AI時短ラボ
業界· 約9

ディープフェイクとは──EU AI法の定義(第3条60号)「実在の人・物・場所・出来事に似せ、本物だと誤認させるAI生成・加工の画像・音声・動画」。Arupから2,560万ドルを取った偽ビデオ会議、Article 50の表示義務(2026年8月2日施行)、SynthID・C2PAの透かしと来歴、YouTubeの開示ルール、日本の景表法の位置を1ページに

ディープフェイク(deep fake)は、EU AI法第3条60号で「実在の人物・物・場所・団体・出来事に似せ、人に本物または真実だと誤って思わせるような、AIで生成または加工された画像・音声・動画」と定義されている。この記事は、その条文と当サイトが一次資料で確認してきた記事をつなぎ、①定義、②実害の代表例(2024年1月、英Arupの香港オフィスでCFOと同僚全員を偽装したビデオ会議により2,560万ドルが詐取された事件。2026年6月時点で犯人未特定・資金未回収)、③規制(EU AI法Article 50の透明性義務が2026年8月2日に施行、違反は最大1,500万ユーロまたは全世界売上の3%。日本の景品表示法にはAI生成を名指しした条文は無い)、④見分ける仕組み(Google DeepMindのSynthID不可視透かしは2025年5月時点で累計100億件超、C2PAは署名付き来歴だが公式FAQ自身が「メタデータは除去されうる」と認める)、⑤作る側の開示ルール(YouTubeは実在の人物・出来事・場面がリアルに見える3類型に開示を求める)を整理する。

ディープフェイクとは──EU AI法の定義(第3条60号)「実在の人・物・場所・出来事に似せ、本物だと誤認させるAI生成・加工の画像・音声・動画」。Arupから2,560万ドルを取った偽ビデオ会議、Article 50の表示義務(2026年8月2日施行)、SynthID・C2PAの透かしと来歴、YouTubeの開示ルール、日本の景表法の位置を1ページに
執筆・編集:
目次

2026年9月22日時点の情報です。 「ディープフェイク」は、事件のニュースと規制のニュースの両方で出てくる語で、日本語では「ディープフェイクとは」「ディープフェイク 対策」「ディープフェイク 見分け方」の形で検索されている。当サイトはこの1年、事件・規制・透かし・開示ルールをそれぞれ一次資料で確認する記事を書いてきたので、この記事はそれらをつなぐ入口として、定義から順に置く。

3行まとめ

  1. 定義。 EU AI法第3条60号は、ディープフェイクを「実在の人物・物・場所・団体・出来事に似せ、人に本物または真実だと誤って思わせるような、AIで生成または加工された画像・音声・動画」と定義する。技術名ではなく「何に似せて誰を欺くか」で決まる定義になっている。
  2. 実害。 2024年1月、英設計大手Arupの香港オフィスで、CFOと同僚全員をディープフェイクで偽装したビデオ会議により2,560万ドル(約38億円)が詐取された。2026年6月時点で犯人は未特定、資金は未回収。
  3. 規制と対策。 EU AI法Article 50の透明性義務(AI生成の表示)が2026年8月2日に施行され、違反は最大1,500万ユーロまたは全世界売上の3%。技術面では、Google DeepMindのSynthID(不可視透かし・2025年5月時点で累計100億件超)とC2PA(署名付き来歴)が別系統で並ぶが、C2PAの公式FAQは「メタデータは除去されうる」と自ら認めている。

定義──EU AI法はこう書く

EU AI法(Regulation (EU) 2024/1689)第3条60号の原文は次のとおり。

'deep fake' means AI-generated or manipulated image, audio or video content that resembles existing persons, objects, places, entities or events and would falsely appear to a person to be authentic or truthful;

(「ディープフェイク」とは、実在の人物・物・場所・団体・出来事に似せ、人に本物または真実だと誤って思わせるような、AIで生成または加工された画像・音声・動画のコンテンツをいう。)

ポイントは、**「AIで作った」だけではディープフェイクにならず、「実在するものに似せ」かつ「本物だと誤認させる」**ことが条件になっている点。架空の人物の顔や、明らかに創作と分かる映像は、この定義の外にある。日本語で「ディープフェイク」と呼ばれる範囲はこれより広く使われることが多いが、規制の文脈ではこの定義が基準になる。日本のAI事業者ガイドライン(第1.2版)は「偽情報等への対策」を共通の指針の一つに置いているが、ディープフェイクという語の定義は置いていない(別記事)。

実害の代表例──Arupの偽ビデオ会議

当サイトが一次資料(香港政府のプレスリリース、香港警察の統計、FBI IC3年次報告、Arupの声明を引用した業界紙)で確認した事件が、2024年1月の英Arup香港オフィスのケース。財務担当者がビデオ会議に参加すると、画面にはCFOを含む複数の同僚が映っていたが、全員がディープフェイクで、その指示に従って2,560万ドル(約38億円)を送金した。2026年6月時点で犯人は未特定、資金も未回収。時系列と出典はArup事件の記事、手口と対策の整理は別記事に。EU AI法の定義に当てはめると、「実在の人物(CFO)に似せ」「本物だと誤認させた」音声と映像で、定義の中心に来る例になる。

規制──EUは表示義務、日本は名指しの条文なし

地域 規制 内容
EU AI法 Article 50(透明性義務)・2026年8月2日施行 ディープフェイクを生成・加工するAIシステムのdeployer(利用者)は、そのコンテンツがAIで生成・加工されたことを開示する。チャットボットにも人と対話していることの表示義務。違反はArticle 99で最大1,500万ユーロまたは全世界売上の3%
EU 欧州委員会ガイドライン(2026年7月20日) provider・deployerの切り分け、ディープフェイクの定義、標準的な編集などの適用除外の具体例
日本 景品表示法 第5条にも、消費者庁のステルスマーケティング規制ページにも「AI」という語は出てこない。規制対象は「広告であることを一般消費者が判別できるか」であって「AIが作ったかどうか」ではない

