2026年8月28日 金曜日
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SECが「AI-washing」を摘発し始めた — AIを名乗る投資サービスの嘘

Bettermentに$9Mの罰金、AI証券集団訴訟は前年比100%増。SECがAI投資サービスの虚偽宣伝に本格対応を始めた実態を出典付きで解説。

SECが「AI-washing」を摘発し始めた — AIを名乗る投資サービスの嘘
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目次

「AIで儲かる」の嘘に規制当局が動いた

SEC(米国証券取引委員会)が、AI投資サービスの虚偽宣伝——いわゆる「AI-washing」——の摘発を本格化させている。

主な摘発事例

2023年4月 — Betterment

ロボアドバイザー大手のBettermentが、税損収穫(Tax-Loss Harvesting)機能について虚偽の説明をしていたとして**$9M(約13億円)の罰金**を科された。実際には機能していなかった期間があったにもかかわらず、顧客にその事実を伝えていなかった。

2024年3月 — AI投資アドバイザー2社

2社が「初のAI規制金融アドバイザー」等と虚偽宣伝。合計$400K(約6,000万円)の罰金。AIを名乗りながら、実態はAIを使っていないか、宣伝ほどの能力がなかった。

2024年8月 — 外国投資顧問

「AI技術で市場超過リターン」「100%の資金保護」と虚偽主張した外国投資顧問を摘発。(※この項目のみ、SEC公式で該当する発表を特定できていない。一次資料未確認。末尾の但し書きを参照)

処分の内訳を一次資料で確認した

社名も番号も伏せたままでは読者が検証できないので、SEC公式のプレスリリースと行政命令に当たり直した。以下は2026年8月14日にsec.govで該当ページとPDFを開いて確認した内容だ。

日付 相手方 SECリリース 制裁金 行政命令
2023年4月18日 Betterment LLC 2023-80 $9,000,000 IA-6288(File No. 3-21373)
2024年3月18日 Delphia (USA) Inc. 2024-36 $225,000 IA-6573(File No. 3-21894)
2024年3月18日 Global Predictions, Inc. 同上 $175,000 IA-6574(File No. 3-21895)
2024年10月10日 Rimar Capital USA / Rimar Capital LLC ほか2名 2024-167 合計$310,000 33-11316 / IA-6745(File No. 3-22236)

Delphia(トロント拠点) — 命令IA-6573は、同社が「少なくとも2019年8月から2023年8月まで」、リテール顧客の支出データやソーシャルメディアのデータをAIと機械学習で分析して投資助言に反映していると表示していたが、そのデータは実際には投資プロセスで使われていなかった、と認定している。SECの検査部門による検査を受けて2021年に表示の是正に同意した後も、同種の表示が2023年8月まで続いた点も認定に含まれる。命令は同社を「former registered investment adviser(元登録投資顧問)」と記載している。制裁金$225,000。

Global Predictions(サンフランシスコ拠点) — 命令IA-6574は、自社サイトやメール、各種ソーシャルメディアで「first regulated AI financial advisor(初の規制対象AI金融アドバイザー)」と称し、「Expert AI-driven forecasts」と表示していた点を認定した。加えて、実際には提供していないtax-loss harvesting(税損収穫)サービスを提供していると表示したこと、成績主張をSECの求めに応じて裏付けられなかったこと、顧客との契約に責任免除条項(hedge clause)を入れていたことなども含まれる。制裁金$175,000。この2社を足した$400,000が、プレスリリース2024-36の「合計$400,000」だ。

Bettermentの件は「AI-washing」として摘発されたわけではない

一次資料に当たると、Bettermentの位置づけは他の2件と違う。プレスリリース2023-80と行政命令IA-6288のPDF全文を検索したところ、"artificial intelligence"・"machine learning"・"AI"のいずれも1件も出てこない(2026年8月14日確認)。

命令が認定しているのは、自動税損収穫(TLH)についての説明の誤りだ。2016年1月にスキャン頻度を毎日から隔日に変更したのに2019年4月まで従来の説明を続けたこと、2017年9月から2019年1月にかけて対象区分でTLHを有効にしていた約5,600件の口座のうち少なくとも3,200件が制約の未開示によって影響を受けたこと、コーディング上の誤りが2件あったこと(2016年4月に始まり2019年1月まで残っていた1件目、2018年6月に発覚・修正された2件目)。これらにより25,000件超の顧客口座が影響を受け、顧客は約$4M(約400万ドル)の潜在的な節税メリットを失ったとSECは認定している。適用条文はAdvisers Act第204条・第206条(2)・第206条(4)と関連規則で、$9Mの制裁金は被害顧客への分配に充てられる。

