2026年8月28日 金曜日
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AI医療診断 最新事例と課題──画像診断・創薬・カルテ【2026年】

FDAの公開一覧を2026年6月時点で集計すると放射線1,164件・全体1,524件(二次情報で広く引用される『約400件』は古い時点の集計)。画像診断・創薬・電子カルテの3領域で、AIがどこまで使われ、どこに課題が残っているかを事例ベースで整理する。

AI医療診断 最新事例と課題──画像診断・創薬・カルテ【2026年】
執筆・編集:
目次

3行まとめ

  1. FDAの公開一覧を2026年6月時点で集計すると放射線1,164件・全体1,524件(二次情報で広く引用される「約400件」は古い時点の集計)。胸部X線・マンモグラフィー・網膜スキャンで専門医と同等以上の精度を示す管理研究が複数ある
  2. 創薬ではInsilico Medicine ISM001-055がAI設計×AI発見標的の初薬として第IIa相で肯定的結果を出し、AlphaFold 3はタンパク質以外の分子間相互作用も予測可能に
  3. 米国の非連邦急性期病院の71%がEHR(電子カルテ)に予測AIを導入済み

画像診断:FDA承認済みAIは放射線だけで1,164件

AI医療診断のなかでもっとも実装が進んでいるのが放射線画像の解析だ。FDAの公開一覧を2026年6月時点で集計すると、放射線向けAI アルゴリズムは1,164件に達している(二次情報で広く引用される「約400件」は古い時点の集計。詳細は後述)。

管理された研究環境では、胸部X線・マンモグラフィー・網膜スキャンにおいて、AIの診断精度が専門医と同等またはそれ以上とする報告がある。Zebra Medical VisionやAidocといった企業は数百の病院に導入されている。

ただし「管理された研究」と「実臨床」は条件が異なる。学術論文で報告されるデータセットはクリーニング済みであり、実際の病院で撮影される画像のばらつき(撮影条件・患者構成・機器差)を十分に反映しているとは限らない。

FDAの公開一覧を数え直すと、放射線は1,164件

「約400件」は二次情報で広く引用されている数字だが、FDAは自ら「AI-Enabled Medical Device List」として全件を公開している。そこで一次データに当たり直した。

FDAの一覧ページはページ末尾に「Content current as of: 06/16/2026」と表示しており、収載件数は1,524件、最も新しい決定日(Date of Final Decision)は2026年3月30日だった。同ページからCSVをダウンロードし、審査部門(Panel)別に集計した結果が以下になる。

審査部門(Panel) 件数 構成比
Radiology(放射線) 1,164 76.4%
Cardiovascular(循環器) 147 9.6%
Neurology(神経) 70 4.6%
その他15部門の合計 143 9.4%
合計 1,524 100%

放射線が全体の76.4%を占め、2位の循環器(9.6%)と8倍近い差がある。二次情報でよく見る「約400件」は、より古い時点の集計に由来する数字であり、2026年6月時点のFDA一覧では放射線領域だけで1,164件に達している。

年別に見ると、決定日ベースで2023年が226件、2024年が235件、2025年が333件、2026年は3月30日までで92件。一覧に載る最も古い決定日は1995年9月29日だが、年間の件数が二桁に乗るのは2016年(18件)以降だ。

承認経路の96.2%は510(k)

同じCSVを承認番号の接頭辞(K=510(k)、DEN=De Novo、P=PMA)で分けると、経路の偏りが見える。

承認経路 全体 構成比 うち放射線
510(k) 1,466 96.2% 1,146
De Novo 39 2.6% 9
PMA 19 1.2% 9

FDAの510(k)解説ページによると、510(k)とは「販売しようとする機器が、既に合法的に販売されている機器と同程度に安全かつ有効であること、すなわち実質的に同等(substantially equivalent)であることを示すためにFDAへ提出される市販前届出」である。同ページはこの判断が通常90日以内に下されること、そしてこの経路を通った機器を「clear(クリア)する」と表現していることも記している。

つまり日本語で「FDA承認済みAI」とひとまとめにされている件数の96.2%は、新規の臨床試験で有効性を証明したものではなく、既存機器との同等性を示して市場に出たものだ。放射線領域に限れば510(k)の比率は98.5%とさらに高い。

