自治体のAI活用──市区町村レベルの窓口DXとチャットボット導入の実態【2026年】
総務省の令和7年度調査(対象1,788自治体・回答率100%)によると、AI導入済みの「その他市区町村」は62%(都道府県98%・指定都市100%)、実証実験・導入予定・検討中を含めると約80%が取り組んでいる。一方、生成AI導入済みの市区町村は46%にとどまる。厚木市・瀬戸市・江津市の住民向けAIチャットボット事例と合わせ、市区町村レベルのAI活用の現在地を一次資料で整理した。

目次
3行まとめ
- 総務省「令和7年度地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」(対象1,788自治体、回答率100%)によれば、AI導入済みの「その他の市区町村」は62%(都道府県98%、指定都市100%)。実証中・導入予定・検討中を含めると約80%が取り組んでいる
- 生成AI(本調査では上記AIと別カテゴリで集計)の導入済み市区町村は46%(都道府県・指定都市は100%)で、AIより1年遅れて2023年度から調査が始まった分、普及はやや後発
- 厚木市(AIチャットボット・5言語自動翻訳)、瀬戸市(AIコンシェルジュ)、江津市(生成AIチャットボット試験運用)など、住民向けチャットボットの導入発表が2024〜2026年にかけて相次いでいる
なぜ「市区町村レベル」で見る必要があるのか
政府全体のAI活用については、デジタル庁が中央省庁18万人を対象に展開する生成AI基盤「Gennai」が2026年5月から大規模パイロットに入るなど、国レベルの動きがニュースになりやすい。しかし、住民が実際に窓口や電話、LINEで接するAIの大半は、都道府県・指定都市よりも数が多く体力差も大きい「その他の市区町村」(政令指定都市を除く一般市・町・村・特別区)が導入するものだ。
総務省は平成30年度から毎年度、都道府県・市区町村を対象に「AI・RPAの実証実験・導入状況等調査」を実施しており、令和5年度からは生成AIについても別枠で調査を行っている。令和7年度調査は令和7年10月31日時点の状況を対象に、都道府県47団体・市区町村1,741団体の計1,788団体に照会し、1,788団体(100%)から回答を得た(総務省)。本記事では、この調査結果と、実際に住民向けサービスを稼働させた市区町村の一次発表を突き合わせて、市区町村レベルの実態を整理する。
AI導入率──「その他市区町村」は62%、指定都市以上とは差がある
総務省調査における「AI」は生成AIを含まない区分(画像認識・音声認識・チャットボット等の従来型AI)として集計されている。
| 自治体区分 | AI導入済み割合 | 実証中・予定・検討中を含む |
|---|---|---|
| 都道府県 | 98% | ― |
| 指定都市 | 100% | ― |
| その他の市区町村 | 62% | 約80% |
出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進(令和7年度版)」
RPA(定型業務の自動化ソフト)についても同様の傾向が見られる。RPA導入済みの割合は都道府県98%、指定都市100%に対し、その他の市区町村は44%(実証中・予定・検討中を含めると約62%)にとどまる(同資料)。
AI・RPAのいずれかを導入済みの団体は全体で1,215団体(68.0%)。内訳はAIのみ導入393団体(22.0%)、RPAのみ導入84団体(4.7%)、両方導入738団体(41.3%)となっている(同資料、令和7年10月31日時点)。さらに生成AIを加えた「AI・RPA・生成AIのいずれか」を導入済みの団体は1,322団体(74.0%)まで増える。
体力差の背景には、AI導入に伴う人材・予算の制約がある。総務省調査でAI導入における課題を複数回答で尋ねたところ、「取り組むための人材がいない又は不足している」が826件で最多、次いで「取り組むためのコストが高額であり予算を獲得するのが難しい」(642件)、「導入効果が不明」(571件)の順だった(同資料)。RPAについても「人材がいない又は不足している」(1,026件)が最多で、構造は同じだ。都道府県・指定都市と比べ、その他の市区町村では「何から取り組めばいいのか不明」「導入に向けた検討が進んでおらず課題が不明」という回答が目立つ、と総務省資料は指摘している。
何にAIを使っているか──音声認識・文字認識が先行
「導入済」「実証中」の団体を対象にした機能別の導入件数(複数回答)では、「音声認識」(会議録作成・多言語翻訳等)が967件で最多、次いで「文字認識」(AI-OCRによる申請書読取等)が629件だった(総務省、令和7年10月31日時点)。都道府県では「チャットボットによる応答」が最も多く、指定都市・その他市区町村では「音声認識」が最多という違いも見られる。
導入効果の具体例として、総務省資料には各自治体からの「主な例」が掲載されている。
| 導入機能 | 効果 | 自治体の人口規模 |
|---|---|---|
