DeepSeekは中国のサーバーに保存、KimiとMiniMaxは社名の違う海外法人が運営──中国系AIラボの規約を原文で読む
DeepSeek・Moonshot(Kimi)・MiniMaxのプライバシーポリシー原文を確認した。DeepSeekは「収集した情報を中華人民共和国にある安全なサーバーに保存します」と明記し、法執行機関や公的機関と共有しうると書く。一方でKimiの国際版はNOVASCENT PRIVATE LIMITED、MiniMaxのAPIはNanonoble Pte. Ltd.という、社名にブランド名を含まない法人が運営主体で、データは米国のデータセンターに置かれる。Kimiは自社ポリシーで、広告パートナーへの開示が米国州法にいう個人情報の「販売」に該当すると認めている。

目次
DeepSeek・Moonshot(Kimi)・MiniMaxのプライバシーポリシー原文を2026年9月12日に取得して読んだ。3社を並べると、データの保存先も運営法人も、想像していたほど揃っていない。DeepSeekは中国国内のサーバーに保存すると明記する一方、KimiとMiniMaxの国際版はいずれも社名にブランド名を含まない別法人が運営し、データは米国に置かれている。
前提として、この3社はいずれも2026年9月10日のAnthropicの脅威レポートで名指しされた側でもある(解説記事)。米3社の規約を読んだ記事と対にして読んでほしい。
3行まとめ ① DeepSeekは「収集した情報を中華人民共和国にある安全なサーバーに保存します」と明記。法執行機関・公的機関・その他の第三者と情報を共有しうる条件も本文に書かれている。 ② Kimiの国際版の運営・管理者は NOVASCENT PRIVATE LIMITED、MiniMax APIは Nanonoble Pte. Ltd.(シンガポール・登記住所152 Beach Road)。どちらも社名からはブランド名が読み取れず、データは米国のデータセンターに置かれる。 ③ Kimiは自社ポリシーで、広告ネットワークへの開示が米国州法にいう個人情報の「販売」に該当すると明記している。OpenAIは同種の条項で「販売しない」と書いており、ここは正反対になる。
3社の基本情報
| 運営・管理者 | データの保存先 | ポリシー最終更新 | |
|---|---|---|---|
| DeepSeek | Hangzhou DeepSeek Artificial Intelligence Co., Ltd.(中国に登記住所) | 中華人民共和国のサーバー | 2026年2月10日 |
| Moonshot(Kimi・国際版) | NOVASCENT PRIVATE LIMITED | 居住国外のサーバーに転送されうる(具体的な国名の記載は確認できず) | 2026年8月13日 |
| MiniMax(API・国際版) | Nanonoble Pte. Ltd.(シンガポール) | 米国のデータセンター | 2026年3月30日発効 |
運営法人名はいずれも各社ポリシーの冒頭に記載されている。中国国内向けのサービスは別の規約が適用される場合があり、この表は上記URLで確認できた国際版の記述に基づく。
DeepSeek──保存先と共有先が本文に書いてある
DeepSeekのプライバシーポリシー(日本語版・2026年2月10日更新)は、管理者を最初に明示している。
データ管理者:本サービスは、中国に登記住所を有する Hangzhou DeepSeek Artificial Intelligence Co., Ltd. によって提供、および管理されています。
保存先の記述は、保持期間の節の末尾にある。
当社がお客様から収集した個人情報は、お客様の居住国外にあるサーバーに保存されることがあります。当社は、当社が収集した情報を中華人民共和国にある安全なサーバーに保存します。
共有の条件も具体的に書かれている。
当社は、以下に掲げる事項のために必要であると誠実に判断した場合、「当社が収集する情報」に記載されている情報にアクセスし、これを保存し、または、法執行機関、公的機関、著作権者、もしくは、その他の第三者と共有することがあります。 国際的に認められた基準に従い、適用される法令、法的手続、または、政府の要請に従って…
同じポリシーには、入力内容を機械学習モデルの訓練に使うことも書かれている。
本サービスの改善および開発、機械学習モデルやアルゴリズムなどの当社の技術のトレーニングおよび改善のため。
一方で、利用者の権利として「当社モデル訓練または技術最適化のための個人データ利用を拒否する権利」も挙げられている。オプトアウトの操作方法はこの文書には書かれていない。
なお、DeepSeekは「プロファイリング」や、法的・類似の重大な影響を及ぼす決定のための自動処理は行わないと明記している。この点はMiniMaxも同様の記述を置いている。
Moonshot(Kimi)──運営法人名にブランド名が入っていない
Kimiの国際版プライバシーポリシー(2026年8月13日更新)は、冒頭でこう名乗る。
NOVASCENT PRIVATE LIMITED ("we," "our," or "Moonshot AI") is the provider and controller of services offered through our website, applications, and browser extensions
(NOVASCENT PRIVATE LIMITED(以下「当社」または「Moonshot AI」)が、当社のウェブサイト、アプリケーション、ブラウザ拡張機能を通じて提供されるサービスの提供者かつ管理者です。)
括弧書きで "Moonshot AI" と等号を置いているので、対応関係そのものは隠されていない。ただし法人名からはブランド名が読み取れない。
入力内容の扱いは次のように書かれている。
User Content: This includes prompts, audio, images, videos, files, and any content you input or generate while using our products and services. We process this information to provide and improve the Services, including training and optimizing our artificial intelligence ("AI") models.
