M5チップのNeural Acceleratorとは何か──GPUコアの中にAI専用回路を1つずつ埋め込んだ理由
AppleはM5チップで、GPUの各コアに「Neural Accelerator」というAI専用回路を1個ずつ内蔵した。公式発表によるとAI向けGPU演算性能はM4比で4倍以上、M1比で6倍以上。2025年10月のMacBook Pro/iPad Pro/Vision Proでの初搭載から、2026年8月のMac Studio(M5 Max/Ultra)まで、同じ設計思想がどう受け継がれているかを一次資料で確認する。

目次
「Neural Accelerator」は、AppleがM5チップから導入した新しい演算ユニットの名前だ。紛らわしいのは、Appleのチップにはこれとは別に「Neural Engine」という、以前からある独立したAI専用チップも存在すること。両者は別物であり、この違いを理解すると、M5世代のMacやiPadが謳う「AI性能◯倍」の中身が見えてくる。
Neural Acceleratorは、独立したAI専用チップ「Neural Engine」(16コア、M5 Ultraのみ32コア)とは別に、GPUの各演算コアに1個ずつ内蔵された新しい回路だ。この設計は無印M5(10コアGPU)からM5 Pro(16〜20コアGPU)・M5 Max(32〜40コアGPU)・M5 Ultra(64〜80コアGPU)まで一貫しており、GPUコア数が増えるほどNeural Acceleratorの総数も増える。Apple公式発表によるとAI向けGPU演算性能は無印M5でM4比4倍以上・M1比6倍以上、Mac StudioのM5 MaxはM1 Max比10.7倍、M5 UltraはM1 Ultra比9.8倍としている。
Neural EngineとNeural Acceleratorの違い
Apple Siliconには元々、CPU・GPUとは独立した「Neural Engine」というAI専用の演算ブロックが搭載されてきた。M5でもこれは健在で、16コアのNeural Engineが引き続き搭載されている。
これに対しM5で新しく加わったのが、GPUの10個ある演算コアそれぞれの中に1個ずつ内蔵されたNeural Acceleratorだ。2025年10月15日のApple公式プレスリリースはこう説明している。
"M5 introduces a next-generation 10-core GPU architecture with a Neural Accelerator in each core, enabling GPU-based AI workloads to run dramatically faster, with over 4x the peak GPU compute performance compared to M4."
つまり、GPUがグラフィックス処理をしながら、AI計算もコアレベルで並行して高速化できるようになった、という設計変更になる。Apple Hardware Technologies担当上級副社長のJohny Srouji氏は同リリースでこう述べている。
"With the introduction of Neural Accelerators in the GPU, M5 delivers a huge boost to AI workloads. Combined with a big increase in graphics performance, the world's fastest CPU core, a faster Neural Engine, and even higher unified memory bandwidth, M5 brings far more performance and capabilities to MacBook Pro, iPad Pro, and Apple Vision Pro."
具体的な性能倍率
公式リリースが挙げる数字は次の通り(いずれもApple自身のベンチマーク)。
- GPUのAI向けピーク演算性能: M4比で4倍以上、M1比で6倍以上
- グラフィックス性能: M4比で最大30%向上、M1比で最大2.5倍
- 第3世代レイトレーシングエンジンにより、グラフィックス性能はM4比で最大45%向上
- CPU: 最大10コア(効率コア6+高性能コア4)、M4比でマルチスレッド性能15%向上、「世界最速の性能コア」を謳う
- 統合メモリ帯域幅: 153GB/s(M4比で約30%増、M1比で2倍以上)
- 標準搭載メモリ容量: 32GB
製造プロセスは第3世代3ナノメートル技術。
どのデバイスに載っているか
M5チップは2025年10月15日、14インチMacBook Pro・iPad Pro・Apple Vision Proの3機種に同時搭載される形で発表された。プレスリリースは、Neural Acceleratorの用途例として具体的なアプリ名を挙げている。
- Draw Things(拡散モデルによる画像生成アプリ)
- LM Studio(ローカルLLM実行アプリ)
- webAI(ローカルLLM実行プラットフォーム)
Vision Proでは「2D写真を空間シーンに変換する」「Personaを生成する」といったAI機能が高速化されるとしている。また、Apple Intelligenceの基盤機能(Image Playground、Foundation Modelsフレームワークを使う開発者向け機能を含む)もNeural EngineとM5の統合メモリの恩恵を受けて高速化されると説明されている。
