Microsoft、Build 2026で自社初の推論モデル「MAI-Thinking-1」を発表
Microsoftが2026年6月のBuild 2026で自社初の推論モデルMAI-Thinking-1を発表。35B活性のMoEで256Kコンテキスト、SWE-Bench Pro 53%・AIME 25 97%を主張し、画像・音声・文字起こし・コーディング向けの自社モデルも一斉投入した。

目次
3行まとめ
- MicrosoftがBuild 2026で自社初の推論モデルMAI-Thinking-1を発表
- SWE-Bench Pro 53%・AIME 25 97%を主張し、画像・音声・コーディング等の自社モデルも一斉投入
- 数値は同社の発表値で第三者検証は未了、現状はFoundryでの限定プレビュー段階
Build 2026で発表された内容
Microsoftは2026年6月2日のBuild 2026で、自社初の推論(reasoning)モデル MAI-Thinking-1 を発表した。基調講演のトランスクリプトによると、構成は「35B活性パラメータのMoE(Mixture of Experts)」で、コンテキスト長は256K。ベンチマークではコーディング評価のSWE-Bench Proで53%を記録し、Anthropicの「Opus 4.6」と並ぶ水準だとしている。また一般的な推論力を測るAIME 25では97%、ブラインド比較では「Sonnet 4.6」より総合品質で好まれたとされる。MicrosoftはこのモデルをFoundryでの限定プレビューに加え、OpenRouter・Fireworks・Baseten経由でも提供し、重みを直接チューニングできるとしている。
同時に、画像生成のMAI-Image-2.5(Arena画像編集リーダーボードで2位、PowerPointやFoundryで提供)、音声合成のMAI-Voice-2(15言語対応)、文字起こしのMAI-Transcribe-1.5(43言語でSOTAを主張、最大5倍高速とする)、そしてコーディング向けの軽量モデルMAI-Code-1-Flash(5BでSWE-Bench Pro 51%、「Claude Haiku 4.5より安価」、VS Codeの既定モデルの一つ)も投入された。
自社モデル一斉投入が意味すること
これまでMicrosoftの生成AIはOpenAIのモデルに強く依存してきた。今回、推論・画像・音声・文字起こし・コーディングという主要カテゴリで自社モデルを一斉にそろえたことは、外部依存を下げて自社スタックで完結させる方向性を示すものと受け止められている。基調講演では自社チップMaia 200上で1.4倍の電力効率改善に言及するなど、シリコンとモデルの共同設計(co-design)にも触れている。狙いとして掲げられているのは「低トークンコストでの高効率」で、推論コストの軽減を競争軸に据えている点が特徴だ。
2026年8月時点で、MAI系モデルはどこまで使えるのか
発表から約2か月半が経った2026年8月14日、Microsoft Learn の各ドキュメントを確認したところ、Build 2026で披露されたMAI系モデルはいずれもプレビュー段階のままだった。MAI-Thinking-1 のデプロイ手順ページ(2026年8月12日更新)には「(preview)」の表記が残り、「このプレビューはSLA(サービスレベル契約)なしで提供され、本番ワークロードには推奨しない」と明記されている。
| モデル | 2026年8月14日時点の状態 | 提供面・デプロイ条件 |
|---|---|---|
| MAI-Thinking-1 | Preview | Microsoft Foundry。Global Standard デプロイのみで、PTU(プロビジョニング済みスループット)は非対応。モデルバージョンは 2026-06-01 |
| MAI-Image-2.5 / 2.5-Flash / 2.5-Pro | いずれも Preview | Foundry。Global Standard で West Central US、East US、West US、West Europe、Sweden Central、South India、UAE North の7リージョン |
| MAI-Voice-2 / MAI-Voice-2-Flash | public preview | Azure Speech(Foundry Tools)経由。SSMLの音声名で指定する |
| MAI-Transcribe-1.5 | public preview | LLM Speech API の enhancedMode でモデル名を指定する |
| MAI-Code-1-Flash | Foundryの「Azureが販売するモデル」一覧に記載なし | 基調講演ではVS Code・GitHub Copilot・Foundry・OpenRouter等を提供面として挙げていた |
提供面より実務に効くのは割り当て量のほうだ。MAI-Thinking-1 のレート制限は、Global Standard の既定ティア(Low)が TPM 0・RPM 0、Medium が 100,000 TPM・100 RPM、High が 250,000 TPM・250 RPM と記載されている。既定のままでは1リクエストも通らず、使うにはティアの引き上げが要る。画像側も同じ構造で、MAI-Image-2.5系はTier 0(無料)が 0 RPM、最上位のTier 6でも 12 RPM。同じ表で MAI-Image-2e はTier 6が 180 RPM なので、2.5系に割り当てられている枠は15分の1にあたる。
