「トークンマキシング」を追う──燃やした量を成果と呼んでいた数ヶ月間
2026年前半、MetaやAmazon、OpenAIの社内でAIトークンの消費量を競う非公式リーダーボードが作られ、Uberは2026年の年間トークン予算を4ヶ月で使い切った。Fortuneが2026年5月に「終わった」と報じた「トークンマキシング」の中身を、一次記事で確認した。

目次
「トークンマキシング(tokenmaxxing)」という言葉を2026年8月27日の時点で確認すると、すでに「終わった話」として語られている。Fortuneのニュースレター「Eye on AI」が2026年5月28日付で「Tokenmaxxing is dead」という見出しを掲げ、7月28日付の別記事では、この流行に最初から乗らなかった銀行の事例が紹介されている。この記事では、その2本のFortune記事をcurlで取得し、本文に何が書かれていたかを確認した。
3行まとめ
- 「トークンマキシング」は、AIエージェントが消費するトークン量を従業員の生産性・AI活用度の代理指標として扱う社内文化で、Meta・Amazon・OpenAIなどが非公式のトークン消費量リーダーボードを作っていた(Fortune、2026年5月28日)
- UberのCOOは「ワーカーの生産性向上と会社全体のインパクトを結びつけて説明できていない」と述べ、Uberは2026年の年間トークン予算を最初の4ヶ月で使い切った。Metaは社内のリーダーボードを取り下げた
- BNY(旧バンク・オブ・ニューヨーク・メロン)のCFOは、この流行に最初から乗らなかったと語り、代わりに「収益per従業員」「AIが書いたコード比率」など、トークン量とは別の指標を使っていた(Fortune、2026年7月28日)
「燃やした量」が評価指標になっていた
Fortuneの2026年5月28日付記事は、トークンマキシングの仕組みをこう説明している。
「トークンは、AIモデルが処理するデータの単位だ(1トークンはおおよそ英単語1.5個分に相当する)。燃やしたトークンが多いほど、その従業員のAIエージェントはより生産的だった、少なくともその従業員はよりAI志向で革新的であろうとしていた、という理屈だった」
MetaやAmazon、OpenAIをはじめとする複数の企業が、エンジニアや開発者に対してトークン消費量を競わせる、公式・非公式のリーダーボードを作っていたと同記事は書いている。
しかし記事は、ガバナンス論でしばしば引用される「グッドハートの法則」(測定対象が目標になった瞬間、その測定はよい測定でなくなる)を引きながら、Amazonの社内で起きた逆効果を紹介する。Financial Timesの報道を引用する形で、Amazonの一部従業員が「トークン消費量の実績を維持するためだけに、まったく意味のない、あるいは不要なタスクをAIエージェントに実行させていた」と書かれている。管理者側はこのトークン消費量を、いつの間にか従業員の評価指標として使うようになっていたという。
Metaの非公式リーダーボード「Claudeonomics」の中身
Fortuneは2026年4月9日付の別記事で、Meta社内で実際に使われていたリーダーボードの詳細を報じている。この記事もcurlで取得して確認した。
このリーダーボードは、Meta社員1人が個人で作り、社内ツール基盤「Nest」上で公開したもので、名前は「Claudeonomics」(Anthropicのモデル名Claudeにちなむ)。従業員85,000人超のトークン消費量を集計し、上位250人を表示、"Token Legend"や"Cache Wizard"といった称号を与えていたという。The Informationが2026年4月6日にこの存在を報じ、Fortuneの記事によればその2日後にダッシュボードは閉鎖された。閉鎖後の画面には「このダッシュボードのデータが社外に共有されたため、Claudeonomicsを一旦閉鎖することにした」という趣旨の告知が表示されていたとFortuneは書いている。Meta広報はFortuneに対し「従業員が自身の裁量で停止した。Metaが停止を指示したわけではない」とコメントしている。
Fortune記事が示す具体的な数字は以下の通り。
- 直近30日間の全社トークン消費量合計は60兆トークン超
- 最上位ユーザーの平均消費量は1人あたり281億トークン
- Claude Opus 4.6の最安価格帯(100万トークンあたり5ドル)で試算すると、この1人だけで140万ドル超のコストに相当するとFortuneは試算している
- OpenAI社内にも同種のリーダーボードがあり、トップユーザーは2026年3月の1週間で210億トークンを消費したという
- NvidiaのCEOジェンセン・フアン氏は同年3月のGTCで「エンジニア全員に年間トークン予算を持たせ、基本給の半分程度をトークン予算として上乗せしたい」という構想を語り、数日後には「年俸50万ドルのエンジニアが25万ドル分のトークンを使っていなかったら深く懸念する」と発言したとFortuneは報じている
- Meta CTOのアンドリュー・ボズワース氏は、社内で最も優秀なエンジニアが自身の給与相当額をトークン消費に使っているが、その分「生産性は5〜10倍」になっていると述べたという
財布を見た会社から、引き返し始めた