その約10ヶ月後の2026年8月25日、より上位のM5 Max・M5 UltraがMac Studioに搭載されて登場した。Mac Studio公式ページの表現は「Neural Accelerators in the GPU」で、M5 MaxはM1 Max比で最大10.7倍、M5 UltraはM1 Ultra比で最大9.8倍のAI演算性能としている(詳細はMac Studio M5 Max/Ultraの記事を参照)。base M5(4倍・6倍)とMax/Ultra(10.7倍・9.8倍)とで比較倍率の基準(M4比かM1比か、どのモデル世代同士の比較か)が異なる点には注意したい。単純に数字だけを並べて「Ultraの方が高性能」と読み違えないようにする必要がある。
なぜコア単位に分散させたのか
Neural Engineという専用チップが既にあるのに、なぜGPUコアの中にもAI回路を分散配置したのか。プレスリリースの説明を読む限り、狙いは「GPUが元々やっている並列処理の中に、AI計算をシームレスに混ぜ込む」ことにあるようだ。拡散モデルによる画像生成やローカルLLMの推論は、GPUの並列演算資源をそのまま使うワークロードが多い。Neural EngineがCPU・GPUの外で完結した処理を担当するのに対し、Neural AcceleratorはGPUのシェーダーコアと同じ場所で動く分、グラフィックス処理とAI処理が混在するアプリ(例えば画像生成しながらプレビューを描画するようなツール)でボトルネックが生じにくくなる、という設計思想と読める。
M5ファミリー全体をスペックで並べる
MacBook ProとMac Studioの公式技術仕様ページを直接確認したところ、M5 Pro搭載機は既に存在しており(前回確認時点では見つけられなかった)、Neural AcceleratorはGPUコア数が増えるファミリー全体で一貫して「コア1個につき1個」搭載されていることが分かった。
| チップ | CPU構成 | GPUコア数 | Neural Accelerator | Neural Engine | メモリ帯域幅 |
|---|---|---|---|---|---|
| M5(無印) | 10コア(super 4+efficiency 6) | 10コア | 各GPUコアに1個 | 16コア | 153GB/s |
| M5 Pro(下位構成) | 15コア(super 5+performance 10) | 16コア | 各GPUコアに1個 | 16コア | 307GB/s |
| M5 Pro(上位構成) | 18コア(super 6+performance 12) | 20コア | 各GPUコアに1個 | 16コア | 307GB/s |
| M5 Max(32コアGPU構成) | 18コア | 32コア | 各GPUコアに1個 | 16コア | 460GB/s |
| M5 Max(40コアGPU構成) | 18コア | 40コア | 各GPUコアに1個 | 16コア | 614GB/s |
| M5 Ultra | 30コア(super 10+performance 20)、上位構成に36コアあり | 64コア(上位構成は80コア) | 各GPUコアに1個 | 32コア | 1.2TB/s(上位構成) |
(MacBook Pro・Mac Studio公式技術仕様ページの記載を統合。M5 UltraはM5 Maxを2基つなぐUltraFusion構成であるため、Neural Engineのコア数もMaxの16コアの2倍である32コアになっている。36コア構成のsuper/performanceコアの内訳は、本記事で確認した技術仕様ページには明記されていなかった)
なお、Apple自身の仕様表記には表記ゆれがある。M5無印のCPU構成表記は「4 super cores and 6 efficiency cores」だが、M5 Pro以降は「performance cores」という語に変わっている(例: 「5 super cores and 10 performance cores」)。同じ性質のコアを指しているとみられるが、世代・製品ページによって呼び方が異なっている点は、本記事で実際にページを読み比べて気づいた点として記録しておく。
性能数値はApple自身のベンチマーク、第三者検証なし
- 本記事の性能数値はすべてApple自身が実施したベンチマークに基づく公式発表であり、独立した第三者機関やユーザーによる再現検証の数字ではない
- 「Neural Acceleratorがどのように実装された回路か(命令セットや演算精度など)」という技術的な内部構造は、今回参照した一般向けプレスリリース・技術仕様ページには記載がなく、確認できていない
- 上記の表はMacBook Pro・Mac Studioの技術仕様ページから構成できたが、Mac mini・iMacなど他製品ラインでのM5 Pro/Max搭載状況までは本記事では確認していない
- 「super cores」と「performance cores」という表記ゆれの理由(単なる呼称変更か、実際に異なる設計か)について、Apple自身の説明は技術仕様ページ上には見当たらなかった
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