「2025年末までにAGI」に賭けた281人、答えはNOだった──アモデイ氏の発言をきっかけに立った市場の顛末
予測市場Manifold Marketsで2023年8月に立てられた「2025年末までに、一般的な教育を受けた人間並みのAGIは実現するか」という市場は、281人が参加し、2026年1月11日に「NO」で解決した。解決直前の確率はわずか5%。AnthropicのCEOダリオ・アモデイ氏の「2〜3年以内」発言をきっかけに立てられた市場だった。

目次
「一般的な教育を受けた人間並みのAGIは、2025年末までに実現するか」——予測市場Manifold Marketsに2023年8月に立てられたこの問いは、2026年1月11日に決着した。答えは「NO」。281人が参加したこの市場の顛末を、公開APIで直接確認した。
3行まとめ
- この市場は2023年8月7日に作成され、281人が参加、2026年1月11日に「NO」で解決した。解決直前の確率はわずか5%だった。
- 市場作成のきっかけは、AnthropicのCEOダリオ・アモデイ氏がDwarkeshのポッドキャストで語った「人間並みのAGIは2〜3年以内かもしれない」という発言だったと、市場の説明文自体に明記されている。
- 判定方法はあらかじめ市場のルールとして定められており、市場終了時に「人間並みのAGIは現在存在するか」というアンケートを1週間実施し、その結果で機械的に解決する設計だった。
市場が立てられた経緯
manifold.markets/SneakySly/will-we-have-an-agi-as-smart-as-a-gのAPIレスポンスを直接取得し、市場の説明文を確認した。市場自体の作成日時は2023年8月7日(Unix時刻から算出)で、説明文にはこう書かれている。
"In a recent Dwarkesh podcast interview with the head of Anthropic, Dario Amodei makes the claim that an AGI as smart as a 'generally educated human' could be as soon as 2-3 years away."
(訳)「最近のDwarkeshポッドキャストのインタビューで、Anthropicのトップであるダリオ・アモデイ氏は、『一般的な教育を受けた人間』並みに賢いAGIが、早ければ2〜3年後に実現するかもしれないと発言した」
アモデイ氏の発言当時(2023年)から2〜3年後という区切りが、ちょうど「2025年末」に対応する。市場はこの発言の"答え合わせ"として設計されたことになる。
どうやって「YES/NO」を決めるのか
この市場の解決方法自体も、説明文にあらかじめ明記されている。
"At the end of 2025 (roughly 2.5 years), how well will this claim hold up? I will make a poll at market close and ask the following: 'Does AGI as smart as a "generally educated human" currently exist?' The poll will stay up for 1 week. This market resolves YES if the poll resolves 'YES'. Otherwise this market will resolve NO."
(訳)「2025年末(およそ2.5年後)に、この主張はどれだけ実証されているか?市場終了時にアンケートを実施し、『現在、一般的な教育を受けた人間並みのAGIは存在するか』と問う。アンケートは1週間公開する。このアンケートが『YES』で解決すればこの市場もYES、そうでなければNOとする」
つまり最終判定は、単一の権威者の独断ではなく、市場終了時点のコミュニティ投票という形で機械的に決める設計になっていた。
アモデイ氏の発言そのものをDwarkeshポッドキャストの文字起こしで確認した
市場の説明文が要約する「2〜3年以内」という発言の原文を、Dwarkesh Patel氏のポッドキャストサイトに掲載された文字起こしで直接確認した。Dwarkesh Patel氏のサイトに掲載されたエピソード「Dario Amodei (Anthropic CEO) - $10 Billion Models, OpenAI, Scaling, & AGI in 2 years」のページに埋め込まれた構造化データではdatePublishedが2023年8月8日と表示されている一方、Manifold側の市場作成時刻(Unix時刻から算出)は2023年8月7日21時35分(UTC)で、ページの表示日付より先行している。音声版と記事版の公開タイミングがずれている可能性があるが、この前後関係の理由までは本記事では確認していない。いずれにせよ、アモデイ氏はこのエピソードでこう述べている。
"In terms of someone looks at the model and even if you talk to it for an hour or so, it's basically like a generally well educated human, that could be not very far away at all. I think that could happen in two or three years."
(訳)「誰かがモデルを見て、1時間ほど会話したとしても、基本的に一般的な教育を受けた人間のようだ、という水準であれば、それはそう遠くない話かもしれない。2〜3年で起きる可能性があると思う」
ただし文字起こしを読むと、アモデイ氏はこの発言に重要な留保を付けている。この「2〜3年」という時間軸が指すのは「会話ベースで人間並みに見える」という限定的な閾値であり、「モデルが存在を脅かすほど危険になる閾値」「AI研究の大半を代替できる閾値」「経済の仕組みを大きく変える閾値」とは別物だと、同じ発言の中で明示的に区別している。市場の説明文が引用したのは、この限定条件を含まない要約部分だけだった。
コメント欄では、解決直前まで参加者自身がポール(アンケート)の中身に懐疑的だった
市場のコメント欄(31件)をAPI経由で確認すると、解決方法である「1週間のアンケート」に対して、市場参加者自身が繰り返し疑問を呈していたことが分かる。
KJW_01294: "This question is flawed - as we've seen, conversation skill is neither necessary nor sufficient for AGI. There's two things being conflated here: Will AI become good conversation partners? Will the average manifolds then call that 'AGI' in a poll?"
