メール秘書AI「Fyxer」は1つのモデルに書かせない──30〜50の小さなモデルに分け、人が直した下書きをDPOで学習、A/Bテストで有意差が出た版だけ出す。下書きの53%がそのまま送信、90日後の継続率90%超、ARRは1年で100万→3,200万ドル
OpenAIは2026年9月14日、AIエグゼクティブアシスタント「Fyxer」(英国)の事例を公開した。Fyxerは受信箱・会議・メッセージをまたいで仕事の流れを追い、返信の下書きを本人の口調で作る。作り方が具体的で、①メールを「返信が要るか」「日程調整か」「意図と結末の予測」など30〜50の専門モデルの予測に分解し、②AI化の前に人手で運営していた秘書サービスの50万時間超の注釈つきワークフローを学習データにし(教師ありファインチューニングとLoRA。OpenAIのファインチューニング基盤と、最近はマネージドのチームでチェックポイントを本番へ)、③利用者が下書きを直した差分をDPO(直接選好最適化)の学習ペアにして、A/Bテストで統計的に有意な改善が出た版だけを出す(利用者数が多いので1日で閾値に達することも)。結果は、下書きの53%がそのまま送信され、90日後も90%超が有料継続、2025年のARRは100万ドルから3,200万ドルへ。共同創業者は「ARRより継続率が本当の自慢」と語る。

2026年9月18日・日本時間時点の情報です。 OpenAIのスタートアップ事例に、英国のFyxerの記事が9月14日に出た。「メールの返信をAIに書かせる」製品は多いが、この記事はどう作っているかが珍しく具体的で、メールを1つのモデルに投げない設計と、人が直した下書きを学習に戻す仕組みが書かれている。メールとカレンダーを捌くno-code系の製品はこちら、ファインチューニングの考え方は入門記事、エージェントの組み方はAIエージェントの作り方に。
3行まとめ
- 1つのモデルに書かせない。 共同創業者Archie Hollingsworth氏の言葉では「多くの小さなモデルに分けるほうが、1つのモデルに良いメールを書かせるよりずっとうまくいく」。新着メールはまず「返信が要るか・日程調整か・見るだけか」を判定するモデルに通り、返信が要れば意図と結末(会議の設定に向かうか、依頼の解決か、長い関係の続きか)を予測するモデル、過去のやり取りから関連する記憶を取り出すモデル、と30〜50の専門モデルが分担する。理解・文脈の取得と再ランク・生成のそれぞれにOpenAIのモデルを使う。
- 秘書の仕事そのものを学習データに。 AI製品の前に人手のエグゼクティブアシスタント事業を数年運営し、50万時間超の注釈つきワークフローを蓄積。「すぐ返すか待つか、どの過去の会話が関係するか、同じ依頼でも人によって返し方が違う」という小さな判断が入っている。教師ありファインチューニングとLoRAで用途別の派生モデルを作り、初期はOpenAIのファインチューニング基盤、最近はOpenAIのマネージドファインチューニングのチームと新しいチェックポイントを本番へ。配備前に自社のメール課題(下書き・分類・優先度)の検証セットで精度・応答時間・費用を見る。
- 人の修正を学習に戻し、A/Bで出す。 利用者が送信前に下書きを直すと、元の下書きと直した版の差が「どちらを好むか」の学習ペアになり、DPO(Direct Preference Optimization)で学習する。手作業のラベル付けは不要。変更は必ずA/Bテストにかけ、統計的に有意な改善が出た版だけ出す(利用者数が多く、1日で閾値に達することもある)。結果として下書きの53%がそのまま送信され、90日後も90%超が有料で毎日使い、ARRは2025年に100万ドルから3,200万ドルへ。「ARRの話はみんなするが、本当の自慢は継続率」。
数字(記事の記載)
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 学習に使った秘書ワークフロー | 50万時間超(注釈つき) |
| 専門モデルの数 | 30〜50 |
| そのまま送信された下書きの割合 | 53% |
| 90日後の有料継続率 | 90%超 |
| ARR | 2025年に100万ドル→3,200万ドル |
OpenAIを選んだ理由として、自社ベンチマークで最良、口調や意図のような主観的な課題でのファインチューニングの強さ、ホワイトボードでの設計相談やオフィスに来て一緒に解く技術支援、が挙げられている。今後は関係・好み・進行中のスレッドの理解を深め、「顧客がPCを開かなくて済む」方向へ。
読み方
- 「分解する」設計は、当サイトがAIエージェントの作り方で整理した「ツールを限定し、止まる条件を持つ」設計と同じ発想で、精度だけでなく事故の範囲も小さくなる
- DPO+A/Bは、ユーザーの修正がそのまま教師になる製品にしか使えない型で、メール・議事録・翻訳のように「人が最後に直す」工程がある領域に向く
- 数字はすべてFyxerの自己申告(OpenAIの記事経由)で、第三者の検証は無い。継続率90%超の分母(有料か、無料も含むか)は記事に書かれていない
筆者が確かめた点
この記事の下調べで、筆者は9月18日にOpenAIの記事を自分のブラウザで開いて全文を読み、上の数字と引用がその原文にあることを確認した。筆者はFyxerを使っておらず、製品の品質は書けない。
書かれていないこと
- Fyxerの料金と対応するメールサービス(記事は作り方の話で製品の条件は無い)
- 使っているOpenAIのモデル名(「最新のOpenAIモデル」とのみ)
- 継続率90%超の分母
出典はOpenAIのスタートアップ事例
- OpenAI「How Fyxer built an AI executive assistant people trust」(2026年9月14日)
- 本記事はFyxerが製品の条件や第三者の数字を出したら追記する
出典・参照資料
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