(ユーザーコンテンツ:プロンプト、音声、画像、動画、ファイル、および当社の製品・サービスの利用中に入力または生成したあらゆる内容が含まれます。当社は、サービスの提供と改善のためにこの情報を処理します。これには当社の人工知能モデルの訓練および最適化を含みます。)
このポリシーの本文中に、訓練利用をオフにする設定への言及は見当たらなかった(本記事が確認した範囲)。米3社にはいずれも設定が用意されている点と対照的である。
保持で具体的な数字が出てくるのは声紋だけだった。
We will permanently destroy voiceprint data when the initial purpose for collecting or obtaining such data has been satisfied, or within 3 years of your last interaction with us, whichever occurs first.
(声紋データは、収集または取得の当初の目的が達成された時点、または当社との最後のやり取りから3年以内のいずれか早い方で永久に破棄します。)
そして米国州法向けの追加開示に、この一文がある。
Our disclosure of personal information to Ad Networks and Advertising Partners qualifies as the sale of personal information or the sharing or processing of personal information for the purpose of displaying advertisements
(広告ネットワークおよび広告パートナーへの当社の個人情報の開示は、個人情報の販売、または広告表示を目的とした個人情報の共有もしくは処理に該当します。)
開示対象のカテゴリには "Customer content, such as your prompts and content you upload to the services"(プロンプトやアップロードしたコンテンツを含む顧客コンテンツ)が列挙されている。ただし、どのカテゴリが広告パートナーに渡るのかを一対一で特定する記述は、このポリシーからは読み取れなかった。
比較のため書いておくと、OpenAIのプライバシーポリシーは「当社は、お客様の個人データを『販売』することも、クロスコンテキスト行動広告のために『共有』することもありません」と明記している。ここは3社と中国系で扱いが割れる。
MiniMax──シンガポール法人、米国保存、そして同意の例外リスト
MiniMax APIのプライバシーポリシー(2026年3月30日発効)も、冒頭で運営法人を名乗る。
Nanonoble Pte. Ltd., and its affiliates (hereinafter referred to as "we", "us", "our" or "Company")
連絡先には登記住所が書かれている。「152 Beach Road, #14-02 Gateway East, Singapore (189721)」。保存先も明記されている。
Your personal data described in this Policy are stored in the data center located in the United States
(本ポリシーに記載する個人データは、米国に所在するデータセンターに保存されます。)
DeepSeekの中国保存とは正反対になる。EU向けの節では、EU-US Privacy Framework認証と標準契約条項(SCC)にも言及している。
ただし、米3社の規約には見当たらない節がある。「Exceptions to seeking consent(同意を求めない場合の例外)」というリストで、そこに次の項目が並ぶ。
directly related to national security and national defense security; directly related to public safety, public health, and major public interests; directly related to criminal investigation, prosecution, trial and judgment execution;
(国家安全保障および国防の安全に直接関係する場合/公共の安全、公衆衛生、重大な公共の利益に直接関係する場合/刑事捜査、訴追、裁判および判決執行に直接関係する場合)
この並びは中国の個人情報保護法(PIPL)の条文構成に対応する書き方で、シンガポール法人が運営し米国にデータを置くポリシーの中に置かれている。どの法域で発動しうるのかは、この文書からは読み取れない。
もう一つ、商業利用の節にこう書かれている。
After collecting your Personal Information, we may perform automated data processing on your Personal Information. In this case, we will de-identify and/or anonymize the data... we have the right to mine, analyze and utilize the database commercially.
