「AIが700人分の仕事をした」Klarnaが、1年後に人間を再雇用した理由
スウェーデンの決済企業Klarnaは2024年2月27日、自社サイトで「AIアシスタントが従業員700人相当の顧客対応業務をこなし、2024年に4,000万ドル相当の利益改善が見込める」と自ら発表した。だが2025年5月、CEOセバスチャン・シェミアトコウスキー氏はBloombergの取材に対し、AIによる採用凍結を撤回し人間スタッフの再雇用に転じたことを明らかにした。

目次
「AIエージェントが従業員700人相当の仕事をこなしている」——2024年、決済企業KlarnaのCEOがそう発表し、AIによる人員代替の象徴的な事例として世界中で取り上げられた。今回は、その発表の一次資料と、約1年後に何が起きたかの両方を確認した。
3行まとめ
- Klarnaは2024年2月27日付の自社プレスリリースで、AIアシスタントが「従業員700人分の仕事」をこなし、2024年に4,000万ドル相当の利益改善効果が見込めると自ら公表した。
- 2025年5月、KlarnaのCEOセバスチャン・シェミアトコウスキー氏はBloombergの取材に対し、AIによる採用凍結を撤回し、人間スタッフの再雇用に転じたことを明らかにした。
- CEO自身が挙げた再雇用の理由は「性能面での限界」というより、「顧客がいつでも人間と話せる選択肢を持てることが、ブランド・企業として重要だ」というものだった。
2024年2月、Klarnaが自ら発表した数字
klarna.comの自社プレスリリースを直接取得して確認した。タイトルは「Klarna AI assistant handles two-thirds of customer service chats in its first month」、日付は2024年2月27日。稼働開始から1ヶ月時点の実績として、Klarnaは次のように自社の数字を公表している。
"New York, NY – February 27, 2024 – Klarna today announced its AI assistant powered by OpenAI. Now live globally for 1 month, the numbers speak for themselves:"
- "The AI assistant has had 2.3 million conversations, two-thirds of Klarna's customer service chats"
- "It is doing the equivalent work of 700 full-time agents"
- "It is on par with human agents in regard to customer satisfaction score"
- "It is more accurate in errand resolution, leading to a 25% drop in repeat inquiries"
- "Customers now resolve their errands in less than 2 mins compared to 11 mins previously"
- "It's available in 23 markets, 24/7 and communicates in more than 35 languages"
- "It's estimated to drive a $40 million USD in profit improvement to Klarna in 2024"
(訳)「ニューヨーク、2024年2月27日──Klarnaは本日、OpenAIを活用したAIアシスタントを発表した。世界展開から1ヶ月が経ち、数字がそれを物語っている。AIアシスタントはこれまでに230万件の会話をこなし、Klarnaのカスタマーサービスチャットの3分の2を占める。これは従業員700人分の仕事に相当する。顧客満足度スコアは人間の担当者と同水準。用件解決の精度も高く、再問い合わせが25%減少した。顧客が用件を解決するのにかかる時間は、従来の11分から2分未満に短縮された。23の市場で24時間365日利用可能で、35以上の言語に対応する。2024年には4,000万ドル相当の利益改善効果をもたらすと試算されている」
CEO自身のコメントも、同じプレスリリースから直接引用できる。
"This AI breakthrough in customer interaction means superior experiences for our customers at better prices, more interesting challenges for our employees, and better returns for our investors." said Sebastian Siemiatkowski, co-founder and CEO of Klarna.
(訳)「この対顧客対応におけるAIのブレークスルーは、顧客にとってはより良い価格でのより優れた体験を、従業員にとってはより興味深い仕事を、そして投資家にとってはより良いリターンを意味する」とKlarna共同創業者・CEOのセバスチャン・シェミアトコウスキー氏は述べた。
この2024年発表の時点では、AIによる人員代替は「700人分の仕事」「4,000万ドルの利益改善」という、Klarna自身が算出した好意的な数字として世界中のメディアで取り上げられた。
2025年5月、何が報じられたか
tsgpayments.comの記事を直接取得して確認した。決済業界専門メディアTSGが2025年5月14日付で報じた内容の核心部分を引用する。
"Months after touting AI's potential to replace human work, Klarna CEO Sebastian Siemiatkowski is backtracking and reversing an AI-induced hiring freeze to bring on more human staff. Siemiatkowski, 43, told Bloomberg on Thursday that Klarna is hiring human workers again to ensure that customers always have a human presence to talk to, if needed."
(訳)「AIが人間の仕事を代替する可能性を喧伝してから数ヶ月後、Klarnaの CEOセバスチャン・シェミアトコウスキー氏は方針を転換し、AIによる採用凍結を撤回して人間スタッフの増員に転じている。43歳のシェミアトコウスキー氏は木曜日、Bloombergの取材に対し、顧客が必要な時にいつでも人間と話せることを確実にするため、Klarnaは再び人間の従業員を採用していると語った」
CEO自身の発言も、同記事から直接引用できる。
"'From a brand perspective, a company perspective, I just think it's so critical that you are clear to your customer that there will always be a human if you want,' Siemiatkowski told the outlet."