つまりこれは「AIを騙った」事件ではなく、ロボアドバイザーが自動化機能の中身と変更を正しく開示しなかった事件だ。AI-washingの文脈で並べて引用されることは多いが、SEC自身はこの件でAIという語を使っていない。ロボアドバイザーの「AIが賢く運用」という宣伝と中身の差については、ロボアドバイザーの宣伝と実態を手数料から見直した記事で別途扱っている。

2024年10月にもAI-washingの摘発があった — Rimar Capital

本記事の初出時に取り上げていなかったが、SECは2024年10月10日にもAI-washingの摘発を発表している(プレスリリース2024-167)。Rimar Capital USA, Inc.、Rimar Capital, LLC、オーナー兼CEOのItai Liptz氏、Rimar USA取締役のClifford Boro氏に対する処分で、AIが顧客口座の自動売買を行うプラットフォームがあるという虚偽の説明が認定された。

  • 45人の投資家から約$4M(約400万ドル)を調達したとSECは認定
  • 運用資産残高と運用成績についても虚偽表示があったと認定
  • 制裁金は合計$310,000。内訳はLiptz氏$250,000、Boro氏$60,000
  • Liptz氏には別途、利益吐き出しと判決前利息の合計$213,611、および5年後に再申請可能な業務禁止

SEC資産運用ユニット共同責任者のAndrew Dean氏は、この件について「AIが投資の世界で広まるにつれ、自社の技術力について嘘をつき『AI washing』を行う者を追及し続ける」と述べている。

投資顧問業ではないが、2024年6月11日には、AI採用スタートアップJoonkoの創業者Ilit Raz氏を、顧客数・候補者数・売上についての虚偽で投資家から少なくとも$21M(約2,100万ドル)を騙し取ったとして提訴している(プレスリリース2024-70)。当時のSEC執行部門ディレクターGurbir S. Grewal氏は「『人工知能』『自動化』という新しい言葉を使った、昔ながらの詐欺だ」と表現した。

SECの組織的対応

2025年2月、SECは新設部署**CETU(Cyber and Emerging Technologies Unit)**を立ち上げ、AI不正に本格対応する体制を整えた。

Harvard Law School Forumの分析によると、AI関連の証券集団訴訟は2023年から2024年にかけて100%増加した(この数字は出典の直リンクを特定できておらず一次資料未確認。詳細は本記事末尾を参照)。

CETUは新設ではなく既存部門の置き換えだった

CETUの設立を発表したのはプレスリリース2025-42(2025年2月20日)。

  • 正式名称はプレスリリース2025-42の表記で Cyber and Emerging Technologies Unit。本記事は当初、上のセクションで誤って "Cybersecurity and Emerging Technologies Unit" と書いていたが、2026年8月14日の確認でSEC公式の表記が "Cyber and" であると分かったため、上のセクションの表記を訂正した
  • 責任者はLaura D'Allaird
  • 従来のCrypto Assets and Cyber Unit(暗号資産・サイバー部門)を置き換える再編であり、部署の純増ではない
  • 複数のSECオフィスにまたがる約30名の不正調査専門官と弁護士で構成
  • 重点領域は7つ。その筆頭が「AIや機械学習といった新興技術を使った詐欺」で、他にソーシャルメディア・ダークウェブ・偽サイトを使った詐欺、重要非公開情報を狙ったハッキング、証券口座乗っ取り、ブロックチェーン・暗号資産関連の詐欺、規制対象事業者のサイバー規則遵守、上場企業のサイバー開示の虚偽が並ぶ

発表当時のMark T. Uyeda委員長代行は、この部署が「執行資源を慎重に配分できるようにする」「投資家を保護するだけでなく、資本形成と市場効率を促進し、イノベーションが育つ道を開く」と述べている。取り締まりを強めるという一方向の宣言ではなく、資源配分の再編という側面が併記されている点は押さえておきたい。

なお、本記事が当初出典に挙げていた https://www.sec.gov/cetu は、2026年8月14日時点で404を返す。上記プレスリリースを一次資料として参照先を差し替えた。

CETU設立後、AI-washingの新規摘発プレスリリースは出ていない

sec.govのプレスリリース一覧を2024年1月から2026年8月まで月別に全ページ取得し、見出しにAIまたはartificial intelligenceを含むものを抽出した(2026年8月14日実施)。摘発を告知するプレスリリースは次の3件だけだった。

日付 内容 リリース番号
2024年3月18日 Delphia・Global Predictions 2024-36
2024年6月11日 Joonko創業者(AI採用スタートアップ) 2024-70
2024年10月10日 Rimar Capital 2024-167

