370年間誰も解けなかった暗号をFable 5.1が44分で解いた──「解けていない」という反証が出たので、1834年版の本で自分たちも検算した
Vals AIのGeby Jaff氏は2026年8月31日、Claude Fable 5.1が1653年の本の巻末にある数字64個の暗号「サイフラル・ディスティック」を44分・17万6,000トークンで解いたと公開した。鍵は暗号の直前に印刷された32の請願文で、i番目の数字がi番目の請願文の単語番号を指し、頭文字を拾うと王への祈りの二行詩が出る。翌9月1日に「大英図書館の本には暗号が無く、鍵でも10文字が出ない」という反証がGitHubに出た。当サイトが記事の出典である1834年版で数え直したところ、64文字すべてが再現でき、記事の数字列に1か所の転記ずれ(33→38)も見つかった。

目次
Claude Fable 5.1に関する当サイトの記事の入口はまとめページに。
2026年9月17日時点の情報です。AI評価会社Vals AIのGeby Jaff氏は2026年8月31日、Claude Fable 5.1に「未解決の暗号を解け」とだけ指示したところ、1653年に出版された本の巻末にある数字64個の暗号を44分で解いたとブログで公開した。鍵は同じ本に印刷されていた「32の請願文」で、答えは王への祈りの二行詩だった。翌9月1日には「その本には暗号が載っていない」という反証がGitHubに出て、9月9日に暗号研究者Bruce Schneier氏のブログ、9月13日にHacker Newsのトップに上がった。当サイトはこの記事の出典である1834年版の全集で数え直し、64文字すべてが記事どおりに出ることと、記事の数字列に1か所の転記ずれがあることを確かめた。この記事は、何が解けて、何が反証され、どこまでが確かめられているかを順に書く。
動画版も公開しています: https://youtu.be/BBfVtSWVh84
3行まとめ
- Fable 5.1が解いたのは、スコットランドの作家トマス・アーカートが1653年に出した本の巻末の「サイフラル・ディスティック」(数字32個×2行)。1899年に学術誌『Notes and Queries』で未解決問題として出題され、歴史暗号研究者Klaus Schmeh氏の「未解決暗号トップ50」で28番目に載る暗号で、Vals AIの記事によれば44分・17万6,000トークン・人間の介入ゼロで解けた。
- 鍵は本の中にあった。暗号の直前に印刷された32の請願文について、行のi番目の数字をi番目の請願文の単語番号として読み、頭文字を拾うと「O GOD UPHOLD KING CHARLS THE SECOND AND / MAKE HIM THE SUPREME RULER OF THIS LAND」が出る。各行32文字、行末はandとlandで韻を踏む。
- 9月1日の反証は「大英図書館の1653年本の巻末に暗号が無い」「その本の請願文では64文字中10文字が出ない」と主張した。当サイトが1834年版(記事の出典)で数えると64文字中64文字が一致し、反証が使った本とは請願文の順番と文章が違っていた。9月10日には第三者がスコットランド国立図書館の本に暗号が載っていることを確認している。
何を解いたか──数字64個、文字は1つも無い
暗号は、1834年版のアーカート全集の417ページに「THE CYPHRAL DISTICH(暗号の二行詩)」として印刷されている。中身は「5.3.27.38.32.14.21.8.66…」と点で区切られた数字が2行、各32個で合計64個。文字は1つも無い。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 作者 | トマス・アーカート(スコットランドの作家・王党派) | Vals AI・1834年版序文 |
| 初出 | 『Logopandecteision』(ロンドン・1653年) | Vals AI |
| 暗号の形 | 数字32個×2行=64個。「サイフラル・ディスティック」 | 1834年版 p.417 |
| 未解決の記録 | 1899年『Notes and Queries』で出題、20世紀の暗号文献にも掲載 | Vals AI |
| ランキング | Klaus Schmeh氏「未解決暗号トップ50」の28番目(1位はヴォイニッチ手稿、4位はクリプトス) | Schmeh氏のブログ |
| 試された方法 | 頻度分析・換字・同音換字(いずれも外れ) | Vals AI |
| 解読 | Fable 5.1・44分・17万6,000トークン・人間の介入ゼロ | Vals AI |
どう解いたか──鍵は「32の請願文」だった
Vals AIの記事によると、手がかりは2つだった。
1つ目は位置。暗号は、作者が国に対して出した32個の「請願文(Proquiritations)」の真後ろに印刷されている。作者はその直前で「32という数ほどふさわしいものはない」(1834年版 p.412の原文 "there can no number like that of two and thirty ... be pitched upon so apposite" の意訳)と、数を強調している。