なお1,524件は「承認・認可・クリアランスの件数」であって製品数ではない。販売名が重複しないユニーク件数は1,255件で、同じ製品がバージョン更新のたびに再収載されている。企業数は781社、最多はSiemens Medical Solutions USA(53件)、2位はキヤノンメディカルシステムズ(Canon Medical Systems Corporation、41件)だった。

創薬:AI設計薬が臨床試験で前進

創薬分野では「AIを使えば時間とコストを30〜50%削減できる」という業界の主張がある。

具体的な事例として注目されているのがInsilico MedicineのISM001-055だ。AIが標的を発見し、AIが分子を設計した初の薬剤として、第IIa相臨床試験で肯定的な結果が出ている。

構造予測の面では、DeepMindのAlphaFold 3がタンパク質だけでなくDNA・RNA・低分子・イオンとの相互作用予測にまで対象を広げた。創薬の初期段階で候補分子を絞り込む工程への応用が期待されている。こうした科学分野へのAI応用は研究者コミュニティの動きにも波及しており、Google出身の研究者4人が2026年8月に設立した新会社「Discovery Loop」も、新薬開発を含む科学実験ループの自動化を事業目標に掲げている。

ISM001-055(rentosertib)の第IIa相は何を示したか

企業リリースではなく査読論文で確認する。この試験の結果はNature Medicine誌(2025年8月、31巻8号2602-2610頁)に掲載されている。まず本文に書いていなかった点として、適応は**IPF(特発性肺線維症)**だ。論文はIPFを「加齢に関連した進行性の肺疾患で、疾患の変性経過を反転させる治療法は現時点で存在しない」と説明している。

項目 内容
デザイン 多施設・二重盲検・ランダム化・プラセボ対照の第IIa相
被験者数 71例
投与期間 12週間
群構成 30mg 1日1回(18例)/30mg 1日2回(18例)/60mg 1日1回(18例)/プラセボ(17例)
主要評価項目 治療下発現有害事象(TEAE)が1件以上あった患者の割合
試験登録番号 NCT05938920

論文を読むと、主要評価項目は有効性ではなく安全性である点が最初に来る。TEAE発現率は30mg 1日1回で72.2%(13/18例)、30mg 1日2回で83.3%(15/18例)、60mg 1日1回で83.3%(15/18例)、プラセボで70.6%(12/17例)と、各群で同程度だった。治療関連の重篤な有害事象は低率で群間に大きな差はなく、投与中止に至った主な事象は肝毒性または下痢だったと記載されている。

肺機能の指標であるFVC(努力性肺活量)の変化は副次評価項目にあたる。最高用量の60mg 1日1回群で平均+98.4mL(95%信頼区間 10.9〜185.9)、プラセボ群で−20.3mL(95%信頼区間 −116.1〜75.6)だった。論文自身の結論は「TNIKを標的とすることは安全で忍容性が高く、より大規模かつ長期の臨床試験でのさらなる検討に値する」という書き方であり、有効性が確立したとは述べていない。

本試験のスポンサーはInsilico Medicineで、著者の一部が同社の従業員である旨が論文の利益相反欄に明記されている。

AlphaFold 3が予測できる範囲と、使える条件

AlphaFold 3の論文はNature誌(2024年6月、630巻8016号493-500頁)に掲載されている。論文の記述では、予測対象は「タンパク質、核酸、低分子、イオン、修飾残基」を含む複合体の同時構造だ。修飾残基が入っている点は、二次情報でしばしば落ちている。

精度についても論文は比較対象を明示している。タンパク質-リガンド相互作用では最先端のドッキングツールを大きく上回り、タンパク質-核酸相互作用では核酸特化型の予測器を上回り、抗体-抗原予測ではAlphaFold-Multimer v2.3を大幅に上回った、という書き方になっている。

利用条件には制約がある。論文は「AlphaFold 3はalphafoldserver.comにて非商用利用限定のサーバーとして提供され、使用できるリガンドと共有結合修飾に制限がある」と明記している。創薬の実務で自由に回せる状態ではない。

論文自身が挙げる限界も外せない。不規則領域に実在しない構造秩序を出力すること(ハロシネーション)、キラリティを常に守るわけではなくランキングによるペナルティを入れても違反率が4.4%残ること、出力はPDBに見られるような静的構造でありタンパク質の溶液中での動的挙動を表さないこと、が本文に書かれている。

