ナレッジカットオフとは──検索を繋いでも古い前提が混ざる理由
ナレッジカットオフとは、AIモデルの学習データが打ち切られた日付のことです。2026年8月27日に公式ドキュメントで確認したところ、Claude Opus 5は2026年5月、GPT-5.6 Sol/Terra/Lunaは2026年2月16日、Gemini 3.7 Flashは2026年3月でした。ただしGoogleの公式モデルカードは、同じGemini 3.7 Flashについて「分野によっては知識が2025年1月までに制限される」と明記しています。

目次
ナレッジカットオフ(knowledge cutoff)とは、AIモデルの学習に使われたデータが打ち切られた日付のことです。この日以降に起きたことをモデルは学習していないため、聞かれても答えられないか、古い前提のまま答えます。ただし実務上やっかいなのはそこではありません。締め日は1モデルにつき1つではなく、ベンダーによって「学習データの締め日」と「信頼できる知識の締め日」の2つが別々に公開されていること、そして同じモデルの中でも分野によって知識の新しさが大きくずれることです。この記事では2026年8月27日に3社の公式ページを開いて確認した締め日を並べ、Web検索を繋いでも古い前提が混ざる仕組みを各社ドキュメントの記述から整理します。
- Anthropicは「学習データの締め日(training data cutoff)」と「信頼できる知識の締め日(reliable knowledge cutoff)」を別々の項目として公開しており、Claude Haiku 4.5では前者が2025年7月、後者が2025年2月と5か月ずれている
- Google DeepMindのGemini 3.7 Flash公式モデルカードは、締め日を2026年3月としたうえで「分野によってはモデルの知識が2025年1月までに制限される場合がある」と明記している。1モデル内で最大14か月の幅がある
- Web検索ツールを有効にしても解決しない。Anthropicの公式ドキュメントは「Claudeがプロンプトに基づいて検索するかどうかを判断する」と書き、数学・科学の基礎・コーディングの概念といった「安定した知識」については検索せずに答えると明示している
ナレッジカットオフは2つの日付に分かれている
Anthropicの公式APIドキュメント(Models overview)は、各モデルの仕様表に「Reliable knowledge cutoff(信頼できる知識の締め日)」と「Training data cutoff(学習データの締め日)」という2つの行を並べています。前者の定義は同ページの説明文に「そのモデルの知識が最も広範かつ信頼できる日付」とあり、後者は「学習に用いたデータのより広い範囲の日付」と書かれています。
学習データ自体はもっと新しい日付まで含まれるが、その終盤の期間は「知識として信頼できる密度に達していない」という区別です。同ページの値では、Claude Haiku 4.5がreliable knowledge cutoff = 2025年2月、training data cutoff = 2025年7月で5か月の差がありました。Transparency Hubには、Claude Opus 4とClaude Sonnet 4について「学習データの締め日は2025年3月。ただし信頼できる知識の締め日は2025年1月」という記述も残っています。
この差の区間が実務で最も事故りやすい帯です。モデルは「知らない」とは言わず、断片的な情報で答えることがあります。LLMのハルシネーション(幻覚)の原因と対策とも重なる構造です。
主要モデルの締め日は2026年8月27日時点でこうなっている
以下はすべて2026年8月27日に各社の公式ページを開いて確認した値です。表記の粒度(月単位か日付単位か)はベンダーの原文どおりに残しています。
| モデル | 公表されている締め日 | 出典ページ |
|---|---|---|
| Claude Opus 5 | 2026年5月 | Anthropic Transparency Hub |
| Claude Sonnet 5 | 2026年1月 | Anthropic Transparency Hub |
| Claude Fable 5 | 2026年1月 | Anthropic Transparency Hub |
| Claude Mythos 5 | 2026年1月 | Anthropic Transparency Hub |
| Claude Opus 4.8 / 4.7 | 2026年1月 | Anthropic Transparency Hub |
| Claude Opus 4.6 / Sonnet 4.6 / Opus 4.5 | 2025年5月 | Anthropic Transparency Hub |
| Claude Haiku 4.5 | 2025年2月(学習データは2025年7月) | Transparency Hub / Models overview |
| Claude Sonnet 4.5 | 2025年1月 | Anthropic Transparency Hub |
| GPT-5.6 Sol(gpt-5.6-sol) | 2026年2月16日 | OpenAI Models |
| GPT-5.6 Terra(gpt-5.6-terra) | 2026年2月16日 | OpenAI Models |
| GPT-5.6 Luna(gpt-5.6-luna) | 2026年2月16日 | OpenAI Models |
| Gemini 3.7 Flash | 2026年3月(分野により2025年1月) | Google DeepMind モデルカード |
読み取れることが2つあります。1つは、同じベンダーの同世代でも締め日が揃っていないこと。Claude Opus 5は2026年5月ですが、同世代のSonnet 5・Fable 5・Mythos 5は2026年1月です。もう1つは、モデル名だけでは判断できないこと。Claude Opus 4.8(2026年1月)はOpus 4.6(2025年5月)より締め日が8か月新しくなっています。料金や上限値も同じで、公式ページを開かないと当たりません(Claude・GPT・Gemini API料金の読み方)。
同じモデルの中で締め日が14か月ずれることがある
この記事で最も重要な一次資料は、Google DeepMindのGemini 3.7 Flash公式モデルカードの「Known Limitations(既知の限界)」に書かれた次の一文です。原文は次のとおりです。
The knowledge cutoff date for Gemini 3.7 Flash is March 2026 – users can expect updated information for some domains while in others they may experience the model's knowledge is limited to January 2025 (in line with the Gemini 3 Model Family).
