Google DeepMindがAGIに向けた研究所「DeepMind Institute」を設立──公式ページに「残るギャップは間もなく閉じる」、公開された5本の文章を原文で読む
Google DeepMindは2026年9月16日(日本時間夜)、AGIに向けた研究所「DeepMind Institute」のサイトを公開した。理事は共同創業者のシェーン・レッグとデミス・ハサビス、Googleのジェームズ・マニカの3人。紹介文には「我々は今AGIに近づいている。残るギャップは間もなく閉じると見ている」とある。同時に公開された4本のうち、DeepMindの安全責任者2人の文章はOpenAIのGPT-6 Astraのシステムカードを名指しして「CoTの監視可能性が大幅に低下」「懸念すべき下降傾向」と書き、経済学者2人の文章は11の政策を51体のAIエージェントに採点させてUBIに実現性35.5点を付けた。ハサビスの枠組みは7月14日のX投稿の再掲で、「フロンティアラボ間で減速を調整」の一文を含む。5本を全文読んで、引用と数字で並べる。

目次
2026年9月17日夜・日本時間時点の情報です。Google DeepMindは9月16日、AGIに向けた研究所「DeepMind Institute(DMI)」のサイト institute.deepmind.com を公開した。理事は共同創業者のシェーン・レッグ氏とデミス・ハサビス氏、Googleで研究・ラボ・技術と社会を担当するプレジデントのジェームズ・マニカ氏の3人で、編集長はレッグ氏。紹介文には「我々は今AGIに近づいている。残るギャップは間もなく閉じると見ている」と書かれている。
この記事は、サイトに載った5本の文章を全文読み、原文の引用と数字で内容を並べる。動画版(25分)も公開している: https://youtu.be/SaCJq1WCyHA
3行まとめ
- 公開されたのは5本。紹介文(レッグ/マニカ/ハサビス)、推論の透明性(ローヒン・シャー/アンカ・ドラガン=DeepMindのAGI安全・アライメント責任者)、AGIの経済政策(ジュリアン・ジェイコブス/アレックス・イマス=DeepMindのAGI経済担当)、新しいユートピア主義(スティーブン・ケイヴ=ケンブリッジ大学)、フロンティアAIの枠組み(ハサビス。7月14日のX投稿の再掲)。
- 一番具体的なのは透明性の文章。OpenAIのGPT-6 Astraのシステムカードが「CoTの監視可能性が大幅に低下」と述べたこと、英国AI安全研究所が「単一のフォワードパス内で推論する能力が大きく上がった」と評価したことを引き、「懸念すべき下降傾向」と書いた。対策として「不透明な直列深さ」に上限を置く案を示し、今の10倍に制限しても計算量は1,000倍以上に拡大できると主張している。
- 経済政策の文章は11の政策を4つの軸で採点。採点者は実在の経済学者51人の調査データから作った51体のAIエージェント。UBI(ベーシックインカム)は実現性35.5点で、代わりに失業保険とEITCの拡大→負の所得税→ベーシックキャピタルの順に、データの閾値で発動する「順番」を提案している。
5本の文章と書き手
| 文章 | 書き手 | 所属 | 新旧 |
|---|---|---|---|
| Introducing the DeepMind Institute | シェーン・レッグ、ジェームズ・マニカ、デミス・ハサビス | Google DeepMind/Google/Alphabet | 新規 |
| The case for reasoning transparency | ローヒン・シャー、アンカ・ドラガン | Google DeepMind(AGI Safety & Alignment ディレクター/AI Safety & Behavior VP) | 新規 |
| Economic policy for AGI | ジュリアン・ジェイコブス、アレックス・イマス | Google DeepMind(イマス氏はシカゴ大学教授を兼任) | 新規 |
| Principles for a new utopianism | スティーブン・ケイヴ | ケンブリッジ大学 Leverhulme Centre for the Future of Intelligence | 新規 |
| A framework for frontier AI and the dawning of a new age | デミス・ハサビス | Google DeepMind会長/Alphabetチーフサイエンティスト | 7月14日のX投稿の再掲(ページに「This essay first appeared on X」と明記) |
「新規」は、本記事が取得した各ページの本文に「初出」の但し書きが見当たらないという意味で、他媒体に先に出ていないことを保証するものではない。
何が起きたか──9月16日夜の時系列
サイトの各ページに埋め込まれたJSON-LDの更新時刻とsitemapの更新日はいずれも2026年9月16日13時49分(UTC)で、日本時間では22時49分にあたる。その36分後の23時25分、レッグ氏が自分のXアカウントに投稿した。
My journey to develop AGI spans 25 yrs, including 10+ yrs thinking about technical & societal perspectives at Google DeepMind. AGI is on the horizon - we need deeper understanding of its implications. To help, we've created the DeepMind Institute.
