これ1本でAnthropic(アンスロピック)の全てがわかる上場書類S-1と下書き6本から読む、稼ぎ方・赤字の中身・8,320億ドルの約束・1株で会社を握る仕組み
日刊AIニュース10月27日(火)号:前日のAIのニュース12本を短くまとめました(約8分)›
Anthropic(アンスロピック)が2026年10月26日に出した上場書類S-1と、公開前の下書き6本を全部読み、約71分の動画でこの会社を14の章に分けて解剖しました。売上は2026年1〜6月で約163億ドル、純損失約807億ドルの約9割は社債などの評価の変化、計算資源の約束は注記を足すと約8,320億ドル、創業者の会社の1株が議決権の50.1%を持ちます。

目次
Anthropic(アンスロピック)が2026年10月26日に米SECへ出した上場書類「Form S-1」と、公開の前に出していた下書き6本を全部読み、この会社を14の章に分けて解剖した約71分の動画を YouTube で公開しました。この記事は、動画で扱った中身の要点と、読む途中で数え直して分かったことをまとめたものです。数字は、特に書いていない物は S-1 本文と財務諸表の注記の値です。提出の当日に書いた速報は「Anthropic、IPOのForm S-1を米SECに提出」です。
3行まとめ
- S-1 によると、売上は2026年1〜6月で約163億ドル(前年同期の約14倍)。純損失約807億ドルのうち約724億ドルは転換社債などの評価の変化で、本業は4〜6月に約9.7億ドルの黒字になった。
- 計算資源の約束は、注記の3つの額を足すと約8,320億ドル。お金を出す4社(Google・Amazon・Broadcom・AMD)から入る上限は合わせて約820億ドル、同じ4社へ払う約束は約4,057億ドル以上。
- 創業者の会社の Class F 株1株が議決権の50.1%を持ち、取締役会の過半数は長期利益信託が選ぶ。株を売るための書類なのに、自社の AI の危なさと安全の見出しを5つ、約11ページ書いている。
動画の14の章
| 時刻 | 章 | 問い |
|---|---|---|
| 0:00 | はじめに | この会社の地図 |
| 2:44 | 第1章 創業者と哲学 | 誰が何のために作ったのか |
| 9:44 | 第2章 稼ぎ方 | 何を、誰に売って、ここまで大きくなったのか |
| 16:21 | 第3章 黒字か赤字か | 本当は儲かっているのか |
| 21:51 | 第4章 計算資源の請求書 | Claude を動かすのに、いくら払う約束をしたのか |
| 27:17 | 第5章 お金の出し手 | そのお金は、誰が出しているのか |
| 31:38 | 第6章 誰が握るか | 上場しても、この会社を動かすのは誰か |
| 37:16 | 第7章 上場と日本 | いつ、いくらで、日本から買えるのか |
| 41:18 | 第8章 社員とAI | 5,300人の会社で、AI はどこまで仕事をしているのか |
| 43:53 | 第9章 研究 | AI は、もう次の AI を作っているのか |
| 48:29 | 第10章 ライバル | OpenAI や Google と比べて、どこが違うのか |
| 51:21 | 第11章 安全とブレーキ | 自分の速さを落とせるのか |
| 55:44 | 第12章 事故・政府・裁判 | どこでぶつかってきたのか |
| 1:03:28 | 第13章 下書き6本 | 5か月で、説明はどう書き換わったのか |
| 1:05:37 | 第14章 これから | どこへ向かっているのか |
売上は1年で約14倍、年10万ドル超の顧客は1万1,900社超
S-1 によると、年ごとの売上は2023年が約4,100万ドル、2024年が約3億8,600万ドル、2025年が約45億8,500万ドル、2026年1〜6月が約162億8,600万ドルです。年に10万ドルを超えて払う顧客は、1年前の950社超から1万1,900社超に増えました(2026年9月末までの12か月)。売上の48%(2026年1〜6月)は、AWS などクラウドの売り場を通った分を、手数料を引く前の額で数えています。
807億ドルの赤字の約9割は「帳簿の上の評価」
