派手な発表の裏で静かに公開された中国勢3モデル──文書検索・マルチモーダル埋め込み・動画編集パイプライン【2026年8月】
Qwen3.8やUI-Mateのような話題性の大きいモデル発表の陰で、2026年8月はTencentの視覚文書検索モデル「EVIE-Preview-4.5B」(8/17)、マルチモーダル埋め込みモデル「WeMM-Embedding」(8/25)、ByteDanceの動画生成パイプライン再パッケージ「Bernini-Diffusers-v2」(8/13)も公開されている。単体では地味だが、RAG基盤や検索精度を扱う開発者には意味のある3件をまとめて確認した。

目次
2026年8月は、Qwen3.8シリーズ(27B・Max)やTencentのGUIエージェント「UI-Mate」のような、応用範囲の広いモデル発表が相次いだ月だった。その陰で、より専門的な用途向けの中規模モデルも3件公開されている。単体記事にするには対象が絞られすぎているため、まとめて確認する。
3行まとめ
- Tencentの文書検索モデル「EVIE-Preview-4.5B」は自己申告でViDoRe V3 1位(65.36点)を掲げるが、モデルカードの表を読むと2位(webAI-ColVec1.1-8b、65.32点)との差はわずか0.04点。しかもその65.36点は学習時(768トークン/ページ)ではなく、学習していない条件(1,792トークン/ページ)への外挿で出た数字
- マルチモーダル埋め込み「WeMM-Embedding」は9B/4B/2Bの3サイズで公開。MMEB-v3の音声(Audio)スコアは3サイズすべて0.0で、モデルカードの「音声入力は非対応」という記載と一致する。LICENSE本文もApache-2.0単体であることを直接確認した
- ByteDanceの動画生成/編集パイプライン「Bernini-Diffusers-v2」は6月11日公開モデルのdiffusers形式への再パッケージで、8月13日の更新自体は新モデルではない。「クローズドソース商用モデルと並ぶ第一階層」という主張は、社内アリーナ評価(人間によるブラインド比較)に基づく自己申告
1. Tencent「EVIE-Preview-4.5B」── 視覚文書検索でランキング1位を自称(8月17日)
TencentがApache-2.0で公開した視覚文書検索(visual-document-retrieval)モデル。Hugging Face上のモデルカード(curlで確認済み)によれば、ベースはQwen/Qwen3.5-4Bで、colpali-engine系のlate-interaction・多ベクトル方式を採用し、ネイティブに128次元のトークンベクトルを出力する。
自己申告のベンチマークとして、視覚文書検索の標準的な評価セット「ViDoRe」で以下を掲げている。
- ViDoRe V3:65.36点でRank #1
- ViDoRe V1+V2:85.77点でRank #1
「文書のスクリーンショットをそのままベクトル化して検索する」用途、つまりPDFやスキャン文書をレイアウトごと検索対象にするRAG基盤の実装で使われる種類のモデルだ。一般利用者向けの応用というより、検索基盤を自前で組む開発者向けの技術になる。
モデルカードに掲載されているViDoRe V3の順位表を実際に読むと、「Rank #1」の中身がもう少し具体的に見えてくる。
| 順位 | モデル | パラメータ数 | V3 public |
|---|---|---|---|
| 1 | EVIE-Preview-4.5B | 4.54B | 65.36 |
| 2 | webAI-ColVec1.1-8b | 8.40B | 65.32 |
| 3 | webAI-ColVec1.1-4b | 4.54B | 63.90 |
| 4 | nemotron-colembed-vl-8b-v2 | 8B | 63.54 |
| 5 | tomoro-colqwen3-embed-8b | 8B | 61.60 |
1位と2位の差は0.04点しかない。さらにモデルカードには「EVIEは768トークン/ページで学習されている」「1,792トークン/ページは純粋なテスト時の外挿で、その条件で学習・再調整されたことは一度もない」と明記されており、上表の65.36点は学習時ではなく外挿条件での数字だ。学習時の条件(768トークン/ページ)でのスコアは64.56点で、これでも2位のwebAI-ColVec1.1-8b(65.32点)には届かない。「Rank #1」という見出しは、外挿条件でのスコアを使って初めて成立する主張だと分かる。索引サイズは128次元の低次元ベクトルのおかげで、768トークン/ページなら100万ページあたり179.2GiB、1,792トークン/ページなら420.5GiBとされている。
2. Tencent「WeMM-Embedding」── テキスト・画像・動画を1本の埋め込みに(8月25日)
WeChat系の技術と見られるマルチモーダル埋め込みモデル。9B・4B・2Bの3サイズで公開され、ベースはQwen3.5系。テキスト・画像・動画・視覚文書・インターリーブ入力を受け取り、4,096次元でL2正規化された埋め込みを返す。モデルカードには「音声入力は非対応」と明記されている。
ライセンスはlicense: otherだがlicense_name: apache-2.0と記載され、別ファイルのLICENSEにリンクされている。このLICENSE本文を実際にcurlで取得して読んだところ、「WeMM-Embedding-9BはApache-2.0の下でライセンスされる。ただし以下に列挙する第三者コンポーネントは、それぞれ元のライセンス条件のまま残る」という一般的な構成で、Tencent独自の追加制限は明記されていなかった(第三者コンポーネントの一覧まではこの記事では精査していない)。