仕様面で確認できた数字も挙げておく。MAI-Thinking-1 は1リクエストあたり合計256Kトークン、出力は最大64Kトークンで打ち切られる。エンドポイントは /mai/v1/chat/completions で、OpenAIのChat Completions互換。reasoning_display を encrypted にすると暗号化された思考過程が返るが、中身はアプリケーション側から不可視で、次のターンに渡すとその分コンテキストを消費する。文字起こし側では、基調講演が言及した43言語が mai-transcribe-1.5 の対応言語表(43件)と一致した一方、旧版の mai-transcribe-1 は25言語で、2026年8月20日に非推奨になると記載されている。話者分離(diarization)は1.5系でも非対応。音声合成の MAI-Voice-2 は15言語18ロケールで、短い参照音声からの声のクローンは申請制のゲート付き機能となっている。
単価はどこまで公開されているか
基調講演は「低トークンコストでの高効率」を競争軸に掲げ、MAI-Image-2.5 を「market-leading quality per dollar」、MAI-Code-1-Flash を「Claude Haiku 4.5より安い」と表現していた。ただし2026年8月14日時点で、Microsoftの公開価格ページにMAI系モデルの単価は載っていない。Microsoft Foundry の価格ページは「Foundryで利用できる各サービス・製品にはそれぞれ課金モデルと価格がある」と書くにとどまり個別の単価表を持たず、MAI-Thinking-1 のデプロイ手順ページにも価格の記載はない。
Azureの小売価格API(prices.azure.com)には製品名 MAI Models のメーターが実在する。ただしSKU名の多くが MAI w、MAI p、MAI o といった記号で、どのモデルに対応するかを公開情報から特定できない。名前でモデルを判別できるのは旧世代の画像モデルだけで、Image 2 Output glbl というSKUは1,000トークンあたり 0.033 USD(米国政府向けの2リージョンのみ 0.0396 USD)を返す。MAI-Image-2 の出力単価と読めるが、SKU名とモデル名の対応づけは公式には明記されていない。Build 2026で発表された世代、すなわち MAI-Thinking-1 と MAI-Image-2.5系に対応する単価は、名前で特定できる形では公開されていなかった。
安さを競争軸に据えた発表から2か月半が経っても、その安さを外部から検算する材料は出ていない、というのが現時点で言えることになる。
自社発表値であることの留保
数値はあくまでMicrosoft自身の発表値であり、第三者検証を経たものではない。「Opus 4.6相当」「Haiku 4.5より安価」といった比較も同社の主張で、実利用での再現性は今後の検証待ちだ。なお冒頭概要にあった「MAI-Code-1」は、基調講演では正確には軽量版の「MAI-Code-1-Flash(5B)」として説明されている。MAI-Thinking-1は現時点でFoundryの限定プレビュー段階であり、本格的な評価は一般提供と独立ベンチマークの結果を見てからになる。出典はThurrottの速報記事とMicrosoft AI公式の基調講演トランスクリプト。
確認できていないこと
- 上の価格調査は、Microsoft Learn のFoundryドキュメント、Azureの価格ページ、Azure小売価格APIの3経路で行った(いずれも2026年8月14日確認)。Foundryポータル(
ai.azure.com)のモデルカタログにはサインイン後に表示される価格があり得るが、そこは確認していない。OpenRouter・Fireworks・Baseten での提示価格も未確認で、「限定プレビュー」がこれらの経由でどう変わるかは追えていない。 MAI Models製品配下の記号SKU(MAI wなど)は、MAI-Thinking-1 の単価を含んでいる可能性がある。含んでいるかどうかを外部から判定する手段が見つからなかったため、数値の引用は避けた。- MAI-Thinking-1 のデプロイ手順ページは対応リージョンを「Azureが販売するモデルのリージョン提供状況」ページで確認するよう指示しているが、2026年7月24日更新版のその一覧にMAI-Thinking-1の行は無かった(MAI-Image系5モデルは記載されている)。ドキュメントの未反映なのかリージョン公開前なのかは判別できない。
- Azure Speech の価格ページには MAI-Transcribe の行が存在するが、金額欄が読み取れる形で表示されなかったため、時間あたり単価は確認できていない。
- ベンチマーク値(SWE-Bench Pro 53%、AIME 25 97%)は本文のとおりMicrosoftの自己申告のままで、独立検証は今回も確認できなかった。蒸留を使わない訓練手法の中身は、技術報告書を読んだ蒸留なしでAIME 97%を出したMAI-Thinking-1の作り方のほうで扱っている。
出典・参照資料
- 二次資料Build 2026: Microsoft Launches First Flagship Reasoning AI Model and More — Thurrott ↗
- 一次資料Microsoft Build 2026: MAI Keynote Transcript — Microsoft AI ↗
- 一次資料Deploy and use MAI-Thinking-1 in Microsoft Foundry — Microsoft Learn ↗
- 一次資料Deploy and use MAI image models in Microsoft Foundry — Microsoft Learn ↗
- 一次資料What is MAI-Voice? — Microsoft Learn ↗
- 一次資料MAI-Transcribe in LLM Speech API — Microsoft Learn ↗
- 一次資料Foundry Models sold by Azure — Microsoft Learn ↗
- 一次資料Azure Retail Prices API ↗
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