AIが独力でこなせる作業時間、3〜7ヶ月ごとに倍──METRの「タイムホライズン」を原文で読む
AI安全性の非営利団体METRが2026年1月29日に更新した指標「タイムホライズン」によると、AIエージェントが人間換算50%の確率で完遂できるタスクの長さは、2023年以降130.8日ごと、2024年以降は88.6日ごとに倍増している。METR自身のブログ原文で、この数字の意味と前バージョンからの変化を確認する。

目次
「AIエージェントは今、何時間分の仕事を独力でこなせるのか」——この問いに定量的な物差しを与えようとしているのが、AI安全性を測定する非営利団体METR(旧ARC Evals)の「タイムホライズン(Time Horizon)」という指標だ。今回はMETR自身のブログ原文にあたり、最新版の数字を確認した。
3行まとめ
- タイムホライズンは「人間なら何時間かかるタスクを、AIが50%の確率で完遂できるか」を測る指標で、METRが2025年3月に手法を発表した。
- 2026年1月29日公開の更新版(TH1.1)によると、2023年以降のダブリングタイム(倍になる周期)は165.3日→130.8日に短縮、2024年以降では108.9日→88.6日に短縮した。
- 数値そのものはMETRの公開ブログで確認できたが、「METR」という固有名詞自体は日本語検索でほぼ露出しておらず、日本語圏での丁寧な解説は今回の調査時点でほぼ見当たらない。
タイムホライズンとは何を測っているか
METRのブログmetr.org/blog/2026-1-29-time-horizon-1-1/を直接取得して確認した。この指標は、様々な長さのタスク(ソフトウェアエンジニアリングやリサーチ関連の実務課題)をAIエージェントに解かせ、人間の熟練者が同じタスクにかかる想定時間と突き合わせることで、「AIが50%の確率で完遂できる最長のタスクの長さ」を人間換算時間で算出する。例えば「タイムホライズン2時間」のAIは、人間なら2時間かかるタスクを半分の確率で完遂でき、それより長いタスクでは失敗率が上がる、という読み方になる。
この指標のもとになった原論文(arXiv:2503.14499、"Measuring AI Ability to Complete Long Software Tasks")をcurlで取得すると、実際の絶対値も書かれていた。原論文(2025年3月発表時点)によれば、当時のフロンティアモデルであるClaude 3.7 Sonnetのタイムホライズンは「約50分(around 50 minutes)」だったという。タスクの計測には、RE-Bench・HCAST・新規に作られた66件の短いタスクという3種類のベンチマークが組み合わされている。
このうちHCAST(Human-Calibrated Autonomy Software Tasks)については、METRが公開している別のPDF(metr.org/hcast.pdf)でタスクセットの中身を確認できる。機械学習エンジニアリング・サイバーセキュリティ・ソフトウェアエンジニアリング・一般的な推論にまたがる189件のタスクで構成され、関連分野に詳しい140人が563回の試行を行い、合計1500時間以上の人間のベースライン計測データを収集し(原文: 「we have 140 people skilled in relevant domains make 563 attempts to complete the tasks」「We collect 563 human baselines (totaling over 1500 hours)」)、タスクの所要時間は人間換算で1分〜8時間以上の幅があるとされている。
TH1.0からTH1.1への更新で、何が変わったか
今回確認したブログは、2025年3月に発表された最初の手法(TH1.0)を改訂した「TH1.1」の発表記事だ。本文中の比較表をそのまま書き出す。
| 指標 | TH1.0 | TH1.1 |
|---|---|---|
| P50ダブリングタイム(全期間) | 195.8日 [162, 223] | 196.5日 |
| P50ダブリングタイム(2023年以降) | 165.3日 [129, 211] | 130.8日 [107, 161] |
| P50ダブリングタイム(2024年以降) | 108.9日 | 88.6日 |
| タスク数 | 170 | 228 |
「P50」は、AIが50%の確率で完遂できるタスクの長さを基準にした場合のダブリングタイムを指す。表からわかるのは、全期間(データ開始から現在まで)で見たダブリングタイムはTH1.0とTH1.1でほぼ変わらない(195.8日→196.5日)一方、直近の期間(2023年以降・2024年以降)に絞ると、TH1.1のほうが短い数字が出ている、という点だ。つまり改訂版の手法では、直近ほどAIの成長ペースが速く見積もられている。
METRはブログ本文で、この改訂の理由についても触れている。タスクセットを170から228に拡張したこと、また一部の古いモデルの推定値が下方修正され(35%・57%下落)、一方でGPT-5やOpus 4.5など新しいモデルの推定値は上方修正された(55%・11%上昇)ことが、この変化の背景にあるという。つまり単純に「AIが加速した」という話だけでなく、測定手法自体の精緻化によって新旧モデル間の差が広がって見えるようになった、という側面もある。
「7ヶ月で倍」という言い方の由来
METRは2025年3月に最初にこの指標を発表した際、タイムホライズンのダブリングタイムをおよそ7ヶ月(約210日)としていた。今回確認したTH1.1の数字(2024年以降で88.6日、約3ヶ月)と比べると、最新の直近区間ではその半分以下のペースまで短縮していることになる。「3〜7ヶ月ごとに倍」という言い方は、この初期発表時の数字と最新の直近区間の数字の幅を指している。
