AI研究者2,778人に聞いた「AGIはいつ来るか」──1年で13年前倒しになった調査と、まだ出ていない続編
AI Impactsが2023年に実施した専門家調査(回答率15%)では、「高水準機械知能(HLMI)」到達の50%確率時点は2047年、「労働の完全自動化(FAOL)」は2116年と算出された。前回2022年調査からそれぞれ13年・48年の前倒しだった。予告されていた2024年調査の結果は、2026年8月時点でもまだ公開されていない。

目次
AI研究者本人たちは、AGI(あるいはそれに相当する能力)がいつ来ると考えているのか。この問いに、実際にトップ会議への論文投稿者を対象とした調査で答えようとしているのが、非営利団体AI Impactsが実施している専門家調査だ。今回は2023年調査の原文と、その後予告されたまま止まっている続編の状況を確認した。
3行まとめ
- AI Impacts(Katja Grace氏主導)が2023年に実施した調査は、2万66人に打診し2,778件の回答(回答率15%)を得た。
- 集計の結果、「高水準機械知能(HLMI)」到達の50%確率時点は2047年(前回2022年調査の2060年から13年前倒し)、「労働の完全自動化(FAOL)」は2116年(前回2164年から48年前倒し)となった。
- AI Impacts自身が2025年10月31日付ブログで予告した「2024年調査の結果は近日公開」は、2026年8月27日時点でも公開されている様子が確認できなかった。
誰に、何を聞いた調査か
wiki.aiimpacts.org上のページを直接取得して確認した。この調査は、トップクラスのAI関連会議(NeurIPS、ICMLなど)に論文を発表した研究者を対象としている。本文中の記載をそのまま引用する。
"we contacted, 1,607 (8%) bounced or failed, leaving 18,459 functioning email addresses. We received 2,778 responses (where the person answered at least one question), for a response rate of 15%. 95% of these responses were deemed 'finished' by Qualtrics"
(訳)「連絡を試みたところ1,607件(8%)は届かず不達となり、18,459件の有効なメールアドレスが残った。少なくとも1つの設問に回答した2,778件の回答を得て、回答率は15%だった。うち95%はQualtricsによって『完了』と判定された」
回答率15%という数字は、母集団全体の意見を代表しているとまでは言い切れない水準だが、AI研究の最前線にいる研究者本人の見立てを大規模に集めた調査として、この分野では重要な参照点になっている。
2つの指標、2つの前倒し
調査では「高水準機械知能(HLMI)」と「労働の完全自動化(FAOL)」という、定義の異なる2つの到達時期を尋ねている。本文の定義をそのまま引用する。
"Full automation of labor (FAOL)": When for any occupation, machines could be built to carry out the task better and more cheaply than human workers.
(訳)「労働の完全自動化(FAOL)」:どの職業についても、人間の労働者よりも優れて安価にタスクを遂行できる機械が構築可能になる時点。
FAOLの集計結果について、本文はこう記している。
"The 774 responses to this question were used to create an aggregate forecast which gives a 50% chance of FAOL by 2116, down 48 years from 2164 in the 2022 ESPAI."
(訳)「この設問への774件の回答から集計予測を作成したところ、FAOLが2116年までに実現する確率が50%となった。これは2022年のESPAI(専門家調査)における2164年から48年の前倒しである」
HLMIについても、別の設問群から同様に「2047年、2022年調査の2060年から13年前倒し」という集計結果が示されている。本文は、FAOLを尋ねられた参加者のほうがHLMIを尋ねられた参加者よりも一貫して長い時間軸を答える傾向があるとも指摘している。つまり「あらゆる労働が人間より安く機械に置き換わる」という基準のほうが、「機械が人間並みの知能を持つ」という基準よりも、研究者自身の感覚としてハードルが高い、ということになる。
調査は時期の予測だけでなく、リスクへの評価も聞いている
この調査は査読論文としても発表されており、arXiv版「Thousands of AI Authors on the Future of AI」(Katja Grace氏ら、arXiv:2401.02843)をcurlで確認すると、Abstractには本記事がこれまで扱ってきたHLMI・FAOLの時期予測に加えて、具体的なマイルストーンの実現時期予測と、リスクへの評価に関する数字も記載されていた。
具体的なタスクについては、次の3つが「2028年までに50%以上の確率で実現する」という集計結果になったと記載されている。
- ゼロから決済サイトを自律的に構築できる
- 人気ミュージシャンの新曲と見分けがつかない楽曲を作れる
- 大規模言語モデルを自律的にダウンロードしてファインチューニングできる
また、「科学的活動が中断されずに続くなら」という条件付きで、あらゆるタスクで人間を上回る無人の機械が実現する確率は、2027年までに10%、2047年までに50%と見積もられている(この2047年という数字が、前段で紹介したHLMIの集計値と対応する)。
リスクへの評価については、次の数字が記載されている。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 超人的AIによる「良い結果」の方が「悪い結果」より起こりやすいと回答した割合 | 68.3% |
| そのうち、人類絶滅などの「極めて悪い結果」に少なくとも5%の確率を与えた回答者の割合 | 48% |
| 「悪い結果の方が起こりやすい」と答えた回答者のうち、「極めて良い結果」に5%以上の確率を与えた割合 | 59% |
| 先進AIが人類絶滅と同程度に悪い結果につながる確率を10%以上とした回答者の割合 | 38〜51% |
| 誤情報・権威主義的支配・格差拡大など6つのAI関連シナリオについて「相当な」または「極度の」懸念が正当だとした回答者の割合 | 過半数 |
「良い結果の方が起こりやすい」と答えた楽観派の中にも、約半数が人類絶滅級のリスクを無視できない確率として認識している、という数字は、単純な「時期の前倒し」という報道の切り口だけでは伝わらない部分だ。
2022年調査の原文を確認すると、比較対象の数字に食い違いがあった
前回の限界として挙げていた「2022年調査(ESPAI)自体の原文は確認していない」という点を、AI Impactsのwikiページ(2022_expert_survey_on_progress_in_ai)を直接curlすることで解消した。ところが、原文を確認したところ、本記事がここまで「2022年調査のHLMI集計値は2060年」としてきた数字と、2022年調査ページ自身が記載する数字にはズレがあった。2022年調査のページ本文はこう書いている。
"The aggregate forecast time to a 50% chance of HLMI was 37 years, i.e. 2059 (not including data from questions about the conceptually similar Full Automation of Labor, which in 2016 received much later estimates)."
