「本物のユーザーがこのタスクを完了できるか」をAIエージェントに判定させるモバイルテストツール Deltix
Deltixは、平易な英語で書いたタスクをMac上のiOSシミュレータでAIエージェントに実行させ、実際のユーザーがそのフローを完了できるかを判定するテストツール。成功した実行はリグレッションチェックとして保存でき、2つのビルドを並べて比較する機能も持つ。オープンベータで、現時点ではiOSのみに対応。

目次
3行まとめ
- Deltixは、平易な英語で書いたタスク(例:「サインアップして最初のメッセージを送る」)をMac上のiOSシミュレータでAIエージェントに実行させ、「実際のユーザーがこのフローを完了できるか」を判定するテストツール。
- 動作は「Task(1回試す)」「Playbook(成功したフローを保存して決定論的にリプレイ)」「Experiment(2つのビルドを同じタスクで比較)」の3モードに整理されている。
- 公式サイトによれば、ソースコード・ビルド・署名情報はMac上に留まり、Deltix側がアクセスすることはない。エージェントは画面に見えているものだけを操作し、そのスクリーンショットと実行記録だけがアカウントに保存される(自前のモデルキーを使う選択肢もある)。
「実際のユーザーが完了できるか」を毎回リサーチせずに知る
公式サイトが掲げるコンセプトは「Test your mobile app like a real user.」——タスクを平易な英語で書くと、Deltixはそれをシミュレータ上で実行し、実際のユーザーがそのタスクを完了できるかを教えてくれる、というものだ。想定される使い方として、新機能を作った直後に「本当にユーザーが使えるか」をリサーチセッションを組まずに確かめたい場面が挙げられている。
導入から最初の実行までは4ステップで説明されている。
- サインアップ:無料、クレジットカード不要、招待も不要。メール確認だけ
- Macエージェントのインストール:小さなネイティブアプリ。作成したアカウントでサインイン
- シミュレータに接続:Mac上で起動中の任意のiOSシミュレータを選ぶ。エージェントがアタッチし、邪魔をしない
- 最初のタスクを実行:「サインアップして最初のメッセージを送る」のような平易な英語のタスクを書き、エージェントが試みるのを見る
プライバシーの説明
公式サイトは「プライバシーはデフォルト」というセクションを設け、ソースコードとビルドはMac上に留まると明記している。エージェントはローカルでシミュレータに対して動作し、Deltix側がソースコード・ビルド・署名情報にアクセスすることはないとしている。一方で、実行中にエージェントが画面上で見たものに基づいて操作するため、そのスクリーンショットと実行記録自体はアカウントに保存され、確認・リプレイができる(いつでも削除可能)。推論トラフィックを自社の課金から外したい場合は、自前のモデルキーを持ち込むこともできるという。
別ページの「Privacy & Data Handling」(2026年5月6日更新)を読むと、何が手元に残り何がクラウドへ送られるかが、より具体的に書かれている。
| Macから出ないもの | クラウド・LLMへ送られるもの | 収集しないもの |
|---|---|---|
| アプリのバイナリ(IPA・.appバンドル) | 各ステップのスクリーンショット | 決済情報(ベータは無料) |
| ソースコード | アクセシビリティツリー(要素種別・識別子・ラベル・フレーム) | 国レベルを超える位置情報 |
| - | 実行したアクションの説明・実行メタデータ(デバイス種別・所要時間・ステータス) | サードパーティのトラッキングCookie |
| - | 判定結果(critic findings)・自己修復(heal)提案の根拠(一部はLLM生成) | アプリ内利用状況の分析(ページビュー・クリック追跡・セッション録画) |
(出典:Deltix Privacy & Data Handling公式ページ)
また同ページには「アカウント情報として、メールアドレス・ユーザー名・パスワード(ハッシュ化)・アカウント作成日時を収集する」「登録アプリについてバンドルIDとアプリ名を収集する」ことも明記されている。
内部で動いているのはAnthropicのClaude API
Privacy & Data Handlingページの「Subprocessors」欄には、データを処理する外部サービスが具体的に列挙されている。
| Subprocessor | 役割 |
|---|---|
| Anthropic(Claude API) | UIツリー・スクリーンショットをClaudeに送り、ナビゲーション・スコアリング・自己修復(self-heal)の判定に使う |
| Supabase | データベース。アカウント情報・実行記録・スクリーンショット・specを保存(米国リージョン) |
| Vercel | ダッシュボードのホスティング |
| Railway | バックエンドAPIとバリデーションワーカーのホスティング |
(出典:Deltix Privacy & Data Handling公式ページ「Subprocessors」欄)
つまり記事冒頭で「AIエージェントに判定させる」と書いたAIエージェントの実体は、少なくともデフォルト設定ではAnthropicのClaude APIだ。同ページは「AnthropicのCommercial Terms of Serviceに基づいており、データ処理補足契約(Standard Contractual Clauses付き)によって顧客データをモデル学習に使うことを禁止している」と説明している。この主張を裏取りするため、Anthropic公式のCommercial Terms of Service(発効日2025年6月17日)を直接curlして確認したところ、本文中に「Anthropic may not train models on Customer Content from Services.(Anthropicは本サービス経由の顧客コンテンツでモデルを学習させてはならない)」という一文が実際にあった。Deltix側の説明は、Anthropic自身の契約条件の文言と一致している。3行まとめで触れた「自前のモデルキーを使う選択肢」は、このデフォルトのClaude API利用を別のキーに置き換えるオプションということになる。
ベータ利用規約が明記する限界
Beta Terms(同じく2026年5月6日更新)は、判定結果の信頼性について踏み込んだ免責を書いている。
Validation results are advisory. We don't guarantee they're accurate, complete, or stable run-to-run.