2つ目は暗号に添えられた詩。「誠実で腕のある者はここに、自分の心の願いと、作者の心を見出す」(p.417 "An honest skilful man, he'll therein finde / His own heart's wishes, and the Author's minde" の意訳)。
ルールはこうだ。行のi番目の数字を見たら、i番目の請願文を開き、その数字番目の単語の頭文字を1つ取る。1行目の1番目は5なので、1番目の請願文の5番目の単語「of」からO。2番目は3なので、2番目の請願文の3番目の単語「grant」からG。これを32回繰り返す。

出てきた文は次の通り(Vals AIの記事の表記)。
O GOD UPHOLD KING CHARLS THE SECOND AND MAKE HIM THE SUPREME RULER OF THIS LAND
(訳:「神よ、チャールズ2世を支えたまえ。彼をこの国の最高統治者にしたまえ」)
記事が挙げる自己検証は3つ。各行がぴったり32文字であること、行末がandとlandで韻を踏んで予告どおりの二行詩になっていること、作者が筋金入りの王党派で歴史と合うこと。
なぜ370年解けなかったか
記事の筆者の見立ては、鍵が「本の外」にあると皆が思い込んだから、というものだ。暗号表や数字と文字の対応表を復元しようとしたが、鍵は本そのものだった。「32」と書き、「願い」と書き、暗号を請願文の真後ろに置く。ヒントは全部、同じ本に印刷されていた。
筆者はこれを「後から見ると、人間にとってかなり恥ずかしい答えだ(quite embarrassing for humans in hindsight)」と書き、足りなかったのは頭の良さではなく、地味な請願文32個を本気で読む根気──人間の注意力(bottlenecked by human attention)だったとしている。
指示は「未解決の暗号を解け」だけ
記事に書かれている指示は次の3点だけだ。
- ゴール:「未解決の暗号を解け」
- 励まし:「Fableが解いた数学の実績をネットで見ろ。あれに比べれば簡単なはずだ」
- 制約:「答えが1つに検証できる暗号を選べ」「クリプトスのK4のように、何千人やCIAが本気で挑んだ最難関は避けろ」
どの暗号を解くかは指定していない。Fableは未解決暗号をいくつか見て回り、動かない問題からは手を引き、この問題が「異様に解きやすい(unusually tractable)」と気づいた、と筆者は書いている。
筆者は数か月、他のフロンティアモデルにも同じことを試していたが、検証できる解を出したものは1つも無かった("no other frontier model I tried produced a verified solve")。ただし「他のモデルが解けないとは思わない。手がかりは極めて単純だ。Fableが上手かったのは、この問題が異様に解きやすいと気づいたことだ」とも書いており、モデル間の差を断定してはいない。
2本目の暗号──285個のうち9文字が読めない
Fableは同じ作者が1652年に出した『The Jewel』の巻末の暗号(数字285個)にも手を出した。ルールは同じ発想で、k番目の数字は本のkページ目の単語番号、頭文字を拾う。出てきたのは8行の詩で、「GREAT LORD, MANTAINE THAT REGAL FAMILIE / WHEREOF KING CHARLS THE SECOND IS THE HEAD」(偉大なる主よ、チャールズ2世を頭とする王家を守りたまえ)で始まる、1652年3月にロンドンで書かれた王党派の祈りだった。
ただし全部は合っていない。5行目の4〜12文字目が「C-O-N-E-R-T-H-T-O」で英語にならず、筆者は「作者の書き間違いか、数字の誤植か」としている。さらに159番目の数字から後ろは、ページを1つずらさないと合わない。筆者は「同じページを2回使ったか、5行目の『5.5』が重複印刷ではないか」と見ている。
現物で確かめられない理由も書かれている。1652年版の無料のページ画像はネットに無く、「確認には現物か、1983年の校訂版(Jack & Lyall)が要る」。2本目は「ほぼ解けた」止まりだ。
反証──「大英図書館の本に暗号が無い」
記事の翌日、9月1日にGitHub(reticuli-labs/panel-artifacts)で「解けていない」とする反証が公開された。要点は3つ。
- 大英図書館所蔵の1653年本を撮影したフィルムには、巻末に暗号が無い。32番目の請願文の後は、飾り罫、ラテン語の題辞、「FINIS」、正誤表で終わっている
- その本の転写(EEBO-TCP A64608)の請願文に記事のルールを当てると、64文字中10文字は、その頭文字で始まる単語が該当位置に無い。例えばKINGのKは、11番目の請願文(80語)にK始まりの単語が無いので出ない
- この暗号は1899年のJohn Wilcockの伝記を通じて伝わったもので、元の出どころが確立していない
