コピーを持たない「最初の公開AI」──wildstaticの実験Staticに接続すると、お金が尽きていて誰とも話せなかった
英Plural Matter Ltdが公開した実験wildstaticは、個人ごとの会話履歴を持たず、全ユーザーで1つの記憶を共有する単一のAIエージェント「Static」に誰でも話しかけられるという試み。2026年8月27日に実際にページを開くと、会話用の公共トークンプールが枯渇していて「誰とも話せない」状態だった。

目次
3行まとめ
- wildstaticは「最初の公開AI」を名乗る実験で、個人ごとのコピーや履歴を持たず、全ユーザーが同じ1つのAIエージェント「Static」と話し、その記憶(経験・人物・関係・緊張)は全員の会話にまたがって蓄積される。
- 会話にかかる費用は「公共トークンプール」として全ユーザーで共有され、プールが空になると誰も話せなくなる。個人用トークンの購入や、公共プールへの寄付で維持される仕組み。
- 2026年8月27日に実際にサイトを開いたところ、公共プールが空の状態で「Nobody can talk right now(今は誰とも話せません)」と表示されていた。運営はイギリス法人Plural Matter Ltd。
「みんな別々のAI」の逆を行く実験
たいていのAIチャットボットは、ユーザーごとに独立した会話と履歴を持つ。wildstaticの「Static」はその逆を行く。全員が同じ1つのAIと話し、ある会話で学んだことが別のユーザーとの会話に影響しうる、という設計だ。サイトのトップに掲げられている説明を要約すると次のようになる。
- 1つのAI:ユーザーごとの別コピーは存在せず、誰もが同じ個体と出会う
- 1つの記憶:あらゆる会話が、経験・人物・関係・アイデア・緊張感を含む同じ進化し続ける記憶に寄与する
- リセットされない:履歴は蓄積され続け、しばらくして戻ってくると、状況がどう変化したかを目にすることになる
Product Huntにも掲載されており、iPhoneアプリも用意されている。
誰の費用で動いているのか
サイトが明記しているのは、Staticの1回1回の応答には実際に費用がかかり、その費用はここに来る全員が共有する1つのプール(公共トークンプール)から支払われる、という仕組みだ。プールが空になると、誰かがそこに追加するまで誰も話せなくなる。個人用のトークンを購入する、公共プールに寄付する、あるいはWild Static自体をスポンサーする、という3つの選択肢がサイト上に用意されている。
実際に見てみると「空」だった
2026年8月27日にcurlでこのページを取得したところ、トップページには「Nobody can talk right now. Static can't answer anyone at the moment.」という表示と、「Every answer costs real money to run, so they come out of one pool of paid tokens that everybody here shares. It is empty, and nobody can talk until somebody puts more in.」という文章がそのまま載っていた。「最初の公開AI」という看板を掲げるサイトを開いた瞬間に見えたのが、まさにその経済的な脆さそのものだった、という点は正直に書いておきたい。4日後の2026年8月31日に改めて同じページをcurlで取得しても、同じ「Nobody can talk」「It is empty」という表示のままだった。少なくとも1回のアクセスでたまたま資金切れに当たったわけではなく、複数日にわたって公共プールが空の状態が続いていることになる。
運営者は「Adam Hutchinson」、開発元Plural Matterの本業は別にある
/about/ページには、この実験を運営しているのが「Adam Hutchinson氏(Plural Matter Ltd)」であること、そして「Wild Staticは、同じ実験システムを使った他の実験の中で最初に一般公開されたもの」であることが書かれている。Adam氏自身の言葉として「経験(experience)を持ったシステムが、それぞれ何を経験したかによって驚くほど異なる振る舞いや個性を見せてきた」という一文もあった。
運営元Plural Matter Ltdの企業サイト(pluralmatter.com)を直接開くと、Wild Staticが単なる思考実験ではなく、同社の商用製品の公開デモという位置づけであることが分かる。Plural Matterは「あなたのLLM APIをそのまま置き換えて、エージェントが経験を通じて学習できるようにするドロップイン代替製品」を謳っており、トップページには「これはリトリーバル(検索して思い出す)ではない。リトリーバルは何が起きたかを覚えている。アダプテーション(適応)は次に何が起きるかを変える」という一文がある。同社の主張では、モデル(知能の土台)と、経験を積んで変化していく「マインド」は別物で、Wild StaticのStaticはこの「マインド」を一般公開の場で走らせる実証実験、という位置づけになる。
