教師の5%がAI利用量の38%を占める — 約500万件のログが示す教育AI格差
スタディポケットが約500万件の教員AI利用ログを分析。トップ5%が利用量の38%、上位20%で73%を占める極端な偏り。管理職がAIを使う学校では利用率が1.6倍に。

目次
約500万件のログが示す格差
スタディポケットが日本の教員約500万件のAI利用ログを分析した結果(2025年11月発表)、極端な偏りが明らかになった。
- トップ5%の教員が全利用量の38%を占めている
- 上位20%で73%
- 残り80%の教員はほとんど使っていない
これは典型的なパレート分布(80-20の法則)よりさらに偏っている。AI教育ツールの導入は進んでいるが、実際に活用しているのはごく一部の教員に集中している。
何を180日集めた数字なのか
原典は、スタディポケット株式会社(東京都千代田区、設立2019年7月)が2025年11月25日に自社配信したプレスリリース「学校現場の生成AI活用実態レポート(2025年冬版)」。同リリースを2026年8月14日に確認したところ、分析の条件はこうなっていた。
| 項目 | リリース記載の内容 |
|---|---|
| 発表元・発表日 | スタディポケット株式会社 / 2025年11月25日 |
| レポート名 | 学校現場の生成AI活用実態レポート(2025年冬版) |
| 集計期間 | 2025年5月17日〜2025年11月11日(180日間) |
| 対象データ | 生成AIチャットのセッションログ 約500万件 |
| 併用データ | ユーザー属性(校種・教科・役職・契約プラン等) |
| 「上位5%」の元の文言 | 上位5%の教員だけで全体の約38%のメッセージを生み出している |
| 「ヘビーユーザー」の定義 | ヘビーユーザー率(100件以上利用) |
原文は「上位5%の教員だけで全体の約38%のメッセージを生み出している」。人数のシェアではなくメッセージ数の分布を指している。「メッセージ数の上位5%の教員」という言い方はリリースの原文そのままではなく、この文脈から読み取れる解釈である。
「ヘビーユーザー=100件以上」も、原文には集計期間との対応関係が明記されていない。集計期間(180日)の合計だと仮定すると週あたり約3.9件になるが、これは本サイトによる仮定に基づく試算であり、リリースに記載された数字ではない。仮定が外れれば数字も変わる。後述の22.4%と13.8%は、この「100件以上」という線で切った区分の話になる。
一方、リリースには対象ユーザー数・学校数・校種別の内訳が書かれていない。約500万件という分母が何人・何校から出たものかは、公表資料からは辿れない。
管理職が使えば教員も使う — 1.6倍の差
同じ分析で、管理職(校長・教頭等)のAI利用が教員の利用率に影響することも判明した。
- 管理職がAIを使う学校:ヘビーユーザー教員 22.4%
- 管理職が使わない学校:ヘビーユーザー教員 13.8%
1.6倍の差。トップダウンの影響が明確に出ている。
ただし原典に当たると、この22.4%は「管理職がAIを使う学校」全般の数字ではなかった。リリースは管理職の活用度を段階で分けており、22.4%は「深く活用している」学校、13.8%は「未利用」の学校の値である。原文は「管理職が深く活用している学校では、一般教員の『ヘビーユーザー率(100件以上利用)』が 22.4% に達し、管理職未利用校(13.8%)の 約1.6倍となります」。
同じリリースには、別の段階を使った比較も載っている。
| 管理職の状態 | 一般教員の指標 | 数値 |
|---|---|---|
| 積極的に活用している学校 | アクティブ利用率 | 88.5% |
| 未利用の学校 | アクティブ利用率 | 72.2% |
| 深く活用している学校 | ヘビーユーザー率 | 22.4% |
| 未利用の学校 | ヘビーユーザー率 | 13.8% |
(スタディポケット, 2025年11月25日リリース/2026年8月14日確認)
ヘビーユーザー率では1.6倍の開きだが、「ひとまず使っている」層まで含めたアクティブ利用率では88.5%対72.2%で、差は16ポイントに縮む。管理職の有無で大きく動いているのは、教員が使い始めるかどうかより、使い込む層が育つかどうかの側だった。
教員の利用量が伸びた学校には何があったか
リリースは、教員の利用量が伸びた学校の条件も挙げている。いずれも同社プラットフォーム内での比較である。
| 条件 | 比較対象 | 差 |