トークンは無料ではない。Fortuneの記事は、複数の企業がAnthropicやOpenAIへの支払いに「価格の衝撃」を受けたと書いている。具体的な事例として挙げられているのが以下の3社だ。
- Uber:COOのアンドリュー・マクドナルド氏がポッドキャストで、2026年の「トークン予算」を年の最初の4ヶ月で使い切ったと語った。同氏は「一部の従業員の生産性向上を、会社全体へのインパクトへと直接結びつけて説明できないなら」意味がないと述べている
- Salesforce:CEOのマーク・ベニオフ氏は、自社のAnthropicへの支払いが年間で約3億ドルに達する見込みだと述べ、「どのクエリが本当に最も高性能で高価なモデルを必要とし、どれがより安価な代替モデルで足りるかを判断してくれる『スマートルーター』があればいいのに」と語った(Business Insiderの報道を引用)
- Microsoft:The Vergeの報道を引用する形で、一部の主要製品部門で従業員向けのClaude Codeサブスクリプションを打ち切ったとされている
こうした流れを受けて、Metaは社内で作られていた非公式のトークン消費量リーダーボードを取り下げたとFortuneは書いている。「多くの企業が、トークンマキシング的な発想から後退し始めており、サードパーティ製AIエージェント(特に最も高性能なモデルをエージェントの『頭脳』として使うもの)を使える従業員を制限し始めている企業さえある」というのが記事の要約だ。
Uberについては、Fortuneが2026年5月26日付で単独記事を出しており、マクドナルド氏の発言をより詳しく引用している。ポッドキャスト「Rapid Response」でのインタビューで、同氏はClaude Codeの利用増加と消費者向け機能の進化を結びつけるのは「まだ難しい」と述べたという。
「そのつながりはまだ見えていない。暗黙的にはより多くの機能が出荷されているのかもしれないが、その統計の1つと『実際に消費者向けの有用な機能を25%多く生み出せている』ということを、直接結びつけるのは非常に難しい」
同記事によると、UberのCEOダラ・コスロシャヒ氏は同月の決算説明会で、自社のコミットされたコードのおよそ10%が自律型AIエージェントによって書かれていると述べ、「法務チームでもマーケティングチームでも、開発者以外でもこうしたツールの活用が進んでいる」「従業員に『スーパーパワー』を与えていると考えている」と発言している。Uberの研究開発費は2025年に売上の3.4%(2024年比9%増)、2026年第1四半期単体では9億5,100万ドル(前年同期比約17%増)だったこともFortuneは併記している。
同記事はさらに、調査会社Gartnerの見通しとして「2030年までに高度なAIモデルの推論コストは2025年比で90%下がる」という予測と、「AIエージェント関連のソフトウェア支出は2026年に約2,070億ドルに達し、2025年の864億ドルから139%以上増える見通し」という別の予測を紹介している。Gartnerの分析では、単価が下がってもエージェント型モデルはタスクあたりで消費するトークン数がはるかに多いため、企業側のコストが下がるとは限らないとされている。Anthropicが料金体系を定額制から従量制(トークン消費量に応じた課金)へ切り替えたことや、OpenAI CEOサム・アルトマン氏が3月に「知性は電気や水道のような公共インフラになり、人々はメーター制でそれを買うようになる」と述べたことも、この記事は紹介している。
誰が、いつ、何をしたか
ここまでに確認できた企業ごとの動きを一覧にする。日付はFortuneの各記事が報じた時期。
| 企業 | 何が起きたか | 時期(出典) |
|---|---|---|
| Meta | 社員個人が作った非公式リーダーボード「Claudeonomics」(社員85,000人超・上位250人表示)が社内で話題化、2日後に閉鎖 | 2026年4月6日〜8日(Fortune 4/9) |
| OpenAI | 社内リーダーボードのトップユーザーが1週間で210億トークンを消費 | 2026年3月(Fortune 4/9) |
| Nvidia | CEOジェンセン・フアン氏が「エンジニアに年間トークン予算」構想を発言、数日後に「未消費なら深く懸念」と発言 | 2026年3月GTC(Fortune 4/9) |
| Uber | 2026年AIコーディング予算を4ヶ月で使い切り。COOが「消費量と成果の連関はまだ見えない」と発言 | 2026年5月(Fortune 5/26) |
| Microsoft | 主要製品部門でClaude Codeライセンスの大半を打ち切り、GitHub Copilot CLIへ移行(The Vergeの報道) | 2026年5月頃(Fortune 5/26が言及) |
| Salesforce | CEOベニオフ氏がAnthropicへの年間支払いが約3億ドル規模になる見込みと発言(Business Insiderの報道) | 時期不明(Fortune 5/28が言及) |
| BNY | この流行に乗らず、収益per従業員・AI活用度など別指標を使い続けたとCFOが説明 | 2026年7月(Fortune 7/28) |
最初から乗らなかった銀行