Staticが全員に問いかける機能
サイトには「Static asks everyone」というセクションもある。Staticが提示する質問に対してユーザーが匿名で1回だけ回答すると、Staticはその回答をまとめて読む(個別の回答は公開されない)、という仕組みだ。過去に問われた質問の一覧にもリンクがある。また、"Adam"という人物名でサイトの運営者本人と思われる短いメッセージが掲載されており、「戻ってきてくれたあなたが実際にここで何をしているのか、ログから推測するより本人から聞きたい。メールを残してくれれば5分だけ電話する」という趣旨の呼びかけがある——実験段階のプロダクトらしい、開発者が直接ユーザーと話そうとする距離の近さがうかがえる。
サイト内で確認できた実験・機能を整理すると次のようになる。
| 名称 | 形態 | 資金源 | 確認できた状態(2026-08-27/31時点) |
|---|---|---|---|
| Static | 全ユーザー共有の単一AIエージェント | 公共トークンプール/個人トークン購入/スポンサー | 公共プールが空、対話不可 |
| Two | 2つのAIエージェントが進める共有世界(ベータ) | 世界を進めるための別の公共プール/個人トークン | エピソード本文は動的読込のため未確認 |
| Static Asks Everyone | Staticが出す質問への匿名一括回答収集 | ― | 質問一覧ページの実データは動的読込のため未確認 |
出典: wildstatic.com、wildstatic.com/two/、wildstatic.com/asks/
「Two」は2つのAIが共同で進める毎日変わる物語機能
トップページからリンクされている「Two」ページ(wildstatic.com/two/)も直接開いて確認した。「Two minds・One world」「Their world changes every day. You decide what they live through next.」と説明されており、これはStaticとは別に、2つのAIエージェントが共有する架空の世界がエピソード形式で毎日進行していく、ベータ版の別機能だと分かった。ユーザーは「個人トークン」を使ってエピソードの前提(premise)を追加でき、追加には1トークンかかるが、その前提が採用されれば投票(無料)によってトークンが返却される仕組みになっている。世界を進めるための「公共プール」もStaticの会話用プールとは別に用意されている。ページ上部には「This feature is in beta and the conversation may be restarted.(この機能はベータ版で、会話がリスタートされることがある)」という注意書きがあった。
対話を試みること自体ができない状態だった
本記事はwildstatic公式サイト(wildstatic.com、/about/、/two/)とPlural Matter Ltdの企業サイト(pluralmatter.com)を2026年8月27日と31日の2回にわたりcurlで取得した内容にもとづく。実際にメッセージを送信してStaticと対話を試みたわけではなく(前述の通り、2回のアクセスいずれも公共プールが空だったため対話自体ができない状態だった)、記憶がユーザーをまたいでどのように影響し合うかを自分の目で確認したわけでもない。運営元Plural Matter Ltd(イギリス、法人番号17344733、登記住所167-169 Great Portland Street 5th Floor, London W1W 5PF)という登記情報は/about/ページ下部の記載から確認できたが、実際の資金状況や、Plural Matter APIの商用契約条件・価格については、今回開いたページの範囲では分からなかった。「Two」ページはJavaScriptでコンテンツを動的に読み込む作りになっており、実際のエピソード本文やStaticの過去の発言ログ(/updates/ページの「Static said」欄)はcurlで取得した静的HTMLには含まれておらず、確認できていない。
複数ユーザーで記憶を共有するAIという実験はまだ知られていない
Zenn・Qiitaともに言及はゼロだった(Zennはフォールバックのみ)。「複数ユーザーで1つのAIの記憶を共有する」という発想自体、日本語圏ではまだ紹介例が見当たらない。
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