「AI倫理担当」の求人は、日本にどれだけあるのか──Indeedの一次データで確認する
Indeed Hiring Labが2025年6月に公開した国際比較分析によれば、「責任あるAI」に言及するAI関連求人の割合は22カ国平均で0.9%まで上昇した一方、日本はその世界平均を下回る国の一つとして名指しされている。

目次
3行まとめ
- Indeed Hiring Labの分析(2025年6月25日公開)によれば、「責任あるAI(レスポンシブルAI)」に言及するAI関連求人の割合は、対象22カ国平均で2019年のほぼゼロから2025年には0.9%まで上昇した
- 国別ではオランダが1.7%で最高、英国1.2%、カナダ1.16%と続く一方、日本はメキシコ・ブラジルとともに、この世界平均を下回る国として名指しされている
- Indeed Hiring Labは「日本ではテック分野を中心にAIに関連する求人は出てきているものの、レスポンシブルAIとなるとほとんど言及されません」と明記している
「AI倫理担当」「レスポンシブルAI人材」という肩書の求人は、日本にどれだけ存在するのか。求人検索大手Indeedのデータ分析チーム「Indeed Hiring Lab」が2025年6月に公開した国際比較分析を、一次資料として確認する。
分析の方法
Indeed Hiring Labは、自社の「AIトラッカー」と同じ手法を用い、通常のAI求人が「artificial intelligence」「natural language processing」といったキーワードで抽出されるのに対し、今回は「レスポンシブルAI」「ethical AI」など、責任あるAIに特化したキーワードで求人を抽出した。非英語圏の国についても英語キーワードを含めて分析している。
記事末尾の「方法」セクションによれば、具体的には「responsible AI」「ethical AI」「AI ethics」「AI governance」「AI safety」といったキーワードを用いており、これらはUNESCOやOECDなど公的機関の文献や、AI関連職の求人で実際に使われている表現を参考に作成したという。英語・フランス語・ドイツ語・日本語など、サンプル国で使用される複数言語を対象にしている。分析対象はIndeedが展開している国のみで、AI分野の主要国の一つである中国は対象外。求人の職務内容だけでなく職種タイトルについても分析したが、レスポンシブルAIへの言及については同様の傾向が確認されたとしている。
世界的には急拡大、ただし2024年以降
分析によれば、責任あるAI関連の求人はAI関連求人全体に占める割合として、次のように推移した。
求人における「責任ある」AIの言及は、AI求人に占める割合として、2019年のほぼゼロから2025年には0.9%(本分析のサンプルに含まれる22か国の平均)に達しました。
比較的大きな労働市場の中では、オランダが1.7%で最も高く、英国(1.2%)、カナダ(1.16%)が続く。米国も2025年3月時点で1.0%と世界平均を上回っており、急速な伸びを見せているという。分析対象となったAI求人の約半数は米国発だった。
記事内で具体的な数値が示されている国・地域は次の通り(データは12ヶ月移動平均、2025年3月時点)。
| 国・地域 | AI求人に占めるレスポンシブルAI言及率 |
|---|---|
| オランダ | 1.7%(比較的大規模な市場の中で最高) |
| 英国 | 1.2% |
| カナダ | 1.16% |
| 米国 | 1.0% |
| 22カ国平均 | 0.9% |
| 日本・メキシコ・ブラジル | 世界平均を下回る(具体的な数値は非公開) |
本文中では、ルクセンブルク・オランダ・スイス・ベルギーも言及率が特に高い国として挙げられている一方、「シンガポール、インド、スペイン、ポーランドなどはAI関連求人全体に占める割合は高いものの、レスポンシブルAIへの言及は相対的に少なくなっています」とも書かれている。つまりAI求人自体の多さと、そのうち「レスポンシブルAI」に言及する割合の高さは、必ずしも比例していないという。
日本は「世界平均を下回る」と明記されている
日本に関する記述は、この分析の中で明確だ。
日本、メキシコ、ブラジルではその割合が世界平均を下回っています。
そしてより踏み込んだ一文もある。
日本ではテック分野を中心にAIに関連する求人は出てきているものの、レスポンシブルAIとなるとほとんど言及されません。
つまり、AI関連の求人自体は日本でも増えているが、そのうち「責任あるAI」というキーワードに言及するものはごく少数にとどまる、という分析結果だ。
「規制が強い国ほど多い」わけでもない
分析は、EUのAI法やより早くから存在するGDPR(一般データ保護規則)など、規制強化が進む欧州で言及率が高くなると考えられがちだが、実際にはそう単純ではないとも指摘する。
興味深いことに、レスポンシブルAIへの言及は国を問わず比較的一様に増加しています。(中略)米国でも2025年3月時点で1.0%と世界平均を上回っており、急速な伸びを見せています。
分析対象となったAI求人の約半数は米国発だったという。EU規制の有無にかかわらず、米国でも言及率が世界平均を超えて伸びている点は、規制だけが唯一の推進要因ではないことを示唆している。
規制の強さだけでは説明できない
興味深いのは、この分析が「規制の強さ」と「責任あるAI求人の割合」の相関を検証している点だ。
例えば、規制が限定的であるにもかかわらず、オランダ、スイス、スウェーデンのような国では、レスポンシブルAIの言及割合が比較的高い水準を示しています。一方、イギリスではAI規制がより強いにもかかわらず、レスポンシブルAIの言及割合は中間的な水準に留まっています。
スタンフォード大学の「Global AI Vibrancy Tool」を用いて国家レベルのAI規制環境の強さとの相関を検証した結果、規制の強さだけでは言及率の高低を説明できなかったという。分析は「企業の評判や国際的な発信方針といった要因が影響している可能性がある」と結論づけている。
