2026年8月14日 金曜日
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AI動画に見えない透かしは入っているのか──SynthIDとC2PAを公式資料で確認した

2026年8月14日に一次資料を確認した。Google DeepMindはVeoで作った動画にSynthIDの不可視ウォーターマークを入れると明記し、2025年5月20日の発表時点で累計100億件超に埋め込み済みと公表している。一方のC2PAはMP4(BMFF)にも署名付きの来歴を埋め込む別系統の仕組みだが、公式FAQ自身が「メタデータは不注意にも意図的にも取り除かれうる」と認めている。何が入り、誰が確認でき、どこで壊れるのかを原文ベースで整理した。

AI動画に見えない透かしは入っているのか──SynthIDとC2PAを公式資料で確認した
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2026年8月14日に各社の公式資料を確認した。「AIで作った動画に見えない印が入っているのか」への答えはサービスごとに違い、少なくともGoogleのVeoについては入る、と公式ページに書かれている。ただし「透かし」と呼ばれているものは2系統あり、映像そのものに埋め込まれるSynthIDのような不可視ウォーターマークと、ファイルのメタデータ領域に電子署名付きで書き込まれるC2PAのContent Credentialsは、目的も壊れ方も確認方法も別物である。そして「他人の動画がAI製かどうか」を誰でも任意に判定できる状態には、2026年8月14日時点でなっていない。

・Google DeepMindは「Veoで作られた動画はSynthIDでマークされる」と明記。画像・動画の透かしは「切り抜き、フィルタ追加、フレームレート変更、非可逆圧縮といった改変に耐えるよう設計されている」と書かれている ・2025年5月20日のGoogle発表時点で「100億件超のコンテンツがすでにSynthIDで透かし入りにされている」。ただし同記事の脚注は「動画とテキストの透かし検出は今後数週間で順次展開」と但し書きしている ・C2PAはMP4(BMFF)にも対応するが、C2PA公式FAQは「メタデータは不注意にも意図的にも取り除かれうる」と認め、その対策としてsoft binding(フィンガープリント/不可視透かし)の併用を仕様に置いている

「透かし」と呼ばれているものは2系統ある

まず、この話でいちばん混乱するのは、性質の違う2つの仕組みが同じ「透かし」という言葉で語られている点である。2026年8月14日に確認した各公式資料をもとに、両者を並べる。

比較軸 SynthID型の不可視ウォーターマーク C2PA / Content Credentials
どこに入るか 映像そのもの(生成された瞬間に埋め込まれる) ファイルのメタデータ領域(MP4などのBMFF系を含む)
人間に見えるか 見えない(Google DeepMind「imperceptible to humans」) 見えない。対応ビューアで内容が表示される
何を伝えるか Google AIで生成/編集されたという事実 誰が署名し、どんな来歴か(assertionの集合)
改ざん検出 確認した公式ページには記載なし 暗号ハッシュと電子署名により改ざん検出可
想定される壊れ方 公式は「耐えるよう設計されている」と表現。限界の数値は非公開 「不注意にも意図的にも取り除かれうる」とC2PA公式FAQが明記
主な確認手段 Geminiにアップロードして質問/SynthID Detector(2025年5月時点は順番待ちリスト制) C2PA対応の検証ツール

違いの核心はここにある。C2PA側は署名後の改変を暗号的に検出できる代わりに、メタデータごと消されれば何も残らない。SynthID側は映像そのものに入るぶん消しにくいが、公開されているのは「消えにくいよう設計した」という設計意図の記述までで、どの程度の改変まで検出できるかの数値は見当たらなかった。

Googleの動画側──SynthIDは何をしていると書かれているか

Google DeepMindのSynthIDページは、画像と動画についてこう書いている(2026年8月14日確認)。

SynthID adds an invisible digital watermark to an AI-generated image (or video segment). The watermark doesn't change the image or video quality. It's added the moment content is created, and designed to stand up to modifications like cropping, adding filters, changing frame rates, or lossy compression. (SynthIDはAI生成の画像[または動画セグメント]に不可視のデジタル透かしを加える。透かしは画像・動画の品質を変えない。コンテンツが作られた瞬間に加えられ、切り抜き、フィルタ追加、フレームレート変更、非可逆圧縮といった改変に耐えるよう設計されている)