EU側の条文・罰則・deployerの定義(「個人的な非職業的活動」は除外)はEU AI法の記事に、日本の景表法の確認はこちらに整理してある。

見分ける仕組み──透かしと来歴は別物

技術的な対策は2系統ある。SynthIDはGoogle DeepMindの不可視透かしで、Veoで作った動画に埋め込まれ、2025年5月20日の発表時点で累計100億件超に埋め込み済みと公表されている。C2PAは画像・動画ファイルに署名付きの来歴(誰がいつ何で作ったか)を埋め込む規格で、MP4(BMFF)にも対応するが、公式FAQ自身が「メタデータは不注意にも意図的にも取り除かれうる」と認めている。何が入り、誰が確認でき、どこで壊れるかは透かしの記事に。C2PAをローカルで検証するC++ライブラリをGoogleがオープンソース化した件はCredentioの記事に。

「AI検出ツール」で見分ける方法については、文章の場合に見逃しと誤判定が両方向で大きいことを別記事で確認している。画像・動画の検出器の精度は、この記事では確認していない。

作る側の開示ルール

「AIで作ったら『AI生成』と書く義務がある」という理解は正確ではない。当サイトが各社の公式ポリシー原文を確認した範囲では、YouTubeが開示を求めるのは、実在の人物・出来事・場面がリアルに見える3類型で、台本・サムネイル・字幕・アップスケーリング・自分の声のクローンは対象外。TikTok・Meta・X・Amazon KDPの扱いと、制作者が実際にどこへ何を書くかは開示ラベルの記事に。ここでもEUの定義と同じで、「実在するものに似せてリアルに見えるか」が線になっている。

この記事の範囲

筆者は2026年9月22日にEU AI法第3条の条文(artificialintelligenceact.eu)を取得して定義を写し、他の事実は当サイトの既存記事(それぞれ一次資料で確認済み)から引いた。ディープフェイクを作る技術そのもの(モデルや手順)は扱っていない。日本で審議中・成立済みの個別の法改正(性的ディープフェイクなど)は、この記事では確認しておらず含めていない。

シェア: ポスト はてブ

出典・参照資料

AIニュースの解説を動画でも

YouTubeでは注目ニュースの背景を解説し、Xでは新着記事をお知らせしています。

コメント

まだコメントはありません。最初のコメントを書いてみませんか?

AIについて聞きたいことはありますか?

質問箱で無料で受け付けています。回答は公開され、他の方の参考にもなります。

質問箱を見る →

新しい記事をメールで受け取る

AIの新しい発表を、出典付きで整理して届けます。

関連記事

ディープフェイクでビデオ会議の全員を偽装 ― 英Arupから2,560万ドルを詐取した事件の教訓の記事画像
業界06.18読了22

ディープフェイクでビデオ会議の全員を偽装 ― 英Arupから2,560万ドルを詐取した事件の教訓

出典 ─ LCQ9: Combating frauds
ディープフェイクでCFOを偽装、$25Mを送金させた香港事件の全容の記事画像
業界06.14読了4

ディープフェイクでCFOを偽装、$25Mを送金させた香港事件の全容

出典 ─ Finance worker pays out $25 million after video call with deepfake 'chief financial officer'
EU AI法、8月2日から「AIと対話中です」表示が義務化 ― 違反は売上3%の罰金の記事画像
業界06.18読了20

EU AI法、8月2日から「AIと対話中です」表示が義務化 ― 違反は売上3%の罰金

出典 ─ EU Artificial Intelligence Act
AI動画に見えない透かしは入っているのか──SynthIDとC2PAを公式資料で確認したの記事画像
活用08.14読了26

AI動画に見えない透かしは入っているのか──SynthIDとC2PAを公式資料で確認した

出典 ─ Google DeepMind
AI生成の表示義務はどこまで──YouTube・TikTok・Meta・Xの規約を原文で確認したの記事画像
業界08.14読了22

AI生成の表示義務はどこまで──YouTube・TikTok・Meta・Xの規約を原文で確認した

出典 ─ YouTube ヘルプ
『AI生成』の表示、法律で義務付けられているのはどこまでかの記事画像
業界09.07読了12

『AI生成』の表示、法律で義務付けられているのはどこまでか

出典 ─ 景品表示法(消費者庁)
AI事業者ガイドライン(第1.2版)とは──総務省・経産省が2026年3月31日に公表。誰が対象で(AI開発者・提供者・利用者)、10の「共通の指針」は何か、法的拘束力はあるのか、第1.2版で加わった「AIエージェント」「フィジカルAI」の定義と留意事項、活用の手引き・チャットボット・チェックリストの使い方の記事画像
業界09.22読了11

AI事業者ガイドライン(第1.2版)とは──総務省・経産省が2026年3月31日に公表。誰が対象で(AI開発者・提供者・利用者)、10の「共通の指針」は何か、法的拘束力はあるのか、第1.2版で加わった「AIエージェント」「フィジカルAI」の定義と留意事項、活用の手引き・チャットボット・チェックリストの使い方

出典 ─ 「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」本編
AI風刺画に警告表示を義務化──ニューメキシコ州法をThe Babylon Beeが提訴の記事画像
業界08.31読了12

AI風刺画に警告表示を義務化──ニューメキシコ州法をThe Babylon Beeが提訴

出典 ─ The Babylon Bee, LLC v