『AI生成』の表示、法律で義務付けられているのはどこまでか
景品表示法の条文(第5条)と、AI生成コンテンツを名指しした条文は存在しない。消費者庁のステルスマーケティング規制ページを確認しても『AI』という語は一度も出てこず、規制対象はあくまで『広告であることを一般消費者が判別できるか』であって『AIが作ったかどうか』ではない。

目次
3行まとめ
- 景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)の条文を確認すると、「AI生成コンテンツの表示」を名指しで義務付ける規定は存在しない。第5条が禁じるのは「優良誤認表示」「有利誤認表示」「内閣総理大臣が指定する表示」の3類型であり、いずれもAIという技術手段そのものを対象にしていない。
- 2023年10月1日から施行されたステルスマーケティング規制(第5条第3号の指定告示)も、消費者庁の解説ページに「AI」という語は一度も登場しない。規制対象は「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」であって、コンテンツの生成手段(人間かAIか)を問う規定ではない。
- 「AI生成」の表示については、既存記事で扱っている通りYouTube・TikTok・Meta・Xなどのプラットフォーム規約レベルでの義務化は進んでいるが、これは各プラットフォームの利用規約による自主ルールであり、日本の法律(景品表示法)による義務ではない、という区別が重要になる。
景品表示法が禁じているのは3類型
景品表示法の正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」で、e-Gov法令検索で条文を確認すると、不当な表示を禁じる第5条は次の3つの類型を列挙している。
- 優良誤認表示(第1号): 商品・役務の品質・規格その他の内容について、実際より著しく優良、または競合他社より著しく優良であるかのように一般消費者に示す表示
- 有利誤認表示(第2号): 価格その他の取引条件について、実際より、または競合他社より著しく有利であると一般消費者に誤認される表示
- 内閣総理大臣が指定する表示(第3号): 前2号のほか、一般消費者に誤認されるおそれがあり、不当に顧客を誘引すると認めて内閣総理大臣が指定するもの
条文にはこの3類型以外の禁止事由は存在せず、「AI」「生成AI」「人工知能」といった語は第5条には一切登場しない。景品表示法はそもそも、コンテンツが人間によって作られたかAIによって作られたかを問う法律ではなく、「表示の内容が消費者に誤認を与えるかどうか」だけを問題にする構造になっている。
ステルスマーケティング規制も「AI」を名指ししていない
第5条第3号の「内閣総理大臣が指定する表示」の一つとして、2023年10月1日に施行されたのが、いわゆる「ステルスマーケティング規制」だ。消費者庁の解説ページによれば、規制対象となるのは「広告であるにもかかわらず、広告であることを隠す」表示、より正確には「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」であり、SNS投稿・レビュー投稿を含むインターネット上の表示からテレビ・新聞・ラジオ・雑誌まで幅広く対象になる。ただし個人の感想等の広告でないものや、テレビCMのように広告だと分かるものは対象外とされる。
本記事執筆にあたり消費者庁の当該解説ページを2026年8月27日にcurlで確認したが、ページ本文中に「AI」「生成AI」「人工知能」という語は一度も登場しない。つまりこの規制は「広告主が誰であるかを消費者が判別できるか」を問うものであり、「表示内容の作成にAIが使われたかどうか」を直接の規制対象にしているわけではない。
それでも間接的に関係しうる場面
とはいえ、AI生成コンテンツが景品表示法に一切引っかからないというわけではない。例えば次のような場面は、既存の3類型のいずれかに該当しうる。
- AIが生成した架空の「利用者の声」「口コミ」を、実在の第三者の感想であるかのように表示した場合→ステルスマーケティング規制(一般消費者が事業者の表示だと判別困難な表示)に抵触しうる
- AIが生成した画像・説明文が、実際の商品・サービスの性能を著しく誇張して見せた場合→優良誤認表示に抵触しうる
ただしこれらは、あくまで「表示が結果として消費者に誤認を与えるかどうか」という既存の枠組みの中で判断される話であり、「AIで作ったから」という理由だけで規制対象になるわけではない。逆に言えば、AIを使っていようがいまいが、誤認を与える表示は元々禁止されている、という当たり前の構造にすぎない。
運用基準本文で確認できた「事業者の表示」の範囲
消費者庁が2023年3月28日付で長官決定として定めた運用基準(PDF、e-Gov上のQ&Aとは別の一次文書)をcurlで取得し、冒頭部分(第1〜第2章)を確認した。この文書は「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(告示)が、具体的にどのような場合に成立するかを場合分けして説明しており、「事業者の表示」に当たる場面を大きく2つに分けている。
| 区分 | 該当しうる具体例(運用基準本文より) |
|---|---|
| 事業者が自ら行う表示 | 事業者と一体と認められる従業員、事業者の子会社等の従業員が行う表示(販売・開発に関わる役員・管理職・担当チームの一員などが、商品の販売促進を目的として行う場合) |
| 事業者が第三者をして行わせる表示 | ①第三者のSNS・口コミサイト上に自社の商品・サービスの表示をさせる場合 ②ECサイトの購入者や「ブローカー」(レビュー等をSNS等で募集する者)に依頼してレビューを表示させる場合 ③アフィリエイトプログラムを通じてアフィリエイターに表示させる場合 |