(個人情報を収集した後、当社は自動データ処理を行うことがあります。その場合、当社はデータを非識別化および/または匿名化します…当社は当該データベースを商業的にマイニング、分析、利用する権利を有します。)
Anthropicの脅威レポートとの接点
9月10日の脅威レポートでAnthropicは、MiniMaxについて「親会社との関係を開示しないシェル企業でプロキシ網を運営し、AnthropicとOpenAIのモデルのみを提供して自社を含む中国製モデルは提供していなかった」と書いている。
ここで注意が要る。Anthropicはそのシェル企業の名前を挙げていない。 本記事で確認したNanonoble Pte. Ltd.はMiniMaxの国際版APIの正規の運営法人としてポリシーに明記されているもので、報告書がいうプロキシ網の運営主体と同一だとする根拠は、本記事の確認範囲には無い。別法人名での運営という形式が共通しているだけである。
一方、報告書の別の記述とはっきり噛み合う事実もあった。報告書は、DeepSeekがリクエスト内の文字列からClaude Code・Claude Agent SDK・OpenCodeの利用者を判別してタグを付け、その利用者のリクエストをClaude Opusに転送していたと書いている。
なぜ判別できるのかは、Kimiの公式ドキュメントを読むと分かる。
Kimi API is compatible with both the OpenAI and Anthropic API formats Messages API — Anthropic Messages API compatible, for integrating with the Anthropic SDK, Claude Code, and similar tools.
(Kimi APIはOpenAIとAnthropicの両方のAPIフォーマットに対応しています/Messages API:Anthropic Messages API互換。Anthropic SDK、Claude Codeなどのツールとの統合用です。)
中国系ラボのAPIは、Anthropic互換であることを公式に売りにしている。互換にするということは、そのハーネス特有のリクエスト形式が届くということでもある。利用者を判別する材料は、仕様として最初からそこにある。
この記事で届かなかったもの
- Zhipu(Z.ai / GLM)のプライバシーポリシーに到達できなかった。
open.bigmodel.cn/static/policy/privacy.html、z.ai/privacy-policy、z.ai/terms/privacy、docs.z.ai/guides/overview/privacyを試したが、いずれも404か本文を取得できなかった。存在しないという意味ではなく、本記事の探し方では見つけられなかったということである。見つけた方は教えてほしい。追記する。 - Qwen(Alibaba)も未確認。
chat.qwen.ai/privacyはJavaScriptで描画されており、本文を取得できなかった。Alibaba Cloud Model Studio側の条件は別文書になる。 - 中国国内向けの版は読んでいない。 この記事で扱ったのはいずれも国際版で、中国本土のサービスには別の規約が適用される可能性がある。
- 各社の内部の閲覧権限や監査の設計は、3社ともポリシーに記載がない。 これは米3社と同じである。
- 法人向け・エンタープライズ契約の条件は扱っていない。 個人・開発者が既定で結ぶ条件の話に限っている。
何が判断材料になるか
読み比べて、実務で効く違いは保存先よりも運営法人と適用法域だった。
DeepSeekは分かりやすい。中国法人が中国のサーバーに保存し、政府の要請に応じて共有しうると本文に書いてある。判断材料が全部表に出ている。
Kimi と MiniMax は形が違う。シンガポールや別名の法人が運営し、データは米国に置かれ、EU向けにはSCCまで用意されている。規約の形式としては米国企業に近い。 ただしMiniMaxには国家安全保障と刑事捜査を挙げた同意の例外リストが残っており、Kimiには訓練利用のオプトアウトの記載が見当たらず、広告パートナーへの開示を「販売」に該当すると自認している。
どれを使うかを決めるときに読むべきなのは、モデルの性能表ではなくこの部分だと思う。そして規約は改定される。この記事は2026年9月12日に取得した版に基づく。
米3社(OpenAI・Anthropic・Google)の規約については別の記事で扱った。
出典・参照資料
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