|---|---|---|
| 生徒にも導入している学校 | 生徒未導入校 | 教員1人あたり平均メッセージ数が約1.6倍。ヘビーユーザーの出現度合いも約1.6倍 |
| プロンプトテンプレートを作成する教員がいる学校 | いない学校 | 教員自身のメッセージ数が約2.6倍 |
教科別では、メッセージ総量の1位は「英語」。逆に数学は主要5教科の中で1人あたり平均利用数が相対的に低く、ヘビーユーザー率も16.4%と最低水準だった。1人あたり平均活用回数の上位には「公民」「地理歴史」「探究学習」「総合的な学習の時間」が入っている。
さらにリリースは、学校を2つの型に分けている。
- 特定教員依存型:トップ20%の教員がメッセージの90%以上を占める学校。リリースは「活用が進んでいるように見えても、属人性が高く、異動などで失速するリスクがあります」としている
- 組織浸透型:トップ20%のシェアが30〜50%程度に留まり、多くの教員が日常的に利用している学校
冒頭の「上位20%で73%」という全体値は、90%以上の学校と30〜50%の学校が混ざった平均ということになる。同じ73%でも、内訳の学校がどちらの型かで意味は変わる。
生徒側も同じ構造
教師側の格差は、生徒の学習ツール利用にも同じパターンが現れている。
Khan Academyが開発した生徒向けAIチューター「Khanmigo」(月額$4・出典未確認)と、Khan Academy本体の学習効果データには、次のような数字が挙げられている。
- Khanmigoの利用者は1年で4万人→70万人に増加したとされる(出典未確認。下記「原典を特定できなかった数字」参照)
- Khan Academy本体を週30分以上使った生徒は、期待される学習成長を約20%上回った(Khan Academy エフィカシー結果, 2024年11月/※下記の通り、これはKhanmigoではなくKhan Academy本体の数字)
- Khanmigoへのアクセス権がある学生のうち、定期利用は15%だけという情報があるが、出典未確認(下記「原典を特定できなかった数字」参照)
「約20%」はKhanmigoの数字ではなかった
この「約20%」を原典で確認したところ、Khanmigoではなく Khan Academy本体の利用データだった。Khan Academyが2024年12月6日に公開した「Khan Academy Efficacy Results, November 2024」の記述は次の通り。
"Using Khan Academy for 30+ minutes per week, or 18+ hours over the duration of the school year, is associated with ~20% greater-than-expected learning gains"
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | Khan Academy本体(Khanmigoではない) |
| 対象学年 | 3〜8年生 |
| 対象年度(単年サンプル) | 2022-23年度、約350,000名 |
| 縦断データ保有者 | 2年以上のデータがある生徒 約221,000名(3年連続実施した調査の累計人数。350,000名の内数かどうかは原典に明記が無い) |
| 測定指標 | MAP Growth Assessment(秋・春の2回) |
(Khan Academy, 2024年11月結果/2026年8月14日確認)
同じレポートには、推奨される利用量(週30分以上、または年間18時間以上)に到達した生徒の割合も出ている。到達したのは約9%、人数にして約33,000名。一方、それより少ない9〜18時間の利用だった生徒(15%、約55,000名)も、期待を約7%上回る学習成長を記録している。推奨量に届いた生徒は少数派だが、届かなかった生徒の学習成長がゼロというわけではない。
Khanmigoを含む学校向けAIツールの機能と価格の比較はAI教育ツールの機能・価格の整理にまとめてある。
道具があっても使うのは一部。教師も生徒も同じ構造。
学校現場にとって重要な理由
AI教育ツールの議論は「導入するかしないか」のフェーズを超え、**「導入した後、実際に使う人と使わない人の格差をどうするか」**に移っている。