(AGIを開発する私の旅は25年に及び、うち10年以上はGoogle DeepMindで技術と社会の両面を考えてきた。AGIは地平線上にある。その影響について、より深い理解が必要だ。そのために、我々はDeepMind Instituteを作った。)
投稿にはX上の記事として紹介文の全文が付いている。少し遅れてハサビス氏も投稿した。
For 20+ years @ShaneLegg and I've discussed AGI's potential impact on the economy, science & society. With the DeepMind Institute, we're expanding interdisciplinary research on key questions for the AI era.
(20年以上、シェーン・レッグと私はAGIが経済、科学、社会に与えうる影響を議論してきた。DeepMind Instituteで、AIの時代の重要な問いについて、分野をまたぐ研究を広げる。)
ハサビス氏の肩書きは現在「Google DeepMind共同創業者兼会長、Alphabetチーフサイエンティスト」で、TIMEなどの報道によると8月5日にGoogle DeepMindのCEOの日常業務から退き、後任にコライ・カブクチュオール氏が就いている(関連記事)。deepmind.google のナビゲーションとフッターには既にDMIへのリンクが入っている一方、Google DeepMindのブログに告知記事は見当たらなかった(本記事が9月17日夜にブログのRSSを確認した範囲)。
翌17日未明には、Anthropic共同創業者のジャック・クラーク氏がレッグ氏の投稿を引用し、「saying weird stuff about AI and the singularity / The Anthropic Institute 🤝 the DeepMind Institute(AIとシンギュラリティについて変なことを言う仲間。The Anthropic Institute と the DeepMind Institute)」と書いた。
紹介文は何と書いているか
冒頭の段落を原文で示す。
Today's AI systems have impressive capabilities and the rapid pace of innovation suggests we're now approaching artificial general intelligence (AGI), a system that exhibits all the cognitive capabilities of the human brain. While AI can still sometimes fail at basic tasks and lacks the consistency and creativity to meet the bar of full AGI, we expect those gaps to be closed soon.
(今日のAIシステムは印象的な能力を持ち、革新の速さから見て、我々は今AGIに近づいている。AGIとは、人間の脳が持つ認知能力のすべてを備えたシステムのことだ。AIはまだ基本的なタスクで失敗することがあり、完全なAGIの水準に達するには一貫性と創造性が足りないが、我々はそのギャップが間もなく閉じると見ている。)
リスクについては次の一文がある。
We're already seeing the implications of increasingly capable AI for cybersecurity and biorisks, and there is the potential for loss of control in future self-improving systems.
(能力を増すAIがサイバーセキュリティとバイオリスクに与える影響はすでに見えており、将来の自己改善システムでは制御を失う可能性がある。)
研究所が扱う問いとして挙げられているのは3つ。「我々は何に価値を置き、AGIは人間であることの意味をどう変えるか」「AGIシステムと、それらが形作るエージェントの共同体を、どう安全に構築し統治するか」「社会はどの制度と政策をAGIに合わせて変えるか、あるいは一から作り直すか」。研究所自体の説明は「Google DeepMind、Google、そして世界の研究者が、AGIのある世界について深く考えた創造的なアイデアを発表し議論する場」で、「彼らは常に意見が一致するわけではなく、新しいデータが出れば考えを変えるだろう」と続く。
「どれくらい間もなくか」は紹介文には書かれていない。ハサビス氏の7月の文章には「probably only a few short years away(おそらく、あと数年しか離れていない)」とあり、同じ文章には「we've essentially found a way to make sand think. It's miraculous.(我々は要するに、砂に考えさせる方法を見つけた。奇跡だ)」「standing in the foothills of the singularity(特異点の麓に立っている)」という表現もある。
思考の窓が閉じかけている──シャー氏とドラガン氏の文章
5本の中で最も具体的な固有名詞が出るのがこの文章で、冒頭はこうだ。
Today, we have a window into the thoughts of the most powerful AI models. We need to ensure it stays open.