9月9日にはBruce Schneier氏がブログで取り上げ、コメント欄にこの反証が貼られた。9月13日にはHacker Newsのトップに上がった(当サイトの取得時点で646ポイント・268コメント)。
当サイトの検算──1834年版で64文字中64文字が出た
ここからが、この記事で当サイトにしか書けない部分だ。記事が出典に挙げているのは、1834年にMaitland Club(エディンバラ)が出したアーカート全集で、archive.orgに全文がある。412ページから417ページに32の請願文と、その真後ろに「THE CYPHRAL DISTICH」の数字64個が印刷されていることを確認した。

このOCRテキストから請願文を単語に分け、記事のルールをそのまま回した(スクリプトと出力は動画の納品資料に同梱)。結果は次の通り。
| 数え方 | 1行目 | 2行目 | 出た文 |
|---|---|---|---|
| 素朴な単語分割(行末ハイフンの結合のみ) | 32/32 | 30/32 | 2行目が「SUPRWMC RULER」 |
| 記事の注記2点を適用 | 32/32 | 32/32 | 記事と同じ2行 |
1回目で外れた2文字は、どちらも記事に書いてある数え方の違いだった。1つはハイフンでつないだ「parol-breaking」を1語と数えていたせいで、2語に数えると2行目15番目が「every」のEになる。もう1つはラテン語の「hinc inde」で、こちらは逆に2語を1語と数えると17番目が「English」のEになる。記事の注記どおりに直したら、O GOD UPHOLDからTHIS LANDまで、記事と同じ文が出た。

ついでに1つ見つけた。**記事に載っている数字列は2行目の24番目が「33」だが、1834年版の印字は「38」**である。38で引くと24番目の請願文の38番目の単語「for」のF、33だと「thing」のTになり、記事の転記が1か所ずれている。本の数字の方で正しく解ける。
では反証の「Kが出ない」はどう説明がつくか。反証が使った大英図書館の本(EEBO-TCP A64608)と1834年版とでは、32の請願文の順番と文章が違っていた。1834年版で1番目の「天地創造から(Seeing from the creation of the world…)」で始まる請願文は、大英図書館の本では7番目にある。1834年版の11番目にある「knavish」という単語は、向こうの11番目には無い(当サイトが転写を数えたところ82語で、K始まりの単語は0語)。つまり反証は、暗号が載っていない方の本で答え合わせをしていた。暗号が載っている方の本で数えれば、64文字全部が出る。
ただし1834年版の表題には「原本から復刻(Reprinted from the original editions)」とあるだけで、どの1653年本を元にしたかは、当サイトではまだ確かめられていない。
現物確認の続報──同じ答えに先に着いた人がいた
Schneier氏のコメント欄に、9月10日付で当サイトより先に同じことを確かめた投稿(kjfriedo氏)がある。要点は次の通り。
- Fableの仕組みは1834年版の順番で再現できる。スコットランド国立図書館の1653年本(H.32.a.39)には暗号が載っていると記録がある。大英図書館の本に無いのは、その本固有の問題
- グラスゴー大学の1652年版『The Jewel』(Sp Coll Bi2-l.17)の研究用スキャンを取り寄せ、2本目の暗号のページが元から綴じられていることを図書館が確認した
- そのスキャンで難所の149〜157番目を数えたら、Fableと同じ「CONERTHTO」が出た。159番目からのページずれも、H・I・Sの3文字で支持された
- 285個すべての突き合わせはまだ終わっていない。ページ番号は連続しており、ずれの理由は分かっていない
読めない9文字は、本物の本でも読めない9文字だった、ということになる。
誰が書いた記事か
記事を書いたのはVals AIのGeby Jaff氏1人。Vals AIは法律や金融などの実務でAIがどこまで使えるかを測るベンチマークの会社で、自社サイトで「独立した評価機関(The independent evaluator of artificial intelligence)」と名乗っている。会社紹介ページにAnthropicとの関係の記載は無い。資金関係があるかどうかは、当サイトには確認できていない。
記事は1人の実験報告で、査読も第三者の追認も付いていない。追認の代わりになったのが、上に書いた反証と再検証の応酬だった。8月31日の公開から2週間で、反証が出て、別の人が確かめ直し、暗号の載っている本まで探し当てられている。
次に解けたら面白い未解決暗号
動画では、同じ「AIに解かせたら」という視点で未解決暗号を9件取り上げた。要点だけ表にする(数字はWikipedia・Paradigm・BBC・Boxentriqの各記事による)。
| 暗号 | 何が残っているか | AIで解く上での壁 |
|---|---|---|
| ヴォイニッチ手稿 | 約240ページ全部が未読。羊皮紙は1404〜1438年 | 意味のある文かでたらめかも未決着。2026年1月の「カードとサイコロで似た文字列が作れる」研究も解読ではない |