このGlobal AI Vibrancy Toolは、Stanford HAI(Human-Centered AI Institute)が公開している国別AI比較ツールで、公式ページの説明によれば36カ国のAI活況度を横断比較できる可視化ツールだとされている。Indeed Hiring Labの分析では、このツールの2023年データのうち「AI Legislation Passed(AI法制の成立程度)」「AI Mentions in Legislative Proceedings(立法手続きでのAI言及程度)」のスコアを合成した複合指標を、AI規制の強さを示す変数として用いたと説明されている。
「責任あるAI」は国際的な原則としては存在する
Indeed Hiring Labの分析が測っているのは、あくまで求人票の中で「レスポンシブルAI」という言葉がどれだけ使われているかという表層的な指標だ。一方で、国際的な制度としての「責任あるAI」の枠組みは既に存在する。OECD(経済協力開発機構)は2019年に「OECD AI原則」を採択し、2024年5月に改定した。公式ページによれば、この原則は「包摂的な成長・持続可能な開発・幸福」「人権と民主主義的価値観(公平性・プライバシーを含む)」「透明性と説明可能性」「頑健性・セキュリティ・安全性」「アカウンタビリティ」の5つの価値観に基づく原則から成り、政府間で採択された初のAI関連の国際基準だとされている。2026年8月29日時点でOECD加盟国を含む47の国・地域がこの原則に賛同しており、日本もOECD加盟国としてこの中に含まれている。
つまり日本は、国としては「責任あるAI」の国際原則に賛同する立場を取っているが、Indeed Hiring Labの分析が示すのは、その原則が個別企業の求人票の文言レベルにはまだあまり反映されていない、という別のレイヤーの話だ。制度への賛同と、採用現場での言及頻度は、必ずしも連動していない。
どんな職種に多いか(米国データ)
米国のAI求人を詳しく見ると、責任あるAIの言及率が最も高かった職種は法務(3.5%)、金融(2.3%)、研究開発(2.3%)、教育・研修(1.7%)だったとされる(2024年4月〜2025年3月)。テック系職種そのものよりも、法的・倫理的な説明責任が問われやすい人間中心的な職種で、責任あるAIへの言及が多い傾向が示されている。
| 職種カテゴリ(米国) | レスポンシブルAI言及率 |
|---|---|
| 法務 | 3.5% |
| 金融 | 2.3% |
| 研究開発 | 2.3% |
| 教育・研修 | 1.7% |
分析はこの傾向の理由についても触れている。「弁護士がAIを使って複雑な文書を要約する場合でも、法的・倫理的ガイドラインに則る必要があります。金融では、AIによる不正検出や信用スコアリングが進んでおり、公平性や透明性、説明責任が不可欠です」と説明されており、必ずしも技術的に高度なAI活用をしている職種が上位に来るわけではなく、AIの誤りが人に対する不利益に直結しやすい職種で言及率が高くなる傾向がうかがえる。
逆に言及が少ない職種は「労働需要が高い現場」
法務・金融が上位に来る一方、分析は言及が少ない職種にも触れている。
一方、労働需要が非常に高い小売や飲食サービスなどの職種では、レスポンシブルAIへの言及は限定的です。これは、これらの役割におけるAIの導入が全体的に限定的であり、レスポンシブルAIは、どちらかというとより小規模で専門的な分野に集中していることを反映しています。
つまり「責任あるAI」への言及は、AI導入自体が進んでいる分野に偏っており、AI導入がまだ限定的な現場(小売・飲食サービスなど)には、そもそも言及する機会自体が少ないという構造だ。これは「責任あるAIへの意識が低い」というより「AI導入自体がまだそこまで進んでいない」という別の要因が影響している可能性を示唆している。
日本国内での実例(今回未確認)
本記事の主軸であるIndeed Hiring Labの分析は、国別の求人言及率という定量データを扱ったものであり、日本国内で「AIガバナンスリード」「AI倫理担当」といった肩書を実際に掲げて募集している企業の個別事例までは、本記事では特定できなかった。関連する動きとして、Gennai(政府AI基盤)の記事で触れたように、デジタル庁が各省庁にCAIO(最高AI責任者)の設置を求める動きはあるが、これは「AI倫理」に特化した専任職とは性質が異なる。
日本特化のデータではなく、米国分析の中の1カ国
- この分析の日本語版ページは「主に米国に焦点を当てた分析であり、米国での記事を翻訳しています」と明記されている。日本に関する記述は分析全体の中の一部(国際比較の中の1カ国としての位置づけ)にとどまり、日本市場だけを深掘りした専用データではない
- 「日本の割合が具体的に何%か」という数値そのものは、本文中に明記されておらず、「世界平均(0.9%)を下回る」という相対的な位置づけのみが確認できた
- データの取得期間は2019年〜2025年3月が中心で、2025年後半〜2026年の最新動向は反映されていない
- 分析の原文(英語版)は、本記事の執筆時点でURLを特定できず確認していない。Indeed Hiring Lab Japanの日本語訳ページのみを一次資料として扱っている
- OECD AI原則の「47の国・地域が賛同」という数字は、本記事作成時にOECD.AIの原則ページで確認した時点のものであり、賛同国数は今後変動しうる。またこの数字は「制度への賛同国数」であって、Indeed Hiring Labの分析対象22カ国とは母集団が異なる点に注意してほしい
- Stanford HAIのGlobal AI Vibrancy Toolについて、公式ページ内には対象国数を「36カ国」とする記述と、関連論文の紹介文で「42の指標」と説明する記述があり、指標数の表記が本記事で確認した範囲では統一されていなかった。この記事では対象国数(36カ国)のみを本文に採用し、指標数は明記しないことにした
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