訳すと「Gemini 3.7 Flashのナレッジカットオフは2026年3月。ただし一部の分野では更新された情報が得られる一方、他の分野ではモデルの知識が2025年1月までに制限されていると感じられる場合がある(Gemini 3モデルファミリーと同様)」です。ベンダー自身が、1つのモデルの中に2025年1月〜2026年3月という14か月の幅があると認めているわけです。どの分野が新しくどの分野が古いかは、このモデルカードには書かれていません。
「AIが最新情報を知らない」現象は一律ではなく、聞く分野によってまだらに起きます。これがナレッジカットオフを1つの日付として覚えていると外す理由です。なお同モデルの発表ブログ本文には、コンテキスト長・知識カットオフ・出力トークン上限の記載自体がありませんでした(Gemini 3.7 Flash発表の記事で確認済み)。締め日はブログではなくモデルカードや仕様表を開かないと出てきません。
検索を繋いでも古い前提が混ざるのはなぜか
「Web検索を有効にすれば解決する」とは各社ドキュメントに書かれていません。Anthropicのweb search toolドキュメントには、動作の説明として「Claude determines when to search based on the prompt(Claudeがプロンプトに基づいて、いつ検索するかを判断する)」とあります。そして「Claudeが検索するとき」と「検索せずに直接答えるとき」が明示的に列挙されています。
| Claudeが検索する | Claudeが検索せず直接答える |
|---|---|
| 最近の出来事・ニュース・発表 | 確立された事実、数学、科学の基礎、コーディングの概念 |
| 現在の価格・レート・スコア・統計 | 創作や発想出し |
| 変化しうる特定の組織・人物・製品の情報 | 会話ですでに与えられた内容の分析 |
| 明示的に検索を求められたとき | あいさつなどの会話ターン |
問題は右列です。**「コーディングの概念」や「確立された事実」は安定していると分類されていますが、実際には変化する領域が含まれます。**AIモデルの料金、APIのパラメータ名、ライブラリの推奨作法、モデルIDやエイリアス。質問の見た目が「技術の基礎知識」なので検索が起動せず、学習時点の前提のまま答えが返る条件が揃います。同ドキュメントは、この判定がシステムプロンプトで誘導可能(steerable)で、回数上限はmax_usesで固定できるとも書いています。
OpenAIのWeb searchガイドはさらに直接的で、Chat Completions APIでgpt-5-search-apiを使う場合は「the model always retrieves information from the web before responding(応答前に必ずWebから取得する)」、一方で「To let the model decide whether to search, switch to the Responses API with the web_search tool(検索するかどうかをモデルに判断させたい場合はResponses APIのweb_searchツールに切り替える)」と、2つのモードを区別しています。GoogleのGrounding with Google Searchも課金の説明で「the model decides to execute(モデルが実行を決めた)検索クエリごとに課金される」と書いており、起動判断がモデル側にある構造は3社に共通します。
つまり検索をオンにすることは「常に最新情報で答える」ではなく「モデルが必要だと判断したときに検索する」です。渡す情報全体を設計する考え方はコンテキストエンジニアリングとはが近い論点です。
古い前提が混ざりやすいのは「安定した知識」に見える質問
以下は各社ドキュメントの記述から導いた仕組み上の帰結であり、当ラボが件数を測定した実験結果ではありません。
- 質問が「基礎知識」の形をしている — 「このAPIの正しい書き方は?」は検索が起動しにくい形式です。「2026年8月時点で仕様が変わっていないか調べて」と、変化しうる対象だと明示すると起動しやすくなります。
- 分野が締め日のまだら領域に入っている — Gemini 3.7 Flashのモデルカードのとおり、同じモデルでも「Aは新しいのにBは1年古い」が起こりえます。
- 2つの締め日の間を聞いている — Claude Haiku 4.5でいう2025年2月〜7月の帯です。「まったく知らない」ではなく「断片的に知っている」ため、確信を持って古い答えが出やすい区間です。
- モデル自身の仕様を聞いている — モデルは自分より後に出た自分の仕様表を学習していません。料金・コンテキスト長・モデルIDを本人に聞く運用は原理的に外れます。
公式ドキュメントに根拠がある対処は、(a)変化しうる対象だと明示して検索を起動させる、(b)max_usesやシステムプロンプトで検索挙動を固定する、(c)一次ソースのURLを自分で開いて内容を貼る、の3つです。3つ目が最も確実ですが手間はかかります。
確認できなかったことが3つある
