2026年9月4日 金曜日
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Intelだけじゃなかった──AMD Zen系CPUでもRowhammerが刺さることを示した「ZenHammer」

ETH ZurichのComputer Security Groupが2024年に発表した「ZenHammer」は、AMD Zen 2・Zen 3プラットフォームでTRR対策下でもRowhammerのビット反転を引き起こせることを実証した研究。10台中7台(Zen 2)・6台(Zen 3)のDDR4デバイスでビット反転を確認し、DDR5デバイスでも商用システムとして初めてビット反転を報告した。USENIX Security 2024で発表。

Intelだけじゃなかった──AMD Zen系CPUでもRowhammerが刺さることを示した「ZenHammer」
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Rowhammer研究はこれまで、DRAMアドレス関数の解析が進んでいたIntelプラットフォームに集中していた。AMDのマイクロアーキテクチャは相対的に情報が少なく、研究対象から外れがちだったという事情もある。ETH ZurichのComputer Security Group(COMSEC)が2024年にUSENIX Securityで発表した「ZenHammer」は、この空白を埋め、AMD Zen 2・Zen 3プラットフォームもIntelと同じくRowhammerに弱いことを実証した研究だ。

3行まとめ

  1. ZenHammerは、AMD Zen 2・Zen 3プラットフォーム上でDRAMアドレス関数をリバースエンジニアリングし、TRR対策下でもビット反転を引き起こせることを示した研究。10台中7台(Zen 2)・6台(Zen 3)のDDR4デバイスでビット反転を確認した。
  2. AMDのx86デスクトップCPU市場シェアは公式ページの記述によれば約36%(研究発表当時)で、この規模のプラットフォームが同様に脆弱だと分かったことは攻撃対象範囲の拡大を意味する。
  3. DDR5デバイスでも10台中1台で約42,000回のビット反転を確認しており、これは商用システムにおけるDDR5ビット反転の公開報告として初めてのものだったという。研究チームは「9台では反転が起きなかった」ことも合わせて明記している。

AMDが見過ごされてきた理由

COMSECの公式ページのFAQ欄は「なぜこれまでAMDシステムに注目が集まらなかったのか」という問いに対し、Kimらによる最初期のRowhammer研究がIntelシステムで大量のビット反転を示したこと、その後の研究も主にIntelを対象にしてきたこと、そしてAMD CPUのマイクロアーキテクチャに関する公開情報がIntelに比べて少ないことを理由として挙げている。攻撃を成立させるには、まず物理アドレスがDRAMのどの行・バンクに対応するかという「DRAMアドレス関数」を把握する必要があるが、AMD側ではこの情報がIntelほど整理されていなかった。

DRAMA手法をAMD向けに調整し、リフレッシュ同期を作り直す

ZenHammerの研究チームは、Intel系で使われてきた「DRAMA」というアドレス関数解析手法をAMDシステム向けに調整するところから着手した。単純な移植ではタイミング計測がうまくいかず、より信頼性の高い結果を得るためにタイミングルーチンそのものを変更する必要があったという。加えて、AMDシステムでは物理アドレスの上位レンジが未使用領域へリマップされる仕組みがあり、この物理的なオフセットを補正しないとアドレス関数を正しく復元できないことも突き止めている。

もう一つの技術的なハードルが「リフレッシュ同期」だった。先行研究のBlacksmithやSMASHでも重要性が指摘されていたポイントで、ZenHammerは繰り返さない行への連続的なタイミング計測を使うことで、AMDシステム上でも精密で信頼性の高いリフレッシュ同期を実現したとしている。さらに、非一様パターンの活性化レートがAMD Zen+/Zen 3ではIntel Coffee Lakeより有意に低いことを発見し、最適なハンマリング命令列を探索。通常のロード命令(MOV)とCLFLUSHOPTによるキャッシュフラッシュを、アグレッサー行へのアクセス直後に発行する「scatter」方式が最も効果的だったという。Zen 3ではZen 2と違い、フラッシュ後の明示的なフェンス命令が不要なことも分かった。

評価結果:Zen 2は7/10台、Zen 3は6/10台でビット反転

主要メーカー3社をカバーする10台のDDR4デバイスに対し、mfence・sfenceそれぞれのフェンスタイプと、研究チームが独自に考案した6種類のフェンススケジューリングポリシーを3時間ずつ走らせて最良パターンを探索。その最良パターンを256MBの範囲でスイープした結果、Zen 2では10台中7台、Zen 3では10台中6台でビット反転が確認された。攻撃の実用性についても、PTE改ざん・RSA-2048秘密鍵復元・sudo権限奪取という3種の攻撃をIntel Coffee Lakeと比較する形で評価している。

なぜ評価対象が10台なのかについて、公式FAQは「研究室にあるAMD Zen 2/3マシンの台数が限られており、一部の実験に長時間かかったため」と説明したうえで、無作為に選んだサブセットが主要3社(Samsung・Micron・SK Hynix)すべてを含むようにした、と補足している。また「ビット反転が起きなかった残り3台(Zen 2)・4台(Zen 3)は安全と言えるか」という質問には、「その可能性は低い。Intel Coffee Lakeでもこれらのデバイスではわずかな反転しか起こせなかったことを踏まえると、ファザーをさらにチューニングすればビット反転を引き出せる可能性がある」と回答しており、反転が確認できなかったデバイスを「安全」と結論づけていない点は元記事のニュアンスとして拾っておきたい。

