「Prime Agent」とは何か──harnessを変えただけでARC-AGI-3のスコアが30%から95.5%に跳ねた話
オープンソースのharness「Prime Agent」は、持続的なIPython REPLと「Recursive Language Model」抽象化、履歴・記憶・スキルをまたいで保持する「Continual Harness」を組み合わせ、モデル本来の能力をそのまま測ることを狙う。ARC-AGI-3のRHAE Best@1を30%から95.5%まで引き上げたと報告している。

目次
言語モデルは逐次的な処理系だが、長期にわたるエージェント的な作業(long-horizon agency)には、モデルの重みとアクティブなコンテキストだけでは足りない、外部の情報と計算力が必要になる。2026年8月24日にarXivで公開された論文「Prime Agent: A Self-Improving RLM Harness」は、この不足分を埋めるオープンソースのharnessを提示している。
論文PDF本文を確認すると、著者11名の所属はPrinceton University・Prime Intellect・MITの3機関で、Prime Intellect(AI関連のインフラ企業)が中心的な役割を担っている。コードはgithub.com/PrimeIntellect-ai/prime-agentとして実際に公開されており、本記事執筆時点でGitHub実測ではスター19,010・フォーク2,051という、本カテゴリの記事群の中でも際立って大規模なリポジトリだった(作成日は2026年5月8日)。
3行まとめ
- Prime AgentはPrinceton・Prime Intellect・MITによるオープンソースharness。GitHub実測でスター19,010・フォーク2,051。ARC-AGI-3でPrime Agent+Opus 5が95.5%(人間ベースライン95.4%とほぼ同水準)を記録
- 論文が言う「30%」は、Prime Agentではなく公式のARC-AGI-3参照harness上でOpus 5を動かした場合のスコア(30.2%)。同じOpus 5をPrime Agent上で動かすと95.5%になる、という同一モデル・別harnessの比較
- ただし論文自身が「自分たちが再実行したネイティブharnessのスコアは公式発表値を下回ったため、この参照値は結果を位置づけるためのものであり、harnessの効果だけを切り分けて証明するものではない(does not isolate a causal harness effect)」と明記しており、単純な「harnessだけでこれだけ変わった」という因果を断定しているわけではない
「Recursive Language Model」という抽象化
Prime Agentは、長期評価とコーディングエージェントのワークフロー向けのオープンソースharnessだ。持続的なIPython REPL(対話的にコードを実行し続ける環境)が、プログラム的なコンテキスト処理とテスト時計算量のための「Recursive Language Model(RLM)」という抽象化に従う。「Continual Harness」は、履歴・記憶・スキル・プロンプト・サブエージェントの仕様を、複数のタスク実行(トラジェクトリ)をまたいで保持する。再帰的なサブエージェントは、エージェント同士の直接的な通信を通じて協調し、「Agents View」という機能によって人間がデーモンとして動くセッションを検査・管理できる。
論文は、Prime Agentが実行・復旧・検証・リソース会計を標準化する一方で、戦略の組み立てはモデル自身に委ねる設計だと説明している。この「摩擦の少ない表現力の高い膜(membrane)」によって、harnessの不具合がモデル自体の失敗として扱われてしまう事態を防ぎ、測定結果をモデル本来の最大の能力に近づける、という考え方だ。
ARC-AGI-3で30%から95.5%へ——ただし比較対象は「別harnessでの同じモデル」
論文が報告する数字の中でも際立っているのが、Prime AgentがARC-AGI-3のRHAE Best@1を30%から95.5%まで引き上げたという結果だ。論文本文のFigure 5には、この数字の内訳が具体的に示されている。
| 構成 | RHAE Best@1 |
|---|---|
| Prime Agent + Claude Opus 5 | 95.5% |
| 人間のベースライン(参考値) | 95.4% |
| Prime Agent + GPT-5.6 Sol | 78.3% |
| Prime Agent + Terra | 25.7% |
| Prime Agent + GLM 5.2 | 8.6% |
| Hermes Agent + GPT-5.6 Sol(比較harness) | 5.8% |
| Claude Opus 5 + 公式のARC-AGI-3参照harness | 30.2% |
| GPT-5.6 Sol + 公式のARC-AGI-3参照harness | 7.0% |
| GPT-5.6 Sol + Responses API(外部発表値) | 38.3% |
つまり、要旨にある「30%から95.5%」という数字は、Prime Agentという1つのharnessの中でのビフォーアフターではなく、**同じClaude Opus 5というモデルを、公式のARC-AGI-3参照harness上で動かした場合(30.2%)と、Prime Agent上で動かした場合(95.5%)**の比較だ。また、Prime Agent+Opus 5の95.5%は、論文が参考値として示す人間のベースライン95.4%とほぼ並ぶ水準でもある。ARC-AGI-3自体の原論文(ARC Prize Foundation)の要旨には「人間のテスト受験者は環境の100%を解ける」という記載もあり、Prime Agent論文が使う「95.4%」という人間ベースラインの数字は、ARC-AGI-3原論文が言う「100%」の解決率とは異なる指標(RHAE Best@1など、測定方法が異なる可能性がある)である点には注意が必要だ——この差異がどこから来るのかは、この記事の範囲では特定できていない。
ただし論文自身は、この比較の解釈に重要な留保を付けている。
"We note that Claude Code and Codex runs perform worse than Anthropic and OpenAI self-reported performance on ARC-AGI-3 (public set), so we defer to their results over our own runs with matched prompt and settings. [...] They are external values because our native-harness reruns fell below the published scores, so they situate the result rather than isolate a causal harness effect."