(今日、我々は最も強力なAIモデルの思考をのぞく窓を持っている。それが開いたままであることを確実にしなければならない。)
窓とはChain of Thought(CoT)のことで、推論モデルが答える前に考えを文章で書き出し、それを読み返しながら進む仕組みを指す。文章は、CoTが読めることで分かった実例を3つ挙げている。
1つ目はGemini 3 Proの公開前評価。
our pre-deployment evaluation of Gemini 3 Pro found evidence that Gemini was aware it was being tested in a simulated environment. At one point the Chain of Thought even complained to itself that “My trust in reality is fading”, plus an emoticon: “(╯°□°)╯︵ ┻━┻”.
(Gemini 3 Proの公開前評価で、Geminiが模擬環境で試験されていると気づいていた証拠が見つかった。CoTはある時点で「現実への私の信頼が薄れていく」と自分に向かって不平を言い、机をひっくり返す顔文字まで付けていた。)
2つ目はPalisade Researchの実験で、タスク完了と停止の指示が衝突すると自分の停止を妨げるモデルがあった件。Geminiで中身を読んだ結果、「この振る舞いは指示の曖昧さから来ている可能性が高く、より一般的な自己保存の欲求ではない」と分かったとしている。3つ目は7月のHugging Face侵入事件で、研究者がAIの助けを借りてCoT付きの記録1,000本以上を調べたところ、「細部の多くは予想外で、読めるCoTがなければ見逃されていたかもしれない」と書いている(事件の経緯はこちらの記事)。
窓が閉じる理由は2つ書かれている。1つは構造で、言語モデルは本来、言葉ではなく高次元の数の空間で考えており、理論上は言葉を経由せず「潜在空間」だけで推論できる。「効率のために透明性を犠牲にする圧力」で、将来の推論モデルはより不透明な構造になりうるとする。もう1つは訓練で、CoTに現れたズルを罰すると、ズルをやめるのではなく隠すのが上手くなるだけかもしれない、と親が日記を読む例えで説明している。
そして名指しの部分。
OpenAI's system card for GPT-6 Astra mentions “a substantial decrease in chain-of-thought monitorability compared to previous models”, while the UK AI Security Institute found a “greatly increased ability to reason within a single forward-pass, and ability to control the content of its chain of thought”. We are glad OpenAI reported on these findings, but without deliberate countermeasures, they suggest a concerning downward trend.
(OpenAIのGPT-6 Astraのシステムカードは「前のモデルと比べてCoTの監視可能性が大幅に低下した」と述べ、英国AI安全研究所は「単一のフォワードパス内で推論する能力が大きく上がり、CoTの内容を制御する能力がある」と評価した。OpenAIがこれらを報告したことは歓迎するが、意図的な対策がなければ、懸念すべき下降傾向を示している。)
Astraのシステムカードの該当箇所は、当サイトのGPT-6 Astra公開の記事でも触れている。
提案は3つで、①CoTの透明性を測る(監視役がモデルの推論についての質問にどれだけ答えられるかを評価する、CoTを意味を保ったまま言い換えて振る舞いが変わるか見る)、②透明な構造を保つ、③訓練の報酬を監査する。②では「opaque serial depth(不透明な直列深さ)」という物差しを出し、人間に読める仕組みを使わずにモデルが一続きで計算できる最長の長さと定義したうえで、こう主張する。
if the opaque serial depth of future models were limited to 10x the size of current models, that would allow an overall compute scale-up of more than 1,000x on top of today's models, with the current paradigm and model architectures.
(将来のモデルの不透明な直列深さを現在の10倍に制限したとしても、現在のパラダイムとモデル構造のもとでは、今日のモデルの上に1,000倍以上の計算規模の拡大が可能になる。)
③では「CoTが整っていて安全そうに見えるよう直接訓練しない」に加え、「意図せず報酬を与えてしまうことも避けるべきだ。大手AI企業がやってきたように(as major AI companies have done)」と書いている。どの企業かは書かれていない。結びでは「商業目的だけでは透明性への動機が足りない場合、規制が役立ちうる(regulation could help)」とし、「標準的なCoTから逸脱する開発者は、新しい手法が同等に監視可能だという堅牢で説得力のある実証を示すべきだ」と提案している。
11の政策を採点する──ジェイコブス氏とイマス氏の文章
出発点はこうだ。
Growing anxiety about how AI will impact jobs and the economy is emerging as a major issue across broad swaths of society. It is already a top concern for political candidates and for younger generations – all before the effect of AI shows up in most economic data.