既存の緩和策はどこまで効くか──公式FAQの回答を確認する

ZenHammerの公式ページのFAQ欄には、Rowhammer対策として一般に語られる手法についての研究チーム自身の評価が載っている。直接引用の形で整理すると次の通りだ。

対策 研究チームの回答(要旨)
ECC(誤り訂正符号)付きDIMM 先行研究がDDR3でECCはRowhammerを防げないと示しており、現行DDR4はビット反転の絶対数がさらに多いため、ECCは完全な防御にはならず「悪用を難しくするだけ」と考えている
リフレッシュレートを2倍にする 性能オーバーヘッドと消費電力の増加を招くうえ、Mutlu et al.やFrigo et al.の先行研究が示す通り「完全な保護を提供しない弱い解決策」である
JEDECによる規格側の恒久対策 自分たちの先行研究(ProTRR・REGA)から、Rowhammer解決は「難しいが不可能ではない」と分かっているが、JEDEC内部の官僚的な意思決定プロセスが、この問題へのきちんとした対応を難しくしていると考えている

Due to the even larger number of bit flips in current DDR4 devices, we believe that ECC cannot provide complete protection against Rowhammer but just makes exploitation harder.

(現行のDDR4デバイスではビット反転の数がさらに多いため、ECCはRowhammerに対する完全な防御にはならず、悪用を難しくするだけだと考えている)

いずれも「打つ手がない」という結論ではなく、「個々の対策はRowhammerを完全には防げない」という限定的な主張である点には注意して読む必要がある。

DDR5でも商用初のビット反転を確認

研究チームはさらに、AMD Zen 4プラットフォーム上でDDR5のDRAMアドレス関数をリバースエンジニアリングし、10台のDDR5デバイスを評価した。結果、1台で約42,000回のビット反転を確認。公式ページは「これは商用システムにおけるDDR5ビット反転の初めての公開報告である」と明記している。ただし残る9台では反転を起こせておらず、研究チーム自身も「DDR5により効果的なパターンを見つけるには、さらなる研究が必要」と結論づけている。

開示のタイムライン

Rowhammerは業界全体で既知の問題であるため、通常の開示プロセスを踏む必要はないと判断したとしつつも、研究チームは2024年2月26日にAMDへ通知し、AMD側の要請により2024年3月25日まで公開を差し控えたとしている(ページ自体は3月21日に誤って一時公開されていたことも明記されている)。研究はUSENIX Security 2024で発表された。

コードは公開されているが、2025年6月以降の更新は止まっている

ZenHammerのファザー本体はGitHubのcomsec-group/zenhammerで公開されている。README本文を直接確認したところ、著者はPatrick Jattke・Max Wipfli・Flavien Solt・Michele Marazzi・Matej Bölcskei・Kaveh Razaviの6名で、リポジトリは単一のツールではなく用途別のブランチに分かれている。

ブランチ 内容
dare DRAMアドレスマッピングをリバースエンジニアリングする「DARE」ツール
ddr4_zen2_zen3_pub DDR4(Zen 2・Zen 3)向けZenHammerファザー
ddr5_zen4_pub DDR5(Zen 4)向けZenHammerファザー

GitHub APIで2026年8月31日時点のリポジトリメタデータを取得したところ、スター64・フォーク7で、作成日は2024年3月15日(AMDへの通知の直後にあたる)、直近のpushは2025年6月19日だった。つまり、この記事を書いている時点でリポジトリは1年以上更新されていないことになる。研究自体がUSENIX Security 2024という単発の論文発表を目的にしたアカデミックコードであることを踏まえると不自然な停止ではないが、「今も活発にメンテナンスされているツールではない」という点は、実際に手元でDRAMを検査する目的でこのコードを使おうとする読者には伝えておく必要がある。

AMD比率が上がるAI基盤での読み方

AMDのデータセンター事業は、2026年第2四半期の公式決算で全社売上の58%を占めるまでに拡大している。EPYC系CPUやMI300シリーズはAI学習・推論基盤としての採用も進んでおり、そのメモリ周りの脆弱性が「Intelだけの問題ではない」と実証されたことは、AI基盤のハードウェア選定を考えるうえでも無視できない材料になる。

AMD側のその後の対応は追っていない

この記事はCOMSEC公式研究ページの本文とFAQ、GitHubリポジトリのREADMEをもとに書いている。論文本体(USENIX Security 2024採択版PDF)は本文まで開いておらず、フェンススケジューリングポリシーの詳細な比較表や、DDR5評価の10台それぞれの個別データなど、より粒度の細かい実験結果はページの範囲では確認できなかった。GitHub上のC/C++コード自体も、ブランチ構成とREADMEの記述を確認したのみで、実際のファザー実装まで読んで検証してはいない。AMD側がこの開示を受けて具体的にどのような対策を講じたか(あるいは講じていないか)についても、この記事の時点では確認していない。

手元で照合した数字

「AMDのx86デスクトップCPU市場シェア約36%」という数字は、公式ページ本文にそのまま記載されている値をそのまま引用したもので、この記事を書く時点で別の市場調査データと突き合わせる形の再検証はしていない。研究発表当時(2024年)の数字である点にも注意が必要で、2026年時点でのAMDのシェアが同水準かどうかは確認していない。一方で、AMDのデータセンター事業の売上比率58%は当サイトが2026年第2四半期決算を直接確認した数字なので、こちらは時点の異なる2つの「AMDの存在感」を並べていることになる。

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