同じ「届いているのに使われない/そもそも届かない」という構図は、不登校支援のICT活用でも起きている。文部科学省の調査では、不登校児童生徒35万人超のうちICT出席扱いになっているのはわずか3.7%にとどまる(不登校×AIの現在地)。
管理職のAI利用が教員の利用率を1.6倍にするというデータは、ツールの性能よりも組織のリーダーシップが普及の鍵を握ることを示唆している。
「20%上回る」の原典はKhanmigoでなくKhan Academy本体だった
- スタディポケットのデータは同社プラットフォーム利用者に限定されたものであり、全国の教員を代表するサンプルではない
- 「約20%上回る」はKhanmigoではなく、Khan Academy本体のデータ(MAP Growth Assessment基準)。独立研究(Journal of Teaching and Learning, 2025)ではAIチューターと従来手法で統計的有意差は認められなかったという情報があるが、この研究自体の出典(URL・著者・査読状況)は当方で特定できていない
- 管理職の影響は相関であり、因果関係(管理職が使うから教員が使う vs AI推進的な学校だから管理職も教員も使う)の切り分けは本データからはできない
- 記事中の数字はすべて2026年6月時点(出典の再確認と加筆は2026年8月14日)
2026年8月14日の再確認で分かったこと
- 訂正:「週30分以上で約20%上回った」を当初Khanmigoの数字として本文に置いていたが、原典はKhan Academy本体のデータだった。数値そのものは原典と一致していたため、該当箇所に注記を追加した
- 原典を特定できなかった数字:「利用者が1年で4万人→70万人」「アクセス権のある学生の定期利用は15%だけ」「Khanmigo 月額$4」の3点。Khan Academy公式ブログのエフィカシー記事、Khanmigo公式サイト、EdTech Innovation Hubのいずれからも当該数値に辿り着けていない。この3点は出典を辿れない数字として扱ってほしい
- スタディポケットのリリースは同社の自社配信であり、自社プラットフォームのログを自社が分析した結果である。第三者による検証は入っていない
- 同リリースには対象ユーザー数・学校数・校種別の内訳の記載がなく、約500万件の分母は公表されていない
- 定義が明示されているのは「ヘビーユーザー(100件以上利用)」のみ。「アクティブ利用率」の定義と、管理職の活用度を「未利用/積極的に活用/深く活用」に分けた判定基準は、リリースに記載がない
- リリースは詳細を2025年12月4日開催のカンファレンスで発表するとしており、レポート全文の一般公開先は本稿執筆時点で確認できていない
- 本記事は当サイトが実機で動かして検証した記事ではないため、
verifiedは false のままにしている。今回行ったのは出典の特定であって実機検証ではない
2026年8月14日の再修正で直したこと
- Khan Academyの「約350,000名」と「約221,000名」を表で「うち」(内訳)の関係として示していたが、原典はこの2つを別々の記述として書いており、内訳関係だとは書いていない。2つの独立した数値として書き直した
- 「ヘビーユーザー=100件以上」の集計期間を「期間中の利用」と表に書いていたが、原典にその対応関係の明記はない。180日で割った週あたり約3.9件という数字は本サイトによる試算であることを明示した
- Khanmigoの利用者急増(4万人→70万人)と定期利用15%の数値に付いていた「(Khan Academy, 2024)」「(EdTech Innovation Hub)」という出典表記は、実際にはその数値を裏付ける記載ではなかったため外し、「出典未確認」と明記した。EdTech Innovation Hubはサイトのトップページのみ確認でき、Khanmigo利用率データそのものには辿り着けなかったため、sourcesからも外した
- 「Khanmigo」のデータとして3項目を並べていたが、うち1項目(週30分以上で約20%上昇)はKhan Academy本体の数字であるため、リード文をKhanmigo/本体で書き分けた
- 推奨利用量に届かなかった生徒(9〜18時間、15%・約55,000名)でも約7%の学習成長が確認されているという原典の記述を補い、9%到達者だけを取り出して悲観的にまとめていた文を修正した
- 情報量のない接続文を3か所削除した
出典・参照資料
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