| 音声認識 | 議事録作成業務で年間5,770時間削減(57.7%減) | 3.9万人 |
| 文字認識(AI-OCR) | 税収納業務の消込作業で年間1,200時間削減(60%減) | 3.9万人 |
| チャットボット | HP上のAIチャットボットが年間55,306件の住民問合せに対応し、1,930時間の窓口業務時間を削減(30%減) | 20.0万人 |
| マッチング | 保育施設利用調整業務で年間680時間削減(80%減) | 30.3万人 |
| 最適解表示 | 税滞納管理AIで1件あたりの調査判断時間が30分→3分に短縮(90%減)、預金口座判明数が8倍、年間2,475時間削減 | 74.6万人 |
出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進(令和7年度版)」(いずれも「導入済」「実証中」と回答した団体からの主な例)
住民サービス向上の事例としては、AIによる乗合タクシーのデマンド運行で運行時間を年間1,500時間以上削減しつつ満足度が7.9%から72%に上昇した例(人口3.6万人)や、AIによる救急需要予測で救急車の現場到着所要時間が平均約15秒短縮した例(人口13.5万人)も挙げられている(同資料)。いずれも「主な例」として紹介された個別事例であり、全団体の平均的な効果ではない点には注意が必要だ。
生成AIの普及は「1年遅れ」──市区町村の導入済みは46%
生成AI(ChatGPT等の対話型AI)に関する調査は令和5年度から別枠で開始された。令和7年度調査では、生成AI導入済みの団体は都道府県・指定都市で100%、その他の市区町村で45.6%(概要資料では「46%」と表記)となった。実証中・導入予定・検討中を含めると、その他市区町村でも約88%が生成AIの導入に向けて取り組んでいる(総務省「自治体における生成AI導入状況(令和7年度版)」)。
生成AIの活用事例(複数回答、令和7年度・件数順)は次の通り。
| 順位 | 活用事例 | 件数(令和7年度) |
|---|---|---|
| 1 | あいさつ文案の作成 | 1,292件 |
| 2 | 議事録の要約 | 1,131件 |
| 3 | 議会の想定問答の文案の作成 | 1,085件 |
| 4 | メール文案の作成 | 1,052件 |
| 5 | 企画書案の作成 | 997件 |
出典:同資料
導入効果の例として、あいさつ文・メール文案作成などの文章作成業務が月190時間から月51時間に削減(73%削減、人口5.1万人)、議会答弁ではRAG(過去答弁を外部ソースとして参照させる仕組み)を活用し、150問を超える想定問答のうち最大96%について答弁案作成や補足資料準備にAIを活用した例(人口5.8万人)が紹介されている(同資料)。
生成AI利用に関するガイドラインの策定状況は、令和7年度時点で「策定済」853団体が「未策定」737団体を上回った。導入状況別に見ると、生成AIを「導入済」の団体では81%がガイドライン策定済みだが、「実証中」の団体では38%にとどまる(同資料)。導入している生成AIサービスは、「QommonsAI」「LoGoAIアシスタント」「自治体AI zevo」「exaBase生成AI for 自治体」など自治体向けサービスが上位を占めている(同資料)。
実際の市区町村の取り組み──厚木市・瀬戸市・江津市の例
総務省調査は全国集計値だが、個別の自治体がどのようにAIを実装しているかは、各自治体・ベンダーの発表からより具体的に見える。
厚木市(人口22.2万人)──LINE公式アカウントの全面リニューアル
株式会社Bot Expressは2026年4月2日、神奈川県厚木市がLINE公式アカウント(友だち追加数38,925人、2026年4月1日時点)を全面リニューアルしたと発表した。AIチャットボットとAIごみ写真判定機能を実装し、住民の質問にAIが自動回答する仕組みを整備。英語・韓国語・中国語(繁体・簡体)・ベトナム語の5言語に対応し、気象庁の防災情報と連携した多言語自動配信機能も備える(Bot Expressプレスリリース)。同社によれば、GovTech Expressは2025年12月時点で市区町村・都道府県・省庁など350以上の団体に導入されているという。
瀬戸市──AIコンシェルジュを市ホームページとLINEに実装
株式会社Playnext Labは2026年4月3日、愛知県瀬戸市が市民向けAIチャットボット「スマート公共ラボ AIコンシェルジュ」の提供を開始したと発表した。Azure AI SearchやGoogle Custom Searchで情報を取得し、Azure OpenAI Serviceで自然言語の回答を生成する仕組みで、市ホームページとLINE公式アカウントの両方から利用できる(同社プレスリリース)。プレスリリースでは「住民サービスの迅速化と24時間対応」「職員の業務負担軽減」などのメリットが挙げられているが、具体的な利用件数やコスト削減効果の数字は記載されていない。
江津市(島根県)──生成AIチャットボットを2024年8月から試験運用