動画モデル側では、Google DeepMindのVeoページに次の一文がある。

videos made with Veo will be marked with SynthID, our advanced technology for watermarking and detecting content generated by AI (Veoで作られた動画は、AI生成コンテンツの透かし付与と検出のための技術であるSynthIDでマークされる)

規模については、2025年5月20日のGoogle公式ブログに「Over 10 billion pieces of content have already been watermarked with SynthID(100億件超のコンテンツがすでにSynthIDで透かし入りにされている)」とある。同じ記事は、対象がGemini、Imagen、Lyria、Veoに広がったこと、さらにNVIDIAと提携してNVIDIA Cosmosのプレビュー版NIMマイクロサービスが生成する動画にも透かしを入れ、「Google生成分だけでなく、ウェブ上のより多くのコンテンツにSynthIDが埋め込まれる」ことを書いている。Google専用の印ではなくなりつつある。

ここで正確を期しておきたいのは、原文が「designed to stand up to(耐えるよう設計されている)」であって「耐える」と断定していないことである。切り抜きやフレームレート変更に対する検出率の数値、どのくらい編集すると検出できなくなるかの閾値は、今回確認したGoogleの公開ページのいずれにも記載がなかった。

C2PA側は透かしではなく「署名付きの来歴」

C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)の仕様書バージョン2.1を確認した(2026年8月14日)。用語定義はこうなっている。

  • assertion(2.3.1):署名者が作成した、または生成時に収集された、アセットに関する記述のデータ構造
  • claim(2.3.2):assertionの集合を参照する、電子署名され改ざんが検出可能なデータ構造
  • claim signature(2.3.3):署名者の秘密鍵によるclaimへの電子署名
  • C2PA Manifest(2.3.4):1つ以上のassertion、単一のclaim、claim signatureの組み合わせによる、アセットの来歴に関する情報の集合
  • Content Credential(2.3.6):「C2PA Manifestの、技術用語でない優先的な呼称」

つまりニュースなどで見る「Content Credentials」は、中身としてはこのManifestのことである。そして仕様は、コンテンツとの結び付け方を2種類に分けている。

  • hard binding(2.3.12):アセット全体または一部を一意に識別する暗号ハッシュ
  • soft binding(2.3.13):統計的に一意でない識別子。フィンガープリント、または対象コンテンツに埋め込まれた不可視ウォーターマーク

動画については、BMFFベースのハッシュアサーション(c2pa.hash.bmff.v3)が定義され、付録A.4にBMFFベースのアセットへのManifest埋め込み方法が置かれている。MP4に署名付き来歴を埋め込む道は、仕様として用意されている。

注目すべきは、仕様が最初から「動画は再エンコードされて出回る」前提で書かれていることである。仕様2.2.5はasset renditionを「再エンコードやスケーリングといった非編集的変換が加えられた表現」と定義し、その例として「帯域や画面解像度を落とすために再エンコードされた動画ファイル」を挙げている。そのうえで9.3節はsoft bindingについてこう書く。

These soft bindings enable digital content to be matched even if the underlying bits differ. For example, an asset rendition in a different resolution or encoding format. (soft bindingは、基となるビット列が異なっていてもデジタルコンテンツを照合できるようにする。たとえば解像度やエンコード形式が異なるasset renditionの場合である)

ハッシュによるhard bindingは、ビットが1つ変われば一致しない。だから動画のように再エンコードが前提の媒体では、ハッシュだけでは足りず、不可視透かしやフィンガープリントとの併用が仕様レベルで想定されている。C2PAとSynthIDは競合ではなく、C2PAの枠内でSynthIDのような透かしが「soft bindingの一種」として位置づけられる関係にある。

では、C2PAが付いていると何が分かるのか。公式FAQと仕様から整理する。

C2PAで分かること C2PAでは分からないこと
署名した製品がトラストリスト上の適合製品かどうか 制作者個人が誰か(コア仕様は帰属を扱わない)
署名後にファイルが改変されたかどうか(ハッシュと署名が壊れる) 署名が付いていないファイルがAI製かどうか
assertionに記録された範囲の編集履歴・使用ツール assertionに書かれていない工程
ingredient(素材)に来歴が付いていたかどうか 各ingredientの完全な来歴(元データにアクセスできない場合)

