社会保険労務士とAI活用──就業規則作成・労務相談AIの現在地【2026年】
全国社会保険労務士会連合会は2024年9月9日「社会保険労務士向け生成AI活用ガイドブック」を公開し、2025年3月末時点でダウンロード数4,524回・eラーニング視聴者数1,276人に達した。労務管理クラウド最大手SmartHRの「AIアシスタント」は提供開始から約1年で累計回答回数15万回・導入企業900社を突破。一方、厚生労働省が無料公開する「就業規則作成支援ツール」はAIを使わないテンプレート型で、AIによる就業規則の自動生成はまだ民間サービスが中心という実態を出典付きで整理した。

3行まとめ
- 全国社会保険労務士会連合会は2024年9月9日に「社会保険労務士向け生成AI活用ガイドブック」を公開、2025年3月末時点でダウンロード数4,524回・eラーニング視聴者数1,276人に達した
- 労務管理クラウド最大手SmartHRの「AIアシスタント」は、就業規則など社内文書をもとに従業員の質問へ自動回答する機能で、提供開始(2025年7月)から約1年で累計回答回数15万回・導入企業900社を突破した
- 厚生労働省が無料公開する「就業規則作成支援ツール」はAIを使わないテンプレート型であり、AIで就業規則案そのものを"作成"するサービスは、本記事執筆時点では民間の生成AI活用が中心
社労士とAI──連合会の取組みから見る現在地
全国社会保険労務士会連合会(以下、連合会)は2024年9月9日、「社会保険労務士向け生成AI活用ガイドブック」を公開し、同日、これを基にしたeラーニング動画も配信を開始した。連合会の「令和6年度事業報告書」によれば、2025年3月末時点でガイドブックのダウンロード数は4,524回、eラーニングの受講者数は1,276人に達したという(連合会「令和6年度事業報告書」)。
同報告書は、連合会内に「イノベーションAIプロジェクト」(河村卓プロジェクトリーダー)が設置され、社労士業務におけるAI活用を検討していることも明らかにしている。地域単位でも動きがあり、中国・四国地域協議会は2025年3月14日に「生成AI・DXがもたらす人事・人材育成の変化と社労士業務への影響と期待」と題した研修を実施し、118人が受講した(同事業報告書)。
一方、連合会が2024年4〜6月に実施し25,408人から回答を得た「2024年度 社労士実態調査」(有効回収率56.0%)には、生成AIの利用に関する設問自体が存在しない。同調査で確認できるデジタル関連の指標は、電子申請を「7割以上利用している」52.3%、IT-BCP(ITに関する事業継続計画)を「策定している」4.0%、サイバーリスク保険の加入率36.4%などで、社労士業界全体のAI活用率を示す公的な悉皆データは、本記事執筆時点では確認できなかった(連合会「2024年度 社労士実態調査」詳細版)。
就業規則作成へのAI活用──公式ツールと民間AIサービスの違い
「AI 就業規則 作成」で検索する際にまず押さえておきたいのは、厚生労働省が無料で公開している公式の「就業規則作成支援ツール」(スタートアップ労働条件サイト内)自体は、AIを使っていないという点だ。同ツールは、厚生労働省の「モデル就業規則」を参考に画面上の項目を埋めていくとPDFが出力されるテンプレート型のツールで、ページ内にAI・生成AIに関する記載はない(厚生労働省「就業規則作成支援ツールについて」)。
AIを使った就業規則関連サービスとして具体的な数字が確認できたのは、労務管理クラウド最大手SmartHRの「AIアシスタント」だ。同社は2026年7月1日、2025年7月の提供開始から約1年で、従業員からの問い合わせに対する累計回答回数が15万回を突破し、導入企業数が900社に達したと発表した(SmartHR「プレスリリース」2026年7月1日)。この機能は、就業規則や各種手続きに関する社内ドキュメントをもとにAIが従業員の質問へ即時回答するもので、就業規則の条文そのものをAIが新規作成する機能ではない点には注意が必要だ。同社が2025年12月に実施した調査では、労務担当者が受ける問い合わせのうち「マニュアルや規定を見ればわかる」内容が計88%を占めていたという(同社発表)。導入事例として、約4,000人規模のコスモ石油販売株式会社、約1,800人(うちパート・アルバイト77%)の俺の株式会社の名前が挙げられている(同社発表)。SmartHR社内でも2025年8月の1カ月間の実証実験で、問い合わせ対応が全体で約10%、総務・情シス関連で約20%削減され、200件以上の文書をアップロードした後も回答成功率82%を維持したという(同社発表)。
労務相談AI──社労士事務所・企業労務部門向けサービスの動き