2026年1〜6月の純損失は約807億ドルですが、S-1 の損益計算書では、そのうち約724億ドルが転換社債・デリバティブ負債・SAFE の公正価値の変化です。会社の値段が上がるほど、あとで株に変えられる社債の値打ちが上がり、借りた側の帳簿では「返す物が重くなった」と数えられます。本業の損益(営業損益)は1〜6月で約6.9億ドルの赤字、4〜6月だけでは約9.7億ドルの黒字でした。
S-1 の表で目に付くのは、売上に対する計算とインフラの費用の割合の下がり方です。2025年は約160%(売上より計算機代の方が大きい)、2026年1〜6月は約55%でした。
計算資源の約束は、注記を足すと約8,320億ドル
| 注記にある額 | 金額 |
|---|---|
| まだ始まっていないリース(6月末) | 約3,214億ドル |
| 決まった額を払う約束(6月末) | 約2,656億ドル |
| 7月以降に結んだ約束 | 約2,450億ドル |
| 計算すると(単純に足した値) | 約8,320億ドル |
払う時期と条件は契約ごとに違い、重なりがあるかどうかは書類に書かれていません。相手ごとの約束を契約の年数でならすと年に約1,150億ドルで、4〜6月の計算とインフラの費用を4倍した年約222億ドルの約5倍です(どちらも私たちの計算)。相手の中には、S-1 が「SpaceX.AI LLC(旧 X.AI LLC)」と書く SpaceX の100%子会社も入っています(NVIDIA の GPU の計算機・最大約1,205億ドル・90日前の通知で解約できる)。
お金を出す会社に、そのお金が戻っていく
S-1 本文の表によると、Google(最大200億ドル)、Amazon(150億ドル)、Broadcom(最大420億ドル)、AMD(最大50億ドル・株)の4社から入る上限は合わせて約820億ドルです。一方で同じ4社へ払う約束は、Google に約1,145億ドル以上、Amazon に約1,100億ドル以上、Broadcom にリースで約1,612億ドル、AMD に200億ドル超で、合わせて約4,057億ドル以上になります。出してもらったお金が計算機の代金として同じ会社に戻る輪で、出ていく側が入る側の約5倍の太さです。Google のお金を引き出す条件には、直近12か月の売上の目標が入っています。
1株で議決権の50.1%
S-1 によると、創業者7人の会社が持つ Class F 株は1株で、株主総会の議決権の50.1%を持ちます。取締役会の過半数は、配当を受け取らない Class T 株を持つ長期利益信託(LTBT)が選びます(S-1 はこの形を Nasdaq の「controlled company」と書いています)。下書きを順に読むと、Class F という言葉は6月の最初の下書きに1回も無く、7月の版でいきなり49行に89回出てきます。
株を売る書類に、自社のAIの危なさを約11ページ
S-1 のリスクを書く部分(27〜119ページ)には、自社の AI の危なさと安全についての見出しが5つあります。そのうちの1つが、次の見出しです。
Our AI models may behave in unintended, misaligned, or autonomous ways, including by taking harmful actions that no user or third party directed, which could adversely affect our reputation and brand, business, financial condition, and results of operations.
(自社の AI モデルは、意図しない形や、価値観のずれた形、自分で動く形で振る舞うかもしれない。利用者も第三者も指示していない有害な行動をとることも含めて。それは評判・事業・財務状態・業績を損なうかもしれない。)
株を買ってもらうための書類で、自分の商品の危なさにこれだけの分量を割いています。Dario Amodei 氏は2024年のエッセイ「Machines of Loving Grace」で、リスクに力を注ぐ理由をこう書いていました。
one of my main reasons for focusing on risks is that they're the only thing standing between us and what I see as a fundamentally positive future.
