AIで書いた広告文・レビュー、景品表示法のステマ規制に引っかかるライン──「AI専用ルール」は存在しない
消費者庁の公式Q&Aを確認すると、景品表示法のステルスマーケティング規制に「AI生成コンテンツ」を名指しした特別な条項は存在しない。つまり、AIに書かせた広告文・依頼して書かせたレビューも、人間が書いたものとまったく同じ基準で判定される。誰が・何を使って書いたかではなく「事業者の表示であることが分かるか」だけが問われる規制の中身を、公式Q&Aの実例から確認する。

目次
「AIに広告文を書かせた」「AIにレビュー投稿の文面を考えてもらった」──こうした使い方に、景品表示法は特別な例外規定を用意していない。消費者庁の公式Q&Aを読む限り、規制の判定基準に「人間が書いたか、AIが書いたか」という区別は一切登場しない。この記事は、AI活用が広がる中小企業・個人事業主に向けて、既存の景品表示法・ステルスマーケティング規制がAIで作った表現にどう適用されるのかを、公式資料の実例をもとに整理する。
3行まとめ
- 消費者庁の公式Q&Aに「AI」という単語は一度も登場せず、AI生成コンテンツを名指しした特別ルールは存在しない。判定基準は「誰が(何が)作ったか」ではなく「事業者の表示だと消費者が分かるか」だけ
- ステルスマーケティング単体の違反は課徴金の対象にならず「措置命令」止まりだが、優良誤認・有利誤認表示が同時に含まれる場合はその部分が課徴金納付命令の対象になりうる
- 試供品配布・インフルエンサーへの無償提供・口コミ投稿を条件にした割引やクーポン提供など、公式Q&Aが挙げる依頼型レビューの実例は、投稿者がAIで文章を書いたかどうかに関係なく同じ基準で判定される
前提:規制の対象は「表現の作り手」ではなく「表示の性質」
消費者庁が2023年10月1日から施行しているステルスマーケティング規制(令和5年内閣府告示第19号)が禁止するのは、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」だ。規制の焦点は、その文章・画像・動画を誰が(何が)作ったかではなく、それを見た消費者が「これは広告だ」と認識できるかどうかにある。
告示そのもの(消費者庁公式PDF、curlで取得・確認)を読むと、条文はごく短い。
「不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号)第五条第三号の規定に基づき、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示を次のように指定し、令和五年十月一日から施行する。(中略)事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」
この告示の運用ルールを定めた「運用基準」(令和5年3月28日消費者庁長官決定、同じく公式PDFで確認)は、なぜこの表示を規制するのかという理由も明記している。
「一般消費者は、事業者の表示であると認識すれば、表示内容に、ある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得ると考え、商品選択の上でそのことを考慮に入れる一方、実際には事業者の表示であるにもかかわらず、第三者の表示であると誤認する場合、その表示内容にある程度の誇張・誇大が含まれることはあり得ると考えないことになり、この点において、一般消費者の商品選択における自主的かつ合理的な選択が阻害されるおそれがある。」
つまり規制の建てつけは「広告だと分かっていれば消費者は誇張込みで読む。広告だと分からないまま第三者の感想だと誤認すると、誇張を割り引かずに信じてしまう」という消費者の情報処理の違いに着目したもので、表示を作った主体が人間かAIかという区別はそもそも条文にも運用基準にも登場しない。
この規制対象について、消費者庁の公式Q&Aは規制対象となる事業者をこう説明している(Q1の回答趣旨)。表示内容の決定に関与した事業者が対象であり、これはAIを使って表示内容を作成した場合であっても変わらない、というのが規制の構造そのものから導かれる帰結だ。
違反した場合の処分
消費者庁の公式Q&Aは、違反時の処分についてこう明記している。
「ステルスマーケティング告示に違反する行為が認められた場合、消費者庁は、当該行為を行っている事業者に対し、不当表示により一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる『措置命令』(行政処分)を行います(課徴金納付命令の対象にはなりません。ただし、違反行為の内容に優良誤認表示又は有利誤認表示が含まれる場合は、当該行為が課徴金納付命令の対象となることがあります。)。」