社労士事務所や企業の労務部門を対象にしたAIサービスも登場している。株式会社コマースロボティクスは2026年2月16日、労務部門特化型の生成AIアシスタント「AI労務君」の提供開始を発表した。RAG(検索拡張生成)技術で法令解説やよくある質問に即時回答する仕組みで、月額3万円から、従業員100名以上の企業の労務部門を対象としている(同社「PR TIMES」発表)。社労士事務所向けには、PSRネットワーク経由で提供される「HRbase PRO」があり、専門家監修の資料をもとにAIが自動回答を作成する「労務アシスタントAI」に加え、法的リスクのある規定や法改正未対応の項目を検出する「就業規則チェック機能」を備える(PSRネットワーク公式サイト)。
民間の株式会社未来トレンド機構が2025年11月13日に発表した調査では、弁護士100名・社労士100名の合計200名を対象に「生成AIの業務利用率は66%」との結果が示された(同社「PR TIMES」発表)。ただしこの数字は弁護士と社労士を合算した値で、社労士単独の利用率は同発表からは読み取れない。
正直に書くと
- 「就業規則を新規に作成する」AIサービスと「既存の就業規則をもとに従業員の質問に回答する」AIサービスは機能が異なる。本記事で確認できたSmartHRの「AIアシスタント」は後者であり、検索意図とサービス内容がずれやすい点に注意してほしい
- 厚生労働省の公式ツールはAIを使わないテンプレート型であり、政府が公式にAI就業規則作成ツールを提供しているわけではない
- 「生成AI利用率66%」という数字は、弁護士・社労士合計200名という小規模な民間調査(未来トレンド機構)によるもので、社労士単独の数字ではなく、調査方法の詳細も限定的にしか確認できなかった
- 連合会の「2024年度 社労士実態調査」(n=25,408、有効回収率56.0%)にはAI利用に関する設問がなく、社労士全体のAI活用率を示す公的な統計は本記事執筆時点で見当たらなかった
- 愛知労働局の「AIチャットボットで社内QAの自動化」事例は令和3年度(2021年度)発行の資料であり、生成AIが普及する前の技術を指している可能性が高い。2026年時点の生成AIサービスとは技術的な前提が異なる点に留意されたい
- 就業規則は労働基準法等の強行法規に基づく重要書類であり、AIが生成・提案した文案をそのまま採用すると、法令違反や労使トラブルにつながるリスクがある。就業規則の作成・改定・届出、および労務相談の内容は、AIツールの出力結果を鵜呑みにせず、必ず社会保険労務士・弁護士など専門家に確認のうえで進めてほしい。最終判断は必ず専門家へ相談することを推奨する
出典・参考
- 全国社会保険労務士会連合会「令和6年度事業報告書」
- 全国社会保険労務士会連合会「2024年度 社労士実態調査」調査結果(詳細版)(2024年11月公表)
- 株式会社SmartHR「SmartHRの『AIアシスタント』、提供開始から約1年で問い合わせへの自動回答が15万回を突破」(2026年7月1日)
- 厚生労働省「就業規則作成支援ツールについて」(スタートアップ労働条件)
- 株式会社コマースロボティクス「【企業向け】労務特化型AIアシスタント『AI労務君』を提供開始」(2026年2月16日、PR TIMES)
- 株式会社未来トレンド機構「弁護士・社労士の生成AI利用率は66%。広がるAI活用」(2025年11月13日、PR TIMES)
- 愛知働き方改革推進支援センター「AIチャットボットで社内QAの自動化」(令和3年度・厚生労働省・愛知労働局委託事業)
本記事は公開されている一次資料・企業公式発表の範囲での整理であり、法務・労務に関する助言を構成するものではない。就業規則の作成・改定、労務相談の内容については、必ず社会保険労務士・弁護士など専門家に確認のうえで判断してほしい。数字は各出典の発表・調査時点のものであり、最新の状況とは異なる場合がある。
出典・参照資料
- 一次資料全国社会保険労務士会連合会 令和6年度事業報告書 ↗
- 一次資料「2024年度 社労士実態調査」調査結果(詳細版)— 全国社会保険労務士会連合会 ↗
- 一次資料SmartHRの「AIアシスタント」、提供開始から約1年で問い合わせへの自動回答が15万回を突破 — 株式会社SmartHR ↗
- 一次資料就業規則作成支援ツールについて — スタートアップ労働条件(厚生労働省) ↗
- 一次資料【企業向け】労務特化型AIアシスタント「AI労務君」を提供開始 — 株式会社コマースロボティクス(PR TIMES) ↗
- 二次資料弁護士・社労士の生成AI利用率は66%。広がるAI活用 — 株式会社未来トレンド機構(PR TIMES) ↗
- 一次資料AIチャットボットで社内QAの自動化(働き方改革応援レシピNo.120)— 愛知働き方改革推進支援センター(厚生労働省・愛知労働局委託事業) ↗
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