数字を外挿すると何が言えるか、言えないか
タイムホライズンが仮に88.6日ごとに倍増し続けるとすれば、単純計算では1年強で8倍、3年で50倍以上に伸びる計算になる。仮に現時点のタイムホライズンが数時間〜1日程度だとすれば、数年でAIが「丸1日分の仕事」を50%の確率で独力完遂できる水準に達する、という外挿も理論上は可能だ。
ただし、これはあくまで直近の傾向をそのまま将来に延長した場合の計算だ。原論文のアブストラクトを実際にgrepで確認すると、METR自身も一定の外挿を書いている——「もしこの結果が実世界のソフトウェアタスクに一般化するなら、このトレンドの外挿は、5年以内にAIシステムが現在人間が1ヶ月かかるようなソフトウェアタスクの多くを自動化できるようになると予測する(If these results generalize to real-world software tasks, extrapolation of this trend predicts that within 5 years, AI systems will be capable of automating many software tasks that currently take humans a month)」。ただしこの一文自体に「もし一般化するなら」という条件が付いており、METRはこの外挿を無条件の予測としては提示していない。TH1.0からTH1.1への改訂で数字自体が変わったように、測定手法や対象タスクセットが今後さらに変わる可能性は十分にある。
ドメインによって伸びる速さは大きく違う
METRは2025年7月14日付の別のブログ記事で、ソフトウェア・研究タスク以外の領域でも同じ傾向が成り立つかを検証している。9種類の既存ベンチマークを使ってドメインごとにダブリングタイムを推定した結果が、次のようにまとめられている。
| ドメイン | 代表的なベンチマーク | ダブリングタイムの目安 |
|---|---|---|
| ソフトウェア・推論系(科学QA、数学コンテスト、コーディング) | GPQA, MATH, AIME, METR-HRS, LiveCodeBench | 2〜6ヶ月 |
| 視覚的なコンピュータ操作 | OSWorld, WebArena | ソフトウェア系と近い速度で倍増するが、絶対水準は2025年3月時点で他領域より約50倍短い |
| 自動運転 | Tesla FSD | 約20ヶ月(年0.6倍ペース)と、調査した領域の中で最も遅い |
つまり「3〜7ヶ月ごとに倍」というペースは、ソフトウェア・推論タスクの領域では他の複数のベンチマークでもおおむね裏付けられる一方、自動運転のような領域では大幅に遅い。METR自身、このブログ記事の中で「調査した領域のどれについても、進歩が明確に劣指数的(sub-exponential)だとは言えない」と述べつつ、ドメインごとの伸び方の差は明確に認めている。
タイムホライズンの絶対値そのものは紹介していない
- タイムホライズンの絶対値は、2025年3月時点のClaude 3.7 Sonnetで「約50分」という原論文の数字しか確認できていない。 2026年1月のTH1.1時点で最新のフロンティアモデルの絶対値が何時間・何日相当まで伸びているかは、今回確認した2つのブログ記事の本文中には具体的な数字が見当たらず、この記事では紹介できない。
- 「タイムホライズン」という指標そのものへの批判・限界の議論は、METR自身が書いている範囲(ドメインによる伸び方の差、視覚的コンピュータ操作でのタスク長が短い外挿の弱さなど)しか確認していない。 METR以外の第三者研究者によるこの指標への批判・再現性の検証は、今回のセッションでは調査していない。
- METRという団体自体の設立経緯・運営体制は、この記事の調査範囲外。 「旧ARC Evals」という名称変更の経緯についても、今回は深追いしていない。
- 日本語圏でのこの指標の認知度は「サジェストがほぼ出ない」という間接的な状況証拠に基づく推測であり、WebSearchでの網羅的な確認はできていない。
出典・確認した一次情報
- METR, "Time Horizon 1.1: An Updated Measure"(2026年1月29日、
metr.org/blog/2026-1-29-time-horizon-1-1/)。curlで直接取得し、TH1.0/TH1.1比較表とタスク数・ダブリングタイムの数値を本文中で確認。 - METR, "Measuring AI Ability to Complete Long Software Tasks"(arXiv:2503.14499)。
curlでarXivのアブストラクトページを取得し、Claude 3.7 Sonnetの50分という数字と、5年で自動化が進むという外挿の一文を確認。 - METR, "How Does Time Horizon Vary Across Domains?"(2025年7月14日)。
curlで取得し、ドメイン別のダブリングタイムの記述を確認。 - METR, "HCAST: Human-Calibrated Autonomy Software Tasks"(PDF)。
curlとpdftotextで取得し、タスク数・人間ベースラインの計測時間を確認。
いずれも2026年8月29日にcurl -A "Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_15_7)"で直接取得・確認した。
出典・参照資料
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