2026年9月5日 土曜日
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「ものづくり補助金のAI活用枠」は存在しない──2つの補助金公式サイトを突き合わせて確認する

「ものづくり補助金にAI活用枠がある」という趣旨の解説記事がネット上に多数出回っているが、中小企業庁・中小機構の公式サイトを確認すると、そのような名称の枠は見当たらない。ものづくり補助金は新規公募を終了して「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」(3枠・第1回の申請受付は2026年8月31日〜9月30日)に再編されており、「AI活用枠」に近い制度は別の補助金「デジタル化・AI導入補助金」の中にある。両者を公式資料で突き合わせて整理する。

「ものづくり補助金のAI活用枠」は存在しない──2つの補助金公式サイトを突き合わせて確認する
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「ものづくり補助金のAI活用枠」というフレーズを掲げた解説記事・広告が、検索結果に少なからず並んでいる。だが、中小企業庁・中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する公式サイトを実際に確認すると、そのような名称の枠は見当たらない。2つの補助金制度の公式資料を突き合わせて、何が実在し、何が混同されているのかを整理する。

3行まとめ

  1. 「ものづくり補助金」は2026年に「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」(3枠)へ再編されたが、この3枠に「AI活用枠」という名称は存在しない
  2. 56ページの公募要領PDFをcurlで取得し全文を「AI」で検索したところ、唯一の言及は別制度「デジタル化・AI導入補助金」への脚注的な参照1箇所のみだった
  3. 「AI活用枠」に一番近いのは、別の補助金「デジタル化・AI導入補助金」にある「複数者連携デジタル化・AI導入枠」で、制度としては完全に別物である

ものづくり補助金は2026年に姿を変えた

中小企業庁の公式サイト(mirasapo-plus.go.jp、最終更新2026年8月12日)によれば、従来の「ものづくり補助金」(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は新規公募を終了し、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」として再編された。第1回公募要領は2026年6月29日に公開され、申請受付期間は2026年8月31日〜9月30日(水)18時とされている。

公式サイトはこの新補助金の枠組みをこう説明している。

「本補助金には以下の3つの枠があり、それぞれ補助上限額・補助率・対象事業が異なります。」

3つの枠は次の通りだ。

支援対象 補助上限額
革新的新製品・サービス枠 革新的な新製品・新サービス開発 最大3,500万円
新事業進出枠 既存事業と異なる新市場・高付加価値事業への進出 最大9,000万円
グローバル枠 海外市場開拓(輸出)に向けた国内体制強化 最大9,000万円

見ての通り、この3枠のいずれにも「AI活用枠」という名称は登場しない。

さらに踏み込んで、この制度の公募要領そのもの(56ページのPDF、mirasapo-plus.go.jp/wordpress/wp-content/uploads/2026/06/30141726/shinmono_application_guidelines_01-1.pdf)を今回curlpdftotextで取得し、全文を「AI」という文字列で検索した。一致したのは1箇所だけで、それは「減点項目」の節にある脚注だった。

「中小企業庁が所管する補助金※1(中略)※1 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業(ものづくり補助金)、サービス等生産性向上IT導入支援事業(IT導入補助金)、中小企業デジタル化・AI導入支援事業(デジタル化・AI導入補助金)、(中略)令和8年4月時点」

つまり公募要領本文で唯一「AI」という文字列が出てくる箇所は、この補助金自体の説明ではなく、賃上げ加点の未達成事業者に対する減点ルールの脚注の中で、中小企業庁が所管する他の補助金9件を列挙する際に「デジタル化・AI導入補助金」という別制度の正式名称が引用されているだけだった。この公募要領全文を実際に検索した結果、「AI活用枠」に類する表現は本文のどこにも見つからなかった。

公募要領はさらに、3枠それぞれの補助上限額を従業員数別に定めている。冒頭の表で示した「最大◯万円」は、いずれも従業員数が最も多い区分の金額だ。注意したいのは、革新的新製品・サービス枠だけ区分の切り方が違う点で、他2枠が「1〜20/21〜50/51〜100/101人以上」なのに対し、この枠は「1〜5/6〜20/21〜50/51人以上」の4段階になっている。どの枠も従業員数1人から対象になる。

革新的新製品・サービス枠(補助下限額100万円)

従業員数 補助上限額
1〜5人 750万円(850万円)
6〜20人 1,000万円(1,250万円)
21〜50人 1,500万円(2,500万円)
51人以上 2,500万円(3,500万円)

新事業進出枠・グローバル枠(いずれも補助下限額750万円。上限額の刻みは同じで、補助率が中小企業者1/2〈2/3〉と2/3で異なる)

従業員数 補助上限額
1〜20人 2,500万円(3,000万円)
21〜50人 4,000万円(5,000万円)
51〜100人 5,500万円(7,000万円)
101人以上 7,000万円(9,000万円)

(括弧内は賃上げ特例適用時の上限額。数値はいずれも公募要領PDFの「1-2-1」「1-2-2」「1-2-3」各節の「補助上限額」欄をそのまま書き写したもの)