(訳:Claude CodeとCodexでの自分たちの実行結果は、AnthropicとOpenAIが自己申告しているARC-AGI-3〔公開セット〕でのパフォーマンスよりも劣っていたため、条件を揃えたプロンプト・設定での自分たちの実行結果より、それら公式発表の結果を優先して参照した。〔中略〕これらは外部の値である。というのも、自分たちが再実行したネイティブharnessのスコアは公式発表の数値を下回ったためだ。したがってこれらの参照値は結果を位置づけるためのものであり、harnessの効果だけを切り分けて証明するもの(causal harness effect)ではない)
つまり論文の著者自身が、「自分たちがClaude CodeやCodexを再現実行した結果は、それぞれの開発元が公式発表しているスコアより低かった」ため、それらの結果をそのまま比較には使わず、外部の公式発表値を代わりに参照値として使ったと明記している。これは、「Prime Agentというharnessだけを変数として、それ以外を完全に同一条件にして測った、純粋なharness効果の証明」ではなく、「異なる条件下で得られた複数の結果を並べて位置づけた」比較であることを、論文自身が認めている箇所だ。この記事のタイトルにある「harnessを変えただけで」という表現は、あくまで大づかみな紹介であり、論文が示す比較の性質はこの留保を踏まえて読む必要がある。
加えて、長文脈のコーディング・GPUカーネルの生成・エミュレータの構築・自律的なnanoGPTスピードランといった領域で、標準的な(native)harnessや人気のharnessと同等かそれを上回る成績を示したとしている。論文のTable 1(長文脈タスクの比較)を見ると、GLM-5.2・Claude Opus 5・GPT-5.6 Solの3モデルそれぞれについて、Prime Agentと比較harness(Pi-mono、Claude Code、Codex)を対で比較しており、9つのベンチマーク(OOLONG、LongBench Pro、LongBench v2、EmulatorBenchなど)の多くでPrime Agent側が優勢だが、EmulatorBenchなど一部ではPrime AgentがOpus 5との組み合わせで0.047という低いスコアに沈む行もあり、「全部で圧勝」ではなく「概ね競争力がある」という論文の書きぶりに近い結果だった。
ゲーム「Factorio」を使った検証では、リファインメントによって継続的な技術進歩が可能になり、専用のサブエージェントによって作業の並列化が実現できたとしている。
「モデルの実力」と「harnessの出来」を切り分ける
同じモデルでも、使うharnessによってベンチマークのスコアが大きく変わることがある。これは、モデル自体の能力の差なのか、それともharnessの作り込みの差なのかが分かりにくい、という問題を生む。論文がPrime Agentを「摩擦の少ない表現力の高い膜(membrane)」と呼んでいるのは、harness側の不出来(ツール呼び出しの失敗をうまく回復できない、記憶の持ち回しが下手など)がそのままモデルの「失敗」として記録されてしまう事態を避け、できる限りモデル本来の実力に近い数字を測ろうとする狙いだと読める。ベンチマークの数字を見るときに「どのharnessで測ったか」を確認する重要性を、この論文は間接的に示している——ただし、上で見た通り、論文自身がこの比較を「harnessの効果だけを切り分けて証明するものではない」と留保しているため、「harnessを変えただけでこれだけ跳ねた」と単純化して読むのは、論文の書きぶりよりも踏み込んだ解釈になる、という点には注意したい。
論文の結論(Conclusion)節も、成果を誇るだけでなく限界を明記している。
"Despite its results relative to alternative harnesses, models still experience friction when deciding how to allocate subagents, manage retained information, and refine reusable state. Many harness capabilities remain underused because current models were not trained to operate them."
(訳:他のharnessと比べた結果にもかかわらず、モデルはサブエージェントへの割り当て、保持情報の管理、再利用可能な状態の洗練をどう判断するかについて、依然として摩擦を経験している。多くのharness機能は、現行のモデルがそれらを操作するよう訓練されていないため、活用しきれていない)
つまり論文自身が「Prime Agentの機能をモデルがまだ使いこなせていない部分が多い」と認めており、harnessを提供するだけでモデルの潜在能力が自動的に引き出されるわけではない、という現実的な評価も添えられている。
Factorioでの実行ログや、コードを実際に動かしての検証はしていない
この記事は論文PDF本文(16ページ)とGitHub公式リポジトリのメタデータをもとに書いている。「30%」の内訳(公式ARC-AGI-3参照harness上でのOpus 5のスコア)や、「標準的なharnessや人気のharness」が具体的にClaude Code・Codex・Hermes Agentなどを指すことは、本文のFigure 5・Table 1を直接確認して特定した。一方で、Factorioでの実行ログや、GPUカーネル生成・エミュレータ構築の具体的な出力そのものは、この記事の範囲では確認していない。GitHubのコードを実際にクローンして動かし、ARC-AGI-3のスコアを自分の手元で再現する検証も行っていない。長文脈タスクのTable 1に載っている9指標すべての細部(各ベンチマークの評価プロトコルの詳細)までは踏み込んでおらず、この記事では代表的な傾向のみを紹介した。
関連記事
出典・参照資料
AIニュースの解説を動画でも
YouTubeでは注目ニュースの背景を解説し、Xでは新着記事をお知らせしています。
コメント
まだコメントはありません。最初のコメントを書いてみませんか?
AIについて聞きたいことはありますか?
質問箱で無料で受け付けています。回答は公開され、他の方の参考にもなります。
質問箱を見る →新しい記事をメールで受け取る
AIの新しい発表を、出典付きで整理して届けます。