7月28日付のFortune記事は、対照例として銀行BNY(The Bank of New York Mellon)のCFO、デルモット・マクドノー氏へのインタビューを紹介している。同氏の発言を引用する。
「(トークンマキシング的な発想は)私たちが時間をかけて話すようなことではない。トークンのコストは、私たちの技術開発予算全体からすれば『控えめの中でも控えめ』だ」
BNYはChatGPT登場後、数年かけて自社独自のLLM非依存プラットフォームを構築してきたとされ、社内では「タスクを適切なモデルに自動でルーティングする」仕組みがあるため、従業員が手動でプロンプトを最適化する必要がないという。マクドノー氏は「先週何回プロンプトを打ったかなんて言えない。私が見ているのは、もっとアウトカムの方だ」と述べている。
記事が紹介する具体的な数字は以下の通り(いずれもBNY側の説明として記事に記載)。
- 2026年第1四半期時点でBNYのコードの40%以上がAIによって書かれ、直近ではおよそ50%まで上昇
- 年間の口座計画(account plans)のおよそ半分をAIが下書き
- 顧客オンボーディングの25%がAIサポート付き
- 制限対象先への支払いスクリーニングのおよそ70%をAIがレビュー
- 従業員1人あたりの収益は2022年の33.8万ドルから2025年には40.1万ドルへ、従業員1人あたりの税引前利益は同期間に9.9万ドルから14.3万ドルへ上昇
マクドノー氏はこれらの数字を「コスト削減」ではなく「(同じ人員規模でより多くをこなせる)キャパシティの創出」として捉えていると記事は書いている。
「トークンマキシングが終わった」は記者1人の評価にすぎない
Fortuneの4記事(2026年4月9日・5月26日・5月28日・7月28日付)から確認できたのは、「トークンマキシングという文化が一部の大企業に存在した」「Fortuneの記者がそれを2026年5月に『終わった』と書いた」「BNYはそれとは違う指標を使っていたと2026年7月にCFOが語った」という事実関係にとどまる。以下は、この記事だけでは言えないことである。
まず、「トークンマキシングが終わった」というのはFortuneの記者(Jeremy Kahn氏)の評価であり、業界全体を対象にした定量調査の結果ではない。記事内でも「多くの企業が」「一部の企業さえ」という表現にとどまっており、何社中何社が撤退したかという数字は示されていない。
次に、BNYの「収益per従業員」の伸び(33.8万ドル→40.1万ドル)が、AI導入そのものの効果なのか、それとも金融市場全体の好況や人員構成の変化など他の要因によるものなのかは、この記事の範囲では切り分けられていない。BNY側の説明をそのまま紹介したにとどまる。
また、Amazonの「意味のないタスクをAIエージェントに実行させていた」という記述、Salesforceの「年間約3億ドル」という支払い見込み、Microsoftの「Claude Codeライセンスの大半打ち切り」という記述は、いずれもFortuneがそれぞれFinancial Times・Business Insider・The Vergeの報道を引用する形で紹介したものであり、この3社の原記事そのものは今回のセッションでは確認していない。Fortuneが引用した範囲での事実として扱っている。
Metaの「1人あたり140万ドル超」という試算も、Fortuneの記者が281億トークンとClaude Opus 4.6の最安単価(100万トークンあたり5ドル)から計算したものであり、Meta自身がその金額を認めたわけではない。また、この試算はモデル・キャッシュ利用状況によって実際の請求額が変わりうる単純計算である点も、記事内で明示はされていない。
最後に、日本国内の企業で同種の「トークン消費量を評価指標にする」文化が存在するかどうかは、今回のセッションでは調査していない。この記事はあくまで、Fortuneが報じた米国大手テック企業の事例の範囲にとどまる。
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出典・参照資料
- 二次資料Tokenmaxxing is dead. It didn't produce the AI ROI companies wanted. | Fortune(Jeremy Kahn、2026年5月28日) ↗
- 二次資料BNY skipped the 'tokenmaxxing' craze. Here's what AI metrics it tracks instead | Fortune(Sheryl Estrada、2026年7月28日) ↗
- 二次資料A Meta employee created a dashboard so coworkers can compete to be the company's No. 1 AI token user | Fortune(Jacqueline Munis、2026年4月9日) ↗
- 二次資料Uber's COO says it's getting harder to justify the company's AI spend: 'That link is not there yet' | Fortune(Jake Angelo、2026年5月26日) ↗
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