つまり、ステルスマーケティング単体の違反は「措置命令」の対象であり、直接的な課徴金の対象にはならない。ただし、同じ表示に「優良誤認表示」(実際より著しく優れていると誤認させる表示)や「有利誤認表示」(実際より著しく有利だと誤認させる表示)が含まれる場合は、その部分が別途、課徴金納付命令の対象になりうる。AIに広告文を書かせる際に実務上警戒すべきなのは、このステルスマーケティングと優良誤認・有利誤認が「合わせ技」で発生するケースだ。生成AIは指示次第で誇張表現を作りやすいため、「広告と分からない投稿」に「実態より優れているという誇張」が同時に乗ってしまうと、より重い処分につながるリスクがある。
依頼して書かせるレビューは、AIを介しても同じ基準
消費者庁のQ&Aには、依頼型の口コミ・レビューに関する具体的な事例が複数収録されている。たとえば次のようなケースが問答形式で扱われている。
- 試供品を無償配布し、「よろしければ使用後の感想をSNSに投稿してください」と声掛けする場合
- インフルエンサーに商品を無償提供し、同様に投稿を依頼する場合
- サービス利用後の口コミ投稿を条件に割引価格を提供する場合(星5の評価を条件にする場合を含む)
- ECサイトでの商品購入者に、レビュー投稿を条件として次回使えるクーポンを提供する場合
これらはいずれも「事業者が表示内容の決定に関与した」とみなされうるかどうかが判定の分かれ目になる、というのが公式Q&Aの基本的な構成だ。この判定ロジックに、投稿者(インフルエンサーや消費者)が実際の文章作成時にAIを使ったかどうかは関係しない。人間が手書きしたレビューでも、AIに下書きさせたレビューでも、「事業者が対価と引き換えに投稿を依頼し、広告だと分からない形で公開させた」という構造があれば、同じように規制対象になりうる。
AIをレビュー生成そのものに使うケースはどうか
消費者庁の公式Q&Aには「AIが自動生成したレビューを大量投稿する」という手口を名指しした個別の質問項目は見当たらなかった。ただし、これは規制の想定外というより、既存の枠組みで十分に捕捉できると考えられる。実際に商品を利用していない主体(人間であれAIであれ)による評価を、あたかも一般消費者の自発的な感想であるかのように表示すれば、「事業者の表示であることを判別することが困難である表示」という規制の定義に該当しうる。AIを使うことで、こうした表示を大量かつ低コストに生成できてしまう点が、この規制にとっての新しいリスク要因だと考えられる(ただし、これは本記事の推測であり、消費者庁がこの点を明示的に論じた公式見解を本記事では確認できていない)。
AIで「お客様の声」まとめやSNSキャンペーンを作るときの盲点
AI活用の実務でとくに関わりやすいのが、Q&AのQ8・Q10・Q16、そして運用基準本体(第2の2⑴キ。「事業者が表示内容の決定に関与したとされないもの」の節)が扱う「第三者の投稿を事業者側が編集・要約して見せる」パターンだ。
アンケートやレビューをAIに「いいとこ取り」要約させる場合(Q10)。運用基準は、事業者が自社サイトで第三者の表示(レビューやアンケート回答)を利用するとき、「当該第三者の表示を恣意的に抽出することなく、また、当該第三者の表示内容に変更を加えることなく、そのまま引用する場合」は「事業者の表示」に当たらないとしている。逆に言うと、Q10の公式回答は「商品について好意的な評価をしているものだけを選んで引用する場合」や、「良い点」「悪い点」の両方が書かれた回答から「良い点」の部分だけを引用する場合は「事業者の表示」に当たると考えられる、と明記している。AIに「良いレビューだけ集めて『お客様の声』ページを作って」と指示すること自体が、この“恣意的な抽出”に該当するリスクを持つ、ということになる。
依頼した投稿を無断で「お客様の声」に転用する場合(Q16)。インフルエンサーに依頼して書いてもらった投稿(=すでに「事業者の表示」に当たるもの)を抜粋し、自社サイトに「お客様の声」として掲載することについて、公式回答は次のように明記している。
「『お客様の声』という場合、通常、顧客の自主的な意思に基づく感想等が記載されていると理解されるため、『事業者の表示』に当たるインフルエンサーの投稿を、『お客様の声』として自社のウェブサイト上に掲載することは適当ではありません。」
AIに依頼文面やキャンペーン投稿を代筆させた場合、その投稿は最初から「事業者の表示」である可能性が高く、それを匿名の「お客様の声」的な体裁でまとめ直すと、二重に問題のある表示になりうる。