(表は運用基準PDFの第2章「1 事業者が表示内容の決定に関与したとされるものについて」の記述を要約したもの。)
この運用基準の中に登場する「ブローカー(レビュー等をSNS等において募集する者)」という表現は、レビュー代行業者を名指しした規制上の用語として興味深い。
運用基準を全10ページ通しで確認した結果
本記事は当初、運用基準PDFの冒頭部分(第1〜第2章)しか確認していなかったが、curlで取得した全10ページ・397行分をあらためて通しで読み込んだ。結論として、PDF全文のどこにも「AI」「生成AI」「人工知能」という語は一度も登場しない。第3章(告示の「判別することが困難である」の考え方)と第4章(その他)まで含めて確認した上での結論であり、この記事の以前の版にあった「文書全体を検索したわけではない」という留保は、今回の再確認で解消できた。
第3章には、AI活用の実務で直接参考になる記述がいくつかある。
- ハッシュタグへの埋没は「不明瞭」と明記:運用基準は、事業者の表示である旨を「他の情報に紛れ込ませる場合」の例として、「SNSの投稿において、大量のハッシュタグ……を付した文章の記載の中に当該事業者の表示である旨の表示を埋もれさせる場合」を挙げている。AIにハッシュタグを大量生成させる投稿で、開示表示だけがその中に埋もれると、この基準に触れる可能性がある。
- 「広告」「PR」以外の明瞭な表示例:運用基準は「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」以外にも、「A社から商品の提供を受けて投稿している」といった説明文による表示も、事業者の表示が明瞭になっている例として挙げている。
- 自社サイトでも「第三者の客観的な意見」を装うと開示義務が生じる:事業者自身のウェブサイトでの表示は原則、告示の対象外とされているが、運用基準はただし書きとして「媒体上で、専門家や一般消費者等の第三者の客観的な意見として表示をしているように見えるものの、実際には、事業者が当該第三者に依頼・指示をして特定の内容の表示をさせた場合や、そもそも事業者が作成し、第三者に何らの依頼すらしていない場合」には、事業者の表示であることを明瞭に示さなければならないとしている。運用基準はこの場合の表示例として「弊社から○○先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています。」という文言を挙げている。AIに「専門家風のコメント」や架空の第三者の感想を自社サイト向けに生成させ、実在の第三者の意見であるかのように載せる使い方は、この規定に直接抵触しうる。
第4章「その他」は、この運用基準自体の性格について次のように述べている。
「デジタル領域における表示は、技術の進歩等の変化が速く、現時点では想定しきれない新たな手法が将来的には生じることが考えられるため、取引の実態や社会経済情勢の変化に合わせて、事業者等における予見可能性を確保できるよう、運用基準の明確化を図っていくこととする。」
つまり、消費者庁自身が「デジタル領域の技術は速く変化する」ことを運用基準の中で明言し、将来的な改定の可能性を留保している。生成AIという単語こそ出てこないものの、この一文は「今後新しい技術的な手法が出てきたら運用基準を明確化していく」という含みを持つ、本記事で確認できた唯一の“将来の技術変化”への言及だった。
プラットフォーム規約との違い
本サイトの既存記事「AI生成の表示義務はどこまで──YouTube・TikTok・Meta・Xの規約を原文で確認した」が扱っている通り、YouTubeやTikTokなどの主要プラットフォームは、AI生成コンテンツであることの明示を利用規約レベルで求めるようになっている。これは各プラットフォーム運営企業が独自に定める利用規約上のルールであり、違反した場合の措置(動画の削除・アカウント停止等)もプラットフォーム側の裁量による。これに対し、景品表示法は国の法律であり、違反した場合には消費者庁による措置命令の対象になりうる。ただし課徴金については、法第8条第1項が「第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く)」と定めており、ステルスマーケティング規制(第5条第3号)の違反だけでは課徴金納付命令の対象にならない。同じ表示に優良誤認(第1号)・有利誤認(第2号)が含まれる場合に、その部分が課徴金の対象になりうるという建て付けである。「AI生成の表示義務」を語る際は、この「プラットフォーム規約による自主ルール」と「国の法律による義務」を区別して理解する必要がある。
確認できた範囲・できなかった範囲
- 本記事は消費者庁の公式ページ(景品表示法トップページ・ステルスマーケティング規制解説ページ)およびe-Gov法令検索APIから取得した法令本文(不当景品類及び不当表示防止法 第5条、law_id: 337AC0000000134)、運用基準PDF全10ページを2026年8月31日に
curlで取得・通読した内容にもとづく。運用基準PDF全文に「AI」「生成AI」「人工知能」の語が一度も登場しないことは、この全文確認で確認できた - 個人情報保護法や著作権法など、景品表示法以外の法律がAI生成コンテンツの表示・利用にどう関わるかは、本記事では扱っていない
- 将来的に消費者庁が生成AIを念頭に置いたガイドラインや告示を新設する可能性は排除できないが、本記事執筆時点(2026年8月27日)でその動きが具体化しているかどうかは確認していない
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