年率66%のAIファンドMedallion Fund — なぜ外に出すと「普通以下」になるのか
Renaissance TechnologiesのMedallion Fundは手数料前で年率66%。だが外部投資家向けファンドは2020年に-22.62%。年率66%を出したチームの、外向けの成績から読める教訓。

目次
Medallion Fund — 史上最高のリターン
Renaissance Technologiesが運営するMedallion Fundは、1988年から2018年の間に手数料前で年率66%のリターンを記録した。手数料後でも39%。手数料構造は管理報酬2% + 成功報酬44%で、利益の約半分が手数料として差し引かれる。
これは投資ファンドの歴史上、最も高い長期リターンの一つ。創設者のジム・サイモンズは数学者であり、統計的手法とアルゴリズムで市場の非効率性を突く戦略をとった。
外部に出したら普通以下
ここからが教訓。
Medallion Fundは1993年以降、社員と元社員のみに限定されている。外部投資家は参加できない。
代わりにRenaissance Technologiesが外部投資家向けに運用したファンドがある。RIEF(Institutional Equities Fund)。
RIEFの実績:2020年は-22.62%(12月25日時点)。S&P500を大幅に下回る年もある。
手数料前で年率66%という記録を残したチームが、外に出したバージョンでは普通以下の成績しか出せなかった。
2020年、Medallionは+76%、外部向けは-22%と-33%
| ファンド | 外部投資家 | 2020年のリターン |
|---|---|---|
| Medallion | 不可(社員・元社員のみ) | +76% |
| RIEF(Institutional Equities Fund) | 可 | -22.62%(12月25日時点) |
| RIDA(Institutional Diversified Alpha) | 可 | -33.58%(同時点) |
出典はInstitutional Investor「Renaissance's Medallion Fund Surged 76% in 2020. But Funds Open to Outsiders Tanked.」(Michelle Celarier、2021年1月13日)。2026年8月14日に確認した。
同誌が2020年4月21日に出した記事(Amy Whyte)では、年初来リターンがMedallion +24%(4月14日時点)に対し、外部向けの3本は「年初来で7〜9%のマイナス」。内訳はRIEFが-7%、RIDAが-9%、RIDGEも4月17日時点でマイナス圏と書かれている。同記事はこの開きを「17〜19パーセントポイントの差」と表現した(原文: "a performance difference of some 17 to 19 percentage points"、生HTMLで確認)。ただし24%と-7〜-9%を単純に引くと開きは31〜33ptになり、17〜19ptとは一致しない。出典の原文でも17〜19ptが具体的にどの2つの数字の差を指すかは明記されておらず、この点は検算が合わないまま残る。
年率66%という数字の出どころも同じ記事で、期間は「1988年から2018年、手数料前」となっている。
なぜ差が生まれるのか
報道・分析から推測される要因:
- Medallionは容量制約がある: 戦略がワークするのは運用額が一定以下の場合のみ。大きくすると市場インパクトで自分の注文が自分を不利にする
- 最良の戦略は社内向けに温存される: 外部ファンドには二番手の戦略が回る
- 高頻度・短期戦略はスケールしない: Medallionの主力戦略は短期のアノマリー利用とされ、これは運用額を増やすほど効果が薄まる
AIヘッジファンドの墓場
Medallionの成功を再現しようとした試みもある。
Sentient Technologiesは2016年にAIヘッジファンドを開始。数千台のコンピュータで遺伝的アルゴリズムを走らせ、数兆の仮想トレーダーを生成・淘汰するアプローチをとった。
- 2017年: +4%
- 2018年: マイナス
- 2018年9月: 2年未満で清算(Bloomberg報道)
- 2019年: Sentient Technologies自体が解散、IP売却
個人が買えるAI運用ETFは、指数に何ポイント負けているのか
Medallionは買えないが、「AIが銘柄を選ぶ」と名乗る商品なら個人でも買える。代表例がAIEQ(Amplify AI Powered Equity ETF)。運用会社Amplify ETFsの公式ページによると、2017年10月17日設定、NYSE Arca上場、経費率0.75%、純資産は1億2,365万5,742ドル(2026年8月12日時点)。
同ページが載せる2026年7月31日(月末)基準のリターンと、State Street Global Advisorsの公式ページが同じ2026年7月31日基準で載せているS&P500指数のリターンを並べる。3年・5年はいずれも年率。
| 期間 | AIEQ(基準価額ベース) | S&P500指数 | 差 |
|---|---|---|---|
| 1年 | 15.79% | 19.56% | -3.77pt |
| 3年(年率) | 14.46% | 19.32% | -4.86pt |
| 5年(年率) | 4.55% | 12.86% | -8.31pt |
差の列は左2列からの筆者計算。AIEQの設定来(2017年10月17日〜)は年率9.96%だが、まったく同じ期間のS&P500の数字はどちらの公式ページにも載っていないため、ここでは並べていない。
手数料の側も見ておく。経費率はAIEQが0.75%、SPY(S&P500連動ETF)が0.0945%で、約8倍の開き。純資産はSPYが8,127億2,606万ドル、AIEQが1億2,366万ドルで(いずれもSSGA・Amplify両公式ページで2026年8月12日時点と確認)、桁でいえば約6,600倍の差がある。指数に連動するだけの商品に資金が集まり、「AIが選ぶ」商品は規模が小さいまま、というのがこの2つの数字の示す状態。