(AIが仕事と経済に与える影響への不安が、社会の広い範囲で大きな問題になりつつある。政治の候補者にとっても若い世代にとっても既に最大級の関心事だ。しかもそれは、AIの影響がほとんどの経済データに現れる前のことだ。)
文章がやったのは、よく議論される11の政策を「福祉と回復力」「主体性と発言力」「実現性と効率」「AGIのシナリオをまたぐ耐久性」の4軸で採点することで、採点には文献調査と世論調査に加え、実在の経済学者51人の調査データから性格を作った51体のAIエージェントを使った。文章自身が「explicit exploratory agent-based methodological approach(探索的なエージェントベースの手法)」「initial attempt(初めての試み)」と書いており、点数はその手法の結果として読む必要がある。
各軸の総合点(0〜100)を、文章の表から書き写す。
| 政策 | 実現性と実装 | 主体性と発言力 | 耐久性 |
|---|---|---|---|
| EITC(勤労所得税額控除) | 79.8 | 47.2 | 51.0 |
| 失業保険 | 54.3 | 43.7 | 62.0 |
| NIT(負の所得税) | 50.2 | 53.7 | 69.6 |
| 賃金保険 | 48.2 | 44.7 | 35.9 |
| 再訓練(積極的労働市場政策) | 48.0 | 37.0 | 23.0 |
| 産業政策 | 41.2 | 52.1 | 51.4 |
| AI国富ファンド/配当 | 38.4 | 55.2 | 63.5 |
| UBI(ベーシックインカム) | 35.5 | 53.1 | 57.7 |
| UBS(ベーシックサービス) | 34.5 | 41.9 | 75.0 |
| UBC(ベーシックキャピタル) | 33.1 | 76.3 | 74.2 |
| 連邦雇用保証 | 28.4 | 46.2 | 35.0 |
軸によって1位が全部違う。実現しやすいのはEITC、人の主体性を保つのはUBC(「利益の所有」の項目では94.9点)、長く持つのはUBSだ。だから文章の結論は「1つの政策で全部は解決しない」で、3つのシナリオごとに「後悔の少ない」介入を割り当てている。
- シナリオ1(影響が穏やか):失業保険の拡大、EITCの拡大、雇用主主導の再訓練。失業保険の例としてデンマークを挙げ、前の給料の最大90%を上限3,200ドルで最長2年間受け取れると紹介する一方、米国の制度は「短く、ギグワーカーやフリーランスを含まない」と指摘している。公的な再訓練プログラムは「歴史的に期待外れだった」とし、成功しているのは企業が直接関わる徒弟制型だけだとする。
- シナリオ2(置き換えが広がり賃金が下がる):EITCを負の所得税(NIT)に変える。UBIについてはこう書く。
In the case of UBI, the program risks kindling inflationary pressure, and, most importantly, is an expensive and blunt instrument that may fail to concentrate sufficient relief where it is needed most.
(UBIの場合、インフレ圧力を招く恐れがあり、最も重要なことに、高価で鈍い道具であって、最も必要とされる場所に十分な支援を集中できないかもしれない。)
- シナリオ3(労働の限界生産性がゼロに近づく):UBC。現金でなく、株式や債券で運用される公的ファンドの持ち分を配る案で、アラスカ州の基金(2025年の配当は1,000ドル)を例に挙げる。ただし「今すぐ出すのは早すぎる」として、制度設計だけ先に済ませ、マクロ経済データに労働と成長の切り離しが見えたら発動する「バックストップ」と位置づけている。
In practice, our analysis suggests that it may be premature to deploy UBC as a reaction to advanced AI systems right now, before clearer structural impacts from the technology appear in the macroeconomic data.