帰属についてFAQは「The core C2PA Content Credentials specification does not support attribution of content to individuals or organizations, so that it can remain maximally privacy-preserving(コア仕様は、最大限プライバシーを保てるようにするため、個人や組織への帰属をサポートしない)」と明記している。「C2PAが付いていれば誰が作ったか分かる」という理解は、少なくともコア仕様の範囲では正しくない。

消せるのか──公式資料が認めている範囲

この問いに対して、規格側と大手プラットフォーム側の両方が、かなりはっきりした書き方をしている。

C2PA公式FAQの該当箇所はこうである。

While metadata can be removed inadvertently or intentionally, it is vital information for consumers, and recovery mechanisms such as soft bindings and cloud retrieval can be used to restore provenance data. Faking Content Credentials would require breaking current cryptographic standards—an infeasible task with today's technology. (メタデータは不注意にも意図的にも取り除かれうるが、それは消費者にとって不可欠な情報であり、soft bindingやクラウドからの取得といった回復手段で来歴データを復元できる。Content Credentialsを偽造するには現行の暗号標準を破る必要があり、今日の技術では実行不可能な作業である)

ここには非対称がある。偽造は現実的でないが、除去は起こりうる、と規格側が認めている。だからこそFAQ内の別の項目で、メタデータが剥がされた場合の対策としてsoft bindingによる「Durable Content Credentials」が説明されている。

プラットフォーム側では、Metaが2024年2月6日公開(2025年4月1日更新)の記事で次のように書いている。

It's not yet possible to identify all AI-generated content, and there are ways that people can strip out invisible markers. (すべてのAI生成コンテンツを識別することはまだ不可能であり、不可視のマーカーを剥ぎ取る方法は存在する)

同じ記事は動画・音声について、当時の状況をこう書いている。

While companies are starting to include signals in their image generators, they haven't started including them in AI tools that generate audio and video at the same scale, so we can't yet detect those signals. (各社は画像生成側に信号を入れ始めているが、音声・動画を生成するAIツールには同じ規模では入れ始めておらず、それらの信号はまだ検出できない)

これは2024年時点の記述で、その後Veoなど動画側の導入は進んでいる。ただし画像より遅れて始まった経緯は、いま出回っている動画がすべて印付きとは限らないことを意味する。

なお、Googleが限界を数値的に説明しているのはテキスト側である。開発者向けドキュメントはSynthID Textについて「AI生成テキストが徹底的に書き直されたり、別の言語に翻訳されたりすると、検出器の信頼度スコアは大きく低下しうる」と書き、検出器の出力は「透かしあり/透かしなし/不確実」の3状態だとしている。同等の限界記述が動画側にあるかどうかは、今回確認したページの範囲では見つけられなかった。

本記事では、透かしやメタデータを除去する具体的な手順は扱わない。透明性の仕組みを回避する手引きにしないためで、テキスト側のClaudeの透かし導入方針を扱った記事と同じ方針である。ここで示すのは「作った側・規格側が消えうると認めている」という事実までである。

相手の動画がAI製かどうか、自分で判定できるのか

埋め込み側の話と、判定できるかどうかは別問題である。2026年8月14日時点で確認できた検証ルートを並べる。

ルート 分かること 使える人 出典
Geminiに動画をアップロードして質問 Google AIで生成・編集されたか(SynthIDの有無) 一般ユーザー Google DeepMind SynthIDページ
SynthID Detector SynthIDの有無と、透かしが入っている可能性が高い部分のハイライト 記者・メディア関係者・研究者が順番待ちリストに登録 Google公式ブログ(2025年5月20日)
C2PA対応の検証ツール 署名付き来歴がある場合の、その内容と改ざんの有無 誰でも C2PA公式FAQ
汎用のAI検出ツール 統計的な推定のみ 誰でも 別記事参照

いちばん手軽なのは1行目である。SynthIDページはこう書いている。

Simply upload the image, video or audio clip to your chat, and ask if it's been created or altered by Google AI. Gemini will check for a SynthID watermark, and let you know if it finds one. (画像、動画、音声クリップをチャットにアップロードして、Google AIによって作成または改変されたかを尋ねるだけでよい。GeminiはSynthIDの透かしを確認し、見つかれば知らせる)