電子カルテと予測AI:71%の病院が導入

米国の非連邦急性期病院の71%が、EHR(電子カルテ)に予測AIを組み込んでいる。入院患者の悪化予測、敗血症の早期検知、再入院リスク評価などが主な用途だ。

AIは仕事を奪うのかでも触れたように、AIの導入は医療従事者の業務を置き換えるというより、見落としを減らすスクリーニング補助として機能しているケースが多い。

査読論文で確認できる導入率は65%

この種の導入率は出典によって数字が変わる。査読を経た調査として確認できたのは、Health Affairs誌(2025年1月、44巻1号90-98頁)に掲載されたNongらの論文だ。データ元は2023年のAmerican Hospital Association(AHA)年次調査 情報技術サプリメントである。

指標 母数
予測モデルを利用している 米国の病院 65%
電子カルテ(EHR)ベンダー製のモデルを使用 予測モデル利用病院 79%
自院データで精度を検証(ローカル検証) 予測モデル利用病院 61%
自院データでバイアスを検証 予測モデル利用病院 44%

同論文は用途として、入院患者の健康軌道やリスクの予測、フォローアップ医療につなげるための高リスク外来患者の特定、健康状態のモニタリング、治療の推奨、請求業務の簡素化・自動化、スケジューリングの支援を挙げている。本文で触れた敗血症検知や再入院リスク評価は、このうち最初の2つに当たる。

重要なのは後半2行だ。予測モデルを使っている病院のうち、自院データで精度を検証しているのは61%、バイアスの検証に至っては44%にとどまる。裏を返せば、モデルを動かしている病院の約4割は自分のところの患者データで精度を確かめておらず、半数以上はバイアスを確かめていない。

論文は、自らモデルを開発している病院、営業利益率の高い病院、医療システムに属する病院ほどローカル検証を報告する傾向があったとし、技術支援・FAVES原則の評価ツール・教育資源を提供する政策がなければ「AIにおける新たな組織間のデジタルデバイド」が生じうると指摘している。FAVESとは論文が挙げる fair, appropriate, valid, effective, safe の頭字語だ。

バイアス検証が追いついていない構図は医療に限らない。AI倫理の基本ガイドで整理したバイアス・透明性の論点が、そのまま病院のオペレーションに現れている。

日本ではAI活用のプログラム医療機器が65件

日本側の公的データにも当たっておく。PMDA(医薬品医療機器総合機構)は「プログラム医療機器の製造販売承認品目一覧」をExcelで公開しており、この一覧には「AI活用医療機器」という欄がある。PMDAの注記によれば、この欄に○が付いているのは「初回承認あるいは承認事項一部変更承認にかかわらず、AI技術を用いた機能を有するプログラム医療機器」だ。

2026年3月31日時点の一覧を集計すると、収載されているプログラム医療機器の承認品目は187件、うち「AI活用医療機器」に○が付いているのは65件(34.8%)だった。承認年月日は2015年11月16日から2026年3月24日までの範囲にある。

承認年 AI活用医療機器として○が付いた件数
2018 1
2019 2
2020 12
2021 6
2022 4
2023 4
2024 12
2025 18
2026(3月24日まで) 6

一覧上で最も古いAI活用医療機器は、2018年12月6日承認のサイバネットシステム「内視鏡画像診断支援ソフトウェア EndoBRAIN」(一般的名称:疾患鑑別用内視鏡画像診断支援プログラム)だった。一般的名称別では「X線画像診断装置ワークステーション用プログラム」が16件で最多、次いで「疾患鑑別用内視鏡画像診断支援プログラム」と「病変検出用内視鏡画像診断支援プログラム」が各7件。米国と同じく画像系が中心だが、日本では内視鏡が独自の塊を作っている。

ただしFDAの1,524件とPMDAの65件を並べて「日本は米国の20分の1」と読むことはできない。集計の対象範囲が違う。FDAの一覧はプログラム単体に限らずAI機能を持つ医療機器全般を含むのに対し、PMDAのこの一覧は主たる一般的名称にプログラムの名称を持つ品目に限られる。有体物の医療機器の構成品としてアプリやプログラムが含まれる場合は一覧に入らない、とPMDA自身が注記している。