また、公募要領には各枠の「補助対象経費」の区分も明記されている。3枠に共通する経費区分は、機械装置・システム構築費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費だ。この「クラウドサービス利用費」は、先の「なぜ広まったか」の節で挙げた2番目の推測要因(生成AIのAPI利用料・クラウドサービス利用料が対象経費に含まれるようになったこと)が、実はデジタル化・AI導入補助金だけでなく、この新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の側にも共通して存在する経費区分だということを意味する。つまり「AIツールの費用を補助対象にできる」こと自体は、この2つの補助金を区別する決定的な違いではない。

「AI活用枠」が実在するのは、別の補助金

一方、中小企業デジタル化・AI導入支援事業の公式サイト(it-shien.smrj.go.jp)を確認すると、こちらは2026年度から「IT導入補助金」から「デジタル化・AI導入補助金」へと名称が変更されている。制度概要ページに掲載された「申請枠の種類」は次の5枠だ。

  • 通常枠
  • インボイス枠(インボイス対応類型)
  • インボイス枠(電子取引類型)
  • セキュリティ対策推進枠
  • 複数者連携デジタル化・AI導入枠

こちらにも、単独で「AI活用枠」という名称の枠は存在しない。最も近いのは「複数者連携デジタル化・AI導入枠」で、公式サイトの説明によれば「複数の中小企業・小規模事業者等のみなさまが連携して地域DXの実現や、生産性の向上を図る取り組みを支援」する枠であり、対象ツールの例として「データ分析システム」が挙げられている。

なぜ「AI活用枠」という言葉が広まったのか

推測にはなるが、次の3つの事情が絡み合って「AI活用枠」という通称が広まった可能性が考えられる。

  1. 制度名自体が「IT導入補助金」から「デジタル化・AI導入補助金」に変わり、AIという言葉が前面に出たこと
  2. 生成AIのAPI利用料・クラウドサービス利用料が対象経費として明示的に含まれるようになったこと(この点は総務省・中小企業庁関連の複数の解説記事で言及されている)
  3. 「複数者連携デジタル化・AI導入枠」という正式名称が、要約される過程で「AI活用枠」と短縮されて広まったこと

ただし、これらはいずれも公式サイトに明記された「AI活用枠」という名称の直接的な根拠にはならない。本記事執筆時点で、この名称の正式な出典(例えば制度創設時の経済産業省の発表資料)は確認できなかった。

なお、ミラサポplusの「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の制度ページ(mirasapo-plus.go.jp/subsidy/shinjigyoumanufacturing/)をcurlで取得すると、ページ下部の「他の補助金を見る」ナビゲーションに「デジタル化・AI導入補助金」「省力化投資補助金」「成長加速化補助金」「ものづくり補助金」「新事業進出補助金」などが、それぞれ独立した項目として横並びで列挙されている。中小企業庁自身が運営するサイト上でも、名称の異なる複数の補助金が並列に案内されている状況であり、利用者側で名称を混同しやすい構造があること自体は、この一次資料からも確認できる。

実務上の注意点

補助金の申請を検討する事業者にとって、この混同は実務上のリスクになりうる。「AI活用枠」という言葉だけを頼りに情報を探すと、実際にはものづくり補助金の後継制度(新事業進出・ものづくり商業サービス補助金)とデジタル化・AI導入補助金という、対象経費も申請要件も異なる2つの制度の情報が混ざって出てくる可能性がある。生成AIを使ったツール導入を検討している中小企業・個人事業主は、まず自分がどちらの制度を検討しているのかを、公式サイトの正式な枠名で確認することをおすすめする。

AI導入を検討する中小企業向けの基礎知識は中小企業のAI導入・ゼロコストガイド、生成AIの経費・減価償却の扱いについては生成AIの経費・減価償却ガイド、社内AIガイドラインの最小構成については社内AIガイドライン策定の最小構成も参照してほしい。

デジタル化・AI導入補助金側の公募要領は未読のまま

  • 本記事は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」については公募要領PDF全文(56ページ)をcurlpdftotextで取得し「AI」の文字列一致を確認した。一方、「デジタル化・AI導入補助金」側については、確認したのは公式サイトの「申請枠の種類」一覧ページのみで、こちらの公募要領全文までは読み込んでいない。「複数者連携デジタル化・AI導入枠」の細部の対象経費・申請要件についても、公式サイトの概要説明の範囲にとどまる。
  • 「AI活用枠」という言葉がいつ・誰によって最初に使われ始めたかについての語源的な調査は行っていない。本記事の「推測」の節に挙げた3つの事情は、あくまで本記事筆者の推測であり、確定的な事実ではない。
  • 制度は年度ごとに再編される頻度が高く、本記事の内容は2026年8月29日時点の公式サイト・公募要領の記載にもとづく。今後さらに制度が変更される可能性は高く、実際に申請を検討する場合は必ず最新の公式サイト・公募要領を確認してほしい。
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