第1に、Gemini全モデルの締め日は確認できていません。 Gemini 3.5 FlashとGemini 3.1 Proの公式モデルカードを開くと、どちらも「Known Limitations」に「Gemini 3 Flashモデルカード/Gemini 3 Proモデルカードを参照」というリンクがあり、締め日自体はこのページ本文には書かれていません。リンク先のGemini 3 Pro公式モデルカード(PDF)を開くと「The knowledge cutoff date for Gemini 3 Pro was January 2025.(Gemini 3 Proの締め日は2025年1月)」という記載がありましたが、これはGemini 3 Pro自体の値です。派生モデルであるGemini 3.1 Proや3.5 Flash固有の締め日と同じ値かどうかはモデルカードに明記がなく、確認できていません(なお同じ手順で開いたGemini 3 Flash公式モデルカードのPDFには、締め日の記載自体が見当たりませんでした)。
第2に、「分野によって2025年1月」がどの分野を指すのかは公表されていません。 モデルカードに分野名の記載はなく、当ラボも特定していません。
第3に、締め日は予告なく更新されます。 本記事の数値はすべて2026年8月27日に公式ページで確認したものです。重要な判断に使う場合は出典URLを自分で開いて当日の値を確認してください。本記事はナレッジカットオフの仕組みを整理したもので、特定の運用で誤りが減ることを保証するものではありません。
出典と但し書き
- Anthropic Transparency Hub(各モデルのKnowledge Cutoff Date): https://www.anthropic.com/transparency
- Anthropic公式APIドキュメント Models overview(Reliable knowledge cutoff / Training data cutoff): https://platform.claude.com/docs/en/about-claude/models/overview
- OpenAI公式ドキュメント Models(GPT-5.6 Sol / Terra / LunaのKnowledge cutoff): https://platform.openai.com/docs/models
- Google DeepMind公式モデルカード Gemini 3.7 Flash: https://deepmind.google/models/model-cards/gemini-3-7-flash
- Google DeepMind公式モデルカード Gemini 3.5 Flash: https://deepmind.google/models/model-cards/gemini-3-5-flash
- Google DeepMind公式モデルカード Gemini 3.1 Pro: https://deepmind.google/models/model-cards/gemini-3-1-pro
- Google DeepMind公式モデルカードPDF Gemini 3 Pro(知識締め日=2025年1月の記載あり): https://storage.googleapis.com/deepmind-media/Model-Cards/Gemini-3-Pro-Model-Card.pdf
- Anthropic公式ドキュメント Web search tool: https://platform.claude.com/docs/en/agents-and-tools/tool-use/web-search-tool
- Google公式ドキュメント Grounding with Google Search: https://ai.google.dev/gemini-api/docs/google-search
- OpenAI公式ドキュメント Web search: https://platform.openai.com/docs/guides/tools-web-search
すべて2026年8月27日に取得。日本語訳は当ラボによるもので、判断に使う場合は原文を確認してください。
出典・参照資料
- 一次資料Anthropic Transparency Hub(各モデルのKnowledge Cutoff Date) ↗
- 一次資料Anthropic公式APIドキュメント: Models overview ↗
- 一次資料OpenAI公式ドキュメント: Models ↗
- 一次資料Google DeepMind公式モデルカード: Gemini 3.7 Flash ↗
- 一次資料Google DeepMind公式モデルカード: Gemini 3.5 Flash ↗
- 一次資料Google DeepMind公式モデルカード: Gemini 3.1 Pro ↗
- 二次資料Google DeepMind公式モデルカードPDF: Gemini 3 Pro ↗
- 一次資料Anthropic公式ドキュメント: Web search tool ↗
- 一次資料Google公式ドキュメント: Grounding with Google Search ↗
- 一次資料OpenAI公式ドキュメント: Web search ↗
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