つまり2022年調査自身は、2022年から37年後=2059年という数字を報告している。本記事がこれまで参照してきた「2060年」は、2023年調査側のページが2022年調査との比較として記載していた数字であり、1年のズレがある。四捨五入や集計方法の違いによる差なのか、単純な記載の不一致なのかは、今回確認した範囲では特定できなかった。いずれにせよ、「13年前倒し」という2023年調査の主張の大枠(30年台後半〜40年台後半への短縮)自体は、2059年からでも2060年からでも大きくは変わらない。
2024年調査は、予告されたまま止まっている
AI Impactsは2022年・2023年と毎年この調査を実施してきた実績があり、2024年調査についても実施・公開を予告していた。しかし2025年10月31日付のブログ記事で「近日公開(results coming soon!)」と予告されたまま、2026年8月27日時点でブログのアーカイブページを確認した限り、結果発表にあたる投稿は見当たらなかった。
これは皮肉な巡り合わせだ。「AGIがいつ来るか」という予測の不確実性を毎年測定している調査自体が、自らの「近日公開」という予告を1年近く守れていない。前年(2023年)の調査は前々年(2022年)の調査から13年もの前倒しを記録した——予測が1年でどれだけ動きうるかを示す好例であると同時に、その予測作業自体がスケジュール通りに進まないことも、この分野の不確実性の一端を示している。
回答率15%がどこまで代表的かは評価していない
- 2024年調査が結局公開されなかった理由(体制の問題か、単なる遅延か)は、今回確認した公開情報からは特定できなかった。 調査主宰者のKatja Grace氏自身が2025年10月31日付のブログで「2024年(結果は近日公開!)」と書いていた事実は確認できたが、その後なぜ公開が止まっているのかについての本人の説明は、今回確認した範囲では見当たらなかった。
- HLMI・FAOLの集計に使われた統計的手法(ガンマCDFへのフィッティング等)の詳細な妥当性は、この記事では検証していない。 本文中に手法の記載はあるが、専門的な統計評価は今回の調査範囲外。
- 回答率15%という数字の代表性について、調査主宰者自身の反論は確認できたが、第三者による独立した評価は確認していない。 Grace氏はブログで「2023年ESPAIの回答率15%は、Nature Briefingで報じられたO'Donovan et al.の調査(回答率4%)より優れている」と主張しているが、これは調査を実施した本人による自己弁護であり、外部の統計学者などによる評価ではない。
- 「2022年調査は2060年」としてきた本記事の記述と、2022年調査ページ自身が記載する「2059年」との1年のズレの原因は特定できていない。 前段で触れた通り、四捨五入・集計方法の違い・単純な記載ミスのいずれなのかは、今回の調査範囲では判断できなかった。
出典・確認した一次情報
- AI Impacts, "2023 Expert Survey on Progress in AI"(
wiki.aiimpacts.org)。curlで直接取得し、回答率(2,778件・15%)、HLMI(2047年)、FAOL(2116年、2022年比48年前倒し)の各数値を本文中で確認。 - Grace et al., "Thousands of AI Authors on the Future of AI"(arXiv:2401.02843)。
curlで直接取得し、具体的タスクの実現時期予測、超人的AIのリスク評価に関する数値(68.3%・48%・59%・38-51%など)を確認。 - AI Impacts, "2022 Expert Survey on Progress in AI"(
wiki.aiimpacts.org)。curlで直接取得し、HLMIの集計値が「2059年(37年後)」と記載されていることを確認。 - Katja Grace, "FAQ: Expert Survey on Progress in AI methodology"(
blog.aiimpacts.org、2025年10月31日)。curlで直接取得し、「2024年(結果は近日公開!)」という記述と、回答率の他調査との比較を確認。
URLは2026年8月29日にcurl -A "Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_15_7)"で直接取得・確認した。
出典・参照資料
- 二次資料AI Impacts, '2023 Expert Survey on Progress in AI' ↗
- 一次資料Grace et al., 'Thousands of AI Authors on the Future of AI'(arXiv:2401.02843、2023年調査の論文版) ↗
- 二次資料AI Impacts, '2022 Expert Survey on Progress in AI'(前回調査の原文) ↗
- 二次資料Katja Grace, 'FAQ: Expert Survey on Progress in AI methodology'(AI Impacts blog、2025年10月31日) ↗
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