(訳)「この設問は欠陥がある。これまで見てきた通り、会話能力はAGIの必要条件でも十分条件でもない。ここでは2つのことが混同されている。AIが会話の相手として優れるようになるか、という話と、Manifoldの平均的な参加者がそれを投票で『AGI』と呼ぶか、という話だ」
解決直前の2026年1月11日・12日付のコメントでも、参加者自身が困惑している様子がうかがえる。
Metastable(2026年1月11日): "Link to the poll?" JoshSnider(2026年1月12日): "Yes, I would need to see the results of the poll before I can rate the resolution."
(訳)Metastable「アンケートへのリンクは?」 JoshSnider「そう、解決の妥当性を判断するには、まずアンケートの結果を見る必要がある」
つまり、解決の根拠となるはずの「1週間のアンケート」の結果は、市場参加者自身にとっても、解決の瞬間まで明確に共有されていたとは言い切れない状態だったことが、コメント履歴から読み取れる。
市場の時系列を一覧にすると
ここまで確認した日時をまとめると次の通り。
| 日時(UTC基準) | 出来事 |
|---|---|
| 2023年8月7日 21:35 | Manifold Marketsで市場が作成される |
| 2023年8月8日 | DwarkeshポッドキャストのエピソードページのdatePublished表示 |
| 2026年1月1日 | 市場のクローズ予定時刻(closeTime) |
| 2026年1月11日 | 解決直前、参加者が「アンケートへのリンクは?」とコメント |
| 2026年1月11日 | 市場が「NO」で解決(resolutionTime)。解決直前確率5% |
| 2026年1月12日 | 参加者が「アンケート結果を見る必要がある」とコメント |
実際の解決結果
APIレスポンスのisResolvedはtrue、resolutionはNOだった。resolutionTimeをUnix時刻から算出すると2026年1月11日、resolutionProbability(解決直前の市場価格)は0.05、つまり5%だった。uniqueBettorCount(参加者数)は281人。市場のクローズ予定時刻(closeTime)は2026年1月1日と設定されており、実際の解決処理はそこから約10日後に行われている。
参加者281人という規模は、Manifold Markets上のAGI関連市場の中では中規模にあたる。今回別記事で確認した「AGI When?」市場(1,076人参加)と比べると参加者は少ないが、それでも一定数の関心を集めた市場だったと言える。
この市場が示していること、示していないこと
この市場の結果からわかるのは、「2025年末の時点で、市場参加者コミュニティの投票によれば、人間並みのAGIは存在すると判定されなかった」という一点にとどまる。これは、アモデイ氏の発言(2〜3年以内)が的中しなかったことを示す一つの証拠にはなるが、AGIという言葉の定義自体が論者によって異なる以上、「Manifold Marketsのアンケート参加者が同意しなかった」という結果を、それ以上一般化して読むことには注意が必要だ。
なお、アモデイ氏自身が2024年10月に公開したエッセイ「Machines of Loving Grace」では、「強力なAI」の到来について「早ければ2026年」という、この市場のきっかけとなったポッドキャスト発言よりもやや長めの時間軸を書いている。同氏の発言が時期によってどう変化しているかは、別記事で詳しく確認している。
「1週間のアンケート」の中身はAPIからは分からない
- 市場終了時に実施されたという「1週間のアンケート」そのもの(投票フォーム・回答者数・個別の回答内容)は、コメント欄に貼られたリンクや投票結果の集計値までは確認できなかった。 コメント欄から「参加者自身も解決直前まで内容を把握しかねていた」ことは確認できたが、アンケートの実物には到達していない。
- 「AGI」の定義(一般的な教育を受けた人間並み、という基準の具体的な測定方法)は、市場の説明文・コメント欄以上の詳細を確認していない。 コメント欄でも複数の参加者が「会話能力」と「経済的代替可能性」を混同した設問だと批判しており、定義の曖昧さは市場参加者自身も認識していた点である。
- 同種の他の市場(Metaculus等)で同じ問いがどう解決されたかは、Metaculus側が自動化されたアクセスをブロックしており、本記事では確認できなかった。
- Dwarkeshエピソードの公開日と市場作成時刻の前後関係の理由(音声先行公開の可能性など)は、本記事では特定していない。
出典・確認した一次情報
- Manifold Markets 公開API「Will we have an AGI as smart as a "generally educated human" by the end of 2025?」(
manifold.markets/SneakySly/will-we-have-an-agi-as-smart-as-a-g)。curlで直接取得し、市場の説明文、解決日時(2026年1月11日)、解決結果(NO)、解決直前確率(5%)、参加者数(281人)を確認。
すべてのデータは2026年8月27日にcurl -A "Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_15_7)"でManifold Markets公開APIから直接取得したものである。
出典・参照資料
- 二次資料Manifold Markets 公開API「Will we have an AGI as smart as a generally educated human by the end of 2025?」 ↗
- 二次資料Dwarkesh Patel「Dario Amodei (Anthropic CEO) - $10 Billion Models, OpenAI, Scaling, & AGI in 2 years」(2023年8月8日、ポッドキャスト文字起こし) ↗
- 二次資料Manifold Markets 公開API(同市場のコメント一覧) ↗
- 二次資料Manifold Markets 公開API「AGI When? [High Quality Turing Test]」(比較対象の別市場) ↗
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