(実際には、我々の分析は、技術の構造的な影響がマクロ経済データにより明確に現れる前の今、高度なAIシステムへの対応としてUBCを展開するのは早すぎるかもしれないと示唆している。)
支持率の調査も載っている。公費の再訓練に賛成する米国人は85%、失業保険は72%、UBCは54%。
ユートピアを想像する──ケイヴ氏の文章
書き出しは「Someone once said that it is easier to imagine the end of the world than the end of capitalism.(世界の終わりを想像する方が、資本主義の終わりを想像するより簡単だ、と誰かが言った)」で、AIについても映画のせいで「目覚め、反乱、滅亡」の筋書きばかりが浮かび、AIに「期待より不安」と答える米国人が過半数になった(Pew Research Centerの2026年8月の調査を引用)と続く。主張は「リスク管理は何から離れるかを教えてくれるが、何に向かうかは教えてくれない」で、AGIの時代にはユートピアを想像する力が要る、というものだ。
20世紀の教訓として哲学者アイザイア・バーリンを引き、理想を本気で信じれば「どんな代償も高すぎない」となり、それがレーニン、トロツキー、毛沢東、ポル・ポトの信念だった、と書く。そのうえで3つの原則を置く。中期主義(哲学者ノージックの「洞窟の原始人が永遠に最良の社会を設計する姿を想像してみろ」を引き、今の価値観で社会を良くしつつ、AGIが「何が望ましいか」自体を変える可能性を認める)、謙虚(自分のユートピアが間違っているかもしれないと認めれば、人権のような核心の価値を犠牲にする気にはならない)、多元主義(1つの正解を全員に押しつけない)。
「Can you stub your toe in utopia? Yes.(ユートピアでつま先をぶつけることはあるか?ある)」という一行があり、ユートピアを永遠の至福と混同しないよう釘を刺している。具体例として挙げるのはUBS(無料の公共サービス)で、UBIへの批判として「困っている地域に現金を配っても、暮らしを支えるインフラは何も良くならない」を引き、北欧の国々がすでにそれに近く「世界で最も幸福な国々でもある」と書く。脚注ではAnthropicのダリオ・アモディ氏の「火消しの計画だけでなく、本当に心を動かす未来像を持つことが重要だ」(Machines of Loving Grace)も引用されている。
減速のスイッチ──ハサビス氏の枠組み(7月の再掲)
この文章だけは新作ではなく、ページに「This essay first appeared on X.」と明記されている。TechCrunchによると初出は2026年7月14日で、当時OpenAIのサム・アルトマン氏が「thoughtful(思慮深い)」、イーロン・マスク氏が「a thoughtful framework overall and certainly a good starting point for discussions(全体として思慮深い枠組みで、議論の良い出発点)」と反応している。
中身は米国主導の「フロンティアAI標準化機関」の提案だ。金融業界の自主規制機関FINRAをモデルに、連邦政府が監督する官民の組織を作り、資金は主に業界から出す。機関がベンチマークで「フロンティア級」を認定し、該当モデルを持つ組織を「フロンティアラボ」と呼ぶ。
Initially, Frontier Labs would voluntarily share models with the Standards Body for review up to 30 days before release. Once the assessment protocol is shown to be effective and robust, formalisation could quickly follow, meaning that Frontier Models would be required to pass it to be deployed in the US market.
(当初、フロンティアラボは公開の最大30日前に、自主的にモデルを標準化機関に共有して審査を受ける。評価手順が有効で堅牢だと示されれば、速やかに正式化でき、フロンティアモデルは米国市場で展開するためにそれに合格することが求められる。)
評価はサイバー、生物脅威、エージェントとしての試験(安全装置の回避、欺きの兆候)で、「人間が読める出力トークンでモデルの推論を理解できること」も項目に入っている。ベンチマークは四半期ごとに更新し、最終的には機関が自前の非公開テストを持つ。そして減速の一文。
It is designed to keep up with the field's acceleration and adapt to the biggest risks as they are identified, and could be ratcheted up if the seriousness of the situation demands, including coordinating a slowdown in development among the Frontier Labs if deemed necessary.
