「AIで月100万」広告の手口を検証する──国民生活センターの相談件数と、2つの心理学実験で読み解く
「AIで月100万」「誰でも稼げる」という副業広告の手口を、国民生活センターの相談件数データと、楽観バイアス・イリュージョリー優越性という2つの古典的心理学実験、AIの生産性を測ったMETRの実験結果から検証しました。情報商材の相談件数は2023年度の6,256件から減少傾向にあります。

目次
「AIで月100万」「誰でも稼げる」「今がチャンス」──こうした広告文句を目にする機会が増えたと感じる人は多いはずです。この記事は2026年5月28日に公開した動画「【AI副業の正体】76年前から同じ売り方、4回目のブームを消費者庁データで検証」の内容を、公開後にあらためて一次データにあたって記事にしたものです。国民生活センターが公開する情報商材の相談件数、そして「なぜ賢い人でも引っかかるのか」を説明する2つの心理学実験を、一次ソースで確認できた範囲で紹介します。
- 国民生活センターのPIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク)に登録された「情報商材」関連の相談件数は、2023年度6,256件→2024年度4,163件→2025年度2,623件と3年連続で減少(2026年度は5月31日時点で182件、前年同期285件)
- Weinstein(1980)の「楽観バイアス」、Svenson(1981)の「イリュージョリー優越性」という2つの心理学実験は、人が自分についてのリスクや能力を客観的に見積もれないことを示している
- AIの実力についても同じ種類のズレが起きている。METRの2025年7月の実験では、AIツールを使った開発者は実際には19%遅くなったが、本人は使用後も「20%速くなった」と思い込んでいた
国民生活センターのデータは何を示しているか
動画の参考資料に挙がっていた国民生活センターのページ「情報商材(各種相談の件数や傾向)」を直接確認しました(2026年7月31日更新版)。「情報商材」は同センターの定義では「インターネットの通信販売等で、副業、投資やギャンブル等で高額収入を得るためのノウハウ等と称して販売されている情報」全般を指すカテゴリで、AI関連に限定した統計ではありません。
PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)に登録された相談件数の年度推移は次の通りでした。
| 年度 | 相談件数 |
|---|---|
| 2023年度 | 6,256件 |
| 2024年度 | 4,163件 |
| 2025年度 | 2,623件 |
| 2026年度(5月31日時点、前年同期比) | 182件(前年同期285件) |
情報商材全体の相談件数は3年連続で減少しており、2026年度も前年の同時期(5月末まで)と比べて減っています。これは「情報商材」という広いカテゴリの集計であり、AI副業に限定した内訳は同ページには示されていません。「AI副業の広告が増えている」という体感と、「情報商材の相談件数自体は減少傾向」というデータは、必ずしも矛盾するものではありません。相談として届く前に泣き寝入りしているケースや、相談窓口に来ないまま被害に気づかないケースは、この数字には表れないためです。ただし、少なくとも公式統計の相談件数という指標では「急増」を裏づける数字は確認できませんでした。
同ページの「最近の事例」欄には、SNS広告をきっかけにWeb会議で高額なサポート契約を勧誘された事例、「在宅ワーク」で検索して見つけた事業者から電子マニュアル購入と高額サポート契約を勧誘された事例などが、相談者からの申し出内容として紹介されています。
なぜ賢い人でも「自分は大丈夫」と思ってしまうのか
動画が引用していた2つの心理学実験を、それぞれ一次ソースの書誌情報にあたって確認しました。
楽観バイアスは、心理学者ニール・ワインスタイン(Neil D. Weinstein)が1980年に学術誌Journal of Personality and Social Psychology(39巻5号)に発表した論文「Unrealistic optimism about future life events」に由来する概念です。人は自分に起きる将来の良い出来事の確率を過大に、悪い出来事の確率を過小に見積もる傾向がある、という研究です。
**イリュージョリー優越性(優越の錯覚)**は、スウェーデンの心理学者オラ・スヴェンソン(Ola Svenson)が1981年に学術誌Acta Psychologica(47巻2号)に発表した論文「Are We All Less Risky and More Skillful Than Our Fellow Drivers?」が有名な実証例です。スウェーデンとアメリカの学生161人に、自分の運転技術と安全性を他者と比較して評価させたところ、運転技術で「自分は上位50%に入る」と答えた割合はアメリカのサンプルで93%、スウェーデンのサンプルで69%にのぼりました(安全性についてはそれぞれ88%・77%)。論理的には全員が上位50%に入ることはあり得ません。
いずれも、人間が自分自身の能力やリスクを冷静に見積もることが構造的に苦手であることを示す古典的な研究です。なお、この2本の論文原文そのものはAI時短ラボとして直接確認したわけではなく、英語版Wikipediaが引用する書誌情報(著者名・年・誌名・巻号)で確認しています。