2025年以降にAIの名前が付いたプレスリリースは、AI円卓会議の開催告知(2025-48/2025-56)、投資家諮問委員会の議題(2025-45)、そしてSECが自らの業務にAIを使うためのタスクフォース設置(2025-103、2025年8月1日)で、いずれも執行案件ではない。

これは「SECがAI-washingの摘発をやめた」ことを意味しない。プレスリリースを伴わない行政命令や訴訟提起はあり得るし、進行中の調査は公表されない。確認できるのは「プレスリリースという形での摘発発表は2024年10月を最後に途切れている」という事実だけだ。CETU設立から2026年8月までの1年半、AI-washingを名指しした新規の摘発発表は見当たらない。

「AI-washing」とは何か

AI-washingは、「greenwashing(環境に優しいフリ)」のAI版。投資サービスが「AI搭載」「AI駆動」を謳いながら、実際にはAIを使っていない、あるいは宣伝ほどの効果がないケースを指す。

SECが問題視するのは3つのパターン:

  1. AIを使っていないのに「AI搭載」と宣伝する
  2. AIの能力を誇大に宣伝する(「100%の資金保護」など)
  3. AIの限界やリスクを適切に開示しない

投資家への示唆

「AIで自動運用」を謳うサービスを選ぶ際、以下を確認する意味がある:

  • 運用実績がS&P500等のベンチマークと比較して開示されているか
  • 手数料構造が明確か
  • 「AIの具体的な使い方」が説明されているか(漠然と「AI搭載」だけでは不十分)

実際のAI運用商品がS&P500と比べてどう推移してきたかの実測はAI ETF・ロボアドの実績を数字で見る — AIEQ、ROBOPRO、ウェルスナビ比較で数字を並べた。年率66%を記録した実在のファンドが、外部投資家向けには振るわなかった事例はMedallion Fundの話にまとめている。

2024年8月の摘発事例は一次資料で確認できなかった

  • 本記事はSEC公式発表、Harvard Law School Forum、Mayer Brownの報道・分析に基づく
  • 摘発事例の詳細はSECの公開命令書で確認可能
  • 日本の金融庁による同種の規制動向については本記事では取り上げていない
  • 記事中の数字はすべて2026年6月時点

確認できていないこと(2026年8月14日の追記時点)

  • 本文の「2024年8月 — 外国投資顧問」は、sec.govのプレスリリース一覧(2024年の全月・全ページ)を確認した範囲では該当する発表が見つからなかった。プレスリリースを伴わない行政命令の可能性は残るが、社名・命令番号を特定できていないため一次資料未確認として扱う。この項目は読者側でも検証できない状態にある
  • 「AI関連の証券集団訴訟が2023年から2024年にかけて100%増加」というHarvard Law School Forumの数字は、出典欄がトップページURLのままで、2026年8月14日時点で該当記事の直リンクを特定できていない。一次資料未確認
  • Mayer Brownの出典も同様にトップページURLのままで、該当ページを特定できていない
  • ドル円の換算は初出時のまま残している。為替は動くため、$9M=約13億円といった記載は概算として読んでほしい
  • 「摘発発表が2024年10月以降ない」という記述は、あくまでSECのプレスリリース一覧を確認した結果であり、SECの全執行活動を確認したものではない
  • 今回の追記で書いた固有名・日付・金額・命令番号・File Numberは、すべて2026年8月14日にsec.gov上の該当ページとPDFを直接開いて確認した。二次情報からの転記は含めていない

訂正した4カ所の内容(2026年8月14日)

  • 2026-08-14: Global Predictions節で「first regulated AI financial advisor」の表示チャネルを「プレスリリース」としていたのを命令IA-6574第4項の記載(public website / emails / various social media sites)に合わせ「各種ソーシャルメディア」に修正。CETU(新設部署)の名称誤記「Cybersecurity and Emerging Technologies Unit」を、プレスリリース2025-42の正式表記「Cyber and Emerging Technologies Unit」に修正(従来この誤記を後段で自己訂正する構成だったが、本文側を直したうえで訂正の説明文も整合させた)。Betterment節の「約5,600件の顧客に影響する制約」を命令IA-6288第17項に基づき「TLHを有効にしていた約5,600件の口座のうち少なくとも3,200件が影響」に、「コーディング上の誤り」を同命令第18〜21項に基づき「2件あった」ことが分かる書き方に修正。CETU節の接続のためだけの一文「原文を読むと、記事の元の書き方より輪郭がはっきりする。」を削除。「AI関連の証券集団訴訟が100%増加」の一文に、出典未特定・一次資料未確認である旨をその場でも分かるよう注記を追加。IA-6288のPDFリンクを/litigation/から/files/litigation/形式に統一(他3件のPDFと揃えた。旧URLも301で到達するため実害はなかった)
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