立法制化する議論の現在の進捗
  • Japan AISI(AI安全性研究機関)の設立時期の詳細

千葉県警の事件については、台本の説明の向きが実際の報道と逆であった可能性が高いことも、正直に付け加えておく。

声優の声を含め、「声」という個人の特徴が、日本の現行法でどこまで守られるかは、まだ判例が少なく確定していない。津田さんの裁判が今夏に第1回口頭弁論を迎える予定であることは複数の報道で確認できており、その審理の行方が今後の目安になる可能性がある。

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