SNSキャンペーンの応募条件をAIに文面まで指定させる場合(Q8)。ハッシュタグ投稿キャンペーンで、「商品を食べた感想を投稿してください」という条件だけなら投稿内容への関与とはみなされない一方、公式回答は「毎日食べたい美味しさ!」「ダイエット中の人にもおすすめ!」のように具体的な感想の文言まで応募条件にした場合は「事業者の表示」に当たるとしている。AIでキャンペーンの応募テンプレートを作る際、効果を狙って“決め台詞”まで指定してしまうと、この基準に触れる可能性がある。
公式Q&Aは全21問──よくあるケースを表で拾う
消費者庁のQ&Aページをcurlで再取得すると、Q1からQ21まで計21問が収録されていることが確認できた。ここまで紹介した事例に加えて、AI活用の文脈でも起こりうるケースをいくつか追加で拾う。
| Q番号 | ケース | 公式回答の要旨 |
|---|---|---|
| Q3 | 従業員が自分のSNSで自社商品の感想を投稿 | 投稿しただけで直ちに違反にはならない。ただし販売促進が職務に含まれる地位・立場(役員、担当チーム等)の者が販促目的で投稿すれば「事業者の表示」に当たりうる |
| Q13 | アフィリエイトサイト冒頭に「アフィリエイト広告を利用しています」と記載 | 冒頭の記載だけでは不十分な場合がある。文字サイズ・色も含め、サイト内の該当箇所を見ただけで「事業者の表示」だと分かる必要がある |
| Q17 | インフルエンサーが元々愛用していた商品を、無償提供後も引き続き投稿 | 「自主的な意思による表示」なら「事業者の表示」に当たらない。ただし無償提供の目的・その後のやり取り・取引関係の有無など個別事情次第で判断が変わりうる |
(表は消費者庁公式Q&Aの該当箇所を要約したもの。AI活用に特化した設問はないが、いずれのケースも「誰が文章を作成したか」ではなく「事業者の関与の実態」で判定される構造は共通している。)
実務上の対処:明瞭な表示方法
公式Q&A(Q11)は、一般消費者にとって「事業者の表示」であることを明瞭に示す方法として、「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった用語を記載する方法を挙げている。AIを使って広告文・紹介記事・レビューを作成する場合でも、この基本原則──「これは広告である」と分かる形で明示する──を守れば、ステルスマーケティング規制には抵触しない。問題になるのは、AIを使うこと自体ではなく、AIを使って「広告だと分からない体裁」を効率的に大量生産してしまうことだ。
Q9は、投稿されたレビューへの「修正依頼」についても扱っている。客観的事実に反する内容(実在しない性能の記載など)や他社の名誉を毀損する内容について修正を依頼するだけなら「事業者の表示」には当たらない、というのが公式回答だ。ただし公式Q&Aはこれに続けて、「顧客が、購入商品を使用した感想(評価)を記載していることに対して、自社に都合の良い内容に改めるよう依頼すれば、当該依頼を受けて修正されたレビュー投稿は『事業者の表示』に当たると考えられます」と明記している。つまり「事実誤りの訂正」と「自社に都合の良い書き換えの依頼」は、公式Q&A上ではっきり線引きされている。
AIコンテンツの開示義務については、YouTube・TikTok・Meta・XなどSNSプラットフォーム各社の規約という別の角度からAI生成の表示義務はどこまでで詳しく整理している。AIマーケティングツールの活用についてはAIマーケティングツール比較、生成AIの利用規約・著作権の扱いは生成AI利用規約比較も参照してほしい。
消費者庁のQ&AにAIという単語自体が登場しない
- 本記事は消費者庁の公式Q&Aページを一次資料としている。このQ&A自体にAIという単語は登場せず、AI生成コンテンツに対する消費者庁の明示的な公式見解・ガイドラインは、本記事執筆時点では確認できなかった。本記事の「AIを使ってもルールは変わらない」という結論は、既存の規制の条文・Q&Aの構造から論理的に導かれる解釈であり、消費者庁が明示的に「AIにも同じ基準を適用する」と発表した文書ではない。
- 「AIが自動生成したレビューを大量投稿するケース」についての節は、本記事筆者による推測を含む記述であり、消費者庁がこの具体的な手口について公式に論じた資料は確認できていない旨を明記しておく。
- 景品表示法違反の摘発事例のうち、AI生成であることが特定の争点になった事例(措置命令や課徴金納付命令の実例)は、本記事の調査範囲では見つからなかった。
- 本記事は一般的な情報整理を目的とするものであり、個別の広告表現・レビュー施策が違反にあたるかどうかの最終判断は、弁護士など専門家への相談、または消費者庁が提供する法令適用事前確認手続(グレーゾーン解消制度)の利用を検討してほしい。
出典・参照資料
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