GPT-4が人間アナリストに勝ったとされる論文は、取り下げられていた — Chicago Boothの財務分析研究を読む
匿名化された財務諸表だけでGPT-4の収益予測精度60.35%、人間アナリスト52.71%──という結果を報告したシカゴ大学ブースの論文は、2025年2月にarXiv上で取り下げられている。取り下げの経緯と、AI×投資の現在地を一次ソースで解説。

目次
GPT-4 vs 人間アナリスト — 数字だけで見る
シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスの研究チーム(Alex Kim, Maximilian Muhn, Valeri Nikolaev)が、GPT-4に匿名化された財務諸表だけを読ませて収益の方向(上がるか下がるか)を予測させた。
結果:
- GPT-4(CoTプロンプト): 60.35%
- 人間アナリスト: 52.71%
サンプルは約15,000社、150,000社-年の観測値(1968〜2021年)。業界名も社名もナラティブも一切与えていない。数字だけで人間を上回った。
【重要な追記】この論文は現在arXiv上で取り下げられている 一次ソース(arXiv 2407.17866)を2026年8月14日に直接確認したところ、2025年2月20日付でこの論文はarXiv上から取り下げ(withdrawn)されていた。arXivのコメント欄には「共著者の1人が、先行分析の再現を試みる過程でデータと分析に矛盾を発見した。そのため、研究結果を精査する間、この草稿論文を一時的に流通から取り下げる」と明記されている。上記の60.35%/52.71%という数値は、取り下げ前のバージョン(v1、2024年7月25日提出)に記載されていた数値であり、著者ら自身が現在その正確性を再検証中である。本記事はこの数値を紹介する形を取っているが、確定した査読済みの結論として扱うべきではない
何がすごくて、何がすごくないか
すごい点:GPT-4が企業の将来業績について有意義なナラティブ・インサイトを生成し、財務数値から情報を抽出できたこと。これは単なる記憶(訓練データの暗記)では説明できないと研究チームは指摘している。
すごくない点:「方向予測(上がるか下がるか)」の正答率であって、リターンの絶対値を予測しているわけではない。「上がる」と当てても、どれだけ上がるかは別の問題。
個人投資家はすでに使い始めている
Investing.comの2026年3月調査(n=938)によると、米国個人投資家の**62%**がAIを投資判断に活用している。うち65%が「パフォーマンスが改善した」と回答した一方、54%は「AIの分析はある程度しか信用せず、他ソースで検証する」と答えている。
日本ではログミーファイナンスの調査で個人投資家の**16.7%**が生成AIを活用(資産1,000万超では20.5%)としているが、この調査自体のURLは本記事の出典欄に記載されておらず、2026年8月14日時点で一次ソースを特定・再取得できていない。数値の裏付けは確認できていない
AIが「見えない談合」を起こすリスク
一方で怖い研究もある。Sara Fish, Yannai A. Gonczarowski, Ran I. Shorrerの論文「Algorithmic Collusion by Large Language Models」(arXiv 2404.00806、2024年3月提出・2026年3月v5改訂)は、LLMベースの価格設定エージェントが、明示的な指示なしに超競争的価格に自律的に収束することを発見した。
つまりAI同士が「談合しろ」と言われなくても、利益最大化を追求するだけで結果的に価格を吊り上げる。投資の文脈では、AI取引エージェント同士が同じ方向に動き、市場の不安定性を増幅させるリスクがある。
SEC(米国証券取引委員会)はすでに動いている
AIを使った投資サービスの「嘘」も摘発が始まっている。
- 2023年4月: Bettermentが税損収穫機能について虚偽説明。$9M(約13億円)の罰金
- 2024年3月: 2社が「初のAI規制金融アドバイザー」等と虚偽宣伝。合計$400Kの罰金
- 2025年2月: SEC新設部署CETU(Cybersecurity and Emerging Technologies Unit)がAI不正に本格対応
- AI関連の証券集団訴訟は2023→2024で100%増加
「AIで儲かる」と謳うサービスの一部は、SECが言うところの「AI-washing」——AIを名乗るだけで中身が伴わない——にあたる。
根拠論文は2025年2月に取り下げられていた
- Chicago Boothの研究(arXiv 2407.17866)は2025年2月20日付でarXiv上から取り下げられている。 共著者の1人がデータ・分析の矛盾を発見し、著者らが精査のため一時的に流通を停止したと明記されている。本記事の60.35%/52.71%等の数値は取り下げ前バージョンに記載された数値であり、確定した結論として扱うべきではない
- Chicago Boothの研究は(取り下げ前の版においても)「方向予測の正答率」であり、実際の投資リターンとは直結しない
- Investing.comの「65%がパフォーマンス改善」は自己申告であり、実測データではない。出典欄のURLはInvesting.comのトップページであり、当該調査の個別記事は本記事執筆時点で特定できていない
- ログミーファイナンスの個人投資家16.7%/20.5%の数値は、出典欄にURLがなく一次ソースを確認できていない
- AI同士の共謀研究はシミュレーション環境での発見であり、実市場での発生は未確認
- 記事中の数字はすべて2026年6月時点のもの(ただしChicago Boothの研究の取り下げ事実のみ2026年8月14日確認)
arXiv論文取り下げ発覚の経緯
- 2026-08-14: 主要な出典であるarXiv 2407.17866が2025年2月20日付で取り下げられていたことが判明したため、本文と但し書きに追記した。また、本文が引用していた「ログミーファイナンス」調査は出典欄にURLがなく一次ソースを特定できなかったため、その旨を明示した
出典・参照資料
- 一次資料Financial Statement Analysis with Large Language Models — Kim, Muhn, Nikolaev (arXiv) ↗
- 一次資料Algorithmic Collusion by Large Language Models — Fish, Gonczarowski, Shorrer (arXiv) ↗
- 一次資料SEC CETU(Cybersecurity and Emerging Technologies Unit) ↗
- 二次資料Investing.com — 62% of US retail investors use AI (2026年3月調査) ↗
更新・訂正履歴
- 主要な出典であるarXiv 2407.17866「Financial Statement Analysis with Large Language Models」を再取得したところ、2025年2月20日付でarXiv上から取り下げ(withdrawn)されていたことが判明。取り下げ理由は「共著者の1人がデータと分析の矛盾を発見し、精査のため一時的に流通を停止した」とarXivのコメント欄に明記されている。記事本文の60.35%/52.71%等の数値は取り下げ前バージョン(v1)に実在する数値だが、この経緯を追記した。また本文が引用していた「ログミーファイナンス」の調査は出典欄にURLが無く、一次ソースを特定できなかったため、その旨を本文に明示した
- 本文(41〜42行目・75行目)は2026-08-14の訂正で論文の取り下げを明記済みだったが、excerptだけが取り下げ前の断定的な結論(GPT-4の予測精度60.35%対人間52.71%)のままになっており、カード一覧・検索結果・OGPに撤回前の主張が露出していた。excerptに取り下げの事実を明記した。titleも同様に断定形(「GPT-4が人間アナリストに勝った」)のままだが、タイトルの変更は運営者判断のため据え置く(案は作業ログに記載)
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