ただし読み落としてはいけないのは、この問いが「Google AIによって作られたか」であることだ。SynthIDが入っていない他社モデルの出力については、この方法では何も分からない。「Geminiがシロと言った=AI製ではない」ではなく、「SynthIDは見つからなかった」でしかない。

SynthID Detectorは、2025年5月20日の発表時点で「記者、メディア関係者、研究者が順番待ちリストに登録できる」段階であり、同記事の脚注には「Product in development; final product details may differ. Video and text watermark detection will be rolled out in the coming weeks.(開発中の製品であり最終仕様は異なりうる。動画とテキストの透かし検出は今後数週間で順次展開される)」とある。動画の検出は、発表時点では未展開だったということになる。2026年8月14日時点の展開状況は、公開ページからは確認できなかった。

統計的推定に頼る汎用のAI検出ツールについては、AI検出ツールが見逃しと冤罪の両方向に壊れている実態を別記事にまとめている。埋め込み側の印が無い場合、残る手段は精度に問題があると分かっているツールだけになる、というのがこの2本を並べたときの構図である。

自分が何も言わなくてもラベルが付く経路がある

動画を作る側にとって、この話は他人事ではない。YouTubeヘルプは、プラットフォームが自動でAIラベルを付ける条件を次のように挙げている。

YouTube may automatically apply an AI label on the video player or in the expanded description for: Content made using YouTube's GenAI tools, Content that contains C2PA metadata, Content that our internal systems detect is AI generated or altered. (YouTubeは次のコンテンツについて、動画プレーヤー上または展開された説明欄に自動でAIラベルを付す場合がある:YouTubeの生成AIツールで作られたコンテンツ、C2PAメタデータを含むコンテンツ、社内システムがAI生成または改変と検出したコンテンツ)

TikTokも2024年5月9日の公式ニュースルームで、「他のプラットフォームで作られたAI生成コンテンツへの自動ラベル付与を、Content Credentialsの読み取り機能の提供によって拡大する」と書き、さらに「今後数か月のうちに、TikTok側のコンテンツにもContent Credentialsを付け始める。それはダウンロードされた後もコンテンツに残る」としている。同記事は「自動ラベルの増加は当初は緩やかかもしれない。識別してラベルを付けるにはContent Credentialsのメタデータが必要だからだ」とも認めている。

制作者視点で言えば、素材にAI生成クリップを1本混ぜた場合、書き出し方によってはC2PAメタデータが残って自動ラベルの対象になりうるし、逆に再エンコードで落ちる可能性もある。どちらに転ぶかは使うツールの実装次第で、当サイトでは各編集ソフトの挙動を実測していないため断定しない。

はっきりしているのは、機械可読の印に自分の透明性を委ねきれないことである。SynthIDは「耐えるよう設計」までしか公表されておらず、C2PAは規格側が除去されうると認めている。概要欄など人間が読める場所での開示のほうが、少なくとも自分の意図は正確に伝わる。

正直な但し書き

今回確認できなかったこと、および記述の限界を残しておく。

  • OpenAIのSoraについては、2026年8月14日に openai.comhelp.openai.com の双方がHTTP 403を返し、公式ヘルプの原文を確認できなかった。したがって本記事はSoraの可視ウォーターマークやC2PA対応について何も主張しない
  • Runway、Luma、Kling、Adobe Fireflyなど、その他の動画生成サービスの公式ヘルプは今回未確認である
  • SynthIDの検出率・誤検出率、およびどの程度の改変まで検出できるかの閾値は、今回確認したGoogleの公開ページのいずれにも記載がなかった
  • 「100億件超」は2025年5月20日発表時点の数字である。2026年8月14日時点の最新値は確認できなかった
  • SynthID Detectorが2026年8月14日時点でも順番待ちリスト制なのか、一般提供に移行したのかは確認できなかった
  • 参照したC2PA仕様はバージョン2.1である。それ以降のバージョンとの差分は確認していない
  • Veoの可視ウォーターマーク(画面上に見えるロゴ)の有無や適用条件は、今回確認したページには記載がなかった
  • 日本国内の法制度や表示ルールについては、本記事では扱っていない
  • Google DeepMindの「designed to stand up to」は設計意図の記述であり、実測された耐性ではない。本記事もそれ以上のことは書いていない

出典

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