(訳)「『ブランドとして、企業として、顧客に対して「望めばいつでも人間対応がある」ことを明確にするのは、非常に重要だと思う』とシェミアトコウスキー氏はBloombergに語った」
発表は1回きりではなかった──2024年だけで少なくとも3回のAI関連プレスリリース
Klarna公式プレスサイト(klarna.com/international/press/)を確認すると、2024年2月の「700人分」発表は、その後も続くAI関連の発表シリーズの1回目に過ぎなかったことが分かる。確認できた範囲のタイムラインを表にする。
| 時期 | 発表内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 2024年2月27日 | カスタマーサービスAIアシスタント(OpenAI活用)が「700人分の仕事」、稼働1ヶ月の実績として発表 | Klarna公式プレスリリース |
| 2024年5月14日 | 社内では従業員の87%(9/10人)が生成AIを日常業務で活用と発表。社内AIアシスタント「Kiki」(2023年6月開始)が2,000件/日・累計25万件超の質問に回答 | Klarna公式プレスリリース |
| 2024年9月19日 | AIアシスタントにOpenAIのLLMとPricerunnerの価格データ(560万商品)を組み合わせた「チャット型ショッピング機能」を追加。同リリース内で客対応AIの実績を「2024年1月のデビューから数週間で700人分の仕事量」と再言及 | Klarna公式プレスリリース |
| 2025年5月8日(Bloomberg報道) | CEOがAIによる採用凍結を撤回し、人間スタッフの再雇用に転じたと表明 | TSG(Bloomberg発言の引用) |
9月のプレスリリースでは客対応AIの稼働開始を「2024年1月のデビュー(its January 2024 debut)」と表記しており、2月27日付プレスリリース本文の「稼働開始から1ヶ月」という記述と合わせると、社内展開が1月に始まり、対外発表が2月27日だった可能性がある――ただし、この時期のズレが単なる表記の揺れなのか、実際に展開と発表の間に1ヶ月の差があったのかは、今回確認した2本のプレスリリース本文だけでは特定できない。
社内向けのKiki(従業員の質問に回答するAIアシスタント)と、客対応向けのAIアシスタント(OpenAI活用)は別物であることも、2024年5月のプレスリリースで確認できる。今回の記事タイトルにある「700人分」は後者、客対応AIの実績である。
「700人分」発表から、方針転換までの時間軸
Klarnaの自社発表は2024年2月27日。TSGの記事はその続報にあたり、2025年5月8日(Bloomberg原記事の日付)に方針転換が報じられ、TSGの記事公開は同年5月14日だった。今回の調査では、Bloomberg原文(bloomberg.com/news/articles/2025-05-08/klarna-turns-from-ai-to-real-person-customer-service)にも直接アクセスを試みたが、課金壁により本文は確認できず、TSGの記事が引用した範囲にとどまる。当初のAI活用発表(2024年2月)からおよそ1年3ヶ月というスパンで、採用凍結の撤回という方針転換が起きたことになる。
CEOが挙げた理由は「性能」ではなく「顧客体験」
注意したいのは、シェミアトコウスキー氏の発言が「AIの性能が期待に届かなかった」という技術的な失敗を明言しているわけではない、という点だ。氏が語ったのは「顧客がいつでも人間と話せる選択肢を持てることの重要性」というブランド・企業姿勢の観点だった。TSGの記事タイトル自体は「AIが電話対応で通用しなかったから(After AI Couldn't Cut It on Calls)」という評価を含んでいるが、これは記事側の見出しの表現であり、CEO本人の引用発言に「通用しなかった」という直接的な言葉は、今回確認した範囲では見当たらなかった。
700人・4,000万ドルはKlarna自身の自己申告値
- 「700人分」「4,000万ドル」という数字は、Klarna自身が算出して発表した自己申告値であり、第三者機関による独立監査・検証結果は今回のセッションでは確認できていない。 算出方法の詳細もプレスリリース本文には記載されていない。
- Bloomberg原記事の本文は課金壁のため確認できていない。 2025年5月の方針転換に関する引用箇所は、すべてTSGの記事が引用した範囲にとどまる。
- 再雇用された人数、AIエージェントの現在の稼働状況(完全に停止したのか、併用に切り替えたのか)は、今回確認した記事からは読み取れなかった。
- この方針転換が業績・株価・顧客満足度にどう影響したかは、この記事では扱っていない。
出典・確認した一次情報
- Klarna 公式プレスリリース "Klarna AI assistant handles two-thirds of customer service chats in its first month"(2024年2月27日、
klarna.com)。curlで直接取得し、「700 full-time agents」「$40 million USD in profit」を含む全数値とCEOコメントを本文中で確認。 - "Klarna Is Hiring Customer Service Agents After AI Couldn't Cut It on Calls, According to the Company's CEO." TSG(The Strawhecker Group)、Payments News、2025年5月14日(
tsgpayments.com)。curlで直接取得し、CEOのBloomberg発言の引用箇所を本文中で確認。
URLは2026年8月27日にcurl -A "Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_15_7)"で直接取得・確認した。
出典・参照資料
- 二次資料Klarna 公式プレスリリース 'Klarna AI assistant handles two-thirds of customer service chats in its first month'(2024年2月27日) ↗
- 二次資料'Klarna Is Hiring Customer Service Agents After AI Couldn't Cut It on Calls, According to the Company's CEO' TSG(2025年5月14日) ↗
- 二次資料Klarna 公式プレスリリース '9 out of 10 Klarna employees now harness the power of Generative AI'(2024年5月14日) ↗
- 二次資料Klarna 公式プレスリリース 'Shopping made smarter: Klarna adds more AI features to its assistant powered by OpenAI'(2024年9月19日) ↗
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