AIの実力についても同じズレが起きている
「AIなら誰でも稼げる」という宣伝文句の背景には、AI自体の実力を人間が正確に見積もれていないという問題もあります。これを示す具体的な実験データとして、AI安全性の評価を専門とする非営利研究機関METRが2025年7月10日に公開したブログ記事「Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity」を直接確認しました。
METRは経験豊富なオープンソース開発者を対象に、自分自身のリポジトリでAIツールを使う場合と使わない場合を比較するランダム化比較試験(RCT)を実施しました。結果は次の通りです(METR公式ブログより)。
- AIツールを使った開発者は、使わなかった場合より実際には19%長い時間がかかった
- 実験前、開発者たちは「AIによって24%速くなる」と予測していた
- 実験後、実際には遅くなっていたにもかかわらず、開発者たちは「20%速くなった」と思い込んでいた
METRはこの記事に「2026年初頭時点の続報を公開しており、この結果は現在のAIの影響をもはや反映していないと考えている」という趣旨の注記を付けています。つまりこの19%という数字自体は2025年前半のAIツールを対象にした一時点の観測であり、現在のAIツールにそのまま当てはまるとは限りません。それでも、この実験が示す「本人の体感」と「実測」がここまで乖離しうるという構造自体は、AI関連の宣伝文句を読むときの参考になります。
判断材料としてどう使うか
以上を組み合わせると、次のことが言えます。
- 情報商材全般の相談件数という公式統計では、少なくとも直近3年は減少傾向にあり、「爆発的な急増」を示すデータは確認できなかった
- それでも、人間は自分にとって都合の良い将来予測をしやすい傾向があることは、40年以上前から実証研究の蓄積がある
- AIについても、「使えば速くなる・儲かる」という体感は、実測とズレることが実際に観測されている
「AIで稼げるかどうか」を広告の言葉ではなく自分で確かめたい場合は、高額な講座に申し込む前に、無料〜月数千円程度で使える生成AIツールを自分で触ってみる、という選択肢があります。この点はAIで副業 月5万円は現実的かで具体的な方法とその限界を整理しています。また、音声や画像を使った別種のAI詐欺の手口はAI音声クローン詐欺の手口と対策、判断バイアス全般の基礎はAI倫理 基本ガイドも参考になります。
正直に書いておきたいこと(限界・不確実性)
- 国民生活センターのデータは「AI副業」専用ではない: 「情報商材」という広いカテゴリの集計であり、AIを謳った副業講座がこの中でどれだけの割合を占めるかは、同ページの公開情報からは分かりません。
- 相談件数の減少が「被害の減少」を意味するとは限らない: 相談窓口に届かない被害や、そもそも詐欺だと気づいていないケースは反映されません。この記事は「相談件数という指標では急増は確認できなかった」という限定的な主張にとどめます。
- 消費者庁の消費者白書は確認できなかった: 動画が参考資料に挙げていた消費者庁のURL(consumer_research)は、令和8年版消費者白書の存在を示すポータルページであり、副業勧誘に関する具体的な数値は本セッションでは確認できませんでした。該当データを引用した記述は本記事に含めていません。
- 心理学実験は原論文未確認: Weinstein(1980)・Svenson(1981)とも、書誌情報は英語版Wikipediaの引用リストで確認しましたが、論文本文そのものへのアクセスはしていません。
- METRの19%という数字は「2025年前半時点」の一時点データ: METR自身が「現在のAIの影響はもはや反映していない」と注記しており、最新のAIツールの生産性を示す数字ではありません。
国民生活センターとMETR、直接確認した2本
- 国民生活センター「情報商材(各種相談の件数や傾向)」(2026年7月31日更新版)を本セッションでcurl直接確認。
- Weinstein(1980)・Svenson(1981)の書誌情報は英語版Wikipedia「Optimism bias」「Illusory superiority」の参考文献欄で確認。
- METR「Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity」(2025年7月10日)を本セッションでcurl直接確認。
出典・参照資料
- 一次資料国民生活センター「情報商材(各種相談の件数や傾向)」 ↗
- 二次資料Weinstein, N. D. (1980) "Unrealistic optimism about future life events" Journal of Personality and Social Psychology 39(5) ↗
- 二次資料Svenson, O. (1981) "Are We All Less Risky and More Skillful Than Our Fellow Drivers?" Acta Psychologica 47(2) ↗
- 二次資料METR「Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity」(2025年7月10日) ↗
この記事の解説動画
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