数え直したら合わなかった数字

  • 「専門医と同等以上の精度」は管理された研究環境での話であり、実臨床でそのまま再現されるかは別問題。データセットの偏り、患者層の違いなど、一般化には注意が必要
  • 創薬の「30〜50%コスト削減」は業界側の主張であり、独立した検証はまだ十分でない。ISM001-055の第IIa相結果も、第III相以降で覆る可能性はある
  • 71%のEHR導入率は「予測AI機能を有効にしている」という数字であり、現場で実際にどの程度活用されているか、臨床判断にどう影響しているかは別の問いになる
  • Midjourney Medical発表で取り上げた医療画像生成の話題とは文脈が異なる──診断AIと画像生成AIは別の技術系統
  • 二次情報で広く引用される「約400件」は、FDAの公開一覧を2026年6月時点で数え直した結果(放射線1,164件・全体1,524件)と一致しない。古い時点の集計に由来する数字であり、2026-08-27付でexcerpt・3行まとめ・本文冒頭も1,164件/1,524件に修正した
  • 本文の「71%」については、一次資料を特定できなかった。査読論文として確認できたのは2023年AHA調査に基づく65%(Health Affairs, 2025)であり、両者の差が調査年・母集団・重み付けのどれに由来するかは今回の調査では解消できていない
  • FDAの1,524件は「承認・認可・クリアランスの件数」であって製品数ではない。販売名ベースのユニーク件数は1,255件で、同一製品がバージョン更新のたびに再収載される
  • FDA自身が一覧の説明文で「このリストはAI搭載医療機器を網羅した資料ではない」と明記している。収載は主に販売許可文書の要約に含まれるAI関連用語に基づいて識別されるため、要約に記載がなければ漏れる
  • 同様にPMDAも「AIを活用したプログラム医療機器を網羅するものではありません」と注記している。業務量負担の軽減など、患者転帰の改善を意図しない機能は除外されている
  • 承認経路の96.2%を占める510(k)は既存機器との実質的同等性を示す届出であり、新規の臨床試験で有効性を証明したことを意味しない。「FDA承認済み」という語感と実際の審査内容にはずれがある
  • ISM001-055(rentosertib)の第IIa相は主要評価項目が安全性(TEAE発現率)であり、FVCの改善は副次評価項目にあたる。71例・12週間という規模と期間から、有効性が確立したと読むことはできない。スポンサーは開発企業自身である
  • AlphaFold 3のサーバーは非商用利用限定で、使用できるリガンドと共有結合修飾にも制限がある。論文自身がキラリティ違反率4.4%や不規則領域のハロシネーションを限界として挙げている
  • 筆者はFDA一覧のCSVとPMDAのExcelを自分で集計したが、両機関が公開している元データそのものの正確性までは検証していない

数値の確認に使った一次資料

数値の追記分は、以下の一次資料を2026年8月14日に直接参照して確認した。

初出時に参照した資料は以下のとおり。

  • NVIDIA Blog(blogs.nvidia.com): AI医療画像に関する事例紹介
  • Offcall(offcall.com): 医療AIの導入状況
  • SciSpot(scispot.com): AI創薬の動向
  • Deepgram(deepgram.com): 医療AI全般の概況
  • NCBI/NLM(ncbi.nlm.nih.gov): 臨床研究のデータベース

本記事の情報は上記ソースの報告に基づいている。筆者は医療専門家ではなく、個別の診断・治療判断への助言を意図するものではない。

FDAの表現をめぐる訂正

  • 2026-08-14: FDA 510(k)解説ページへの帰属を訂正。「この経路を通った機器についてFDAは『approve(承認)』ではなく『clear(クリア)』という語を使う」という approve/clear の対比記述は、原文(Wayback Machine保存の2026年7月13日版で確認)には存在しない。原文にあるのは『This order "clears" the device for commercial distribution』という一文のみで、approveとの対比は本記事側が補って書いたものだった。「この経路を通った機器を『clear(クリア)する』と表現していることも記している」に修正した。
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出典・参照資料

更新・訂正履歴

  • excerpt・3行まとめ・本文冒頭(旧53行目)が『FDA承認済みの放射線AI アルゴリズムは約400件』のままだったが、同記事59-73行目・183行目は既にFDA公開一覧のCSVを自ら集計し『放射線1,164件・全体1,524件(2026年6月時点)』とし、冒頭の『約400件』は古い時点の集計だと自己指摘していた。この内部矛盾を解消するため、excerpt・3行まとめ・本文冒頭の3箇所を『放射線1,164件・全体1,524件(二次情報で広く引用される「約400件」は古い時点の集計)』に統一した。タイトルには元々数字を含んでいないため変更していない。

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