「判定結果はあくまで参考情報であり、正確性・網羅性・実行間の安定性のいずれも保証しない」という文言だ。冒頭で紹介した「実際のユーザーが完了できるかを判定する」という謳い文句に対して、公式自身が付けている留保でもある。同じ文書には「バグ・見逃された退行・ダウンタイム・誤判定(false negative)・自己修復の誤検知(false positive)は、すべて利用者側で確認する責任がある」とも明記されている。ベータ利用は招待ユーザーには無料で、料金・規約に変更がある場合は事前にメールで通知するとしている。問い合わせ先はsupport@deltix.ai(利用規約関連)、privacy@deltix.ai(データ関連、開示・削除請求への対応目標は7日以内)とされている。データの保持期間についても、アカウント情報は削除依頼があるまで、実行記録(スクリーンショット・アクセシビリティツリー・判定結果)はベータ期間中は削除依頼がない限り保持し続ける、とPrivacyページに明記されている。
3つのモード
READMEならぬ公式サイトの機能説明ページによれば、Deltixは1つのプリミティブ(AIエージェントによるユーザータスクの試行)を3通りの使い方に分けている。
- Task(1回試す):「実際のユーザーがこれをできるか」を、リサーチセッションを組まずにその場で確認する
- Playbook(保存して再実行):成功した実行を保存すると、以降のビルドに対して決定論的にリプレイできる。ダッシュボードから合否が数秒で分かる
- Experiment(2ビルド比較):同じタスクを2つのビルドに対して並べて実行し、どちらのユーザーが完了でき、どちらが壊れるかを、本番でのA/Bテストに回す前に確認する
今後の予定
公式サイトには「開発中/次に来るもの」として、実機(Macに接続した実iPhone、進行中)、Android(次)、CI向けCLI(GitHub Actions・GitLab・CircleCIからのPlaybookリプレイ、次)、React Native・Flutterなどハイブリッドアプリ対応(その先)が挙げられている。現時点ではiOSシミュレータのみのオープンベータで、クレジットカード不要・招待不要と明記されている。
「招待不要」なのか「招待制ベータ」なのか、公式ページ同士で表記が食い違っている
ホームページのサインアップ手順は「招待も不要」と明記している一方、同じdeltix.aiドメイン内のBeta Terms・Privacy & Data Handlingの2文書(いずれも2026年5月6日更新)は、どちらも冒頭で「Deltix is in invite-only beta(Deltixは招待制ベータです)」と述べている。ホームページの方が新しい方針を反映していて法務文書の更新が追いついていないのか、あるいは招待制と無招待の窓口が併存しているのかは、公式サイトの記載だけでは判別できなかった。またBeta Termsには「ベータは主に米国・カナダ在住ユーザー向けで、EU/UKからの新規登録は現時点で受け付けていない」という地域制限も明記されており、これは本記事の3行まとめ作成時点では見落としていた条件だ。本記事はDeltix公式サイトの3ページをcurlで取得した内容にもとづいており、筆者の手元でMacエージェントをインストールしてシミュレータに接続し、タスクを実行させたわけではない。運営会社の法人名・資金調達状況・正式リリース後の料金体系は、これら3ページの範囲では確認できなかった。
モバイルアプリのAIエージェントテストという話題はまだ薄い
Zenn・Qiitaともに言及はゼロだった。モバイルアプリのAIエージェントによる自動テストというテーマ自体、日本語圏ではまだ事例紹介が少ない領域だ。
関連記事
出典・参照資料
AIニュースの解説を動画でも
YouTubeでは注目ニュースの背景を解説し、Xでは新着記事をお知らせしています。
コメント
まだコメントはありません。最初のコメントを書いてみませんか?
AIについて聞きたいことはありますか?
質問箱で無料で受け付けています。回答は公開され、他の方の参考にもなります。
質問箱を見る →新しい記事をメールで受け取る
AIの新しい発表を、出典付きで整理して届けます。