島根県江津市は、市ホームページと市公式LINEアカウントで24時間365日対応する生成AIチャットボットの試験運用を開始したと公式ページで案内している(掲載日2024年8月21日更新)。市の情報と寄せられた質問をもとに生成AIが回答する仕組みで、ゴミの分別方法や住民票の取得可否といった定型的な問い合わせに対応する(江津市公式サイト)。人口規模の小さい自治体でも、既製の生成AIチャットボットサービスを使えば導入のハードルが下がっている一例と言える。
RPAの共同利用は「実施中53件」にとどまる
複数自治体でRPAのライセンスや仕様書を共有する「共同利用」についても、総務省調査は集計している。「実施中」と回答した団体は53件(都道府県1、指定都市0、その他市区町村52)、「検討中」は28件で、「実施予定なし」が1,707件と大半を占める(総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進(令和7年度版)」)。共同利用の形式としては「参加団体で仕様書等を統一し、調達は各団体が実施」が34件で最も多い。単独導入が難しい小規模自治体にとって共同調達は選択肢の一つだが、現時点ではまだ少数派にとどまっている。
正直に書くと
- 総務省調査の数字は自治体からの自己申告(アンケート)に基づくものであり、総務省が個別に導入効果を検証・監査したものではない。回答率100%は「回答があった」ことを示すもので、記載内容の正確性まで担保するものではない
- 「AI・RPA・生成AIのいずれかを導入済み1,322団体(74.0%)」の内訳として資料が明示するのは「AIのみ197団体」「RPAのみ48団体」「生成AIのみ107団体」「いずれも513団体」の4区分(合計865団体、48.4%)で、残り約450団体分(AI+RPAのみ、AI+生成AIのみ等の組み合わせ)の内訳は、本記事で確認できた資料の範囲では特定できなかった
- 導入効果として紹介されている数字(議事録作成57.7%減、税収納業務60%減等)は、各自治体からの「主な例」として資料に掲載されたものであり、全国の導入団体の平均的な効果を示すものではない
- 厚木市・瀬戸市・江津市の事例は、個別自治体・ベンダーの発表に基づくものであり、全国的な普及率を示すものではない。全国的な普及率としては総務省調査(その他市区町村でAI導入済み62%、生成AI導入済み46%)を参照されたい
- 瀬戸市の事例は「住民サービスの迅速化」等のメリットが定性的に述べられているのみで、利用件数や削減時間などの定量的な効果はプレスリリース時点では公表されていない
- 生成AIの導入における課題(AI生成物の正確性への懸念等)について、総務省資料には順位は明記されているが、具体的な件数は本記事で確認したPDFのグラフ部分の可読性の制約により正確に読み取れなかったため、本記事では件数を記載していない
- 本記事は公開されている一次資料の範囲での整理であり、個別自治体の導入判断や住民サービスの評価を構成するものではない
出典・参考
- 総務省「令和7年度地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」の調査結果の公表(令和8年4月24日)
- 総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進(令和7年度版)」概要資料
- 総務省「自治体における生成AI導入状況(令和7年度版)」概要資料
- 江津市「生成AIを活用したチャットボット導入のお知らせ」
- 株式会社Playnext Lab「【瀬戸市】市民向けAIチャットボット『スマート公共ラボ AIコンシェルジュ』提供開始」(2026年4月3日)
- 株式会社Bot Express「神奈川県厚木市、AI活用・多言語対応を前提にLINE公式アカウントを全面リニューアル」(PR TIMES、2026年4月2日)
本記事は市区町村レベルのAI活用に関する概況の整理であり、導入・政策の助言を構成するものではない。数字は各出典の調査・発表時点のものであり、最新値と異なる場合がある。
出典・参照資料
- 一次資料令和7年度「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」の調査結果の公表 — 総務省 ↗
- 一次資料自治体におけるAI・RPA活用促進(令和7年度版)概要資料 — 総務省 ↗
- 一次資料自治体における生成AI導入状況(令和7年度版)概要資料 — 総務省 ↗
- 一次資料生成AIを活用したチャットボット導入のお知らせ — 江津市 ↗
- 一次資料【瀬戸市】市民向けAIチャットボット「スマート公共ラボ AIコンシェルジュ」提供開始 — 株式会社Playnext Lab ↗
- 一次資料神奈川県厚木市、AI活用・多言語対応を前提にLINE公式アカウントを全面リニューアル — 株式会社Bot Express(PR TIMES) ↗
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