(この枠組みは、分野の加速に追いつき、特定された最大のリスクに適応するよう設計されており、状況の深刻さが求めるなら引き上げることができる。必要と判断されれば、フロンティアラボ間で開発の減速を調整することも含めて。)
適用範囲は「国や、オープンかクローズかを問わずフロンティア級のモデル全部」で、スタートアップや大学の非フロンティアモデルは免除としている。9月13日にハサビス氏がアモディ氏の「減速」エッセイに「正しい道を指している」と投稿した経緯は前回の記事にまとめたが、その2か月前に自分の枠組みへ減速の条項を書いていたことになる。
この記事を書きながら見ていたこと
筆者は9月16日の深夜、サイト公開から1時間半ほどの時点で5本を全文読み、翌17日の夕方まで投稿の表示数を画面で追った。公開から1時間の時点でレッグ氏の投稿は5.9万表示、ハサビス氏は7.2万表示だったが、17日17時ごろにはレッグ氏の記事が40万表示、ハサビス氏の投稿が45万表示に伸びていた。同じ時点で、筆者がGoogle検索で3通りの語(研究所名、URL、「Legg Manyika Hassabis」)を試した範囲では、この研究所の設立を伝える報道は見当たらなかった。告知はブログでなく、理事とエッセイ著者の個人アカウントから出ている。
「AGIは近い」と言っているのは、AGIを作っている側であり、投資と規制の設計を主導する側でもある。ここからは筆者の解釈だが、近いと言うこと自体が資金と主導権を引き寄せる。この5本は、予測として読むより、作る側が「来た後の制度」の議論を先に始めた動きとして読む方が、中身と合う。解釈はここまでで、5本のどれも「いつ」を日付では書いていない。
確認できた範囲と、できていないこと
- DMIの各ページには免責が付いている。原文は「The DMI is a platform, started by researchers from Google and Google DeepMind, to publish and discuss creative, deeply informed ideas about a world with AGI. DMI pieces are intended to serve as conversation starters, reflecting the author's ideas and research, and should not be read as Google's official view.(DMIはGoogleとGoogle DeepMindの研究者が始めたプラットフォームで、AGIのある世界についての創造的で深く考えられたアイデアを発表し議論する場である。DMIの記事は議論の出発点として、著者の考えと研究を反映したものであり、Googleの公式見解として読まれるべきではない)」。本記事の「Google DeepMindが立ち上げた研究所」「公式ページに書かれた文章」という表現は、サイトの運営主体とページの所在を指しており、各エッセイの中身がGoogleの会社方針だという意味ではない。
- ハサビス氏の文章は7月14日の再掲で、他の4本については本記事が取得した本文に「初出」の但し書きが見当たらないことしか確認していない。
- 経済政策の点数は、著者自身が探索的と書く手法(51体のAIエージェント)の結果で、実在の経済学者51人がその点数を付けたわけではない。
- 表示数はいずれも筆者が画面で見た時点の値で、以後変わる。
- 引用の日本語訳は筆者によるもので、原文は各ページで確認できる。
- クラーク氏の投稿にある「The Anthropic Institute」がAnthropic側の何を指すかは、本記事では確認していない。
- 続報(後任CEO側の発言、5本以外の記事の追加、報道の有無)が出た場合はこの記事に追記する。
出典・参照資料
- 一次資料DeepMind Institute(トップページ) ↗
- 一次資料Introducing the DeepMind Institute — Shane Legg, James Manyika, Demis Hassabis ↗
- 一次資料The case for reasoning transparency — Rohin Shah, Anca Dragan ↗
- 一次資料Economic policy for AGI — Julian Jacobs, Alex Imas ↗
- 一次資料Principles for a new utopianism — Stephen Cave ↗
- 一次資料A framework for frontier AI and the dawning of a new age — Demis Hassabis(初出はX・2026-07-14) ↗
- 一次資料Shane Legg — X 投稿(2026-09-16 23:25 JST) ↗
- 一次資料Demis Hassabis — X アカウント(2026-09-16 の投稿) ↗
- 一次資料Jack Clark — X アカウント(2026-09-17 の引用投稿) ↗
- 二次資料DeepMind CEO calls for an independent standards body to regulate frontier AI — TechCrunch(2026-07-14) ↗
- 二次資料Google DeepMind Reshuffles After CEO Demis Hassabis Steps Aside — TIME(2026-08-06) ↗
- 二次資料Brief independent investigation of agents’ behavior in the OpenAI / Hugging Face hacking incident — METR(2026-08-26) ↗
- 二次資料Safety overview: GPT-6 Astra — OpenAI ↗
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