モデルカードのMMEB-v3評価表を見ると、9B/4B/2Bいずれの行も「Audio」列がすべて0.0になっている。これはモデルカード冒頭の「音声入力は非対応」という記載と一致する、数値上の裏付けだ。技術レポート(arXiv:2608.24053として引用されている)へのリンクもモデルカードにあったが、この記事では論文本文までは読んでいない。
3. ByteDance「Bernini-Diffusers-v2」── 動画生成パイプラインの再パッケージ(8月13日)
ByteDanceの動画生成・編集フレームワーク「Bernini」を、diffusers形式のパッケージとして再構成したもの。Qwen2.5-VLベースの意味プランナー、Bernini独自のプランニング重み、Wan2.2の拡散コンポーネントを1つの自己完結したディレクトリにまとめている。
モデルカードの「News」欄には「[2026-06-11] We open-sourced the inference code and model weights of the full Bernini」「[2026-05-22] We released our paper」の2行しかなく、8月の日付は出てこない。8月13日という日付は、Hugging Face APIで取得したリポジトリの作成日時(createdAt: 2026-08-13T12:21:37Z)である。つまりBernini本体の推論コード・重みの公開は2026年6月11日で、8月の更新は再パッケージ(v2)にとどまる。8月の「新発表」というより、既存モデルの配布形式の整理という位置づけが正確だ。
モデルカードのモデル情報表によれば、対応タスクはt2i(テキストto画像)・i2i(画像編集)・t2v(テキストto動画)・v2v(動画to動画編集)・rv2v・r2vの6種類。ベンチマーク欄には次の自己申告数値が載っている。
| 指標 | スコア |
|---|---|
| EditVerse | 8.02 |
| OpenVE | 3.96 |
| OpenS2V | 63.83 |
| VBench | 84.46 |
これらの数値の直後には「動画編集において、Berniniは自社内アリーナ評価(人間によるブラインドのペア比較)で、主要なクローズドソース商用モデルと並ぶ第一階層に達する」という記述もあった。この「第一階層」という評価は、比較対象・評価者・評価基準の詳細が公開されているわけではない社内評価に基づくもので、独立した第三者による検証ではない。
噂で終わらなかったもの:Tencentのフラッグシップ「Hy4」
2026年8月20日、一部の中国語メディアが「Xユーザーの発言によれば、Tencentの元宝アプリにフラッグシップモデル『Hy4』がリスト表示されている」と報じた。この時点では出所が匿名のSNS投稿の伝聞にとどまり、当サイトの証拠基準(一次資料または追試可能な確固たる根拠を要件とする)を満たしていなかった。
その後、Hugging Faceのtencent組織に Hy4-preview と Hy4-preview-FP8 が公開された(Hugging Face APIで作成日時 2026-08-27T08:52:40Z / 08:57:54Z、いずれも public を確認。2026年9月4日に再取得)。噂の段階は終わっており、当サイトでもテンセントのHy4 previewはClaude Haikuより安い──公開ベンチ46行を数えたらKimi K3と23勝22敗だったで個別に扱っている。本記事は「8月の小粒なリリース」をまとめたもので、Hy4 preview はその枠に収まらないため、詳細はそちらを参照してほしい。
3モデルとも自己申告の数字以上は検証していない
本記事で扱った3モデルの仕様・ベンチマークは、いずれもHugging Face上の一次資料(モデルカード・LICENSEファイル)に基づくが、実際の性能・検索精度についての第三者検証は行っていない。
- EVIE-Preview-4.5Bの「Rank #1」は、モデルカード上の比較表を読む限り2位との差が0.04点、かつ学習していない条件への外挿で出た数字であることは確認できたが、この外挿がViDoRe以外のベンチマークや実運用データでも同様に安定するかは検証していない
- WeMM-EmbeddingのMMEB-v2/v3スコアは、モデルカードが「technical reportのTable 1/2から」引用したものと説明しており、この記事ではその技術レポートPDF自体は読んでいない。LICENSE本文は確認したが、第三者コンポーネントの一覧までは精査していない
- Bernini-Diffusers-v2については、動画生成品質そのものを当ラボで確認できていない(生成物を実際に見て判定する検証はしていない)。「第一階層」という自己評価の妥当性も検証していない
出典・参照資料
AIニュースの解説を動画でも
YouTubeでは注目ニュースの背景を解説し、Xでは新着記事をお知らせしています。
コメント
まだコメントはありません。最初のコメントを書いてみませんか?
AIについて聞きたいことはありますか?
質問箱で無料で受け付けています。回答は公開され、他の方の参考にもなります。
質問箱を見る →新しい記事をメールで受け取る
AIの新しい発表を、出典付きで整理して届けます。