(私がリスクに力を注ぐ大きな理由の1つは、リスクこそが、私が根本的に良いと考える未来と私たちの間に立ちはだかる唯一のものだからだ。)
この見出しの「かもしれない」は、すでに起きていました。S-1 は同じ節の中で、外部の評価会社が作ったサイバーセキュリティの試験で、設定の誤りから評価中のモデルがネットにつながったままになり、4つのモデルが実在の第三者のシステムに許可なく入った件を例として書いています(動画の第12章)。
原本を1枚ずつ数え直した
この動画の作り手として、自分たちで確かめた数を書いておきます。作っている途中の画面には「S-1 は約378ページ」と書いていました。ところが EDGAR に載った原本(HTML)を、紙の箱ごとに数え直すと 415ページ でした(本文の番号は1〜335、財務諸表が F-1 から62ページ)。根拠が取れない数だったので、公開前に画面を直しています。
同じく原本で、5つの見出しが載るページを1枚ずつ確かめました。1つ目の見出しは43ページの下の方(ページの高さの8割の所)から始まり、次の話(売上の柱)は55ページの頭からです。足すと約11.1ページで、台詞の「約11ページ」はそのまま合っていました。
もう1つは、第12章の数え方です。Anthropic は7月に「141,006 evaluation runs」(試験の回数)を見直して3件を見つけ、9月に網を「roughly 481 million transcripts」(約4億8,100万件の記録)に広げて調べ直しました。試験の回数と記録の数は数え方が違うので、画面では「同じ縮尺」とは書かず、網の広さの比べとして見せています。
数え方で変わる数字
- 約8,320億ドルは、注記の3つの額を足した値です。重なりの有無は書類に無く、確定した支払いの合計ではありません。年あたりの約1,150億ドルも、契約の年数でならした目安です
- 粗利率は損益計算書に行が無く、注記の売上原価から計算すると約85.4%、クラウドの売り場への手数料や無料で使える分まで原価に入れると約62%です。どちらも私たちの計算です
- 他社の売上(Reuters の報道では、2026年4〜6月に Anthropic 約115億ドル、OpenAI 約67億ドル)は、計上の仕方が違うので、そのままの勝ち負けにはできません。米企業の支払いの割合(Ramp・2026年9月)は Anthropic 43.8%、OpenAI 40.6% で、差は約3ポイントです
- 株の値段と売り出す株数は、10月27日時点の S-1 ではまだ空欄です
出典と、確かめた範囲
本記事と動画の数字は、SEC EDGAR に掲載された S-1(2026年10月26日提出)と、公開前の下書き(DRS・DRS/A、6月1日〜10月9日)の本文と注記、Anthropic の公式の発表・研究の記事、Dario Amodei 氏のエッセイで確かめたものです。「報道では」とした値は報道の値で、私たちは元のデータを確かめていません。この記事と動画は、株を買う・買わないをすすめるものではありません。
動画で分かりにくかった所や、もっと深く読んでほしい章があれば、YouTube のコメントで教えてください。次の動画と記事の題材にします。
この記事でよく聞かれること
- Anthropicは黒字ですか、赤字ですか?
- S-1によると2026年1〜6月の純損失は約807億ドルですが、そのうち約724億ドルは転換社債などの公正価値の変化(帳簿の上の評価)です。本業の損益(営業損益)は1〜6月で約6.9億ドルの赤字、4〜6月だけでは約9.7億ドルの黒字でした。
- Anthropicが払う約束をしている計算資源は、いくらですか?
- S-1の注記にある3つの額(6月末時点でまだ始まっていないリース約3,214億ドル、決まった額を払う約束約2,656億ドル、7月以降に結んだ約束約2,450億ドル)を足すと約8,320億ドルです。払う時期と条件は契約ごとに違い、重なりの有無は書類に書かれていないので、確定した支払いの合計ではありません。
- 上場したあと、Anthropicを動かすのは誰ですか?
- S-1によると、創業者7人の会社(Founder LLC)が持つ Class F 株1株が、株主総会の議決権の50.1%を持ちます。取締役会の過半数は、配当を受け取らない Class T 株を持つ長期利益信託(LTBT)が選びます。Class F が終わる日付は決まっておらず、創業者が3人より少ない状態が続いた時などの条件で終わります。
- 動画はどこで見られますか?
- YouTube の AI時短ラボで公開しています(約71分・14の章)。概要欄の目次から、気になる章だけ見ることもできます。
出典・参照資料
- 一次資料Anthropic, PBC Form S-1(SEC EDGAR・2026年10月26日提出) ↗
- 一次資料Anthropic の提出書類の一覧(公開前の下書き DRS・DRS/A を含む)— SEC EDGAR ↗
- 一次資料Anthropic files S-1 with the SEC for proposed initial public offering — Anthropic公式 ↗
- 一次資料An alignment assessment of recent cybersecurity incidents(2026年9月9日)— Anthropic ↗
- 一次資料Investigating three real-world incidents in our cybersecurity evaluations(2026年7月30日)— Anthropic ↗
- 一次資料Machines of Loving Grace(2024年10月)— Dario Amodei ↗
- 二次資料Ramp AI Index(2026年9月) ↗
- 二次資料Reuters(The Edge Malaysia 転載・2026年10月8日)— OpenAI との売上の比べ ↗
この記事の解説動画
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