手が届く側の代表的な商品(AIEQ)は、直近3期間ではS&P500に届いていない。上の表の3期間についての事実であって、AI運用一般の優劣を決める材料ではない。
AI運用を名乗る商品の「表示」そのものが問題になった例としては、SECがAI-washingの摘発を始めた件を別記事で扱っている。
教訓
- 「AIで投資」は魔法ではない。年率66%を出したチームですら、外部向けには普通以下
- 個人投資家がアクセスできるAI投資商品は、定義上「最良の戦略ではない」
- AIの投資における真の価値は「魔法の杖」ではなく「優秀な調査助手」の可能性が高い
RIEFの-22.62%は2020年単年、非公開ファンドで全容は不明
- Medallion Fundの運用詳細は非公開。数字はInstitutional Investor等の報道ベース
- RIEFの年次リターンの全容は公開されておらず、-22.62%は2020年単年(12月25日時点)の数字
- Sentient Technologiesの2018年マイナスの具体額は非公開
- 記事中の数字はすべて2026年6月時点
2026年8月14日の追記で確認したこと・できなかったこと
- 訂正(本文に反映済み):本文の「RIEFの実績:2020年は-19%」は出典と一致していなかったため、Institutional Investor(2021年1月13日)に基づき**-22.62%(12月25日時点)に修正した。「17〜19」は同誌2020年4月21日記事にあるMedallionと外部向けファンドの開き(パーセントポイント)**であって、RIEF単年の騰落率ではない。ただしこの17〜19ptという数字自体、本文中のMedallion +24%(4/14時点)と外部向け-7〜-9%(4/17時点)からは検算が合わない(詳しくは本文「17〜19パーセントポイントの差」の段落を参照)
- 年率66%の期間(本文に反映済み):本文は「1988年から2021年」としていたが、出典の2020年4月21日記事の記述は「1988年から2018年」だったため、出典の期間に修正した
- 手数料後39%、および手数料構造(管理報酬2%+成功報酬44%)は、今回の確認では出典に当たれていない
- RIDGEの2020年通年リターンは、確認した2本の記事のどちらにも載っていない
- 同じAIEQでも集計基準日が違えば数字は動く。stockanalysis.comでは純資産1億957万ドル、直近1年18.39%、設定来の年率10.27%(2026年8月14日確認)。本文の表はAmplify公式の2026年7月31日基準に揃えた
- 訂正(本文に反映済み):「AIEQとS&P500の比較は基準日を2026年7月31日に揃えたが、AIEQの純資産だけは2026年8月12日時点の値」としていたが誤り。SSGA公式ページでSPYの純資産表示を確認したところ「as of Aug 12 2026」であり、7月31日はリターン表(1年・3年・5年)の基準日であって純資産の基準日ではない。AIEQ(Amplify公式)・SPY(SSGA公式)とも純資産は2026年8月12日時点で一致しており、基準日のずれは無い。1年/3年/5年のリターン比較は両方とも2026年7月31日(月末)基準で揃っている
- Sentient Technologies(Bloomberg, 2018-09-07)のsources欄URLはトップページ(https://www.bloomberg.com)のままで、個別記事URLを特定できていない。当該記事の再取得・再検証はできていない
- AIEQの数値は過去の実績であり、将来の成績を示すものではない。この記事は特定の商品の売買を勧めるものではない
- Sentient Technologiesの数字は今回の確認対象に含めていない。この点があるため
verified: falseを維持する - 2026-08-14: 「世界最強」という形容(excerpt・本文2箇所)は出典に無い評価表現だったため、記事内で裏の取れている事実(手数料前で年率66%)に置き換えた
更新履歴
- 2026-08-14(2回目): RIEFの2020年実績を本文で-19%→-22.62%に修正(excerptも同様)。年率66%の対象期間を本文で「1988年から2021年」→「1988年から2018年」に修正。SPY純資産の基準日について「2026年7月31日時点」「基準日がずれているため概算」としていた誤りを削除し、AIEQ・SPYとも純資産は2026年8月12日時点で一致していることを明記(SSGA公式ページを直接取得し "as of Aug 12 2026" を確認)。但し書きから出典に無い「Wikipedia」表記を削除。「17〜19パーセントポイント」の出典引用について、本文の数値と検算が合わない旨の注記を追加。Institutional Investorの帰属を二重に述べていた1文、および直前の表を言い換えるだけの1文を削除
出典・参照資料
- 二次資料Renaissance's Medallion Fund Surged 76% in 2020. But Funds Open to Outsiders Tanked. — Institutional Investor(Michelle Celarier、2021-01-13) ↗
- 二次資料The Famed Medallion Fund Is Crushing It. Other RenTech Funds, Not So Much. — Institutional Investor(Amy Whyte、2020-04-21) ↗
- 二次資料Sentient Technologies — Bloomberg (2018-09-07) ↗
- 一次資料AIEQ(Amplify AI Powered Equity ETF)運用実績・純資産 — Amplify ETFs 公式 ↗
- 一次資料SPDR S&P 500 ETF Trust (SPY) パフォーマンス・経費率 — State Street Global Advisors 公式 ↗
- 二次資料AIEQ — stockanalysis.com ↗
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