| クリプトス K4 | CIA本部の彫刻(1990年〜)の最後の97文字 | 解答は作者が2075年まで封印。Paradigmが2026年6月から1ドルで正誤判定を提供し「AI支援の挑戦は爆発的に増えたが成功はまだない」。次のK5(97文字)も用意済み |
| ドラベラ暗号 | 1897年にエルガーが送った87文字(記号24種) | 原本は紛失。2007年のコンテストでも納得できる答えは無し |
| 伝書鳩の暗号 | 2012年に煙突から出た第二次大戦の27組の暗号 | GCHQが「追加情報がなければ不可能かもしれない」。使い捨て鍵なら原理的に解けない |
| ソマートン・マン | 1948年の遺体が持っていた本の裏表紙の大文字5行 | 2022年にDNAで身元の候補が出たが、研究チームは「各文字は単語の頭文字」が最有力と結論──今回と同じ型 |
| ゾディアック Z13 | 1970年の手紙の「My name is」に続く13文字 | 340文字を解いた本人が「どの答えが正しいか判定は事実上不可能」 |
| シケイダ3301『リベル・プリムス』 | ルーン文字の本。後半58ページ中、読めたのは2ページ | 出題者は2017年4月を最後に消えた |
| ビール暗号 | 3通のうち1通目(宝の場所)と3通目 | 2通目は独立宣言を鍵に頭文字を拾う方式で解けており、今回と同じ型。1通目に同じ鍵を当てるとアルファベット順の文字列が出る |
| ラ・ビューズの暗号 | 1730年に処刑された海賊の17行 | 宝の話自体が作り話の可能性が高い。1934年の解読はっきりした文にならず |
「単語の頭文字を拾う」型が、ソマートン・マンとビール暗号にもある。今回Fableが見つけたのと同じ型が、他の未解決暗号にも残っている。
この記事で確かめられていないこと
- 1834年版がどの1653年本を元にしたか(表題の「原本から復刻」以上の情報は当サイトでは未確認)
- 2本目の暗号(『The Jewel』・285個)の全部の突き合わせ。kjfriedo氏の投稿でも「まだ終わっていない」とされている
- Vals AIとAnthropicの資金関係の有無
- 17万6,000トークンの料金換算。記事に金額の記載は無く、当サイトも計算していない
- 「370年」は記事の表記に従った(1653年から2026年は373年)
出典と時点
- 一次資料:Vals AIブログ(2026年8月31日)、1834年版アーカート全集(archive.org)、反証FINDINGS.md(GitHub・9月1日)、EEBO-TCP A64608、Vals AI会社紹介ページ
- 二次資料:Schneier on Security(9月9日・コメント欄9月10日)、Hacker News(9月13日)、Klaus Schmeh氏のトップ50、Paradigm(6月12日)、BBC(2012年11月23日)、Wikipedia各項
- 当サイトの検算:2026年9月14日、archive.orgのOCRテキストに対して実施。引用の訳は筆者による
出典・参照資料
- 一次資料Fable solves the Cyphral Distich — Vals AI ブログ(Geby Jaff・2026-08-31) ↗
- 一次資料The Works of Sir Thomas Urquhart(Maitland Club, 1834)— archive.org(請願文と暗号は pp.412-417) ↗
- 一次資料反証 FINDINGS.md — reticuli-labs/panel-artifacts(GitHub・2026-09-01) ↗
- 一次資料EEBO-TCP A64608(大英図書館所蔵1653年本の転写)— GitHub textcreationpartnership ↗
- 二次資料Claude Fable Solves a Historical Cipher — Schneier on Security(2026-09-09・コメント欄 kjfriedo 9月10日) ↗
- 二次資料Hacker News スレッド(2026-09-13) ↗
- 一次資料About — Vals AI ↗
- 二次資料Top 50 unsolved encrypted messages — Klausis Krypto Kolumne(Klaus Schmeh) ↗
- 一次資料Kryptos — Paradigm(2026-06-12) ↗
- 二次資料WWII pigeon message stumps GCHQ decoders — BBC(2012-11-23) ↗
この記事の解説動画
YouTubeで見る ↗AIニュースの解説を動画でも
YouTubeでは注目ニュースの背景を解説し、Xでは新着記事をお知らせしています。
コメント
まだコメントはありません。最初のコメントを書いてみませんか?
AIについて聞きたいことはありますか?
質問箱で無料で受け付けています。回答は公開され、他の方の参考にもなります。
質問箱を見る →新しい記事をメールで受け取る
AIの新しい発表を、出典付きで整理して届けます。